あらん限り泣いた。
泣いて叫んで、叫んで泣いて。
諦めてたまるものか。
俺はまだ生きていない。
大雨にかき消されようと知ったことか。
泣くことしか出来ないなら、死ぬまで泣こう。
(ああ、喉が痛い。
…身体も寒いな。)
声が掠れていく。
直接雨に打たれている訳ではないが、季節が悪いのだろうか身体はどんどん冷えていく。
とうとう涙も枯れてきた。
「あ…あ…!!」
もはや叫びは声にすら成らない。
(まだ生きている…!)
だから、誰か俺に気付いてくれ。
そして願いは通じた。
扉が開く音がする。
どうやら俺が捨てられたのは軒下ではなく、屋敷の門だったらしい。
道と反対側、すなわち俺を捨てた誰かとは別の屋敷の人間が近付く音がする。
まだ完全に安心できる訳では無い。
悪人の可能性だってある。
だが、俺を捨てた誰かが親としての罪悪感を持っているなら、最期に話しかけた言葉が謝罪であるならば可能性がある。
(あぁ…意識が…!)
緊張が緩み、泣き続けた反動が襲ってくる。
俺は自らに近付いてくる人間を確かめることなく、気絶した。
「やれやれ、こんな雨の日に赤子を捨てる馬鹿がいるとはねぇ。」
その老婆が赤子に気付いたのは老婆が卓越した剣士だったからに違いない。
いつもの日課として行なっていた瞑想の最中、いつものように五感を広げていると屋敷の門に妙な気配を感じたのだ。
小さいが激しく点滅する火花の様な気配。
(これじゃあ瞑想どころじゃないね。
…それにしても情けない、アタシ以外気付いてる奴が一人もいないじゃないか。)
老婆には多くの弟子がいる。
三大流派と謳われる一角、『水神流』における頂点たる『水神』の位に立つ老婆を慕い水神流の総本山たるこの屋敷にも勿論大勢おり寝食を共にしている。
なのに妙な気配に気付いたのは老婆のみだった。
「これは、全員鍛え直しかね。」
弟子達への鍛錬を二倍にすると決めて、老婆は瞑想を解いて腰を上げた。
捉えた気配は未だに激しく主張しているが、気配を垂れ流しにしながら近付く老婆に気付く気配ない。
老婆は改めて屋敷内の気配を探るが未だに門へと向かう気配は無い。
これだけ激しい気配を放つのだから、大声を上げて門を激しく叩けば誰かしら気付くだろう。
しかし、気配の主は激しく主張するだけで体自体は其処に留まるだけ。
(道場破りの剣士ならもっと分かりやすい誘いの気配を放つだろうけど、コレは厄介事かもしれないね。)
剣士としての長年の勘が門の気配は厄介事だと主張していた。
適当な弟子の一人に様子を見に行かせようかと考えたが、自らが赴き解決したほうが早いと思い足を進める。
屋敷の扉を開き庭へと降りて門へと向かう。
そこでようやく老婆は気配の正体に気付いた。
思わず歩を速める。
門を開け、下を見ると布に包まれた赤子が一人。
声が枯れても泣き叫び、目の下は被れて泣き声は掠れている。
(赤子でこれだけの気配を放つとはね。
…にしても、可哀想な事だ。)
老婆は気配の主が赤子である事に驚いたと同時に捨てられた理由を悟った。
確か最近出産した弟子が近くに住んでいた筈だと思いながら、老婆は緑髪の赤子を抱えて屋敷へと戻った。
緑髪は捨てられても仕方ないよね