ポケモンと嫁と地方の果て   作:南方

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第二十二話:つながりの洞窟⑤

「ありがとうな。また逢おうぜ。ていうかお前も寝ぼけてないでさっさと起きろ」

「……うるせェ。…………またな、助かったぜ」

「ポワーン」

 

 ラプラスは嬉しそうに声をあげ、そうして湖の奥の方へと戻っていく。

 景色を眺め終わった俺は、ラプラスに感謝を伝えて下ろしてもらった。

 寝起きが異常に悪い赤毛を起こすのに一苦労したが、十分ぐらいでようやく現状にまで立て直すことに成功。

 目つきは元から悪いのだが、それが半眼となっているので余計に怖く感じる。

 

「とりあえずいくぞ。ぼやぼやしてたら置いていくからな」

「……それ、オレのカンテラ」

 

 寝ぼけていても分かることはあるのか。

 妙に感心しつつ、俺は赤毛の前をズンズンと進む。

 カンテラに照らされ、周りの石も若干青白く光っていた。先ほどもずっと見ていたが、いつまでも見ていたいぐらいに綺麗だ。

 

「……なあ、一ついいか?」

「なんだ? とりあえず、この道が外に出れるっていう確証はないことだけ、最初に言っておく」

「ちげェって……。オレはお前のことだから、あのポケモン捕まえるんじゃねェかと思っていたんだが。ほら、お前ああいうの好きそうだし」

「ああ。そのことか」

 

 確かにあのラプラスは個性的で、一緒にいて楽しい奴だった。

 鳴き声もあれはあれで愛嬌があるってもんだ。それに背中の乗り心地はマジで抜群で、人懐っぽく、なにより俺と趣味が合っていた。

 仲間にしたくないと否定する方が難しいであろう。

 それほど魅力的なポケモンであった。

 

「……ラプラスは、現状にとても満足していたからさ。無理にここを離れさせて、連れて行こうと思えなかっただけだ」

 

 あの幻想的な景色を見ていた時、ラプラスの表情は充実感に満ち溢れていた。

 俺なんかじゃ、あの表情はいつまで経っても作れっこない。

 そう思うぐらいにラプラスは満足していて。

 あんな顔を見て、俺と色んな所へ行こう、なんて誘うことなんか決して出来なかった。

 

「ただどっかでまた逢えるような気がするな」

「……どういうことだ?」

「そのままの意味だよ」

 

 俺と似通った嗜好の持ち主だ。またどこかをぶらぶらし始めたら、いずれ逢うことも出来るだろう。

 

「それはそうと歩けよ。足がもたついてんぞ」

「こっちは眠いの我慢してんだ。少しは大目に見ろ」

「喋る暇があったら歩けよ」

「お前が話振ってきたんじゃねェか!」

 

 ようやくコイツも本調子になってきたな、と思いつつ、歩みを進めた。

 

 

 

*****

 

 

 

 微かだが、洞窟内で風を感じることが出来たあたり、外へと続く道のりはそこまで長くないことは分かっていた。

 日はまだ登っていないが、微かに外が明るい。そんな中、俺たちはようやく外の空気を吸うことに成功した。

 出てきた場所はどこかの雑木林。雑草と辺りに覆い茂る木々を見るところ、正式なルートではないのは間違いなしだろう。

 ここまで来て、ようやく俺はポケギアを仕舞い込んでいた右胸ポケットから取り出した。

 元ポケモントレーナーである、ヨシノシティに住んでいたお節介なおじいさん。彼につけてもらったタウンマップ機能を使うのである。

 GPSである程度は自分の場所を把握できるため、どこに向かえばいいかこれで分かるだろう。

 ありがとう、案内じいさん。

 

「……お、位置的にはいい感じだな」

「何が?」

「いや、歩けばすぐアルフ遺跡があるところまで来てるんだ」

 

 あそこまで行けばキキョウシティまで帰るのも早いし、別段として問題なく洞窟前のポケモンセンターにたどり着くことも出来るだろう。

 ああ、本当に長かった。

 しみじみそう実感しつつ、俺はベルトに付属しているボール入れから、一つのボールを取り出す。

 瞬時に大きくし、そして目の前に放り投げた。

 今の俺の気持ちを、一言で表すというならば。

 ――この瞬間を待っていたんだー!

 

「ココロォォォオおおお!」

 

 洞窟内ですぐにでも出したかった。ラプラスの上で出そうかとも考えていた。

 でもこうなることが分かってたから、暴れちゃ悪いなって思ってやめておきました。

 ライトエフェクトを放ち、ボールから現れたココロ。その麗しい顔を見るのは二日ぶりぐらいだろうか。相変わらず可愛らし――あれ?

 

「……」

「ど、どうかしたか? ココロ?」

「…………ブイッ」

 

 ごめん、俺ちょっと衝撃的すぎてついていけない。

 ココロを出して駆け寄ってみたはいいものの、なぜか顔を背けられちゃってる俺。顔は不機嫌ですって、書いてないけど書いてあるような態度だ。

 いや、その表情も可愛いっちゃ可愛いんだけどね? 

 え? なんで? 俺なんでこんな感じに、明確に拒絶されちゃっているの?

 なかなか外に出さなかったから?

 いやでも、洞窟入る前にボールに仕舞うぜって提案したら、ちゃんと肯定してくれたし。

 誰かさんのせいで洞窟内にいる時間は長くなったけど、不可抗力じゃん。

 なのに! 何でだよココロォォォおおお!

 本気で泣いちゃいそうなんだけど、誰かハンカチ貸してくれるかな……。

 

「なに突然泣いてるんだジュンイチ。突拍子もない男だな、お前は」

「……え?」

 

 手を眼元に持ってくると、生ぬるい(しずく)が人差し指の側面に付着する。

 冗談で泣いちゃうよ? とか考えてた俺は、マジ泣きしてた。

 全然笑えないんだけど。ていうか情けない。軽く拒絶されたぐらいでなに泣いてるんだ俺。

 ていうか、どうしてそんなに怒ってるんだよココロちゃん!

 一向に止まる気配のない涙を拭きつつ、彼女の方を見つめる。

 少しだけだが、オロオロし始めているのが分かった。どんどん意味分からなくなってくる俺。

 

「とりあえず、涙拭けよ」

 

 そう言ってポケットからハンカチを取り出してくるユウキ。

 コイツ、何度目か知らないけどやっぱり女だ。絶対身内とか知り合いにはいい子だよこの赤毛ちゃん。

 そう思いつつ、ハンカチを受け取ろうとして――

 

「ブイ」

 

 受け取ろうとした、その瞬間であった。

 ココロがこちらに駆け寄ってジャンプ。続いて軽くではあるが、ふさふさの尾っぽでユウキの手を払う。

 痛くはなさそうだが、突然のことで目が点になっているユウキ。

 

「……ああ、そういうことか」

 

 そしてその行動を見た瞬間、俺は全てを理解してしまったのである。

 確かボールの中からでも、ポケモンは外の状況を見る事が出来るようになっていたはずだ。その状況下で、俺はユウキが女と知ってからも距離を離すことなく、軽口を叩いたり、軽いスキンシップをしていた。

 アイツもアイツで、嫌な顔はするものの否定はしてこなかった。

 つまり変わった形だが、男子同士ではなく、男女としてのコミュニケーションは取れていたのだ。

 そして今回のココロの行動。つまりは――――

 

「ココロ! 俺コイツのこと、これっぽっちも女とか思ってないから! 別段として気もないから! だから許してくれ!」

「……何を言い出すんだ、突然」

「いいから黙ってろ!」

 

 現在、俺とココロの間にお前が介入する余地などないっ!

 そうしてしゃがみこんで、目線をココロの近くへと持っていく俺。続けて直向きに彼女の眼の奥を覗く。

 キラキラと輝く琥珀色の瞳が、俺の芯を捕えて離さない。

 ここで逸らしてしまえば、俺の言葉は信じて貰えないだろう。その一心で彼女に無言で語りかけた。

 不意にココロがこちらに寄り始める。何をするんだろうと疑問に思った瞬間、ペロッと彼女は俺の左側の頬を舐めた。

 続けて右頬。ペロペロと舐めてくれるココロ。

 涙を拭ってくれている。そんなことに今更気付いた瞬間、ニコッとココロは、ようやく俺にその慈愛に満ちた笑みを見せてくれた。

 

「ああ……ココロ、ごめんなぁ」

「ブイブイ」

 

 私こそ、と言わんばかりに首を振ってくれるココロ。

 なんて思慮深いのだろう。無意識にだが、感謝を込めて彼女の頭を撫でていた。

 慣れ親しんだ温もりが、俺の手のひらに伝わってくる。

 

「オレにはもう、何が何だか分からねェ……」

 

 呆れたようにそんなことを言う赤毛を放っておいて、俺は二日ぶりのココロとのスキンシップに勤しんだのだった。

 

 

 




無駄にダラダラと続けてしまったつながりの洞窟編でした。
もう少し早く終わる予定だったのですが、こんなに長くなってしまって申し訳なく思っております。多分つまらないと思っていた人ばかりでしょう。書いている自分もそう思ってましたごめんなさい!!
ココロも出ないのに、こんなデレる要素もない赤毛ばかり出演させてしまい、本当にごめんなさいです><
書いている間、ああ、なんでココロを出さないんだろう……とずっと自問自答していたぐらい、ココロをさっさと出してしまいたかった作者でした。



※話数も増えてきましたので、サブタイトルを簡単ですが付けさせて頂きました。

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