ポケモンと嫁と地方の果て   作:南方

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第二十四話:ヤドンの井戸②

「くそっ……何なんだ、お前は!」

「バイターだ。さっさと道を開けろ。さもなくば――」

「わ、分かった! 分かったからその気持ち悪いのを近づけるな!」

「……ゴォ」

 

 気持ち悪いの呼ばわりされて、とても傷ついているビビちゃん。

 でも君は強いのに加えて、その強面だからなかなかに脅すのには有効的なんだよね。

 それはそうと、もう四人ものロケット団員を潰してここまで来てるんだが、まだ奥にはつかないようなんだよね……。井戸って長さじゃないよこれ。ていうか道間違えた?

 あ、それはそうと聞いてくれ。

 男の制服がダサかったんだが、ある女の子のロケット団員服が超絶可愛かったんだ。嘘じゃなくてマジで。

 危うく「何でもするから……許して」と懇願してきた女の子にエロいポーズを要求するところだった。

 

「しっかしこれは酷いな、本当に」

「ブイブイ」

 

 本当にね、と俺の言葉に賛同するように鳴き声を発するココロ。

 それもそのはず。

 奥に近づくにつれ、しっぽ切られてバタンキューしているヤドン達が地面に野垂れ死んでいるのだ。

 とは言っても、本当に死んでいるわけではない。

 尻尾は後々再生してくるらしい。だがその再生期間の間、その場から動けなくなるようで。

 現に息はしている。ただ、死んでいるようにしか見えないので目に悪い。

 

「しっかし、これ尻尾生えてきてもまた切られるんじゃ……」

 

 本当に救いようがない事態になるところだったろう。

 戦ってきたロケット団の手持ちが弱くて本当に良かった。

 

「……何だこれ」

 

 倒れているヤドンの一匹の首元に、ある銀色の筒が下げられているのを発見した。

 多分誰かしろに飼われていたヤドン、ということであろうか。

 筒を開けると、中から一つの小さな紙が出てくる。そして綺麗な文字で、こう書いてあった。

 

 

    お爺さんとヤドンと、大人しくお留守番しててね。

    早めに帰るようにするから。お土産楽しみにしてて。

                        お父さんより

 

 

「…………さぁてと!」

 

 見なかったことにしよう。胸糞が悪すぎる。

 この暖かい家族愛の手紙見たのかロケット団! これ見てしっぽ切ってたら、俺はもう素直にすごいと思うよ! 感嘆としますよ!

 ささっと手紙を戻して、さっさとどうにかしようと俺は心に決める。

 そのためにまず、ある一つの懸念について考える事にした。

 ……後ろに付いてきているロケット団員たちを、どうしてやろうか――と。

 つまりはそういうことである。

 

 

 

*****

 

 

 

 曲がり角でビビを配置させ、あやしいひかりで顔が妖しく光るようにセットしたあと、ちょっと隠れてついてきているロケット団たちの反応を窺うことに。

 距離は離していたようだが、足場が濡れているので、忍び足でも小さな音はカバーできていなかった。

 放置でもよかったのだが、まあヤドンの尻尾をばっさばっさと切っている輩どもだ。

 ナイフとかスタンガンとか持っていて、そういう物騒なもので後ろから襲われては敵わないしな。

 

「……おい、本当に大丈夫か」

「なに、ただのガキだ。後ろからナイフ出して脅せば、あのポケモン達をほいほいと寄越すだろうよ」

 

 小声で喋っているだろう男二人。

 先ほどビビとココロでズバットやらコラッタを薙ぎ払いましたよ。

 盗んできたようなポケモンもいたのだが、言うことを聞かずにツンとしていたので、ちょっとだけ痛めつけてボールに戻させ、そいつらだけバックの中に回収しています。

 あとあとポケセンにでも預けて、警察を呼べばいいだろう。

 ……もしかして、ジュンサーさんみたいな人がいるのだろうか。

 気になるところである。

 

「とりあえず、離されないように行くぞ」

 

 ヒソヒソ声が間近になっていく最中。

 待ち構えているビビはというと。

 

「……」

 

 完全に固まっていた。フリーズ状態である。

 というのも、俺が指示したのが「付いてくる奴らと少し会話してみろ」という、彼女にとって酷とも言える命令だったからだ。

 最初は無理無理無理! と首をブンブン振りまくっていたが、人見知りを矯正するチャンスだとか、お前の成長のためなんだとか、そんなお前の頑張る姿、可愛いんだけどなとか、嘘八丁吹かしている内にやる気になってくれた。

 やはり騙されやすいんだろう。隣にいたココロは苦笑いだったのに対し、ビビは

かなりニコニコ笑って、なおかつ照れていたからなあ。

 

「離されないように、行――――えっ」

「ゴ、ゴォ……?」

 

 角から出てきたロケット団員四人――さっき俺が倒した奴ら――と、ビビが対面する。

 時が止まったように、井戸の中に静寂が満ちた。

 まあこんな時間。すぐに途切れるんだろうけど。

 

「う、うわあぁああぁああああああ!」

「ま、待て! お前逃げるなぁああああああ!」

「きゃああああああああ!?」

 

 絶叫。雄叫び。悲鳴。

 正しく人外と遭遇して恐れおののく人々である。

 すぐさま道を引き返して、百メートル走で日本記録が出せそうなぐらいのスピードで、井戸の外へと走り去っていくロケット団たち。

 入口にはおっちゃんがいるので、逃げるのを食い止めてくれることを願う。

 

「……あ、ぁぁ」

 

 そうして四人いたロケット団員のうち、一人だけペタンと座り込むような形でビビの前に居た。

 いや、逃げ出したかったのかもしれない。

 普通に腰を抜かしている。

 ビビ、お前どんだけ恐ろしい顔していたんだよ。考えたくもないが。

 

「ビビ。ここは場所が悪いみたいだ。また今度、外で試そうな」

「……ゴォ」

 

 逃げていくロケット団員たちを目の当たりにし、かなりしょんぼりしている。

 普段から影のような奴――実体的な意味で――なのに、影が差しているように見え、普段より暗くなっていた。

 ていうか真っ黒に近い。

 まあアイツらの叶わない野望を打ち砕いたんだ。あとで寝る前に色々してあげることにしようじゃないか。

 とりあえず、この絶望していらっしゃる御嬢さんをどうにかしよう。

 というのもこの子、さっき俺に「何でもするから……」と言って来ていた子である。

 ツインテ、ミニスカ。そして乙女っぽい。歳は俺より上だろうが、背が小さい。一五〇もないだろう。

 なぜ、こんな女の子がロケット団なんかに! という疑問は、今は置いて於こう。

 

「おい」

「っひ! な、なななな何でしょうかっ!?」

 

 目を瞑ってぶるぶると震えている。

 これ、俺がおじさんだったら要らないことしてたね。

 ああ、肉体が十歳で良かったと本当に思う。

 

「さっきも会ったよな? んで戦ったよな? なんで諦めの悪いことしようと思ったんだ?」

「わ、わたしはやめようって言ったんです! でも皆さんがどうしてもあの糞ガキをぶちのめしたいって言っていたから……」

「糞ガキ、ねぇ」

「あわわわわ! ご、ごごごごめんなさい! 私はそんなこと思ってませんから! だからこの子早く下げてください!」

 

 そうして眼を瞑りながら、ビビをビシッと指差す女の子。

 影が差していたビビに、より深い闇が紛れ込む。要するに闇黒だ。このまま消えてしまうかもしれない。

 ただ、今は使える。

 

「ここに幹部がいるだろう? ソイツのところまで案内すれば、さっさと下げてやる」

 

 こういうことでいいだろう。生憎、奥に進むにつれて道は険しくなっていて、分かれ道も多い。

 コイツもロケット団の端くれなら、幹部の居座っている場所ぐらい分かるだろうよ。

 

「は、はい! 分かりました! じゃ、じゃあ――」

 

 と、そこまで震え声で口走って、ピタッと次の発言が止まった。

 ――何かあるのだろうか。

 部外者を寄せ付けるな、と口頭で指示されていたとか、そういうもんだろうか。

 ただ現状において、どの選択が安全で賢いかということは、彼女も分かっているはずである。

 だから決断は案内する、の一択で良いと思うのだが。

 再び静けさが辺りを包み込んだ。俺は次のどんな言葉が来るか、寛容に待つ。

「あ、あの……」と、小さく一言零し、ロケット団員の女の子はゆっくりと俺に呟いてきた。

 何かしろの決意が漲っているようにも窺える。

 

「あ、歩けないんで、連れて行ってくれませんか……? 案内はするので……」

 

 おっと、そういえば腰が抜けてたっけ。

 

 

 

 


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