ポケモンと嫁と地方の果て   作:南方

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第三話:ワカバタウン

「つ、着いた……!」

「……ブイ」

 

 昨日家を出発して、丸一日移動したが結局着かずに野宿した俺たちは、次の日の夕方にようやくワカバタウンにたどり着いた。

 し、しかし長いぜっ……! 始まりの道とか言ってる割に、冒険初心者の俺にはとても悪路だよこの二九番道路! 

 途中から走って良かったよマジで。普通に歩いてたら三日、もしかしたらそれ以上かかってたかもしれねぇ。

 父さん、いつも土曜の夕方帰ってきて、日曜の朝に家を出てたけどさ。あれって研究詰めになりたいわけじゃなくて、実質軽い出張しているようなものだったんだね……。自転車が結構痛んでたのも、そういう理由なんですね馬鹿にしてました。

 すみません、何度も言いますけど、正直相当舐めてましたよ俺。ゲームだと小さく見えるけど、一応ジョウト『地方』だったんですね。広いですよマジで。

 これ……早くコガネシティに行って自転車買わないと無理ゲなんじゃ?

 まあ、今さらクヨクヨ言ってても仕方がないか。そんな訳で町に入ってみる。

 といっても至るところに家があるぐらいで、他にはなにもない。ヨシノシティも田舎だなとか思ってたけど、ワカバタウンも相当ですな。

 まあ研究所を示す看板はあるから、行き先を迷ったりすることはないけど。

 

「そういえばさ、イーブイの性格って何なのかな」

「……ブイ?」

 

 俺の言葉に、イーブイは疑問の色を声に含ませて俺の方に向いた。

 ポケモンの性格。これはポケモンの能力値にかかわってくるとても大事な要素だ。

 といっても、俺は今回努力値なんか考えずに進めてるしなぁ……。

 ポッポやコラッタを二百以上虐殺なんかして素早さ振ってみ。周りの草原が一気に暗黒地帯へと化すに決まってる。

 しかし性格に似合った進化をさせることは、イーブイにとっても大事なんじゃないかと思う訳ですよ。

 一応地方をぐるり一周しようと思ってるわけだけど、より人の寄り付かないとこに行こうと思ったら強いポケモンが出てくるはず。その対処できるよう、自分の仲間も強くしなければならないのは当たり前だろう?

 ならば性格にあった進化をさせてやりたいよ俺は。何しろ七段階進化の可能性をもってる、Evolution(しんか)ポケモンのイーブイ――Evの頭文字を取っている――だもんな!

 

「おっと、着いた着いた」

 

 そんなことを一人で考えていると、目の前に周りと少し変わって大きな建物が見えてくる。

 近くには大きな看板があり、ウツギ博士研究所って書かれてあった。ここで間違いないだろう。

 建物は何というか、実質外見は家に近い。それでも窓を覗くと、なんか本棚がずらりと並んでいて、ちょっと散らかっているように見える。

 

「ごめんくださーい」

「……おお、ジュンイチ。よく来たな。」

 

 扉を開けて中に入ると、埋め尽くすほどの様々なポケモン学の本が、棚に所狭しと並んでいる。

 その一角に、父さんは一冊の本を抱えて立っていた。しかし俺の姿を見るとすぐに棚に本を戻し、小走りでこちらに寄ってくる。

 

「始まりの道といっても結構長かったろう? 一人でキャンプとか初体験だったんじゃないか?」

「な、なんでキャンプしたこと知ってんだ父さん……」

「そりゃジュンイチは自転車持ってなかったし、歩いてくるしかないからだ。走っても一日はかかるから、どこかで泊まれるようキャンプセットは持ってきているものだと思ってたんだよ」 

 

 流石は父さん。よく分かってらっしゃる。

 まあ貴方の通勤路ですしね。

 

「……お母さんにてっきりポケモンを借りてるものとばかり思ってたんだけど、イーブイなんて捕まえてたのかい?」

「捕まえたというかなんというか……。とりあえず、俺の相棒」

「ブイブイ!」

 

 俺の言葉に同意するようにイーブイが声を張り上げた。

 その様子を見て父さんは関心したように息を漏らす。

 

「へぇ、なかなかに懐いているようじゃないか。しかも確認が少ないとされるイーブイ、どこで見つけた?」

「たまたまヨシノシティの近くにある海側の森で見つけたんだよ。集落もあったんだけど、仮の住処っぽかったし、他のイーブイはすぐにまた移動するかもね」

「イーブイは数も少ないしなかなか人前に出てくれないからね。ジュンイチは運に恵まれていたのかもな」

 

 父さんはそれだけ言うと俺の前を歩きだした。元々あまり話はしない性格なんだが、今日はよく喋ってくれた方だと思う。

 この体になった当初は、少し他人のように思っていた父さんだが、今では本当に信頼できる人物だと思っている。

 そして何より息子――すなわち俺に甘い。とても嬉しい。

 無言ながらも、行先はすなわちウツギ博士のところだろう。言わなくても分かるものだと思っているのだと思う。実際分かってるしね。

 

「ウツギ博士。息子が来ました」

「……ああ、すまないね。研究に必死になってたよ。……君がジュンイチ君だね。いらっしゃい」

「初めまして、ウツギ博士」

 

 頭を下げると、そんなにかしこまらなくてもいいと言わんばかりに手を左右に振って、苦笑を浮かべるウツギ博士。

 元はオーキド博士の助手であるウツギ博士は、自立してまだ日が浅いとのこと。そのため研究員もまだ俺の父さんだけなんだが……。

 なんていうか、やっぱりまだ若いなぁという印象だ。

 年齢で言うと父さんの方がウツギ博士より十歳以上年老いている。それでも自分の研究所を開けているところを見ると、秀才なんだなぁという印象を抱かずにはいられない。

 

「確か僕の現在調べているポケモンを連れて歩きたいそうだね?」

「はい、そうなんです。ウツギ博士のお手伝いにもなるかなと思ったので」

「ははは、それは助かるよ。ポケモンの進化については戦闘や旅などで経験を積ませるのが十分なんだけど、僕は生憎トレーナーの素質がないんだ」

 

 照れるように頬をかいてウツギ博士はそういった。

 そして俺を見て、続いて俺の足元にいるイーブイを見てうんうんと頷く。

 

「それに比べて、ジュンイチ君には素質がありそうだ。確かポケモンを持つのは今回が初めてだよね? すっかり信用しているみたいだ。ポケモンを捕まえる才能、なつかせる才能っていうのは、総じてトレーナーの資質に関与するってオーキド博士も言っていたから。安心して任せることが出来そうだ」

「へぇ、そうなんですか」

 

 まあポケモン捕まえることが苦手ならば、なかなかパーティ増やすのも難しいだろうからなぁ。

 それとなつき関係は、やはり空気が悪くなるだろうし、トレーナーの腕が試されるものなのかもしれない。まあ普通に接していれば間違いはないと思うんですけどね。

 それでも、オーキド博士の言ってることは一理あるのかも。

 

「そのイーブイは自分で捕まえたのかな?」

「一応捕まえた――ってことになるんですかね? 生憎まだボールに入れてないんですよ」

「……何だって?」

 

 俺の言葉に瞬時に目を光らせ、ウツギ博士は声を小さく漏らした。

 

「ボールで捕まえていないのに君に付いてきてくれるのかい?」

「はい。ヨシノからワカバまで来るのに、イーブイが守ってくれましたから」

「君の指示には従うかい?」

「従順、って言葉が当てはまりますね。俺の言うこととても聞いてくれますよ。……といっても、たまに我儘なところもありますけどね。でもそこが可愛いと言うか――」

「今はそういうこといいから。それで? このイーブイとの馴れ初めは?」

「え、ええっと……ヨシノシティの海岸近くの森で偶然あって、そこできのみとか交換してあって……」

「きのみ? きのみとは実際どんなものを――――」

 

 これから俺はウツギ博士に二時間近く質問攻めを喰らう羽目になったのは、言うまでもない。

 

 

 

 




第三話でした。


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