「いやー、すまないね! 研究に熱が入るとついつい周りが見えなくなっちゃうんだ」
「あはは……いえ、別にいいですよ」
実際は別にいいことないよ? 何しろ二日も歩いたり走ったりしてワカバに来ているんですから、休ませて欲しいですよ。
まあ体裁を考えて無難な答えを言うけどさ。
もしイーブイがいなかったら死ぬところだった。首回りのモフモフした毛を撫でてなかったらやばかったぜ。
そうだよ、忘れたよ。この人、研究にのめりこんだら衣食住の衣食を怠る人だった。つまりは職業病にかかっている。
真面目に相手していたらこっちの命が足りない。
……あ、ていうか毛づくろいってなつき度上がるよな? これって俺が適当にしても上がるのだろうか。
「ところで、ポケモンの方は……」
「ああ、そうだったそうだった。忘れかけてたよ」
実際忘れてましたよね。忘れかけてたんじゃなくて、忘れてましたよね。何も言わないけど。
父さんは既に今さっきいた場所に戻って、小難しい本を読み漁ってはパソコンに入力していた。
会話しだして五分ぐらいしたら居なくなっていたので、相当慣れているものだと思われる。
しかしちょっとぐらい息子を助けて欲しかったよ。
イーブイは話聞かずに、俺の毛づくろいに意識向けていたからか気分上々らしい。要するにウェ-イウェーイな状態なんだろう。
「とりあえず、今生態を調べているポケモンが入っているモンスターボールだ。三種類いるんだけど、どれか一匹選んで連れて行ってほしい」
「……出してみてもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
すごく高そうな機械の中に、手前、左奥、右奥とモンスターボールが置かれている
俺はなんとなく左側のボールを選んで、ポンと放り投げた。
モンスターボールからポケモンを放つ時に出る、独特の眩しいライトエフェクトを確認し、そして出てきたポケモンを見やる。
「……?」
「おお、ワニノコか」
俺が最初に買った金銀で最初に選んだポケモン、ワニノコさんの登場ですよ!
いや、もう選ばなくていいだろ! これは運命に違いない! ワニノコはいつまで経っても俺の最初の相棒――
しかし現在の一位はイーブイたんだけどね。
「イーブイ。ちょっとワニノコとコミュニケーションとってみて」
「ブイブイ!」
元気よく答えたイーブイは俺から離れて、ボールから出てきたワニノコの元へと近づく。
ワニノコに怖がった様子は見当たらないが、それでも初めて見ると思われるイーブイの姿に少し緊張しているように窺える。
「ブイブイ~ブ~イ!」
「……ワニ」
「――――ッ!」
「―――――――――?」
…………うし。
ここからは一切分からないので以下略。ていうか飛ばす。
とりあえず相性は悪くないっぽいようだ。ワニノコは比較的真面目っぽく見え、イーブイの話をよく聞いている。
ていうか、こりゃコイツの性格は真面目しかありえねーな。
ん? イーブイ? イーブイは……甘えん坊? んなもんねーしな……。たまに我儘だからいじっぱり? それともやんちゃ? いやいや、案外これでも甘え方がひかえめとか、変な可能性があるかもしれん。
「とりあえずワニノコにしますね」
「ああ、いいよ。……しかしワニノコか。君もいいチョイスをするね」
「と、いいますと?」
「他二匹はすこし厄介なんだよ」
ウツギ博士は困ったような表情でそういう。
まあ、ゲームじゃ分からないけど、リアルな世界じゃ性格によって育てやすさとかあるのかもなぁ。
一人感心しつつ、俺はワニノコの頭に手を置いた。
びくっと体を反応させるが、すぐにイーブイのブイブイ語――今名づけた――のフォローによって固くなった体を弛緩させる。
マジでイーブイさまさまです。これからもその調子で頼む。
「俺と一緒に色んな場所に行こうぜ。誰も見たことのない世界を、俺と一緒に旅して見回らないか?」
「……」
最初はポカーンとした様子を見せるワニノコ。いきなり話のスケールがでかすぎたか?
しかし幾ばくか経つと、小さく首を動かしてワニノコながら精悍な表情――普通、ワニノコって笑ってるもんじゃねーの?――を見せつけてくる。
よし、決定だな!
てか全然コイツ喋らないけど、ホント大丈夫だろうか……。
「ああ、心配しないで。元々こういう性格なんだよ」
「……そうなんですか」
俺の思っていたことが表情に出ていたのかもしれない。
ウツギ博士はそう言いながら、高そうな機械の蓋を閉じた。
「さてと。ジュンイチ君、もしよかったらワニノコをあげる代わりと言っちゃなんだけど、一つ頼みごとを引き受けてくれないか?」
「……ええ、いいですけど」
こ、これは……! これはもしかすると……!
「僕の研究でね、ポケモンを外に連れ歩くことで、ボール内でいた時と何かしろの変化が生じるんじゃないかって仮説を立てているんだ。君はポケモンを連れ出して、というかまだ捕まえていない状態だ。だから頼みといっては何だけど、ボールに入れるとしても、極力外に出して歩いてみて、ボールに入れて持ち歩くワニノコとかとの違いを見て、僕に報告してほしいんだ」
あー、図鑑フラグじゃなかったのか。
てかあれって、確かオーキド博士からゲットだっけ。早くポケモンおじさんのとこぐらいまでに行かないとな。
俺にくれるとは、限りませんけどね!
「まあ、無理にとは言わないよ。もう一人ツテはあるからね」
「…………もしかしてワカバタウンに住んでる子のことですか?」
俺の目が輝いた瞬間だろうな、今。
だってどう考えてもフラグ発言だったじゃないか。
どこが? なんて言わせませんよ。
どこからどう見ても、可愛い子いますよっていうフラグ立てましたよこの博士。
「知り合いかい? 今度残った二匹のどちらかをあげようと思っているんだ。僕の親戚にあたる女の子なんだよ」
「そうだったんですかー」
おい、お前ら! 今重要な言葉を聞いたな?
僕の親戚にあたる お ん な の こ ですって!!
俺的予想は断然コトネちゃんですよ! あの最初の頃マリコちゃんって叩かれてた。
あ、でも待てよ……金銀に準拠してたら、これ髪ギザギザ少女のクリスに……?
あれ、名前マリナちゃんだっけ? わっかんなくなってきた。でもあの子でも別に悪くはないな、うん。
なんて思ってたら、いつの間にかウツギ博士電話なうですよ。
しかしポケギアかっけー。やっぱ欲しいなポケギア。お母さん買ってくれないかな。
ああ、でも母さん俺の旅には反対してるし……自分で買うしかないか。いくらするんだこれ。
「大丈夫かいジュンイチ君。目が飛んでるけど」
「…………はい、大丈夫です」
ふと気づくと俺の肩を持ってこちらに声をかけてきているウツギ博士。
心配かけて申し訳ございません、はい。決して妄想膨らませていたとは言えない。
「それは良かった。それと今度って言ったけど、コトネちゃんが今からこっちに来るらしい。お母さんから連絡があってね」
「……マジですか」
これまたフラグ? あ、でも確かコトネちゃん幼馴染のヒビキ君がセットだっけ……。
まあいいよもう。めんどくせ。今から旅するんだ。可愛い子なんていくらでも――
「……ブイ?」
もういましたよ
これぼっちでも旅できるよ。イーブイいれば何でも出来るよ!
とは言っても、もちろんワニノコちゃんにも頑張ってもらうけど。
第四話でした。
オリ設定で女の子は博士の親戚にすることにしました。
じゃないと簡単にポケモンくれると思えなかったので……。