光があんまり差さないから怖いなぁ……。なんかリングマとか出てきそうな雰囲気なんすけど。俺大丈夫?
先を進むイーブイを必死に追いかける俺は、そんなことを思いながら森の中を疾走していた。
かれこれ十分ぐらい走っているか、あまり疲れはない。
というのも、この街には昔トレーナーでいいところまでいったおじいさんが居るんだが、その人に話しかけて気に入られるとランニングシューズが貰えるんだな。
HGSSのゲームだと主人公は自動的にイベント発生してたけど、俺は生憎主人公じゃないし。自分で動かないと何も得られませんよ。
「……ん?」
イーブイが速度を落としだしたので、俺も徐々にスピードを抑える。
俺にも分かったのだ。目の前の樹林を超えると、小さな広場があることを。
「……おお」
そこにはたくさんのイーブイが寝ていたり、はしゃいで遊んでいたりと、様々な生活スタイルを見せつけて群れていた。
い、イーブイさんの群れなんて、初めて見たぞ。
おつきみ山のピッピが踊ってるのはゲームで見たけどさ。
俺が半ば呆然としていると、なんていうかさ、目の前から他のイーブイとは変わったポケモンが数匹歩いてくるのに気付いた。
――ちょっと待ってください! リーフィアさんとかハクタイの森でレベルアップして進化しないと生まれないんじゃないんすか!?
思わずガクブルである。表には出さないけど、心はもう吹雪で凍えかかってるよ!
だってコイツら、たしか攻撃の種族値高い方じゃなかったっけ? グレイシアは特攻高めで、その逆って覚えてるから、多分そうだよな? やばいよな? リーフブレードとかされたら即死だよね!?
「ブイブイ。ブ~イ。ブイブイブイ……」
「フィーァ……」
「ブイブイ! ブイブイ……ブイ!」
うん、何言ってんのかワカンネ。
そんなわけで、不肖ながら、この俺が予測してみようか。
多分、『私この人に付いていくわ! 世界を旅するの!』『お前という奴は……』『私決めたの! 絶対に行くわ……絶対!』みたいな?
ちなみに俺はイーブイの性別を知りません。♀だと思いたい俺の思いでこの疑似会話は構成されています。
なんて馬鹿なことを考えている間にも、話は続いていた。しかしリーフィアがだんだんと優しそうな目になっていってるのを、俺は見逃さなかった。
親か、兄妹か、親友か。
分かりやしないが、嬉しそうだなということは一目瞭然だった。
そして一分も経たない内に、会話は終了した。数匹いる中の中央にいるリーフィアが静かにこちらに寄ってきて、小さく頭を下げる。
おお、リーフィアにお辞儀されるなんて感激だよ俺。とりあえず、こちらもぺこりんこ。
数秒頭を下げて、顔を上げると、リーフィアは既に顔を上げていた。その表情はなんというか……任せたぞ! みたいな感じの雰囲気が出てた気がする。まあ雰囲気だから分かりやしないけど、さ。
リーフィアはそれだけすると群れの中に戻っていく。取り巻きのリーフィアたちも静かに退散。そしてその場にはイーブイと俺だけが残された。
「……終わり?」
「ブイブイ!」
イーブイは大きく頷くと、さっと翻って元の道に戻る。
あれ、案外あっさりじゃないんですかね? いいんですか、これで。
とりあえず、イーブイが俺の旅に付いてきてくれるということははっきりしたので、安堵したのは言うまでもない。
「……あ、アイツまだ野生だよな?」
*****
次の日、俺とイーブイはウツギ博士の元に行くことにした。
俺の父さん、実は研究員なんだよ。ウツギ博士の助手なんだよ。
そのコネ使って御三家貰えんかなぁ、って父さんに遠まわしに言ってみたらあっさり承諾だよ。
まあ一人だもんね! ウツギ博士の助手父さんだけだもんね! 融通効かせてくれて本当に助かります。
そんなわけでワカバタウンまでの道中を歩く俺。そしてイーブイ。
イーブイはなんだかんだで、結局まだモンスターボールに入れていない。ていうか、タイミング逃しちった。なんか入れなくてもいい気がする――なんてことはなく。
ポケセンで回復する場合は、モンスターボールに入れておかないとスムーズにいかないのを俺は知ってる。キズぐすりは別に外に出していても使えそうだが、それじゃPPは回復しないし。
「……お、野生のポッポ」
草むらを歩いていると、目の前にポッポを発見した俺。
ちなみにこれで見つけて五匹目。そして俺、ゲーム感覚で楽しんでますよ。まあ倒したポケモンをその場にほっとくのは気が引けるんだけどね。
そして一応この世界、弱肉強食で成り立っている訳で。
…………ひんしになった野生のポケモンは、他のに食べられちゃうそうなんだよね。
いや、自然界だから当たり前だろって? 無茶言うなよ、こちとら完全に小学生向けのやさしいゲームだと思ってたんだよ。
リアルになって要らないところも無駄に現実になってるんだから、何とも言えないよ俺。
ゲームだと素早さの努力値欲しさに狩りまくってたけど、自重するようにしてます。安直に自分からポケモンに突っ込んだりしないようにしてます。
でも経験値は欲しいんです。だから、歩いていて目の前に発見したポケモンを見逃すわけにはいかないわけで……。
「イーブイ、ばれないようにこっそり背後から近づいて体当たりで」
「ブイッ」
イーブイとしては、他のポケモンと戦うことに抵抗感はないみたいだ。
まあコイツも一応、弱肉強食な世界を生きていた一匹ということであろう。こんなにモフモフで可愛いのに、獰猛だよぉふぇぇ。
ちょっとだけ自身の愛玩動物に畏怖している間に、イーブイは忍び足で背後に近づく。
ポッポは視覚はいいが、その分聴覚が弱い。人間以上に音に対して耐性がない。
それに比べイーブイは視覚と共に、その大きな耳を使って敵襲に身を備えている。そこに少し知性のある俺の指示が入ると、まあ野生に対してはどうにかなるわけで。
「……ブイッ!」
若干声を張り上げてイーブイはポッポに背後から体当たりをかます!
「ッポ……!?」
小さなうめき声が、若干の驚愕の色も混じって零れる。
しかしここで終わらすわけにはいかない! 俺のイーブイに傷をつけてなるものか!
「イーブイ、もう一度真正面から!」
「ブ~イッ!」
俺の指示を聞くとすぐさま声を張り上げ、ポッポに真正面から突撃する。
それが上手いことポッポの首元したの羽毛の少ない部分当たったもんだから、ポッポは苦しそうに瞳を細め、そして天頂を向いて小さく啼いて倒れた。
……これさ、やっぱりポケモントレーナーって結構ドSじゃないと出来そうになくない? 毎回こんな可哀想な姿見なきゃならんの?
まあまだ動けそうだから救われてるけど。ああ、でも一応ひんし状態だから、満足に動けそうにないのは確かだ。
「イーブイ、お疲れ様」
「ブイブイ!」
俺の呼びかけを聞くと、すぐさまこちらに帰ってきて笑みを浮かべるイーブイ。
…………ああ、俺この笑顔見れるなら何度でもポケモン倒す指示だすよ。
前言撤回、トレーナーはこのポケモンの喜ぶ姿見たさで戦っているに違いない。
「さて、先に進むか」
「ブイ」
まだ出発して二時間。
実はゲームじゃ一分二分で通れるこの二九番道路。ヨシノシティとワカバタウンまで、普通に歩くと二日三日ぐらいかかることを、俺は知らなかった。
そんなわけで第二話。
明日も更新したいと思います^^