「すみませーん。コトネですー!」
「はいはい、こっちにおいでコトネちゃん」
キター! とうとう来た!
ていうかコトネさんでしたか! HGSS準拠ってことですかね? よく分かんないけど。
しかし思ったけど来るの早くね? ……ああ、そういえば家近かったっけゲームでも。
だがゲーム家四つしかないし、当てにならないよな。
とりあえず、このリアルでも家が近場にあるのは間違いないはず。
「こんにちはウツギ博士――っと、えっと……初めまして?」
「初めまして」
「あれ、知り合いじゃなかったのかい?」
「どうやら人違いだったようです」
俺がそういうと、そっかと潔くウツギ博士は相槌してくれた。
しかしコトネさん。俺と比べたら結構でかいな……。
俺の身長一四〇センチ――同じ学年じゃ大きい方だった――だけど、確か公式発表ではコトネさん一五〇超えてたっけ……。普通にお姉ちゃんと弟の構図出来上がってんだけど。
これで同い年だったら俺は嘆く。だって胸も発展途上だし。十歳でこんだけ発育よかったら俺は死ぬ。
「まあ、それは置いて於くとして。コトネちゃん、君もどの子を連れていくか選んでくれるかな?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
そう言ったコトネを見て、ウツギ博士は高そうな機械――もうこう表現するか出来ないんだよホント――から二つのボールを取り出した。
「僕の右手にいるのはヒノアラシという炎タイプのポケモン。左手にいるのはチコリータという草タイプのポケモンだよ。どっちもなんというか……扱いづらいというか」
「私頑張ります! ですから――」
「いや、持って行ってくれていいんだけどね……とりあえずヒノアラシから出すよ」
そう言ってウツギ博士は俺らから見て左――つまりウツギ博士の右手――のボールを放り投げる。
ポカンと音を立ててボールが開くと、そこからヒノアラシが登場――
「ヒノッ!?」
速攻で広い部屋の右角へと移動して、ぶるぶると怖がるヒノアラシの姿が。
……臆病すぎやしないか?
いや、結構素早かったけどさ。
「こんな感じで、すぐに逃げてしまうんだよ。それが人間でもポケモンでもね」
「え、でも近づいちゃえば……」
「それが上手くいかないものなんだよ」
ウツギ博士は部屋の隅に移動したヒノアラシの元へ行く。
距離が近づくにヒノアラシの背中は灼熱を帯びていき、そして距離が二メートル余りになった時は、いつでも迎撃できるよう炎を吹き散らしていた。
「こんな風に人一倍警戒心が強い。近づくだけでこの有様だ」
「……どうやって捕まえたのかさっぱりなんだけど、ウツギ博士?」
「そこにいるジュンイチ君のお父さんが私の助手でね。一匹群れからはぐれてしまって怯えていたこの子を保護したんだけど……彼以外に懐きにくくてね」
へぇ……! とコトネは声を出して俺をちら見して、続いて熱心に仕事を続ける父さんを見る。
しかし父さん。よくこんなん捕まえれたよな。実は凄腕のトレーナーだったり……。
「とりあえず戻して、もう一体を出すことにしよう」
ボールを拾ったボールを持って真ん中のボタンを押すと、赤い光線が出てヒノアラシがボールに戻っていく。
うわー、ワニノコもあんな感じになるのか……なんか感慨深いな。
ちなみに、ワニノコは俺の足元でイーブイのブイブイ語を聞いている。すげぇ熱心に首を上下に振って分かった素振りを見せてるけど、貴方たちは一体何の話し合いしてるんですかい?
そんなことを考えている間に、ウツギ博士はもう一体を出していた。草ポケモンで『俺の嫁!』とよく噂されるあの癒しの――
「……チゴァ?」
こ、こえー! コイツめっちゃガン飛ばしてんだけど! なんだよ本当に! ウツギ博士の持ってるのまともなの一匹も居なさすぎ!
性格は生意気だと思われるチコリータは、俺を見た後、ウツギ博士、ワニノコにガン付けていく。
「ウツギ博士……」
「何も言わないでくれ、ジュンイチ君」
ウツギ博士の表情は最早諦めの色を出している。
そして目線をイーブイやコトネに向けた途端――――なんだか顔を弛緩させて、トコトコと近づいていき始めたってオイ!
雄はみんな死ねとか思ってるジゴロ野郎かお前は。
イーブイはなんかを感じ取ったのかすぐに俺の後ろに隠れたが、コトネは普通に近づいてきたチコリータを「かわいー!」と言って撫で始める。
……ああ。コトネにはなんかぴったりかもしれない。そんな気がする。まあ少なくとも好意持たれてそうだから、ヒノアラシよりはマシか……。
「そうか……チコリータの機嫌が悪かったのは、雄しかいなかったからか……」
そう言ってなんかすげぇ達成感を感じ取っているウツギ博士。
しかしまあそんなことは放っておこう。俺は気付いてしまったんだよ。
お れ の イ - ブ イ お ん な の こ!
来たよコレ。やったった、俺の嫁確定なんだけど。
俺の後ろでチラチラと覗いてくるチコリータの視線に怯えながら、体を足に寄りかけているイーブイを見るとなんというか……可愛いね!
ワニノコは時々ガン付けてくるチコリータを見つめて、俺の前でまるで「お守ります!」とでも言わんばかりに立ちふさがっている。
すげぇかっこいいよワニノコさん。お前はもう騎士だよ。俺の近衛騎士だよ。これからその立ち位置で頼みますわ。
「私、この子でいいですウツギ博士! とても懐いてくれているし!」
「なんか女の子ならだれでも良さ気な感じがするけど……ヒノアラシよりはマシか。うん、その子を持っていきなよ」
「ありがとうございます!」
コトネは喜んでチコリータに抱き着く。そしてニヘラと笑うチコリータ。
早くソイツの下心に気付いた方が無難ですよ。変なところで疎いというかなんというか。
「それじゃ決まりだね。それと、コトネちゃん、少し頼みたいことがあるんだ。ジュンイチ君にも今さっき言ったけど、詳しく説明するから聞いてほしいな」
「分かりました」
「何でも来いです!」
なんか色々あって疲れてる俺とは対照的に、初ポケモンをゲットして喜んでいるコトネはハキハキと返事をした。
「僕の研究は、人とポケモンとのコミュニケーションによる影響を調べているんだ。現在ではポケモンはモンスターボールに入れるのが当たり前だけど、この文明の利器が発明される前は、人は皆ポケモンを連れて歩いていたらしいんだ」
……お? この台詞見た覚えがあるぞ! ゲームであった部分に近いんじゃね?
「君たちにはポケモンを外に連れ出して歩くことで、ポケモンにどのような影響があるか、どのような関係を築けるかを試してほしいんだ。確かにモンスターボールによって、ポケモンの持ち運びが楽になったよね。でも外に出して連れ歩くことも、必ず何らかの結果をもたらすものだと僕は考えているんだよ」
さっきは結構あっさりした説明だったけど、ゲームとリアルはやっぱ違うなぁ。なんていうか、話に筋道が通っているというか。
まあポケモンのシナリオ攻略は子供向けゲームですしね……。育成になるとちょっと変わってくるけどさ。
「コトネちゃんは、君の親友のヒビキ君がマリルをボールに入れずに日常的にかかわっているのは知ってるよね?」
「はい! とっても仲良さそう」
「うん。そうだね。普通に育てる以上に、何かしろの感情が彼らには芽生えていると僕は思う。外に連れ出して歩くことが、その原因を解き明かしてくれるかもしれない。まあ、物事はそう上手くいかないけどね」
苦笑いしながらウツギ博士は最後の台詞をぼそりと呟いた。
「とりあえず、定期的に外に連れ出してポケモンと関わることで、どんな感じがするか、どんな変化をするか、君たちなりに報告してほしいんだ。……コトネちゃん、ポケギア持ってるかな?」
「はい! お母さんに買ってもらったんで」
「それじゃ番号を交換しよう。いつでも連絡できるようにね」
そう言って二人はポケギアを近づけて赤外線で番号交換――って俺すごく惨めだよこれ。
はあ、やっぱりポケギアないと辛いなぁ……。だって野宿するんだよ? 全国旅するんだよ? 電話がない場所に赴いたりするんだよ? 絶対いると思うんだけど。
一人落胆して俺は待っていると、ウツギ博士はこちらに近づいてきてある物を突きだしてきた。
「…………えっ、ポケギアじゃないですか。どうしたんですかコレ」
「ジュンイチ君のお父さんが買ってくれたんだよ。僕の番号は入れてあるから、何かあったら連絡してね」
う、うおー! ポケギアゲットきたー!
さっと後ろを振り向いて父さんの方を向くと、背中を向けているが横に突きだしているサムズアップが見え、俺の涙腺を緩ませる。
あんた……最高の男だよ、父さん!
第五話でした。
では次話でまた。