俺が水神流に拾われて二年が経った。
水神流というのは剣術において三大流派の一つらしく、俺が捨てられていた場所は水神流の総本山だった事が幸いした。
門前に捨てられた孤児に対して水神流の皆は良くしてくれたと思う。
門弟の中から乳母を用意し、母乳を与え手の空いた者が常に誰かしら俺の面倒を見てくれた。
後から知った事だが水神流は女性の剣士が多く孤児とはいえ赤ん坊である俺の世話は修行中の癒しだったらしい。
俺は恵まれた環境の中で2年を過ごし、少しづつ身体を動かせるようになり、声帯も発達し今に至る。
転機はそんなある日訪れた。
ある程度歩き回れる様になり子供部屋は狭いだろうと、大人が付き添いの上で道場に訪れる事があった。
「お姉ちゃんのお膝で大人しくしましょうねー。」
「はい!」
付き添いの女性剣士の膝に座って稽古の様子を観察する。
いま行っているのは恐らく対魔術師の練習だろう。
(杖!
ということはやはり魔術あるのか!)
胸が高鳴っていく。
この1年間、周囲の会話を聞き続けて魔術がある可能性が高いと踏んでいたが、この目でようやく見ることが出来る。
二人の剣士が距離を取り向き合っており、片側の剣士の手には剣ではなく杖が握られている。
「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、清涼なるせせらぎの流れを今ここに、ウォーターボール!」
詠唱が始まり、杖の先にサッカーボール位の水球が生み出されて勢いよく相手の剣士へと飛んでいくが、剣士は冷静に水球を木刀で切り捨てて一気に相手の懐へと迫まると首筋に剣先きを向けた。
「そこまで!」
立ち会いをしていた剣士の辞めの合図で2人は礼をして下がっていく。
「おおー!」
(魔術もそうだが剣士の動き!
明らかにあの体格の人間が出せる速さではない!
身体能力も強化出来るのだ!)
魔術に身体強化。
正に剣と魔法の世界。
現代男子なら一度は思う夢の世界の一つだろう。
俺は食い入るように稽古の様子を観察していると、ある事に気付いた。
(魔術で出来た水が残ったままだ。)
切り捨てられた水球だった水は周囲に飛び散り小さな水溜まりも出来ている。
(つまり、魔術による一次的な現象ではなく魔力によって水が生み出されている?)
周囲の水分を集めている可能性もあるが、詠唱中の短時間であれだけの量の水を大気から取り出せるとは思えない。
(ずっと同じ魔術を使っているから詠唱を覚えて来たな。)
俺は付き添いの女性剣士に声をかけた。
「ねぇねぇ、ウォーターボールやってみたい!」
「ふふっ、いいですよ~上手く詠唱できるかな〜?」
彼女は俺の言葉を微笑ましく感じたのか、微笑んで許可を与えてきたので、膝の上から立って何となく構えをとってみる。
恐らく二歳児では魔術を放てないと思われているのだろう。
この世界の常識なのかもしれない。
まあ、失敗したら失敗したで経験になる。
一応、出来た時の為に備えて人がいない方向に両手を突き出して詠唱をしよう。
「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、清涼なるせせらぎの流れを今ここに、ウォーターボール!」
詠唱を始めた瞬間、全身から何かが両手を集まっていく。
知らない何かがごっそりと抜ける感覚にクラッと来たが、踏ん張って水球が出来る様子を目に焼き付ける。
(感覚的に抜けていく力と水球の大きさは比例している!
つまり魔力は物質になる!
あ、やばい。)
恐らく魔力がそこを尽きた。
魔力が抜ける感覚が突然無くなったかと思うと血の気が引くような感覚と共に手足の力が抜ける。
脱力し倒れ込む瞬間、制御を失った水球はその場で弾けて俺は自分の魔術に吹き飛ばされて宙を舞った。
何故か水神が登場しない…