中間テスト終わるまでと言った手前、少し脱線部分が入ったかも
生徒会長に過去問を貰った後、教室に戻り勉強会に参加する。ひとまず結果については言わないようにして、勉強会が終わった後、一之瀬達を連れて部屋に帰った。
「それで、なにか収穫はあった?」
「うん。これ」
僕はスマホで皆に過去問のPDFを見せる。
「小テストを見たら分かるけど、中間テストも大体この問題と同じものが出るみたい」
「じゃあ、これをみんなに見せれば!」
「皆、満点を取れる、かも⋯」
僕の言葉に網倉と白波さんが喜ぶ。ただ、このまま過去問をクラスに配るつもりは僕は無かった。
「いや、この問題をそのまま見せるつもりは無いよ」
「なんで?」
「⋯Bクラス全体の学力を上げるため、か?」
網倉の疑問を浮かべたところで神崎が僕に聞いてきた。
「今回の中間テストをこれで乗り越えたとしても、期末テストでその分苦労すると思うからね」
「私もそれがいいと思うな」
神崎の疑問に僕が答えると、一之瀬も賛成してくる。
「今回みたいに毎回なにか救済措置が用意されてるとは限らないし、毎回救済措置を探すよりもまずは自分達の実力を上げる方が大事だと思う」
「まあたしかにね⋯じゃあどうやって使うの?」
一之瀬の意見に網倉も納得するが、さらに質問を重ねてくる。
「神崎が勉強会に合わせて作ってる練習問題。それにこれを少しずつ混ぜて出していけば、テストの時に思い出して解ける人はかなり増えると思う」
「なるほど。全部覚えさせるんじゃなくて、少しずつ小出しにしてあくまで偶然同じ問題が出た事にすると」
「そういう事なら構わない。むしろ問題を作る手間も省けるし俺としても助かる」
とはいえせっかくなので、今いる4人全員にPDFをそれぞれ送っておくことにして、個人で全部覚える分には自由にする事にした。ここのメンバーであれば、過去問があるからと言って勉強をサボることもないだろうし。
「⋯ねぇ、ひとつ聞いてもいい?この問題、テスト範囲と合ってないと思ったんだけど」
過去問を詳しく見ていた一之瀬が尋ねてくる。僕も貰った後で気付いたが、これまでの授業で習ってはいるがテスト範囲には入ってなかったような問題がどの教科でも見られたのである。
「それは僕もおかしいとは思った。でも、多分そこはこれから学校から何かしらアクションがあるよ。ほぼ間違いなく」
「なぜ確信出来る?」
神崎が聞いてきたので、過去問を貰った時の先輩とのやり取りについて説明した。
「なるほど⋯水無瀬はこれから学校側がテスト範囲の変更を通知すると思っている訳だな」
「そういうこと。まあ今の範囲も覚えて損は無いだろうし、学校側から通知が来るまでは今までの範囲で勉強会をしていいと思う。一応テスト範囲が変わらない可能性も0じゃないしね」
という事で今後の動きについても決まり、その日は解散となった。
そして翌日の金曜日、星之宮先生からテスト範囲の大幅な変更が告知された。タイミングいいなおい。
全教科での範囲変更という事もあって、勉強会をしていたクラスの皆は文句タラタラだったが、一之瀬が全員を励ました事で落ち着かせることが出来た。
「とりあえず、今日の勉強会は神崎君も問題を作れてないし、範囲内で何か早く聞いておきたい人だけ参加で大丈夫だよ」
という事で、金曜日は数人の質問に答え、すぐ解散になった。
それから一之瀬と寮に帰る時、気になっていた事を聞くことにする。
「そういえば一之瀬。PDF貰った時に、生徒会に誘われたんだけど」
「⋯そうなの?」
僕の言葉に彼女は動揺していた。面接で落ちたと言われて正直半分くらい本当か怪しんでいたが、彼女の反応からして本当の事の様だった。
「うん。その時に一之瀬でいいんじゃないかって言ったけど」
「⋯水無瀬くんは、生徒会に入るの?」
「いや、返事は保留にしたけど⋯多分入らないかな」
「なんで?」
「僕より一之瀬の方が向いてると思うし、一之瀬が入れないなら僕も入るべきじゃ無いと思うから」
これは紛れもなく本心だ。彼女は間違いなく生徒会に向いていると思う。
「⋯そんな事ない。水無瀬くんなら、私よりきっと向いてる」
「水無瀬くんは私が気付けなかった事に気付いて、クラスを助けてくれてる。正直、クラスのリーダーも水無瀬くんがした方がいいって、私は思ってるよ」
きっと一之瀬が言う事は、紛れもなく彼女の本心なんだろう。ただ⋯
「⋯前から思ってたけど、一之瀬は自己評価が低すぎるよ」
「え?」
「自分から前に立とうとする事は、誰だって出来ることじゃない。責任感も強いし、一之瀬はリーダーとして出来ることをやってると思う」
僕は特別人より出来ることが無い。運動神経は並だし、頭脳も坂柳に、統率力は一之瀬に間違いなく劣る。今のクラスがあれだけまとまっているのは、紛れもなく一之瀬の実績だ。
「⋯そうかな」
「何だかんだ小学校の時から知ってる僕の言葉だし、信じて欲しいな」
「⋯ありがとう、水無瀬くん。私、頑張るね。リーダーとして、皆を引っ張っていけるように」
そう言って彼女は笑った。少し沈んでいた彼女の気持ちが晴れたなら良かったが、同時に更に責任を持とうとする彼女に少し不安を感じるのだった。
そして翌週、また放課後は勉強会を開いたのだが⋯
「なんか、廊下が騒がしいね」
「あれ、Cクラスの連中だろ?」
Cクラスの人間が廊下で騒いでいた。ただ話しているだけかと思ったが、Bクラスの前から離れる気配はない。妨害工作のつもりなのか、他に目的があるのか。
「これじゃあ皆、勉強に集中出来ないね」
「俺が注意してこよう」
と神崎が教室から出ようとしたその時、逆にCクラスの人間が教室に入ってきた。
「おいおい、テスト前に勉強会とか、随分お利口なクラスなんだな。それとも、勉強しか出来ねえから必死こいてんのか?」
なんて分かりやすい挑発だろうか。
「お前達の方こそ、少しは勉強したらどうなんだ?赤点になれば退学だぞ」
神崎がCクラスの連中に言うが、そいつらはその言葉を歯牙にもかけない。
「ハッ、俺達は勉強なんてしなくても余裕なんだよ。お前らと違ってな」
「⋯何?」
神崎が相手の物言いに苛立ちを見せる。この余裕は、向こうも過去問に気付いたのだろうか。どの道このまま神崎に相手をさせるとまずい事になりそうなので止めることにする。
「⋯神崎、反応するなって。どの道手は出せないんだし」
「あ?」
僕の言葉に苛立ったのか胸ぐらを掴んできた。いや手が出るのが早すぎないか?
「偉そうにしやがって。そんなに言うなら本当に出してやってもいいんだぜ?」
「⋯あー、なるほどね」
向こうの反応から目的を察する。
「そっちの目的は、学校側が介入してくるギリギリのラインを探すことか」
「っ⋯」
僕の言葉への反応からして、どうやら正解のようだ。
「胸ぐらを掴んでも殴りはしないのは、殴ったらアウトな事は理解しているから。だから、その手前までの行動を監視カメラにわざと見せて学校が介入するのか確かめてる。そんな所でしょ」
「てめぇ⋯さっきからゴチャゴチャと⋯!」
「はい、ストップ!」
相手が本気で殴りそうになった雰囲気を察して一之瀬が止める。
「水無瀬くん、変に煽ったら駄目だよ。君達も、早く下ろした方がいいんじゃないの?」
「あ?邪魔すんな⋯」
「これ以上続けるつもりなら、正式に学校側に訴えるよ。殴ってなくても、わざわざ教室に乗り込んで他クラスの人の胸ぐら掴むなんて、これから暴力に出るって言ってるようなものだし、証拠としては十分だろうね」
「⋯チッ、行くぞ」
男は舌打ちをして手を離し、他の連中を連れてそのまま教室から出ていった。
「はぁ〜、水無瀬くん無理しすぎだって!本当に殴られてたらどうしたの!」
Cクラスが出ていってから、思いっきり一之瀬に怒られた。
「その時はそれこそ訴えたらプライベートポイントとか巻き上げられたと思うし、なんなら殴られた方がクラスには得が大きいというか⋯」
「殴られることを前提にしないで!」
「はいすみません」
正直殴られただけでポイントが手に入るなら全然いいのでは?と思ったが、これ以上言い訳したらまずいと判断して素直に謝る。
「はぁ⋯とりあえず、Cクラスには明日抗議してくるよ」
「俺も行こう。これ以上クラスの前で騒がれるのは迷惑だしな」
「⋯なら僕も」
「水無瀬くんはまたわざと殴られようとするかもしれないから駄目!」
「(´・ω・`)」
なお翌日の昼に一之瀬達が抗議に行っている間、網倉と白波さんに監視されたので何も出来なかった。そんなに僕って信用ない?
結局、一之瀬が抗議に行ったもののあまり意味をなさなかったらしく、それからも毎日妨害に来ていたので勉強会の場所を変えることになった。
「図書館って、こんなに使われてるんだね」
「テスト前だからって理由も大きそうだけど⋯それにしても広いね」
新しい勉強会の場所として、まず今日は図書館を利用しようと来たが、想像以上に人がおり、毎日大人数で勉強会を開くのは厳しそうだ。
とはいえまだ空いているスペースも幾つかあったので、複数のグループに分かれて勉強会を行うことにする。
勉強会を進めていると、図書館の一角が騒がしくなっている事に気付く。
「⋯なんかあっち騒がしいね」
「図書館でも騒がしくするとか、またCクラスか?」
流石に図書館で騒ぐ程馬鹿では無いと思うが、毎日教室前で煩かった事でCクラス=騒がしいという公式が成り立ってしまっている様だった。
「⋯とりあえず、僕が注意してくるから、皆は少し休憩してて」
そう言って騒ぎの中心に行ってみると、僕より先に一之瀬が仲裁に入っていた。
「もし、どうしても暴力沙汰を起こしたいなら、外でやってもらえる?」
(いや暴力沙汰一歩手前まで言ったのかよ⋯)
心の中でそう思った。どうやら騒いでいたのはCクラスとDクラスだったらしい。もしかしたら、Bクラスにはこれ以上やっても暴力を振るわれないと判断して、狙いをDクラスに変えたのかもしれない。
そう考えている間にも、一之瀬の仲裁でCクラスは退散したようで、最後に一之瀬はDクラスにも注意をしていた。
「一之瀬」
「あ、水無瀬くん」
僕が声をかけると、一之瀬が僕の隣に来る。
「山脇くんが言ってたんだけど、Dクラスの人達、テスト範囲が変わったこと、知らないみたい」
「え?」
テスト範囲が変わってもうすぐ1週間になるが、そんな事が有り得るのだろうか。もしかすると、わざと言わない事で、裏技があると暗に教えようとしたのかもしれない。
(それにしたって無理やりが過ぎるとは思うけど)
「⋯ねぇ、水無瀬くん」
「言いたい事は何となく分かるけど、そこに介入するべきじゃないと思う」
一之瀬の事だし、Dクラスに過去問をあげてもいいのではと思ったのだろう。けど、Dクラスの担任にも考えがあるんだとは思うし、下手にこっちが助けた事で今後も助けて貰えると考えるかもしれない。他クラスの面倒をそこまで見るべきじゃ無いだろう。
「⋯そうだよね」
「⋯まあヒントはあるんだし、Dクラスが見つけられることを祈ろう」
「うん」
それから彼女と別れて勉強会を再開したが、1度切れた集中は中々戻らなかったようで、少し早い時間に解散する事にした。
その後、また僕の部屋でいつものメンバーと会議をした結果、今週は図書館、来週は僕達5人で7人ずつ自分達の部屋に招き、1教科ずつ過去問を教って解き方を教える事になった。
「結局、しっかり過去問使っちゃうね」
「Cクラスの妨害が無ければ、その必要は無かったが⋯狭い部屋で8人同時に勉強など出来ないからな。仕方ない」
「これまでの勉強会で皆の理解度は十分上がったと思うし、いいんじゃない?」
今回の勉強会を機に習慣化すれば、今後も赤点をとる可能性は限りなく低くなるだろう。
「そうだ。水無瀬くん、ここの合鍵って作っても大丈夫?」
勉強会についての話し合いが終わった後、一之瀬がそんな事を聞いてくる。
「合鍵?そんなの作れるの?」
「プライベートポイントで作れるらしいよ。集合の度に毎回水無瀬くんの部屋の前で待つのも邪魔になるかもしれないし」
「まあ、別にいいよ」
後日、今のメンバーだけでなく、この話を聞いた柴田達クラスのメンバーのかなりの人が合鍵を作るのだった。僕のプライベートという概念が無くなる瞬間だった。
それからテスト前最後の週、クラスから7人を部屋に招き入れ、過去問を使って教える。
「お前、こんなのいつゲットしたんだ?」
「テスト範囲変更される前」
「めっちゃ前じゃんか!もっと早く教えてくれよー⋯」
勉強苦手組はそんな風にボヤいたが、そんな考え方じゃ卒業まで赤点を取らずにいられるかは怪しいと思う。
「次以降同じ方法で乗り越えられるとは思わないし、今回の勉強会のお陰で、皆少しは理解出来るようになったでしょ。文句言わない」
「はーい」
そんなこんなであっという間に時間は過ぎ、中間テスト当日、クラス全員が全教科自己採点8割以上というとんでもない結果になるのだった。
須藤事件が7月なので、次は6月の話を1話でまとめると思います。