ポケモンと嫁と地方の果て   作:南方

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第十四話:キキョウシティ②

 ゴースを引き連れてマタツボミの塔を登る。

 途中坊さんたちと出会ったが、ゴースは一瞬で隠れてしまい、ココロが彼らのマタツボミと戦闘して勝つとまた出てくる、ということを何回も繰り返していた。

 本当にコイツ大丈夫なんだろうかと思いつつも、塔を登ること二十分ぐらい。

 

「さて、あそこにお前と同類のポケモン、ゴースがいるな」

「ゴォォ…………」

 

 いや、せっかく同類とエンカウントしたのに、直後に俺の後ろに隠れるとか。

 ビビりすぎだろ。まあ、そこがいいんだけどな。

 でもでも、少しぐらいは見栄張るぐらいの頑張りを見せて欲しいね。

 俺はゴースの体(といってもガス状だから貫通)をさわさわするように手を突っ込んだ。

 その直後、何かを感じたのか大きな声を出して目の前にいたゴースに突っ込んでいったビビりゴース。

 

 ――――今、戦闘の火蓋が切って落とされたのだ!

 

「GoOOooOoos……」

「ゴォォォオオォォ!?」

 

 既に威嚇で負けてますやん。半狂乱ですやん。

 ていうか後ずさりしない。俺の顔にその体を覆うガスを近づけない。一応有毒なんだからなそれ。

 その後を見守るものの、どういう訳かこう着状態に入った。にらみ合いが続き、片や殺気を迸らせ、片や後ろからでもわかるぐらいに震えている。

 展開が進まない。しかしずっとこのままこう着させるのも、なかなか酷というものだ。

 ……そうだな。こういう時はこの子の出番!

 

「ココロ。アイツの援護するぞ」

「ブイブイ!」

 

 俺の言葉に大きく反応し、ココロが震えているゴースの隣に躍り出た。

 イーブイのココロが現在覚えている技は基本ノーマルタイプのもの。

 そしてお得意の砂かけは、ここが塔であるので使えないし、まず相手の特性が浮遊。浮いている相手に地面タイプの技を当てるのはある場面を除いて不可能だ。

 しかしここでココロを出す理由。それは――――

 

「出来るだけ気を引いとけ。大丈夫、アイツの攻撃はお前には通らないから」

「ブ~イ!」

 

 そうしてココロは鳴き声を出したり、時には近づいたりしてゴースを煽る。

 睨み合っていたゴースは意識をココロに移し、すぐさま攻撃を開始する。

 と、いっても現段階での奴の主戦力は『したでなめる』の一択。『さいみんじゅつ』もあるが、命中率は低いし、当たって寝たとしてもダメージを喰らわせる技は一切ない。

 つまりノーマルタイプの攻撃が相手に喰らわない代わりに、相手の攻撃もまたココロには通用しない!

 さて、ここで問題だ。ココロのかく乱に気が向いているゴースさんに対し、ビビりゴースさんが『したでなめる』とどうなるでしょう?

 

「よしゴース。後ろからアイツ舐めて攻撃だ」

「ゴォォオオオ!?」

「卑怯じゃないの!? なんてことはない。誰が野性の戦闘で一対一の戦いが正当だと決めつけた?」

 

 それは正式なポケモン勝負。ジムとかトレーナー同士との正々堂々としたルールにのっとったバトルの時な。

 野性の戦闘にルールなど、無いに決まってるじゃないか。

 元よりココロは、野生のポケモンに奇襲させて経験値を得るスタイルだ。つまり最初っから野性の戦闘じゃ俺はちゃんとした行動をとってなんかいない。

 

「ブイッ……!」

「……GOOooOoo」

 

 ココロがちょこちょこ動きまわる。敵のゴースはその動きに翻弄され、また元がガス状で細かい動きが出来ないのか、その場にとどまって動く気配はない。

 ビビりゴースにとっては、またとないチャンスである。

 

「さぁ行け。お前が成長するための糧なんだよ、アイツは」

「ゴ、ゴォオォォ……」

「何も心配することはない。ただアイツの後ろにこっそり近づいて、そっと舐めてやるだけだ。……言ってみれば、これはお前のためでもある。アイツを倒すことで、お前は自信を持つことが出来、そして一段と強くなれるはずだ」

 

 まるで悪魔のささやきだな、おい。否定はしないけど。むしろ全力で肯定するけど。

 しかしコイツを弄るの楽しすぎる。もう一種の娯楽じゃないのか?

 そしてもう一つ。この子を強迫観念に追い込むとどういった行動を起こすのか気になりすぎる。

 なかなかあと一歩が踏み出せないビビりゴース。しかし俺は、もうやめさせる気などさらさらなかった。

 最後まで徹底的にやらす。これは確定事項だ。

 

「ここで行かなきゃお前は一生日陰者だ。元から影なのに、より影になって存在すら分からなくなる、そんな薄汚い存在になるんだぞお前は。そうはなりたくないだろう? なら行くんだ。行くしかないんだよガス野郎。これは決して姑息なことじゃない。勇気を振り絞るために必要なことなんだ。だから――――さっさと突っ込めっ!!」

「ゴォオオォォ、ゥゥ……!」

 

 泣きながらビビりゴースちゃんは長く大きな舌を出して、目の前の敵に突っ込んでいった。

 

 

 

*****

 

 

 

 あれから若干錯乱状態となったゴースは、ぽろぽろ出て来るゴースを見境なく攻撃し、新しく覚えたナイトヘッドを打ち込んで二十六体目の同士を打ち倒してから、ようやく意識を取り戻した。

 周囲に残るはゴースのようなもの。今ではただの黒い霧と化している。

 そんな惨劇を目の当たりにし、そしてそれが自分の行為によるものだと認識したビビりゴースは、再びおいおいと泣き出してしまった。

 ……しっかし、こりゃ予想以上だぜ。多分今ここにいるゴースの過半数以上をガスに戻したんじゃね?

 まあゴースって、序盤はノーマルタイプ多いからレベル上げ難しんだよな……。

 なら結果良しだろう。

 

「ゴース……お前はよくやったよ。お前はそこら辺の有象無象より強いってことが、今を以って照明されたじゃないか。それだけで十分じゃないか?」

「ゴォォォ……」

 

 でもねぇ……みたいな感じに、何か許しを乞うているようなビビりゴースの姿に、何故か胸キュンした。

 顔はあれだけど、やっぱりコイツ天性の才能の持ち主だと思う。

 

「ゴース――いや、ビビ。お前の名前はビビだ。よく覚えておけ」

「ゴォ!?」

 

 突然名前を名づけられてびっくりした様子のゴース、もといビビ。

 もちろんビビりゴースからのビビですよ。可愛い名前だし、ビビりゴースよりは断然いいと思うんだ。

 まあそれは置いて於くとして。

 落ち込んでいるこの子を励ましてやろうじゃないか。

 

「ビビ。あれがお前の隠された力なんだ。俺はお前と出会った時にそれを一瞬で見破った。そしてお前は十分に俺の期待に応えてくれた。言ってみれば、お前と俺とのコンビネーションは完璧だったんだ」

「……」

「俺ならば、お前の力を十二分に発揮してやることが出来る。そしてお前をより高みに連れて行ってやることが出来る」

 

 無論、嘘八百ですよ。ただ面白さ追求で君に一目ぼれしました。

 そうしてじっとビビの大きな瞳を見つめていると、照れくさそうにぷいっと不意に眼を逸らす。

 ……お前、その顔じゃなかったら危うく惚れてたよ。百点満点だぜその反応。

 恥ずかしがり屋で臆病だとか、なんて俺得な性格してんだよ。しかも弄れば面白いし、いいとこどりすぎるだろうが!

 仲間にするには性格も戦力としても合格点です。

 

「んじゃ決めてくれ。これからどうするのか、二択で選ばせてやる」

「ゴォォ……」

「俺の仲間になるか、俺のお遊び道具になるか――どっちだ!?」

「…………ゴォオオォオォオオオ!?」

 

 無事に仲間にすることが出来ました。

 ココロに呆れ顔で見られたのは言うまでもない。しかしその表情もまたいいのも、言うまでもなかった。

 

 

 

 

 




ゴースのビビが仲間になった!

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