「よぉしお前ら反省会するぞー」
「ワニ」
「ゴォ?」
「…………」
夜。少し気まずい夕食を摂った後、俺たちはある一室にいた。
ポケモンセンター内に存在する宿泊施設。大体が二人で共有するこの部屋だが、今日は人が少ないのか、俺だけの貸切状態になっていた。
そんな中、俺はポケモン達を外に出して、口頭に出した通り、今回のジム戦での反省会を行うことにした。
ジムではバトル後、すぐハヤトさんがバッジをくれた。それはポケモンリーグの派遣審判、シンジさんも確認してくれ、俺は正式にバッジ保有者となったのである。
……まあ、そんなことは今どうでもいいのだ。
「とりあえずクロル。お前今日百点満点。この調子で頼んだ」
「……ワニ」
恐縮です、とでも言わんばかりに、深々と礼をしてくるクロル。
そういう反応、実にお前っぽいと俺は思うよ。しかも似合ってるし、何だかすごくかっこいいです……。
ていうかむしろ、俺の方が悪かったんだけどね。クロルはむしろ俺怒っちゃってもいいんだけど。突貫してこいとか、なかなかに酷い指示だったよな。
しかしコイツ、多分そういった言葉は無視するんだろうなぁ……。
とりあえず、双方とも何も無しということで次にいこう。
「ビビ。お前も良かったぞ。ビビりながらもいい感じだったな。最後はお前で取ったようなもんだ」
「ゴ、ゴォオオオオ!」
私、感激です! みたいな感じで涙をぶわっと出しつつ近寄ってくるビビ。
っちょ、おまっ! 有毒ガス! お前有毒ガスだから体が! ゴーストになってきてからスキンシップとってよねっ!
嬉しいけどよ。だけど、今はとりあえずお預けしといてもらえる?
これからちょびっと暗い雰囲気になるかもしれないからさ。
とりあえずビビを遠ざけるために手のひらをヒラヒラすると、ビビがくすぐったそうにしながら部屋の端に移動した。
……そして今から、今回の反省会で一番重要な話し合いを始まる。
「んで、ココロ。お前は三〇点だ。今までのお前の行動の中で最低点だ」
「……ブイ」
いつもピクピクさせている大きな耳は垂れ、尻尾も全く動くことがない。目線は地面にずっと向けられたままで、しょんぼりしているのがよく分かる。
ただ今日のことを看破できるほど俺も人間出来ちゃいない。
「得点があるのは、ハネッコを倒す際に一応指示を聞いてくれてたところかな」
俺がそう言うと、シュンと耳をより深く垂れ下げるココロ。
まあこのまま終わらすことにはならないけどね。早めに切り上げようとは思うけど。
「悪い点の一つ目。まず怒りに呑まれて自分を見失った。今回、ハネッコに勝つことが出来たけど、同じように物事が上手くいくとは思うなよ」
「……」
「二つ目。お前は戻れという俺の指示を無視して強行突破しようとした。例えばだ。お前がさ、もしそんな行動を命の危険のある場面でするとしたら、俺たちの誰かが死ぬことになるかもしれない。まあ、確かに俺の指示がまともじゃない時があるかもな。だけど今回は違う。あれほど怒り狂っているお前よりは、冷静に物事を判断出来ていたと思ってる。それを無視した、その事実を俺は許せない」
「ブイ……」
しょんぼりしてるココロにさらに追い打ちをかける。
クロルもビビも俺のことを、少しだけ驚いたように見てきている。
まあ一番かわいがってるのがココロだ。その彼女をここまで言うのを、あまり想像してなかったのだろう。
しかし言っておかないと、また同じミスを繰り返す可能性は十分にある。これからいろんなところに行く上で、大切なことは守ってもらう必要がある。
甘やかすだけじゃないんだ。重要なこと、守りごと、そういった全てを理解させる必要もある。
「言っておくけど、これはクロルやビビにも言えることだ。……分かるな?」
「ワニ」
「ゴォオオオオオ!」
黙りこくっていた二匹にも、今言ったことの重要性を確認させる。
ビビはもうびっくりするぐらいに顔をブンブンと縦に振っていた。現在俺がやってるように、ネチネチ言葉で言い寄られるのが嫌なのだろう。
クロルもゆっくりと首を縦に振った。まあコイツは熱くなっても、かなり周りが見えてるからな。心配はあまりしなくていいかもしれない。
そうしてもう一度、ココロの方に振り向いた。
「ココロ。もうこんなことはしないって、誓えるか?」
「……ブイッ」
俺の言葉に、小さいながらも頼もしい声で答えたココロ。
顔も下ではなく、既に俺の顔を見ている。その表情からは真剣さが見て取れ、猛省はしっかり出来ているように思えた。
…………ふぅ。
――もう、いいよね?
「なら許す! もう俺は我慢の限界だ!」
「ブイ!?」
俺は抱きついた。もう物凄い勢いでココロをガシッと捕まえた。
だってさー。だってさー! ずっと落ち込んでいるし、俺だって怒ってますっていう示しを見せつけたかったんだもの!
いっつもならじゃれてる時間帯も何も出来てなかったし! ていうか今日、半日以上ココロと触れ合ってなかったし!
禁断症状でるっつーの。これがあと何時間か伸びてたら、俺は発狂していたに違いない。もうヤバかったよ禁断症状出るところだった。
俺の突然の行動にびっくりしたような声を張り上げたココロだったが、撫でられていく内になんだか瞳に涙が――ってぇ!
泣いちゃってるよ。やっぱ意地悪し過ぎたかなぁ……。
「ごめんなぁ、ココロぉ。でもさぁ、やっぱり言っておかないといけない場面があるからさぁ」
「ぶい……ぶい……!」
分かってるよ、みたいな感じに泣きじゃくるココロに、俺はもう何をすればいいか分からない。
だからとりあえず撫でる。頭を撫でまくる。
そんな様子をビビとクロルに呆れ顔で見られてしまった。さっきまでシリアス雰囲気だったのにね。いきなりこんなダメダメになっちゃってごめんなさい。でもさ、もう我慢の限界だったんだよ。許してちょんまげ。
「とりあえず、このままみんなで風呂入るぞ! 嫌とは言わせん! ……ビビは湯気と戯れような」
「ゴ、ゴォォオオオオオオ!?」
そ、それは無いですよご主人様!? みたいな感じに声を出すビビさん。
だって本当に無理じゃないですか。ていうかあなたが入ったらお風呂が有毒ガスを含んだ危ないものになっちゃうじゃありません? 無理なんですよ。
そしてこんなやり取りを、クロルは静かに見守り、ココロは少しだけ笑顔を取り戻してみていた。
やっぱり、今のような感じでいいのだ。
シリアスなんて時々でいいんだよ。こんな平凡が一番である。
とりあえず俺はココロを抱えつつ、風呂場に向かった。続いてクロル、最後に泣きそうな顔をしつつビビが後に続く。
キキョウシティに用はもうない。明日からは再び冒険の日々が始まる。
「今日は早めに寝て、疲れとるんだぞお前ら」
俺のそんな言葉に、みんなは素直に返事をしてくれた。うん、素直な子は嫌いじゃないぞ。