キャラをセリフだけで書き分けるの難しいなーと思う今日この頃
土曜日。
今日は佐倉に、カメラを修理する為に電気屋に同行して欲しいとお願いされていた日だ。
昨日の夜に佐倉から連絡があったが、どうやらDクラスからも櫛田さんと綾小路が来るらしい。なんでも、櫛田さんが『カメラが壊れたのは自分が話しかけて慌てさせてしまったから』との事らしい。
それだけ聞くと櫛田さんも普通に優しい子だなと思うのだが、どうしても坂柳に似た感覚を覚えてしまい、苦手意識が抜けずにいる。まあ気の所為の可能性もあるし、あまりこれ以上は考えないでおこう。
とりあえず遅れないよう早めに出発し、ショッピングモールに向かう。
僕がショッピングモールに着くと、ベンチに人が1人座っている位で周りに待っている人は居なかった。どうやら僕が一番乗りな様だ。
「あ、水無瀬くん⋯おはよう」
「⋯誰かと思ったら、佐倉か⋯ちょっと顔隠しすぎじゃない?」
と思っていたが、ベンチに座っていたのは佐倉だった。
彼女は帽子を深々と被るだけでなくマスクまで付けており、傍から見れば完全に不審者な格好だった。気付かなかったのもしょうがないと思う。
「や、やっぱりそう、かな⋯」
「目立ちたくないからだとは思うけど、それだと逆に目立つと思うよ」
「そう、だよね⋯うん」
と、僕の言葉を聞いて彼女はマスクを外す。これならそこまで目立ちはしないだろう。
「⋯やっぱり、人が多い場所は苦手?」
「⋯うん、やっぱり怖くて⋯⋯でも、今日は水無瀬くん達も一緒だから、少し安心出来る、かも」
やはり人が多いというだけでも怖いらしい。けど、僕達がいて安心出来るのなら、それだけでも来た甲斐があるというものだ。
「でもそんなに怖いなら、やっぱり修理依頼もこっちで手続きした方がいいかな?」
「う、うん⋯じゃあ、お願いしたいな。これ、渡しておくから⋯」
一応聞いてみると、佐倉からお願いされたので壊れたカメラと保証書を受け取る。
佐倉から受け取った物をカバンにしまうと、丁度そのタイミングで一之瀬も合流してきた。
「お待たせ、2人とも。何してたの?」
「帆波ちゃん、おはよう⋯水無瀬くんに、私の代わりに手続きをお願いしようと思って⋯」
「佐倉が人と話すのは怖がってそうだったから」
「でも水無瀬くん、水無瀬くんが手続きするのはいいけど、店員さんになにか聞かれたら答えられる?」
「うっ⋯そう言われると⋯」
たしかに、別にカメラに詳しい訳でもないし、専門的な用語とか出てきたら詰むような気がする。
「⋯何か聞かれた時は、私が答えるようにするから⋯」
そう言ってくれたので、細かい話については佐倉に任せる事にした。
とりあえず残りの2人が来るまで3人で談笑するが、一之瀬がいると、心做しか佐倉も笑顔が増えている気がする。女子同士の方が気が許せるのだろう。
それから待ち合わせの5分前くらいに綾小路がやってきた。
「悪い、待たせた」
「大丈夫だよ。私達もさっき着いたばっかりだし」
「これで後は櫛田さんだけ⋯って、ちょうど来たね」
綾小路の後ろの方から、櫛田さんが走ってきたのが見える。
「ごめん!遅れちゃって」
「まだ待ち合わせしてた時間より早いし、全然大丈夫だよ」
「というか、寮の前で待ち合わせにした方が良かったかもね」
「分かってないなぁ。こういうのは現地で集まるからいいんだよ。って、一番最後だった私が言う台詞じゃないか」
こういう待ち合わせなんて、坂柳(拒否権無し)としかした事が無いから分からないが、櫛田さんにはこだわりがあるらしい。
ひとまず全員揃ったのでショッピングモールに入る。
「デジカメの修理って、ショッピングモールの電気屋さんでいいんだよね?たしか修理の受付もあったはずだし」
「うん⋯そこで買った物だから⋯」
心做しか佐倉の足取りが少し重い様な気がする。前に話を聞いた感じだとカメラが好きな様だし、むしろ早く直って欲しいと逸りそうな気もするが。
「たしか、修理の受付はあっちのカウンターでやってたと思う」
「じゃあ、僕と佐倉で行ってくるから、3人は適当に待ってて」
櫛田さんに言われた方向に進むと、1番奥の方に修理の受付場所を見つけた。
「あ⋯」
「佐倉?」
そこで佐倉の足が止まる。何か嫌なものでも見つけてしまったような反応だ。
「⋯ううん、何でもない⋯」
佐倉はそう言うので、ひとまず受付に行って修理の依頼をする。カメラを渡すと、どうやら落ちた衝撃でパーツの一部が破損していたらしい。幸いにもカメラはここで買った物で保証書もあるので無償で直してもらえる様だ。
その後もカメラについて幾つか聞かれるが、そこは佐倉が後ろで答えてくれる。一応修理にかかる期間も確認してみたが、パーツの交換だけで済むそうで、月曜日には直るとの事だった。
最後に名前や部屋番号等の必要事項を記入する用紙を渡され、持ち主の佐倉が書くべきかと思い彼女の方を見たが、何やら怯えた表情をしている。店員も何故か佐倉の方をジッと見ており、なにか嫌な感じがしたので代わりに自分の名義で必要事項を記入する。
「じゃあ、修理が終わったら僕の所に連絡してください」
「あの、カメラの所有者は彼女だよね?それはちょっと⋯」
「僕に連絡してもらえれば僕から彼女に伝えますし、何も問題は無いと思いますけど⋯」
「⋯分かりました」
店員は渋々と言った様子で用紙とカメラを預かった。
「水無瀬くん⋯ありがとう」
「気にしないで。とりあえず3人と合流しよう」
そう言って受付から離れたが、受付が見えなくなるまでさっきの店員からずっと見られているような気がした。
その後、3人は電気屋を分かれて散策していたのでそれぞれ合流する。
「とりあえず、修理は月曜日には終わるみたいだから、放課後取りに行けば当日には間に合いそうだよ」
「よかった〜。ひとまず安心だね」
「ねー。これで須藤くんの無罪に1歩近づいたよ」
女子達は安堵しているが、須藤が無罪になるかと言われれば怪しいだろう。まあここで言っても雰囲気ぶち壊すだけだし言わないけど。
それにしても、女子とは対称に綾小路だけ表情が全く変わらない。表情筋が死んでるというか、感情がないロボットか何かと疑ってしまいそうだ。
「とりあえず、この後はどうする?」
「せっかくだし、皆でお昼にしない?ポイントが無かったら私が払うから」
「そういえば佐倉、さっきの店員って知り合い?」
「ふぇっ!?」
昼食を食べながら気になっていたことを聞いてみると、急に質問されたせいかは分からないがめっちゃ取り乱す。
「さっきの店員って?」
「なんか佐倉の事ジッと見てたんだよ。不気味っていうか、嫌な感じがしてさ」
「そうなの?それは⋯たしかに怖いね」
「⋯後で、私の部屋に来てくれない、かな⋯?そこでなら話せるから⋯」
昼食を食べ終わった後、5人で佐倉の部屋にお邪魔する。
「それで、ここでなら話せる話って?」
「⋯」
彼女は話そうか悩んでいるのか少し俯いたが、やがて決心したのか顔を上げ、眼鏡を外し、縛っていた髪を解く。
「愛里ちゃん?なんで眼鏡を⋯」
「⋯実は、これ伊達なの」
「⋯⋯あーっ!」
突然櫛田さんが声を上げる。
「もしかして佐倉さんって、雫!?」
「雫⋯?」
佐倉と櫛田さん以外の頭に?が浮かぶが、その様子を見た櫛田さんがさらに続ける。
「綾小路くんは知ってるでしょ!前池くん達が見てたグラビア雑誌に載ってた子!」
「⋯え?」
グラビア雑誌?佐倉が?⋯というかなんでグラビア雑誌なんて学校に持ち込んでるんだ。そもそもなんで売ってるんだ。
幾つか疑問とツッコミが同時に頭に浮かぶが、佐倉から否定の言葉が出てこないということは、本当の事の様だった。
「⋯そういえば、確かに見た気がするな」
「でも、なんで佐倉がグラビアに⋯?」
「それは、その⋯人前に出る自信が欲しくて⋯」
そこはかとなく色々順序がバグり散らかしている気もするが、一旦その辺のツッコミは置いておく。
「⋯じゃあ、わざわざそれを僕達に伝えたのは⋯」
「⋯これを見て」
そう言うと、佐倉がブログを見せてきた。
アップされている写真はどれも明るい表情をしており、普段の佐倉を見ていれば余計に気付けないなと思う。
「でもこう見ると、たしかに愛里ちゃんだね」
「⋯その、見て欲しいのはこっちで⋯」
そう言ってコメントの方を指したので見てみると、可愛いなどの言葉で埋め尽くされていたコメントの中に奇妙な文を見つける。
『運命って言葉を信じる?僕は信じるよ。これからはずっと一緒だね』
「ヒッ⋯」
あまりの異様なコメントに一之瀬が悲鳴を漏らす。しかもそんなコメントは他にも書かれていた。
『いつも君を近くに感じるよ』
『今日は一段と可愛かったね』
『目が合ったことに気づいた?僕は気づいたよ』
そして昨日投稿された写真にもついさっき投稿されたコメントがあった。
『隣にいた男は誰?』
『雫ちゃんは僕のものなのに』
『許せない許せない許せない』
「っ⋯」
この投稿で確信出来る。この投稿主はさっきの店員で間違いないだろう。あまりの不気味さに身の毛がよだつ。
「⋯私、カメラを買った時にあの人に話しかけられてて⋯」
「⋯だから、あの時も怖がってたんだ」
待ち合わせの時から、いつも以上に怖がっているように感じたのも、あの店員と会う可能性があると思ったからなのだろう。そして、実際に受付に立っていたから、受付の前で足を止めた。
「⋯でも、これ早く何とかしないと」
「⋯私だけじゃなくて、水無瀬くんまで巻き込んじゃって⋯ごめんなさい⋯⋯」
「謝らなくていいよ。佐倉は悪くないんだから」
「でも⋯」
そう言う佐倉の目からは涙が溢れていた。
「とりあえず、週明けに学校に話した方がいいだろうな」
「あと、警察にも連絡しよう!そしたらきっと何とかして貰えるよ!」
「いや、警察って基本的に実害が無ければ介入するのは難しかったはずだし、事前に対応して貰うのは厳しいと思うよ」
「それでも、何かしてもらえるかもしれないでしょ?」
「⋯その、実害だったら⋯」
佐倉が封筒を出してきた。中の手紙を全員で読むが、前に読んだ白波さんの物とは違う、愛よりも執着が勝るのがありありと伝わってくる文だ。
「っ、これ⋯もう部屋までバレてるの?」
「流石に部屋まで割れてるなら警察も動いてくれそうだけど⋯」
「少なくとも、全く知らない人間からこんな物を投函されたと言えば、学校側は対処せざるを得ないはずだ」
「大丈夫だよ、愛里ちゃん⋯」
「っ、帆波ちゃん⋯⋯」
もう限界だったであろう佐倉は一之瀬の胸の中で泣き続けた。
その間に1度警察に連絡はしてみるが、手紙だけでは対応するのは難しいらしく、ひとまず怪しい人物が寮に近づかないよう巡回は強化して貰えるとの事だ。
「⋯ありがとう、皆⋯⋯」
「気にしないで。困った時はお互い様だよ!」
「⋯うん!」
一之瀬の言葉に、やっと佐倉から笑顔が戻った。
後は週明けに学校にも連絡すれば確実に対処して貰えるだろうという事で、何かあれば連絡するように約束して、今日は解散になった。
この時の僕達は、甘く考えていたと思う。ストーカーの考えなんて、理解出来るはずも無かったのに。
めっちゃ不穏な終わり方になった⋯一応次でストーカーは終わるので少々お待ちを。