ポケモンと嫁と地方の果て   作:南方

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第十三話:キキョウシティ

「さて、ようやくたどり着いたな……」

「ブイ……」

 

 あれから急いで道を上がり、ちょくちょく勝負を振っかけてくる虫取り野郎たちと勝負を繰り広げ、ようやくキキョウシティにたどり着いた俺とイーブイ。

 街並みはなんていうか……京都っぽい。しかし考えてみると、より京都っぽい町はここより上にあるエンジュシティのはずだ。

 だからここは……奈良? いや、小京都って考えると山口?

 俺はそこで思考を止めた。考えるのもばかばかしい。

 

「とりあえず、ポケモンセンターで飯でも食うか」

「ブイ! ブイブイ!」

 

 あまり道中ではいいものを食べさしてやることが出来なかったが、ポケモンセンターは国の補助を受けてトレーナーに無償で食料、寝床を提供してくれている。

 そのためにはトレーナーズカードの提示が必要なのだが、無論俺は持っているので関係ない。

 イーブイのココロも俺の意見に賛成してくれている。

 クロルは普段クールなキャラだが、美味しい飯が食えることに悪く思うことはないだろう。

 なんていうか、アイツはクーデレキャラだと思うんだ。

 まだ懐いてないけど、いつか無言で俺の横に歩いてきてぴったり抱き着いてくる ――そんな日が来たらなぁ。

 

「ブ~イ~!」

 

 ちょっとだけ思考に思いを寄せていると、拗ねたようにイーブイがズボンのすそを引っ張って声を出した。

 自分以外を想像していたことを認知したのか、はたまた早く飯が食いたいのか、どちらかは分からないが、ここで突っ立って考えるよりはポケモンセンターに行く方が良いだろう。

 ごめんごめんと頭を撫でた後、ポケモンセンターを探しに街を歩きはじめた。

 ちょうど昼時。バイキング形式のポケセン料理。

 何が出るのか期待しましょうぞ。

 

 

 

*****

 

 

 

 俺の大好きなから揚げさん来ましたよ。そりゃ食べましたよたらふく。

 そんなわけで美味しい食事を三人(?)で摂った後、俺たちはこの街でかなり目立っている建造物――マタツボミの塔を訪れていた。

 ここの屋上にいる偉い坊さんを倒すと、確か技マシンが貰えた……はず。

 どうだったっけ? なんにももらえなかったっけ?

 まあココロの経験値溜めるには十分だろう。

 街に着いた時は昼過ぎだったが、ポケセンでぐーたらしてたらいつの間にか夕方になってしまっていた。

 坊さんたちは日夜修行しているらしいから、こうして暗い時間にこの塔に訪れることが出来ているわけだが……。

 

「暗すぎワロタ」

「ブイ……?」

 

 俺の零した言葉に、不思議そうにココロが首を傾げる。

 いや、ここフラッシュいるだろ。絶対いるだろ。明りがそこら辺に光ってる蝋燭モドキとか……。

 モドキっていうのは、蝋燭の形をしているだけの電気の通ったオブジェみたいなやつって意味。

 しかし明るさも蝋燭並みにしなくても。

 ああ、そういえばフラッシュ貰えるのかここ。そりゃこんだけ暗いんですもの。いりますよね明り。

 と、そんな事を考えながら歩いていた。

 

 ――――その時、がさっと後方で何かが動いた音がした。

 ――――いや。 な に か が う ご い た。

 

「ヒィイィッ!!」

 

 なんだこれ! なんだこれ!? 下手なお化け屋敷よりこえええええ!

 明るいときに出直してくりゃ良かった! ていうか、窓が無さすぎなんだよ! 外からの明りシャットアウトしてんじゃねぇえええ!

 しかしココロ。お前何平然と「どうしたの?」的な目で見てきてるの? 一人騒いでる俺恥ずかしいじゃないか。

 怖くないの? と思ったのだが、そういえば元は野生の生物であったことを思いだした。

 あの仄暗い鬱蒼とした周囲の中で生活してきた、俺とは一線を画した存在なのだ。

 そりゃこんな場所、恐れるにも値しないのだろう。

 

「……ん? 待てよ?」

 

 俺はここで気付いてしまった。

 野性の本能が備わっているココロたんだ。脅威(例えば悪霊とか)が近づいてたら威嚇したり何かしろの反応を返すに決まっている。

 しかし今ここにいるココロたんは、キョトン顔をした美少女(だと人間なら思われる容姿)だ。

 つまりこっちから近づいても、特に恐れることなどない。

 はっはっは! 俺を驚かせた報いを受けるがいい……。

 おおよそあくどい笑みを浮かべているだろう俺は、先ほど物音のした柱の裏に近づく。

 なんだか微笑ましくココロに眺められているような気がするが、そんなことは気にしない。俺は俺を貫く――!

 そんなわけで柱の裏をそぉーっと覗く。

 

 ――――泣きそうな顔をしている般若が居た。

 

「ぎゃああああああああ!!」

「ゴォォオオォオオオオ!?」

 

 おいおいおい! こんなもの見過ごしていたのかよココロ!

 危惧すべき対象じゃねーのかよ! どう見たって恐ろしい化け物じゃんよ!

 びくびくしながらソイツと睨めっこしていると、あることにふと気が付いた。

 ……コイツも俺と同じ境遇なんじゃね? と。

 なんだかふわふわしているガス状の紫色の般若。しかし顔はビビりすぎて――いやそれでもやっぱり怖い。

 しかし何だか小動物のような可愛さが、おかしなことにコイツにはあった。

 

「……なぁ」

「…………ゴォ?」

 

 震えている目の前のコイツは――ゴースだった。

 お前って驚かせる立場じゃねーの? 何で驚いちゃってるのよ。それに驚くじゃん。

 しかし、だ。

 

「……良かったら、俺と旅しないか?」

「…………ゴォ?」

 

 疑問符が浮かんでいるだろう返答が、同じように返ってきた。

 いやいやいや! こんな面白い逸材、放っておけるか!

 幽霊ビビりっ子だよ。これ一種の萌え要素。顔なんて関係ない。むしろ成長すれば可愛くなるよ!

 なんとしても仲間にしてみせる――そんな思いが俺の胸の中に芽生えた。

 俺の巧みな話術で、仲間に引っ張りこんでやるぜ!

 

「お前、いつもそうやってビクビクしてるんじゃないのか? 人に対しても――他のポケモンに対してもだ」

「ゴォ……」

 

 若干震えながら、コクリと首を縦に振って肯定するゴース。

 ふっふっふ。そんなことだろうと思ったぜ。

 人間だけビビるってのは、人と過ごすことで初めて芽生える感情が多いように思えるからな。人と付き合いのない野性のポケモンでは、なかなかない例だろう。

 ということはコイツの本質がビビりだってことになる。若干あのヒノアラシと同じような部分を感じたしな。

 しかしこういった奴は、逆境にとんでもない力を出してくれるものだ。草食動物が肉食動物を返り討ちにするようなやつ。あれね。

 旅でも良い戦力になってくれるようにも思える。物理ならクロル。なら特殊なら、となるとこのゴースたん使えますよ!

 

「お前はそんな自分を変えたくないか……? より強い自分が欲しくないか……?」

「……」

 

 何だかいけそうな気がしてきた。あと一歩だ!

 

「俺と一緒になれば、ここにいる奴らどころか、もっと強い奴らに勝てるようになる。そしたら今みたいに、ビビることなんてしなくてもよくなるんだ」

「ゴォ……!」

 

 フィィイイッシュ! 喰い付いた!

 ゴースの目が輝かしく光る。その反応を待っていたのだよ俺は。

 内心であざ笑う。その様子に気付いているのか、何だか困ったように見てくるココロ。

 でも何にも言わないでくれるんだよね。本当にいい子です。

 

「よし、試しに他の奴ら倒しに行こうぜ!」

「……ゴォォオオ!?」

 

 俺の提案に、驚いたようにゴースは声を張り上げた。

 何事も実証してみないと信じないよね。

 

 

 

 




はい、お久しぶりです。
ちょいちょい更新していきます^^

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