「――――という名前ですか。ご協力、ありがとうございました」
「いえいえ。お仕事頑張ってください」
翌日も走ってウツギ博士の研究所に戻った俺とコトネさんは、再び現場検証に来ていたおまわりさん――刑事はいないのだろうか――に犯人の情報を教える。
と、いっても俺たちに見つかっているのが分かっているあの赤毛少年は、警察の追っ手から無事に逃げ延びていることだろう。
何しろ、あのロケット団のボスであるサカキの息子だ。未だに姿を晦ましているあの男の息子であるならば、人目を掻い潜る訓練みたいなことをやらされていてもおかしくはない。
……あれ、ていうかあの少年って誘拐されてた設定だっけ?
よく分かんなくなってきた。
「いやぁ、しかしまさか君たちが犯人に遭遇していたとはね」
おまわりさんが帰った後、ウツギ博士は驚きを交えて俺たちに話しかけてくる。
「たまたまですよ。コトネさんが気づいてなかったら見過ごしていたかもしれませんし」
「えー……そうかなぁ」
まんざらでもない様子でコトネさんは照れたようにそう言った。まあ俺は一度も見たことない設定でしたし、コトネさんが気づかなかったら迷宮入りでしたね。
といっても気付いたりして誘導したのは俺なんだけどね。まあ下手に俺が介入した風に言わなくても、別に構わないでしょう。
しかし問題は、どうやってあの高い機械をこじ開けたのか。
ウツギ博士が言うには、厳重なプロテクトを施してあって簡単には開けられないものだという。
夕食を食べるために二階の我が家に三十分程度帰っただけで、忽然と厳重に保護していたポケモンの入ったボールがなくなったのだから、そりゃ驚いたことだろう。
あ、俺の父さんも一緒に夕ご飯を御馳走になったそうで。
結構ウツギ博士の奥さんのご飯は美味しいらしい。
「まあこの一件は警察に任せるとして、預かってきた卵を見せてくれないかな?」
「あ、はい! これなんですけど……」
鞄に卵を入れていたコトネさんはさっと取り出して、ウツギ博士に手渡す。
卵を覗くウツギ博士は描かれた三角やら四角やらのイラストに顔を難しそうに顰め、それを眺めつつ俺たちに問いかけてくる。
「別に落書きしたわけじゃないんだよね?」
「元からそんな感じでした! ……そんなこと疑うなんて、ウツギ博士ちょっとひどいです!」
「あはは、悪いね。こういう職分、疑ってかかることが重要だからね」
申し訳なさそうに苦笑しつつウツギ博士はそういった。
自分の疑問を研究する。それが癖になっちゃってる博士は、最初は疑いかかるのが性分になっているのだろう。
「うーん、見たことない卵だなぁ。普通はもうちょっと色素の薄い紋様が出るんだけど」
「やっぱりこれ、変わった卵なんですね」
初めて卵を見てコトネさんも、貰ったものが少し変わっていると思っていたようだ。
そこから数十秒ほど黙りこくって卵を凝視していたウツギ博士、何かを思いついたようにコトネさんに言葉を放った。
「……コトネちゃん。よかったら、この卵育ててみないかい?」
「えっ!? いいんですか!?」
「うん。調べようにも、卵が羽化する時期が分からないし、まだまだ調べたいことはたくさんあるからね。それとこれもオーキド博士が言ってたんだけど、卵は同じ場所にとどめておくより定期的に動かした方が生まれやすいらしいんだ」
ウツギ博士はそう言うと、俺の方に向いてくる。
「この卵はコトネちゃんに預けちゃうけど、ジュンイチ君もそれでいいかな?」
「はい。あらかじめ、こうなった時はコトネさんに譲るって約束してましたから」
「ジュンイチ君、ウツギ博士の行動を読んでたみたい」
「はははっ。こりゃ一本取られたようだ」
コトネさんの言葉に思わず笑ってしまっているウツギ博士を見て、こちらも自然と笑みが浮かぶ。
ウツギ博士は言ってはないけど、またポケモンをとられる恐れがあるから、コトネさんに預けたようにも考えられる。
これほど珍しい卵、またいつ盗難にあってもおかしくはないと思っているのかもしれない。
何しろ、厳重警備していたヒノアラシをいともたやすく奪われちゃったのだから。
「それはそうと、これから君たちはどうするの?」
「とりあえず、俺はさっそくこれからキキョウシティに行きたいと思います」
「私はちょっと家で休んでから、旅に出ようかなって思ってます。……あ、それとウツギ博士。チコリータを持ち歩くのはちょっと無理を感じたので、この卵から生まれた子を持ち歩くようにしていいですか?」
「ああ、構わないよ。あの子の扱いは難しいと思うからね。……それじゃあ二人とも、頑張ってね」
ウツギ博士はそう言うと、肩を回して「仕事始めるか」と小さくぼやいた。
*****
「それじゃあコトネさん。一週間近く行動を一緒にできて、楽しかったです」
「私の方こそ。いっぱい勉強させてもらっちゃった!」
「ブイブイ!」
ワカバタウンの入り口。夕日をバックに、俺とココロはコトネさんに見送りに来てもらっていた。
実はコトネさんから「一緒に旅をしない?」という言葉を貰っていたのだが、二人の目的が違う上に、あの時と同じように要らないことをしでかしてしまう可能性があると判断したため、丁重にお断りさせてもらうことになった。
残念がっていたコトネさんの表情を見た時は、フラグぽっきりやっちゃったなと自覚しましたよ。
まあ……しょうがないよね! 大丈夫、俺にはココロがいる。
「またどこかの町で会うかもしれないけど、その時はまた宜しくね」
軽くウィンクをして俺にそう言ってくるコトネさんは、本当に純真な乙女に見えちゃって。
数秒ほど見とれていたが、ココロが俺のズボンを不機嫌そうに引っ張ってきたのですぐに振り払った。
「こちらこそよろしく」
「……あ、それと。昨日はありがとうねジュンイチ君。私、何歳も年上なのに大人げなくて。年下の子に慰めてもらっちゃって」
「ああいった奴らに絡まれたことがあるんで、慣れてただけだよ。……でもまあ、これは貸し一つということで。何かあったら頼りにさせてもらうから、それでチャラってことでお願いします」
「……ふふ。ジュンイチ君って、本当に年下に見えないなぁ。何歳も上の人と喋ってる気分」
「子供だからって気遣いする必要がなくて便利だろ?」
「それもそうね」
あはは、と二人で笑いあう。
数秒経つと沈黙が続いて訪れた。何秒か視線を合わせて、俺はくるっと背中を向けた。
「それじゃまた会いましょう、コトネさん」
「うん。またね」
「ブ~イ!」
コトネさんの方に俺は手を振り、ココロは尻尾を振る
それを見てコトネさんも、控えめに手を振って俺たちを見送ってくれた。
――さてと。
それじゃあ、今から本当の旅を始めるとしますかな。
コトネさんと別れた十一話でした。
それとお知らせなのですが、少しこのポケモンと嫁と地方の果ての更新が遅れがちになると先にご報告いたします。
というのも、実は「小説家になろう」にてもう一つ書いている作品があるのですが、そちらの方の更新も急がねばならず……。
既にあっちは二か月も休んでいるので、そろそろ動かないとな、ということであちらの書きとめの方に時間を割くことになると思います。
ですからこちらの作品の更新が一週間に一度か二度ほどになりますので、ご了承のほど宜しくお願いします。
落ち着けばこちらの作品の更新ペースをあげていきますので。
ではでは、失礼します。