「レイン次はコレを。」
「うーん、コートとの組み合わせが良くないですね。
次はコレとコレを。」
「色は白の系統のほうが髪色と合いますね。
旅で汚れる可能性がありますね…レインなら洗えるし問題ないでしょう。」
「あ、そのポーチは腰ではなく胸に付けるモノです。」
「これは素材が少し弱いですね。
今回の旅ではなく次回用の服として同じデザインで此方の布で作ってもらいましょう。」
アスラ王国の貴族街にある服屋に向かったが、案の定時間が掛かった。
朝から出掛けて昼に差し掛かるが、彼女の探究心は収まらない。
「お客様、此方はどうでしょう?」
店員もノリノリで服を持ってくる。
「良いですね。
ならコッチのズボンとシャツを合わせましょう。」
受け取った衣類に袖通してイゾルテの前に戻ると、既に次の服を用意していた。
ため息が出そうになるのをグッと抑えた俺は偉いと思う。
「似合っています。
着心地はどうですか?」
「動きに支障は無い。」
「ではコレにしましょう。」
(ようやく終わった…)
白のコートに深緑のシャツに黒のズボンに決まった。
本当は細かい色々な説明が必要かも知れないが、俺の知識ではこれが限界だし正直違いもよく分からない。
俺にとって大事なのは動けるかが重要で、この服装は要件を満たしている。
最後に金を払おうと師匠から渡された財布を取り出そうとするとイゾルテに止められた。
「レイン、こういう店では直接やり取りはしませんよ。」
衣装は細かい調整が施された上で、イゾルテの実家に届けられてそこで初めて支払いをするらしい。
「まて、ならこの店はかなり高い店じゃないか?」
商品の支払いをその場で行わないリスクは素人の俺でも分かる。
逆に言えば成り立つと言うことはそれだけ店と客の信用が成り立っている証拠だろう。
それだけの信用を得る店が大衆店のはずがない。
「私から水聖になったお祝いとして贈らせて下さい。
それにこれは投資でもあります。
水神流の名が広まれば我が家にもそれなりの利益になりますし。」
(こっそり我が家の刺繍を仕込みたいですし。)
恐らく俺の懐にある金ではシャツ一枚ですら買えるか怪しい気がする。
購入を断ろうにも店にも半日いた上で購入拒否は人としてどうかと思うし、イゾルテには俺に服を贈る理由がある。
ここで意固地になる方が後々に響くだろう。
「承知した。
礼は働きで返すとしよう。」
水神流の名前が広まれば利益が出ると言うことは、クルーエル家は運営に関わっているのだろう。
まあ、師匠もクルーエル家出身だから当然と言えば当然だが。
そんなやり取りをしつつ俺達は服屋を離れて武器屋の方へと2人で向かう事にした。
「デカすぎないかアルス。」
アスラ王国首都アルスは王城を中心とした五つの城壁で囲われており、俺達は服屋のあった四層目から五層目の街へと繰り出していた。
イゾルテ曰く、五層目の城壁の外にも街は拡がっており地平の先まで街が拡がってるらしい。
そう考えると城壁内に住めるのはステータスなのだろう、平民層と言う割にはすれ違う人達は清潔感があり、品が良さそうに見える。
「五層目ではアスラ王国有数の商会の本部や国から認められた職人の方々が多く住んでます。
五層目の門は夜間以外は開門されていますが、住むとなるとある程度身分が保証された者しか住めません。」
(故に腕の良い職人が居ると言う訳か。
平民でも格差がある…よく国が割れないな。)
道すがらアスラ王国については聞いてはいた。
中央大陸の最大最古の王国。
7000年以上の歴史と中央大陸の半分を国土とする超大国。
長い間王政を維持する政治力と破綻しない国力。
(噂に聞く不死魔族や獣人といった外敵が居るから割れないのだろうか。)
建前上アスラ王国は魔族差別をしていない事になってるが、髪色で赤子を捨てる程度の差別意識は残っている。
それだけ人類には魔族に対する危機意識が浸透している訳で、いつか魔大陸から攻め込まれる可能性を考えると内輪揉めをしてる場合では無いのだろう。
(魔族は基本的に長寿であり、中には不死魔族とかいう文字通りの不死の強者が沢山居るらしいな。)
中央大陸の外、魔大陸と呼ばれる大陸に魔族が大勢住んでるらしいが、其処には魔王と呼ばれる強者が沢山いるらしい。
「いつか魔大陸にも渡ってみたいものだ。」
「魔大陸に行くのは咎めませんが、先ずはアスラ王国をたっぷり味わってからにして下さい。
ほら、着きましたよ。」
イゾルテに呆れられつつ、辿り着いたのはThe武器屋と行った感じの店構えをしている武器屋だった。
「おお、武器屋だ。」
「?
武器屋ですよ?」
前世では絶対無かった男のロマンに感動しながら中に入ると、様々な剣は勿論ナイフや鎚、棍に両剣、鎖鎌等の武器が置いてある。
いくつかの武器は使い方が想像出来なかったが恐らく北神流の剣士が使う武器だろうか。
店内を見て回り、道場にある剣と似た長さの剣を何本か手に取って見た。
(片刃の剣が少ないな。
…鉈は違うな。)
カウンターが主体の水神流にとって理想的な剣は片刃である程度肉厚であり、振りの速さを考えると細身の剣が良い。
俺の場合は剣先を相手の得物に添えることで反らす事が多いが、敢えて敵の攻撃を受ける場合もある。
条件に多少合う武器として鉈が置いてあったので一瞬有りかと考えたが、少し格好が悪い。
(取り敢えず同じ重心の剣でも買うか。)
得物を選ぶほど水神流は癖のある流派ではない。
道場で何時も使ってる剣に似た剣を何本か持って、しっくり来た剣を選ぼうとすると声が掛かった。
「お客さん、水神流の剣士かい?」
振り向くとカウンターに立っていた眼帯の店員が声掛けてきた。
「そうだ。」
「位は?」
「つい最近水聖に。」
「その年で!?
はー、目利きがしっかりしてるとは思ったが予想以上だなおい。
よし、ちょっと待ってな!」
店員は俺の返答に驚いて、奥へと引っ込むと一本の剣を持ってきた。
「水聖様ならコイツはどうよ。」
差し出された剣は鞘に入ってる時点で、他の剣より圧倒的に細かった。
(これは…)
鞘から引き抜くと刀身は平たく反っており、片刃の美しい刃紋が描かれている。
「ソイツは俺の試作品なんだがよ、水神流はカウンターの剣だろ?
片刃にして峰は太くしつつ、反撃の振りを速くするために刃を薄くしてみた。
欠点は刃毀れしやすくて下手が降れば一発でダメになるが、その年で水聖になる腕前なら使えんじゃないか?」
どうやらこの男は、只の店員ではなく鍛冶師らしい。
自らが打ったという剣は確かに俺の理想に近い水神流の剣だった。
確かにこの剣、いや刀は使い手を試すだろう。
峰が厚いといっても全体が薄い刀身の為、受け方を間違えれば刀そのものがひん曲がる。
刃の方も、斬り方を間違えれば一瞬で刃毀れするのは間違いない。
「材質は普通の鉄か?」
「いんや、迷宮産の折れた剣を使って打ち直したから実戦レベルの闘気で砕ける事は無いだろうよ。」
迷宮があるのか。
なるほど、旅に出る楽しみが増えた。
「レイン、いくら闘気を纏えてもその剣で打ち合うのは困難です。」
イゾルテが苦言を呈する。
確かにイゾルテの懸念も間違いでは無い。
相手の剣士が刀を握っていれば俺も容赦なく刀身目かげて剣を叩き付けて歪ませに行くだろう。
だが俺はこの刀が気に入った。
「この剣を売ってほしい。」
「即答気に入った。
材料を考えればアスラ金貨10枚ってとこだが手持ちの金でくれてやる。」
この鍛冶師は変わり者のようだ。
迷宮産の折れた剣というのがどういう価値を持つか分からないが、アスラ金貨10枚と言うことは日本円で200万くらいだろうか?
俺は即座に財布を鍛冶師へと差し出した。
「毎度。
ソイツの銘は『薄氷』だ。
手入れはタダでやってやる。」
「承知した。
俺の名前はレインだ。
よろしく頼む。」
右手を差し出す。
「おう、俺はクロプス。
家名も片目も無いから俺の勝ちだな。」
眼帯の鍛冶師クロプスは、ニヤリと笑って俺に薄氷を握らせて来た。
刀はロマン。