「やぁ! 君たちが――――」
入口に入ってそうそう、ポケモンおじさんの話が始まった。
ていうか、なんで運よく玄関近くのトイレから出てくるんだよ。
なんか色々話しているが、俺は既に聞くことをやめた。だってこのイベント、俺のものじゃなくて、元はといえばコトネさんのものでしょ?
俺はココロ愛でるのに必死。爺さんの話を聞いてる暇はないん――
「君、かわいいイーブイ持ってるねぇ! 僕もそんなに可愛いイーブイを見るのは初めてだよ」
「あなたもそう思いますかポケモンじいさん!!」
なんだ、分かりあえる同志だったじゃないか。話を聞いてやろうじゃないか。
と、思ってたら奥から一人の男の人がやって来る。
ああ、角刈りで白髪。そしてなんか白衣のポケットに手を突っ込んでダンディズムを体現していらっしゃる、この人が……。
「やあ。ウツギ博士のおつかいかのう?」
「あ、こんにちはオーキド博士」
「えっ、嘘! 本物のオーキド博士……?」
「そうじゃよ。どちらも初めまして、よな? ……それはそうとジョージ、卵を渡すんじゃなかったのか?」
「おお、そうだったそうだった!」
オーキド博士の言葉に相槌を打って、ポケモンおじさんことジョージ――案外渋い名前だな――が奥の部屋へと消えていく。
その様子を見た後、オーキド博士は観察するように、俺とコトネさん、そしてだしっぱのイーブイを見てくる。
特にイーブイを見る目は少し難しそうな感じだったが、そんな表情もすぐに柔らかくし、そして口を開いた。
「そのイーブイ、よく君に懐いているようじゃの。小さい頃からの付き合いかな?」
「実はまだ出会って三か月なんですよ」
「……ほう。…………君、名前は?」
「ジュンイチです」
「ジュンイチ君か。覚えておこう」
少し驚いたように声を漏らすオーキド博士。その反応は実はウツギ博士からも貰ってました。
しかもオーキド博士に名前覚えられちゃった! よっしゃ!
一応この世界の権力者であるオーキド博士に名前を覚えてもらうことは、それ自体で価値のあるものだろう。
まあなつき度を上げるには、大体長い年月を過ごすのが常道ってことらしい。しかし俺は何でイーブイにここまで懐かれているのか、それはまだ分からないでいる。
「……昔ピカチュウをやったレッドという少年がいるのだが、ソイツとは正反対ぐらいに懐きまくっておるよ」
「レッドさんというと、カントーのリーグ制覇した人ですよね?」
「そうじゃそうじゃ。まだ幼いのによく勉強しておるな」
「あの人と比べないで下さいよ。僕なんかが遠く及ばない人ですし」
コトネさん放っておいてオーキド博士と談笑。普通に面白いんだが。
ていうかレッドはやはりいるか……。しかもピカチュウ……。こりゃシロガネ山の奥で立ち尽くしているに違いない。
てか、今思ったけどシロガネ山入るにはオーキド博士の認証が必要だったはず。すなわち、バッチ一六個取らないと……。
うん、真面目に手持ちは育てた方が無難だな。
「ちょ、ちょっとちょっと二人とも待って! 私も混ぜて!」
ここで置いてけぼりだったコトネさんが抗議。
オーキド博士は小さく微笑むと、俺とコトネさんを見て満足そうに頷いた。
「君たちはトレーナーの素質が十分にありそうじゃ。……えっと、君の名前は?」
「コトネですオーキド博士!」
「コトネ君か。君はポケモンと育む友情と努力で必ず強くなれる。そんな気がするの」
「あ、ありがとうございます! オーキド博士にそんなこと言われるなんて光栄です!」
まあ教科書に載ってるレベルの著名人から、そんなこと言われれば感激だろうよ。
さ、さぁて……俺はなんて言われるんだろう……。
君は凡人レベルでそこそこ頑張るじゃろうて、みたいな? あ、でも素質あるって言われてるし、そこまで否定的な感じにはならないよね?
こ、怖いっすよ! オーキド博士、もう何言われても怒らないんで、すぱっと言っちゃってください!
「そしてジュンイチ君。君は少々ポケモン勝負には向いていない性格に思える。しかしこれほどまでにポケモンを信頼させる技量は、トレーナー以上にポケモンと人との関わりにおいて大切なことじゃ。きっと自身に返ってくることじゃろう」
「……そうですか。ありがとうございます」
うん、なんかものすごく有難いお言葉を頂きました。
俺の足元にいるイーブイも、うんうんと首を上下に振っていますし、まあそういうことなんでしょう。大事なんでしょう。これからも尽力しますよっと。
「待たせたねェ! 高い機械の調子が少し悪くて――って、あれ? なんか空気が今さっきと違うような……」
「ジョージ、お前はつくづく空気を読まん奴だのう」
苦笑いするオーキド博士に、こりゃすまない、と頭を掻くジョージさん。
ていうか、高そうな機械って、マジで高い機械って名前なのか? 違うよな? ただこのおじさんが名前をど忘れしちゃっただけ……だよね?
「それじゃこの卵を、君に」
「ありがとうございます――って俺ですか?」
やめろ! 俺は主人公たちの仕事を取るつもりはない! ただポケモン図鑑が欲しいだけなんだ! 厄介ごとはごめんですぞい!
……え? そんなに都合のいいようにいくかって? だってイーブイに出会って御三家ゲットしてポケギアゲットしての三連続コンボですよ? いくと思ってるに決まってるじゃないですか。
しかしなんというか、トゲピーの卵です! って雰囲気がバリバリ伝わってくるなオイ。青の四角、赤の三角やら、普通の卵にしてはゴテゴテしいイラストついてら。
「初めてみるポケモンの卵なんだよ! 色々柄が付いているだろう? だからどんなポケモンになるか知りたいからさ、ポケモンの進化について詳しいウツギ博士に調べて貰おうと思ってね~!」
ああ、ゲームでもそんなこと言ってたな。でも普通にオーキド博士に預けた方が良いんじゃないのか?
よく分からないポケモンおじさんに俺は助言を、と思ったが面倒になりそうだったので、とりあえず放っておくことにした。
それよりこの卵についてだ。
考えてみると、トゲピー育てたらいずれはトゲキッスね。能力の高い飛行タイプは欲しいところだな。しかも強いし。
でもトゲキッスを進化させるための、光の石をどこで手に入れるかが問題か。HGSSの展開で考えると、一回目の四天王倒して、オーキド博士に図鑑を全国版にしてもらってから……だったっけ。
でも図鑑もらえない可能性あるし、運よく拾うか誰かに譲ってもらう可能性が濃厚か。
一度育て始めて、やっぱりやーめた! って展開は俺大嫌いだしなぁ。
「俺的に、この卵はコトネさんがもっていた方がいいと思うんだ」
「えっ、どうして?」
「…………コイツ、めっちゃかわいい子になるよ」
耳元でぼそっと呟く俺の言葉に、ピクッと体を震わせて反応するコトネさん。
うん、やっぱり女の子は可愛いポケモン大好きだよね! チコリータだって見た目で選んだんだし。
この順当でいくと、コトネさんメリープも捕まえそうだな……。俺もメリープからのデンリュウは結構好きなんだが、被るのはちょっと、ね。
それはそうと、コトネさんや。顔がちょっとあくどい感じになってますけど。
「何でそんなことが分かるの?」
「僕の勘がそう言ってるんです。別に僕が持って行ってもいいんですけど」
「でもこの卵、ウツギ博士に渡すのだけど」
「僕の予想。この卵、ウツギ博士から世話するよう頼まれると思うんです」
全て憶測のみで喋ってる説明ではあるが、そうなるだろうという予想はつく。何しろ、ポケモンを調べるのは得意だが、育てたり一緒に居ることには向いていないのがウツギ博士だ。
コトネさんにも分かるのだろう。納得したように声を漏らした。
「何か私に買って欲しいものがあるの?」
「別に等価交換しようって言ってるわけじゃないですよ」
俺は苦笑いしてそういうと、そうなんだ、と顔を笑みに戻す。
ひとまずこそこそ話はこれで終了。コトネさんとこれ以上仲良くしていては、ココロが嫉妬しちゃいそうだからさ。
「まあ後で電話番号、教えてくださいね。聞きそびれてましたから」
「……あ、私てっきりもう番号交換しちゃってると思ってた」
「何ですかそれ」
卵を渡しつつ俺は惚けた発言をするコトネさんに、苦笑しながらそう言った。
「……うん、若いっていいもんだねぇ、オーキド博士!」
「儂らにもこんな時代があったんじゃよ、ジョージ」
ちょっとそこ、何変なこと言ってんですか。こんなん普通じゃないですか。
二人の過去が気になりつつある中、オーキド博士が再びこちらに寄ってきて、ある物を懐から取り出した。
赤に輝く長方形の物体。しかも右わきポケットと左わきポケットに一つずつ入っていた。
ていうか待って! こ、これはもしやすると――
「ウツギ博士に見込まれている二人だ。これを託しても問題はないじゃろう」
「……これは何ですか? オーキド博士」
俺が絶句している中、コトネさんが何気ない顔でオーキド博士に聞く。
「これはポケモン図鑑というものじゃ。現在このジョウトにいるとされるポケモンを確認すると、データになって表示されるというものでのう……」
「すごーい!」
コトネさんが驚いたような声を出す。
そしてポケモン図鑑は俺としてもうれしいですよ。ポケモンの生息地とか確認できるしね。
「これを二人に預ける。いわば、この図鑑は儂からのお願いじゃ。ジョウトで見られるポケモンを、この図鑑の中にデータとして集めていって欲しい」
「任せてください! 私、一生懸命頑張ります」
「右に同じです」
頑張らせてもらいますよー! ポケモン図鑑を半ばもらってるんですから! やりますよ俺!
俺たちの意気込みを聞いて、そうかそうかとオーキド博士は微笑んだ。
「ジョージ、儂はこれでお暇させてもらおう」
「ああ! また来てくれ!」
テンション高いポケモンおじさん、ジョージさんにそういうと、続いてオーキド博士は俺たちの方に向く。
右ポケットに手を突っ込んで、ポケギアを取り出した。
「電話番号を教えてもらえるかの? 不定期でもいいから、報告してもらいたいんじゃ」
「もちろんです! 私、オーキド博士と番号交換できるなんて光栄です!」
コトネさんがハキハキ喋って、赤外線を使ってオーキド博士と交換するのを見て、俺はふと気づいたんだ。
ああ。これは俺の面目を保つのにも重要なことだ。何しろ大人びていると言われてる俺だから、印象は守らなければ。
――――と、ところで、赤外線ってどのボタン押せば……。
第九話でした。
途中まで組み立てたプロットが上手く回らなくなったので修正していたら、次話投稿に少し時間がかかってしまいました。
次の話も少し遅めになるかもしれませんが、よろしくお願いします。
では次話でまた。