佐倉と少しは関わらせようとしたら思ったよりガッツリ絡まった。
6月の終わり頃。
あれ以来、坂柳が部屋にちょくちょく来るようになった。しかも、彼女が来るのはクラスの人間が来ないタイミングを狙って来ており、理由を付けて追い返す事が出来ずにいた。
そして今日もクラスの誰も部屋に来ないので、坂柳が来る可能性を見越していっそ門限ギリギリまで部屋に帰らない事にした。
(というか、そもそもなんでそんなにタイミング合わせられるんだろ)
たしかにクラスの人間から行きたいとお願いされる時は隠れて話している訳では無い。ただ毎回そんな話を彼女が都合よく聞いているとも思えないし、クラスの人間が坂柳、もっと言えばAクラスの人間と話す所なんてほとんど見ない。せいぜい同じ部活に所属している人同士が話していた位のものだ。
クラスに盗聴器でも仕込んでいるのかとも考えたが、そんな事をすれば監視カメラでバレるので、それを見た学校側が何もしないとも思えない。監視カメラ自体は電気屋で売っていたので、それを個人で取り付けている可能性もあるが、それこそ見ればひと目でわかるし現状教室付近でカメラが増えた記憶はない。
残る可能性なんて尾行くらいのものだが、坂柳本人は体の都合で出来ないので、仮に尾行しているのなら彼女が付き従えている誰かにやらせているのだろう。
(まあそもそも誰かに尾行されてるなんて感じたこと無いし、僕を尾行するメリットとか特に無いと思うんだけど⋯)
とはいえ可能性として0では無い以上、確かめる為に放課後に人のいない特別棟に入ることにした。これなら誰かが尾行しても簡単に気付けるだろう。
そう思いながら歩いていると、前の方から茜色の髪をした眼鏡をかけた子が歩いてきた。が、僕の姿を見た瞬間、驚いて持っていたカメラを落としそうになりながら逃げていった。
(今の子が尾行してる可能性は⋯無いな、うん)
少なくともAクラスにこんな子は居なかったはずだし、尾行するなら前じゃなくて後ろから来るだろう。あと僕から逃げたのもきっと対人恐怖症とかそういった理由なのだと思う。きっとめいびー。
一応僕の姿が見えなくなるよう階段を上ってみたが、追いかけてくる気配も無かったので、ひとまず彼女は尾行者候補から外した。
それから少し歩き回りながら最上階まで上がってみて誰か人が近くにいるか探すが、結局誰も居なかった。尾行者なんて居ないのか、それとも放課後まで尾行している訳じゃないのかは分からないが、これ以上ここにいる必要もないので帰ることにした。
しかし、下の階へ降りる途中、やけに騒がしい声が聞こえる。何か言い合いをしているらしい。用心しながら声のする方へ降りてみると、階段のすぐ近くで喧嘩が巻き起こっていた。喧嘩とは言ったがその実、一方的に3人が1人の男子生徒にボコボコにされていた。
(⋯というか、コイツらどっかで見たような)
思い出してみると、前に図書館の勉強会で煩くしていたメンバーだし、3人のうち1人はBクラスに入ってきて胸ぐらを掴んで来た奴だった。
喧嘩程度なら巻き込まれたくはないし見なかったことにするのだが、問題はその喧嘩が起こっているすぐ近くの柱にさっきの女子生徒が隠れていた事だった。
(⋯流石に助けた方がいいよなぁ)
とはいえ助けようにも女子生徒は喧嘩が起こっている方向を向いており、僕が階段の上に居ることに気付いていない。かと言って、下手に音を立てればあの4人があの女子生徒ごと僕の存在に気付くだろう。
そう思っていると、女子生徒が喧嘩の様子をカメラで撮影し、階段の方へ目を向けた瞬間僕とバッチリ目が合ってしまう。
ジェスチャーでこっちに来るよう促してみるが、僕を見た女子生徒は首を横に振る。よく見るとこの状況で移動するのが怖いのか、彼女の足が震えているのがわかった。
ひとまずあの4人の喧嘩はまだ続きそうなので、4人が階段の方を見れなくなるタイミングを探って足音を立てないよう気をつけながら階段を降りる。そしてそのまま彼女の腕を掴んで階段をさらに1階まで降りていき、周囲に誰もいないのを確認して手を離した。
「はぁ⋯ごめん、急に腕掴んだりして。大丈夫?」
「⋯はい、大丈夫です⋯その、ありがとうございます、助けてくれて⋯」
彼女は少しビクビクしながらも答えてくれる。ひとまず特別棟に残ってまた鉢合わせる訳にも行かないので、寮に帰りながら彼女と少し話をする。
彼女は佐倉さんと言うらしい。写真を撮るのが好きだそうで、人と関わるのが苦手だから放課後に人がいない特別棟に写真を撮りに来たとか。
その結果、尾行者がいないか探していた僕がいた上、あんな現場に遭遇してしまったと。
「⋯なんて言うか、タイミング悪かったね」
「は、はい⋯」
それから佐倉さんと別れて家に帰ったのだが⋯僕は忘れていた。特別棟に行っていたもう1つの理由を。
「遅かったですね、水無瀬くん」
「あ」
その後、いつもより圧を感じる坂柳と門限ギリギリになるまでチェスをやらされ、キングどころか全ての駒を取られるフルボッコの刑に処された。
一応チェスの最中にタイミング良く部屋に来る理由を問い詰めてみたが、「偶々ですよ」と言ってはぐらかされたのだった。
それから数日が経過し7月1日、教室に入るとクラスが何やら騒がしい。何かあったのか疑問に思っていると、一之瀬が話しかけてくる。
「ねぇ、水無瀬くんはプライベートポイント支給された?」
そう一之瀬に聞かれ確認してみると、昨日からポイントが変わっていない。
「いや、まだ支給されてないね」
「だよねぇ⋯何かあったのかなぁ?他のクラスの人達も貰えてないみたい」
どうやらクラスどころか学年全体にポイントが支給されていないらしい。
「プライベートポイント支給してるサーバーみたいなのが落ちたとか?」
「うーん⋯でも学校から何も聞かされてないよね。もしかしたら突発でポイント増減させる何かがあるのかも」
たしかに、一之瀬の言った可能性が0とは言えないのがこの学校の恐ろしい所だ。
「皆おはよー!ホームルームを始めるけど、なにか質問はあるかな?」
「はい!今月のプライベートポイントが支給されていませんが、なにか理由があるんですか?」
一之瀬が代表して先生に質問する。
「それについてなんだけど、今少しトラブルがあって、1年生のポイント支給が遅れてるの。いきなりこれからポイントが変わるような試験がある訳じゃないから、安心してね」
ひとまず、また突然何か学校から突発でイベントが生えてくる訳では無かった事に安心する。
「まあトラブルの話は一旦終わりにして、皆に朗報だよ。まずはこれを見て」
と、黒板に紙が貼られる。そこにはAクラス1085ポイント、Bクラス924ポイント、Cクラス512ポイント、Dクラス87ポイントと書かれていた。
「なんと、中間テストを乗り越えたご褒美に各クラスに最低100ポイントのクラスポイントが貰えたよ!」
その先生の言葉にクラスのほとんどが喜びの声を上げる。が、一部のメンバーはAクラスとの差が縮まるどころか20ポイント程度広がったことに気付き素直に喜ぶことが出来なかった。
「トラブルが解消されたらポイントは振り込まれるから、それまで少し待っててね」
そう言われ、その日は特に何かある訳でもなく1日が過ぎる。
そして更に翌日、まだポイントは振り込まれず、トラブルが何なのかクラス内で憶測が飛び交いだしていたが、先生がホームルームで説明してくれた。
「昨日言ったトラブルについての話なんだけど、この前Cクラスの生徒とDクラスの生徒で喧嘩があったらしいの」
どうやらトラブルとはこの前見たあの喧嘩現場の話だったらしい。正直あれに関してはどっちも悪いで喧嘩両成敗になりそうなものだが。
「Cクラスの生徒は一方的に殴られたって訴えを出したんだけど、Dクラスの生徒はむしろ呼び出されて喧嘩を売られたんだって」
最初遠くから聞こえてきた言い合いはしっかり聞こえた訳ではないが、たしかにCクラス側が難癖を付けていた様な気がする。少なくとも複数人で1人にアレコレ文句をつけていたとは思う。ただ、Dクラス側が暴力を使ったのは間違いないし、少なくとも今聞いた話の範囲に関してはどっちも事実だと思う。
「ただお互いに証拠が無いから、何か知っている人がいたら先生に教えて欲しいんだけど、何かトラブルについて知ってる情報は無いかな?来週の火曜日に最終的な判断が下されるから、何か情報があったらそれまでに教えてね。じゃあ、ホームルームを終了するよー」
そう言って先生は出ていった。さて、情報はあるにはあるけど、どうしたものか。
なお主人公を尾行してる人はちゃんと居るし、なんなら特別棟の入口まではいたけど入りはせず帰った。主人公は全く気付かなかった。
あと佐倉の扱いどうしようかめっちゃ悩み中⋯