人に誕生日プレゼントなんて贈る事がないから何が正解か分からん⋯
7月頭に重なって起きた2つの事件が終わりを迎えたその週末、約束通り僕と佐倉は再びショッピングモールにやって来ていた。
「佐倉、電気屋に行く前に少し僕の買い物に付き合ってくれない?出来ればアドバイスが欲しくて」
「?⋯いいけど、アドバイスって言われても⋯何を買うの?」
「具体的に何か決まってる訳じゃ無いんだけど⋯」
僕が買おうとしているもの、それは一之瀬の誕生日プレゼントだ。彼女の誕生日は7月20日ともう近くまで迫っており、せっかくなので一之瀬が喜ぶ物を贈りたいのだが⋯問題は、一之瀬が喜ぶ物が何か分からないという事だ。
「⋯だから、この前一之瀬の部屋にも行ってたから一之瀬がもう持ってるものにも詳しいだろうし、女子視点からどんなプレゼントの方が喜ぶとか教えて貰えたらと思って」
「そっか、帆波ちゃん誕生日なんだ⋯でも、ならBクラスの人達は⋯?」
「あー、それは⋯」
話は2日前に遡る。
「ねぇ、皆。ちょっと話があるんだけど、いい?」
そう話をし始めたのはいつもの様に一之瀬⋯ではなく、網倉だ。彼女が放課後の勉強会の後、一之瀬以外の残れる人に少し残ってもらえるようお願いしてきたのである。
「話?」
「実は、もうすぐ帆波ちゃんの誕生日なの」
「え、マジ?」
「うん。だから、皆で帆波ちゃんの誕生日をお祝いしたいんだけど⋯どう思う?」
「いいじゃん!」
「さんせーい!」
網倉の提案に残っていた全員が賛同する。
「ただ、中間テストの打ち上げみたいに全員で貸切にしようとしたら、ポイントが結構かかるし、なにより帆波ちゃんがあんまり楽しめないと思うの」
その考え方は分かる。一之瀬の場合は特に、嬉しさよりポイントを皆に使わせてしまったという申し訳なさが先行してしまいそうだ。
「だから、当日は私の部屋で帆波ちゃんを入れた何人かで集まって誕生日会にしようかなって。そこで、皆には当日帆波ちゃんに渡すプレゼントを何個か用意して欲しいんだけど、どうかな?」
「いいんじゃないか?」
「クラス全員1個ずつだと、かえって迷惑になっちゃいそうだしね」
それからどれだけプレゼントを渡すか考えた結果、基本4人1グループでそれぞれプレゼントを買うことになった。
とりあえず自分達のグループで、プレゼントとして良いものが無いか話そうとしたのだが⋯
「なあ水無瀬、一之瀬へのプレゼント、お前が考えてくれないか?」
「え?」
「いや、お前が一番一之瀬の事分かってるし、俺達は一之瀬の好みとかあんまり知らないからな。水無瀬なら変な物とか選ばないだろうし」
「たしかに、水無瀬くんなら僕達より詳しいと思うし、お願い出来るかな?」
「いや、ちょっ⋯」
「ポイントは先に渡しておくから、頼むよ。足りなかったら後で教えてくれれば渡すから」
こうして自グループから頼る相手が居なくなり⋯
「あと、帆波ちゃんには当日までバレないように、買いに行く時はなるべく少ない人数で行ってね。大人数だと目立つし、帆波ちゃんに見つかったらバレちゃうと思うから」
その網倉の言葉により、他グループと一緒に買いに行く選択肢も消滅したのだった。
「⋯って感じで、一人で考える事に⋯」
「そうなんだ⋯⋯分かった。私も、帆波ちゃんにプレゼントしたいし、一緒に考えてみる」
という事で、佐倉と一之瀬に送るプレゼントを探すことになった。ところがその数分後⋯
「あ、水無瀬くんと⋯その子は?」
「愛里ちゃん!奇遇だね〜」
まさかの網倉と一之瀬に遭遇してしまった。
「なんでここに2人が?」
少し離れた場所で佐倉と一之瀬が話している間に、2人に聞こえないよう小声で網倉に聞く。
「他の子達が帆波ちゃんのプレゼント買いに行ってるのがバレないように引き付けてるの。そっちは?」
「こっちは佐倉の買い物の付き添いのついでに、一之瀬のプレゼントを一緒に探そうとしてた」
「タイミング被っちゃったかぁ⋯ごめん」
「謝らなくていいよ」
こればっかりは運がないと言うほかないし、こっちも予定を伝えておくべきだったと思う。そうすれば、タイミングをズラすことも出来ただろう。
「そっちはどれくらいプレゼント決まってる?」
「決まった人はチャットで見せてもらってるけど、まだ決まってるのは2人くらい。一応今日決めるって言ってたのは、あと3人だね」
つまり今日でプレゼントの半分が決まる。こうなると他の人と被らない様にさらに選択肢を狭めて考えないといけないか。
「⋯というか、水無瀬くんも悩むんだね。帆波ちゃんの事一番知ってそうだし、すぐ決められると思ってたけど」
「そんな事無いと思うけど⋯」
少なくとも一之瀬の部屋に入ったのは佐倉と一緒に入れて貰った時の一度だけだし、学校以外で頻繁に会っている訳でもないので、おそらく網倉の方が一之瀬の事を知っていると思う。
「それに、そんなに悩まなくても水無瀬くんのプレゼントだったら何でも帆波ちゃんは喜んでくれるんじゃない?」
「⋯それは、僕が適当にプレゼントを選んでいい理由にはならないよ」
たしかに一之瀬なら、どんなプレゼントでも喜んでくれるとは思う。でも、相手の気持ちにかまけて雑に選ぶのは、その相手を蔑ろにする行為になる。
言ってしまえば、客側が『お客様は神様』と言うようなものだ。それは店側が使うべき言葉であって、客側がその言葉だけ引用して好き放題していい理由にはならない。
「プレゼントを渡すなら、出来るだけ相手が喜んでくれる物の方がいいに決まってるしね」
「⋯そうだね」
「ねぇ、2人とも何話してたの?」
「帆波ちゃんと佐倉さんの話を聞いてたの。私が知らないうちに凄い仲良くなってたみたいだから」
佐倉と話していた一之瀬がこっちに来て聞いてきたが、網倉が上手く誤魔化してくれた。危ない危ない。
「ねぇ、私も佐倉さんと仲良くなりたいし、4人で遊ばない?」
「いいね!愛里ちゃんは大丈夫?」
「ふぇ!?⋯⋯う、うん⋯大丈夫」
こうして何とか一之瀬にバレずに済んだが、プレゼント選びは一旦中断して、4人でゲームセンターで遊ぶ事になった。
それから1時間後、佐倉と一之瀬が2人プレイで某太鼓ゲームをしている間に、網倉に全員のプレゼント選びが終わった連絡が来たみたいだ。
「水無瀬くん、この後はどうする?皆選び終わって寮に戻ったみたいだし、いつでも解散していいけど⋯」
「うーん⋯解散って言っても、多分僕と佐倉が帰るまで一之瀬も残りそうだし、プレゼント選びは明日にしておくよ。とりあえず渡すプレゼントが被らない様に、後で他の人達が選んだプレゼントだけ教えて」
「分かった。じゃあ明日はこっちに来れないように帆波ちゃんの部屋にお邪魔して、何とか外に出さないようにするから」
「⋯そこまで無理にしなくてもいいけど、ありがとう網倉」
それからゲームを終えた2人に解散するか聞いたが、やはり一之瀬も残って買い物を手伝ってくれると言ったので、佐倉の買い物だけでも終わらせる事にした。
「でもこんなに買って、ポイントは大丈夫なの?」
「佐倉はこの前色々あって、ポイントに余裕があるから大丈夫だよ」
「⋯あー、そういう事かぁ」
ストーカーの件を知っている一之瀬はポイントを持ってる理由が分かった様だ。
「まあ詳しい話は置いといて、それより、佐倉の買い物はこれで終わり?」
「う、うん⋯」
とりあえず網倉から変に追求されても答えられないので、一旦話を切り上げて佐倉の買い物を終わらせた。
それからそこそこいい時間だったので、このまま4人で少し早めの夕食を食べる事にする。何を食べるか相談した結果、某有名なMの店に入った。
「ところで水無瀬くん。私に何か隠してない?」
さっきの話を掘り返さないように気をつけながら雑談をしていたのだが、突然飛び出してきた一之瀬の言葉に、食べていたバーガーを吹き出しそうになる。
「んぐっ⋯そんな、隠してる事なんて⋯」
「⋯今明らかに動揺したでしょ」
ジトーっとした目を向けられてしまう。佐倉はアワアワしているし、網倉も変に感づかれないように何とかしてと目線を送ってきている。
だが一之瀬に変な言い訳をした所で間違いなく気付かれるので、せめてバレる被害は最小限の範囲で留めるようにしよう。
「⋯もうすぐ一之瀬の誕生日だから、プレゼント買おうと思ってたんだよ」
「⋯プレゼント?」
ひとまず自分以外のクラスの人間には言及せず、自分だけ買いに来た様に思わせようとしてみる。
「じゃあ、愛里ちゃんといたのは?」
「元々は佐倉の買い物の付き添いで、ついでにプレゼントのアドバイスを貰おうと思ってたんだよ」
「⋯それで、私も帆波ちゃんに何かあげたいなって⋯」
「⋯別にそんな、プレゼントなんていいのに」
「遠慮しないでちゃんと貰ってよ。本当に要らないものだったら別だけど」
とりあえず疑いの視線は無くなったが、少し一之瀬の顔が暗い気がする。
「⋯迷惑、だった⋯?」
「違っ、迷惑なんて思ってないよ!」
一之瀬の雰囲気から佐倉がそう聞くが、一之瀬は即座に否定する。
「ただ⋯⋯やっぱり、申し訳ないなって」
一之瀬はそう言ったが、なんと言うか⋯
「⋯でも一之瀬、ここにいる3人が誕生日になったら、絶対プレゼント用意するでしょ?」
「うっ⋯」
なんなら既にクラスの何人かは誕生日を迎えており、その度彼女は何かしらプレゼントを渡していた。自分だけ断ろうなんて事が許されると思っているのだろうか。
「だから、一之瀬が誕生日の時くらいは僕達に用意させてよ」
「⋯ありがとう、3人とも」
そう言って、やっと一之瀬が笑顔を浮かべてくれた。
「⋯ところで水無瀬くん、今地味に私もプレゼント渡す事バラしたよね?」
「え?⋯⋯あっ」
自分の発言を思い返す。『僕
「みーなーせーくーん?」
「いふぁいいふぁい」
ヤベ、と思った時にはもう遅く、網倉にしばらくほっぺを引っ張られてしまうが、それを見ていた皆が笑ってくれていたし、まあいいか。
結局、僕達3人は誕生日当日、誕生日会に連れていかれる前に一之瀬の部屋にそれぞれプレゼントを渡しに行った。
僕は悩んだ末に、一之瀬の髪色と同じ色をしたハート形のキーホルダーをプレゼントした。正直渡す時はこれで良かったのか若干不安だったが、一之瀬は凄く喜んでくれたので良かった。
なお誕生日会が終わった後に、一之瀬からチャットで『ここまでしてくれるなんて聞いてないよ!?』とか言われたが『ごめんな友よ』とスタンプで返しておいた。サプライズ大成功って事で。
誕生日会はクラスの女子メンバーだけでやってたので主人公は不参加です。
次は無人島の前にCクラス枠を出しちゃう事にしました。(もう前に後書きで書いちゃったし誰とは言わない)