ポケモンと嫁と地方の果て   作:南方

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第十話:VS赤毛

 結局コトネさんに訊く羽目となりましたけど何か?

 元々機械音痴なんですよ。パソコンなんて実は満足に使えないから使わなかっただけですよ。

 君にも出来ないことあるのね、とコトネさんに言われて笑われてしまった。まあいいんだ、これは元からだし。

 そんなわけで、ポケモンおじさんの所で用事を済ませた後、俺たちはのんびり三〇番道路を南下してしたのだが――

 

『た、大変なんだ! とにかく大変だから早く帰ってきて!』

 

 という電話をウツギ博士から貰った俺たちは、現在急いでヨシノまで走っている。

 なるべく草むらを通らず、なおかつ段差を乗り越えることで行きより短距離で済むルートがあるので、俺たちはそこを通ってヨシノまで帰ることにした。

 イーブイは流石に何時間も走らせるわけにはいかないので、ボールで待機してもらっている。

 ランニングシューズによる走る事への負担軽減、ポケモンとの遭遇なし、短距離。この三つの条件のおかげで半日もかからずヨシノまで帰れた。

 現在、午後七時前。夕陽も山の向こうへと消え、空が朱色から常闇へとその色を変化させていっている。

 

「とりあえず、ポケモンセンターまで行って、早く公衆電話で研究所に電話しましょ!」

「そうだな……」

 

 あれからウツギ博士へ何度も連絡を取ろうとしたのだが、結果は不可。電話に応じてくれることはなかった。

 父さんに連絡、と思ったのだが、どういうわけか父への連絡先が登録されていなかった。

 ポケギアは登録した相手同士じゃないと連絡出来ない。なので父との連絡は外では無理だと判断し、急いで街まで帰ってきたのだ。

 ポケモンセンターについている公衆電話は従来の電話と同じ。要するに、電話番号を入れて電話をかける仕様だ。電話帳も近くにあるのをこの前ポケセンを行った時に確認しているので、それで研究所まで連絡を取れば完璧、というわけだ。

 ちなみに家に帰らない理由は、ただでさえ旅を許してもらっている訳ではないのに、それでいて女の子を連れて帰った時の母の反応が怖いからである。

 スリルは好きだが、リスクは避けたい。それが俺。

 

「でも本当に何があったのかな……気になって仕方がない!」

 

 コトネさんは何だか目を輝かせてそう言ってくる。ちなみに連絡があって既にこの発言を五回もしている。

 でも実際、何があったのかは俺は大体予想がついている。

 ゲームでもあった、御三家盗難事件。あの時は二体の内、運よく主人公の弱点となるポケモンを奪うのだが、今回においては一匹しか余りがおらず――

 

「ん……?」

「あっ、いた」

 

 思わず「いた」と呟いてしまった俺をコトネさんが凝視してくるが、とりあえず無視。

 俺は何も知らない。そういう設定にしとかないと、俺と犯人が結託しているように思われてしまう。

 んで何が居たのかというと、一人の少年である。ポケモンセンターの近くに一人、真っ赤な髪色をした少年が突っ立っていた。

 ぼうっと空を見上げているが、どうやら感傷に浸っているように見える。

 

「あいつ、研究所の近くにいませんでしたか?」

「そうそう、居たの! 窓から研究所の中覗いてたんだよね。んで話しかけたら、あっちいってろって蹴られそうになって……ホント、嫌になっちゃうわ」

「……俺の勘なんですが、アイツがウツギ博士の一件に絡んでいるように思うんです」

 

 ここで俺が遠回しにコトネさんに一言。

 俺は出会ってないが、後から来たコトネさんは見事に遭遇していたようだ。

 

「その可能性は否めないわね。……ちょっと接触(コンタクト)してみよっか」

 

 まるで無邪気な子供のように笑んで、コトネさんは意気揚々と赤髪少年へと近づいて行った。

 大方何も考えてはいないと思われる。

 

「ねぇ、貴方!」

「…………何だよお前……って、確か研究所で」

「そう。数日前に一度、研究所前でお会いしましたよね?」

 

 コトネさんは怖じ気づくことなく赤毛少年へと言葉を放つ。

 歳は多分、俺より一つか二つ上ぐらい。身長はコトネさんと同じぐらいで、黒い服に色あせた紺色のズボンという暗めなコーディネート。

 

「それで、研究所ずっと覗いていたでしょ? あの後ウツギ博士から大変なことが起こったって聞いたんだけど……」

「……ッチ、それでオレを追いかけて来たってか」

 

 別に追いかけてはないんですけどね。

 たまたま行き先の違う俺たちと会って、それで俺たちがたまたまウツギ博士の知り合いだった、というだけのこと。

 だけどなんかもう、ここまで偶然重なると必然だよな。

 そんなことを思っていると、赤毛少年がコトネさんと一緒に俺の方も覗いてきていた。

 

「そういえばお前ら、あそこでポケモン貰ってたよな。お前らみたいなよわっちい奴らに貰われて、ポケモンもかわいそうだぜ」

「なっ……なんですってぇ!?」

「はいはい、コトネさん落ち着いて」

 

 怒り心頭に発しそうになったコトネさんを落ち着かせるよう、彼女の肩をポンポンと叩く。

 その瞬間、何だかすごい勢いで振り返ったコトネさん。

 ……そしてちょっと驚いた。だっていつも笑顔でいる彼女が、本当に悲しそうな瞳を浮かべていたのだから。

 

「だって! 私たちのせいでポケモンがかわいそうって……そんなこと言われたら、私……っ」

「大丈夫だよ。つい数時間前に、オーキド博士にトレーナーに向いてるって、言われたばっかりじゃん。あの赤毛野郎とオーキド博士、どっちの言葉の方が信憑性ある?」

「…………オーキド博士」

「そういうこと」

 

 俺より十センチ以上も背の高いコトネさんの頭をポンと軽くたたいて、俺は赤毛少年の元へと近づく。

 

「さて、さっきの言葉を撤回させてもらおうかな」

「……ッチ、お前には俺の言葉の意味がわかんねェのか?」

「お前よりはよっぽどマシなトレーナーだど自負してるからな。そんな奴の言葉なんか真に受けないさ」

「面白れェ……」

 

 赤毛少年はそう言うと、懐から小さくしているモンスターボールを取り出した。

 真ん中のボタンを押してソフトボールぐらいの大きさにすると、それを自身の前へと放り投げる。

 眩い光が放たれたのち、ボールから出てきたのは言わずもがな。

 

「ヒノアラシか」

「お前の持ってる奴が一番マシそうだったが、コイツはコイツで楽しい奴だぜ?」

 

 ビクビクしているヒノアラシ。それでも俺たちに向けた敵意を赤毛に向けることはない。

 なんだかんだで懐柔されているか、ただアイツが恐ろしいが故に反抗出来ないのか。

 どちらかは分からないが、相手はヒノアラシだ。このあたりの野生のポケモンとは相手にならないぐらいに強いだろう。

 

「いくぜ、イーブイ」

 

 腰のベルトに留めていたモンスターボールを取り外し、大きくしたのちに前方へ放り投げる。

 パカンと開くと、そこから俺の嫁、ココロが元気よく登場した。

 ワニノコの水鉄砲で一撃なのは確定だが、ここらではもう戦う相手がなかなかいないココロにとって、この御三家との対戦はかなり有意義なものだと感じたのだ。

 要するに、ココロの戦闘経験を積ませるのに十分な相手になると思ったわけ。

 

「……フン、雑魚そうな奴だ」

「そう言っていられるのも今の内だぞ。てか、張っ倒す」

「ブ~イ!」

 

 雑魚そう、と言われてこちらもすっかりやる気スイッチの入っちゃったココロは、目の前にいるヒノアラシをじっと見つめる。

 その視線に大きくビクッと体を震わせて一歩引き下がるが、それでも後ろにいる赤毛少年のプレッシャーがあるのが、逃げる事なくココロに対峙する。

 ああ、本当にかわいそうだ。早めに決着をつけることにしよう。

 

「先手必勝だヒノアラシ! 体当たり!」

「突っ込んでくる相手に砂かけだココロ」

 

 街中ではあるが、ヨシノシティはコンクリで道路整備されてないので、砂を巻き上げることは出来る。

 イーブイの砂かけは見事に命中。ヒノアラシの細い眼元が若干また細くなった。

 だが体当たりの軌道は変わらず、通り抜けざまにココロにぶつかるヒノアラシ。

 ココロはぐらっとよろめいたが、すぐにまた戦闘態勢に入る。まだまだ大丈夫そうだ。

 

「もう一回砂かけ!」

「っは! お前のポケモンは砂をかけるしか能がないのか?」

 

 砂かけをしているイーブイを鼻にかける赤毛少年。

 しかしその余裕がいつまで続くだろうか。なかなかに気になっていく。

 

「ヒノアラシ、もう一度体当たりで勝負を決めてやれ!」

「イーブイ、ラストもっかい砂掛けだ」

 

 突っ込んでくるヒノアラシに怯えることなく砂をかけるココロ。

 そして三度目の砂かけを食らったヒノアラシに、次の瞬間、ある異変が起こった。

 目をさらに細めてヒノアラシは体当たりを続行するが、その際に軌道がイーブイの横に変わる。

 指示がなくても、それぐらいなら避けれると言わんばかりに反対へと飛び退くココロ。

 

「なっ……! ヒノアラシ、もう一度だ!」

「相手をよく見つつ回避した後に体当たり」

「ブイ!」

 

 ヒノアラシは体当たりを決行するが、動きはのろく、そして精度も欠けている。

 難なくヒノアラシをやり過ごしたココロは、通り過ぎていくヒノアラシの後方から突撃する――!

 

「ヒノッ……!」 

「くっそ! ヒノアラシ、火をまき散らせ!」

 

 吹き飛ばされたヒノアラシを見て、ごり押しが通じなくなったのが分かったのだろう。

 赤毛少年は焦ったように指示を出すが、それじゃ俺とココロは倒せないぜ!

 

「ココロ、大丈夫だ。だから突っ込んでこい!」

「ブイブ~イ!!」

 

 一見、炎を巻き上げて佇むヒノアラシに近づくのは危なげだが、攻撃技としてみればあれはまだまだ甘い。

 要点に一撃を絞っちゃいない火など、ロケット花火あてられるよりも熱くない……はず。

 まあ普通に火の粉を直接当てられるよりは、ダメージ低いだろうよ。周りに炎撒いてるだけで逃げてくれるのは、野生のポケモンぐらい。

 でも俺たちは違うぜ。ココロは俺を信頼してくれてるからな。

 

「……ッ!!」

 

 一直線に突っ込んでいくココロ。炎に入っても怯えることなく、そして真正面にヒノアラシを据え、体の側面で突っ込む!

 ぶつかったヒノアラシは軽く飛ばされ、炎を中断させる。

 

「ヒ、ヒノ~……」

 

 ヒノアラシは小さく声を漏らすと、その場に倒れて目を回した。

 その様子を見て、驚愕の表情を見せる赤毛少年。まあ見るからに雑魚そうだと思っていた――これには結構イラっときた――イーブイことココロに、大敗と言わざるを得ないほどぼろ負けにされたのだから、言うまでもないだろう。

 

「……ッチ、使えねェ奴だ」

 

 そう言うと赤毛少年はヒノアラシをボールに戻した。

 ポケットに手を突っ込んで何かを放り投げる。よく見ると五百円玉――つまりお金だ。

 ポケモン勝負に負けた相手は、相手に賞金を支払うことが当たり前、という風潮になっていると父さんから聞いた。対戦してくれた感謝を敗者が勝者に形として贈ることが、ここ数年になって形になってきたらしい。

 金額は個人によって様々。戦うことで何かを得られたら金額を多めに払ってもいいし、お金を持ってなかったら、まあ百円ぐらいでもいい。

 

「さて、前言撤回してもらおうかな」

「フン……悪かったな、ソイツ馬鹿にして」

「……お、おう」

 

 あれ、そっちの訂正求めてたわけじゃないんですけどね? 

 まあこっちも直して欲しかった――というか、むしろ俺にとってはこっちの方を直して欲しくなってたので良かったかな。

 コトネさんは俺が赤毛少年を倒していい気分になってるようだ。すごくニヤついている。大変不適な笑みですね、それ。

 その様子を見て、唾を吐き捨てた少年は、静かに立ち去ろうとする。

 

 ――が、俺は空気を読まない。

 

「おい、落としてるぞ」

「えっ……?」

 

 俺が放り投げたのは、赤毛少年のトレーナーズカード。

 お金をかっこよく投げた際に、ポケットからぽろっと落ちてました。ぷぷぷ。

 

「オレの名前、見たのか?」

「さあ、分かんないな」

 

 俺の言葉を聞くと、再び鼻を吹かして赤毛少年は走り去って行った。多分相当恥ずかしかったのだと思われる。

 まあ、実際アイツの名前見ちゃったけどね。一応、犯人のことウツギ博士に言わないといけないわけだし。

 赤毛少年が闇の中に消えていくのを確認する。

 ……と、気付けば後ろにいたコトネさんが俺とココロの方に駆け寄ってきていた。

 

「ジュンイチ君、すごかったね! ココロちゃんもすごく頼もしかった!」

「ほとんどココロのおかげだよ。よく俺を信じてあの炎に突っ込んでくれたな」

「ブイブイ!」

 

 俺の言葉に嬉しそうに反応するココロ。

 約半日ぶりにみるその笑顔に、思わず抱き着いてべったりしたくなる。

 しかしコトネさんがいる手前、あまり変なことは出来ないな!

 

「それで、あの子の名前は?」

 

 目を輝かせて聞いてくるコトネさん。この人、謎とか異変とか、そういうの本当に好きなんですね。

 まあ俺も嫌いか好きかと言われちゃ、好きな方だけど。

 とりあえず、質問に答えときますか。

 

「アイツの名前は――――」

 

 

 

 

 




いつもの二倍の量になった十話でした。

文章があっさりしてる感が否めないです。筆が進まなかったのも頷ける感じになっちゃってます。
誤字脱字あったらご報告を!

では次話でまた。

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