三日目の夕方。もうすぐ日も落ちそうだ。
そんな中、俺とコトネさんは二人でキャンプを張っている。明日の朝か昼ぐらいには、無事にポケモンおじさんの家にたどり着けるだろう。
二日目にコトネさんと一緒にヨシノシティに入った際、運良くポケモンセンター近くにいた元トレーナーのおじいさん――通称、案内じいさん――と出会い、コトネさんもランニングシューズをゲット出来た。
ついでにポケギアにタウンマップ機能も二人とも付けて貰えたので、行先や現在位置を見れるようになったのは嬉しい所である。それにしてもあのじいさん、どこからそういった知識やらランニングシューズやらをゲットしてくるのやら……。
まあ、最近のトレーナーの流行に後れをとっていない、ということだろうか。熱心なじいさんということでこの件は置いておこう。
そして今日、ヨシノシティを超えて三○番道路を北上した。
ここら辺からキャタピーやらビートルといった、女子には不人気なポケモンが出てきたのだが、コトネさんは普通にチコリータことワカバを出して戦っていた。虫とか嫌いな性格じゃないんだろう。
まあ、ビートル相手にワカバを出すのはあまりいいことではないけどな。効果抜群のどくばりが待っており、なおかつ三〇パーセントの確率で毒っちゃうし。
「それじゃ、いただきまーす」
「いただきます」
「ブイブイ」
「……」
「チコォ……」
テントを張った後、俺とコトネさんは携帯食料のレトルトカレーを。
そしてポケモン達はヨシノシティのフレンドリィショップで買ったポケモンフードを食べ始める。
チコリータがねちっこい視線でイーブイとコトネさんに迫るが、両方から無視を受け、敢え無くワニノコと飯を食いだす。何というか、本当にかわいそうな奴だ。
ポケモン達は全員同じポケモンフードを食べているが、ブリーダーならポケモン達の好む味付けにして餌をあげるんだろうな。
生憎俺たちにそんな技術はない。ていうか、自分たちの飯すら碌に作れない。
まず料理器具が鍋と菜箸と飯盒しかないからだ。ご飯は小学校でやった飯盒体験の要領で上手く出来た。多分まな板とか包丁、その他必要なものを取り揃えば自力でシチューやらカレーやらは作れるようになるだろう。
「ごめんね。料理用の器材とかあれば、私料理作れたんだけど……」
「ワカバタウンじゃそういう旅用の器具売ってるところ少ないんでしょ? なら仕方ないよ。このカレーが不味いわけでもないし――っていうか、普通に上手いし」
「うん。私も驚いちゃった」
おかしいな……レトルトって、こんなに香ばしい風味出せるっけ。
旅をする機会が多いこの世界。こういった保存食品の開発が進歩するのは頷ける。
あとテントも簡単に畳め、そして組み立てることが出来るハイテクなものだ。その上風雨を凌ぐのにも悪くはない。
つまり旅道具が物凄く進歩している。そんな風に思える。
「そういえば、コトネさんって中学卒業してトレーナーになったんですよね」
「まあトレーナーズカードは十歳の時にもうゲットしてたから、実質トレーナー歴は四年ね。ポケモンは最近になって手に入れたけど」
俺のような小学校卒業後にトレーナーになる例が少ないように、コトネさんのような中学生を経てトレーナーになる人も決して多くはない。コトネさんは現在十四歳で、俺より四つ上。そしてこの間中学を卒業したばかりらしい。
また、大抵は中高を卒業してトレーナーになるのが主流だと、この前コトネさんが教えてくれた。
理由としては、中学は四年、高校は二年という教育スパンにあるとのことだ。たった二年なら高校に行っても悪くはないと思うのだろう。また中学を卒業した時の年齢は十四歳。多感な頃で、恋や部活動に精を出したいという欲求があるのかもしれない。
「何で今の時期に? 高校からでも良かったんじゃないんですか?」
「……本当は私、ジュンイチ君みたいに小学校卒業したらすぐにトレーナーになろうと思ってたの。でも、お母さんがまだ危ないって言って。高校まで待ちなさいって」
「俺も散々母さんに止められたなぁ」
それでも父さんの「男は早くから旅がしたいものだよ」という意味わからない言葉によって、どうにか折れてくれたんだよな。
まあ、何も旅用の装備は買ってくれなかったけど。数少ない父さんのポケットマネー減らしてしまって申し訳ない。
「それでも諦めきれないから、母さんに言ったの。中学までなら行くけど、高校は行かない。そこまで待てない――ってね」
「何でそんなにトレーナーに?」
「私、やっぱりポケモンが好きなんだなぁって思っちゃって、ね。子供の時、虹色に輝く鳥ポケモンを見たの。あれが忘れられなくて、もう一度あの姿を見たくて、それでトレーナーに」
「……ホウオウか」
アニメの方でも出てたな。ホウオウは何だかんだでよく空を飛んでるものなのだろうか。
しかし俺の言葉に、すぐさまコトネさんが反応してきた。
「ホウオウって何? もしかして、私の見たあの虹色のポケモン知ってるの!?」
「あ、いや……昨日ランニングシューズくれたじいさん居ただろ? あの人が若いときに見たことがあるんだって、その虹色の鳥ポケモン」
別に嘘は言ってない。実際に彼が言っていたことだ。本当のところは怪しいが。
それでも名前は聞いてないので、そこを追求されると痛いのだが、「そうなんだぁ」と小さく呟いて、すぐさま下がってくれた。ほっと一安心したのは言うまでもない。
「そうだよね。ジュンイチ君は私より年下だし、そんなこと知ってる訳ないよね」
「ははは、ごめんねコトネさん。役に立てなくて」
「そんなことないよ。ジュンイチ君、ポケモンの技や特性についていっぱい知っているし、何よりタイプ一致で技の威力が上がるってこと聞いて、私感心しちゃったもん。あんなこと、学校でも教わらなかったし!」
「それは父さんから聞いたけどね」
まあ俺だけが知ってる風にしてたら、なかなか怪しい部分が出るもんね。お父さん、俺の犠牲になってください。
「それでも、その歳でポケモンに対する知識がいっぱいあるのはすごいと思う。私、恥ずかしいなぁ。自分より年齢の低い子に知識が劣ってる」
「俺だって知らないことだらけじゃん。だからお互い様だよ」
「ジュンイチ君の場合、普通の知識がないからなぁ……」
苦笑するコトネさんを見て、俺も思わず苦笑い。
ポケモン達との食事は、こうして過ぎていった。
*****
「すぅ……」
「……」
「…………寝れん」
現在の状況。
右。コトネさんの寝顔。左。俺の嫁の寝顔。
駄目だって。俺って横向きじゃないと寝れないんだって。どうにかしてくれ。
食事が終わって二時間後。一通り会話した後、二人でテントの中で寝袋被って寝ている最中である。
「……てか何でイーブイにもドキドキしてんだよ」
普通おかしいだろ。奴はポケモン、俺は人間! 根本から何もかも違うんだよ俺たち。
た、多分……横見て寝てないから動悸してるんだろうな、うん。俺は横向かないと寝れない性質だしね。二度も言うけど。
そんな訳で、まず右を向いてみる。
可愛いコトネさんの寝顔。いびきも涎も出てねーよ。なんだこの美少女。普通少しぐらいいびきかくだろ。
寝顔も美少女。中学校ではさぞかしモテたことであろう。男子だって、可愛い子じゃないとスカートめくりなんかしないって。
よく男子にされていたらしい。それで同世代の男が心底嫌になったんだと。
まあ男たちの気持ちも分かる。こんなに可愛い子の聖域を拝みたい、その想いは何物にも代えられない。
ああ、やべ。変なこと考えすぎだろ俺。
――オイタしちゃいけない?
ほら、だからこんな考えが浮かぶ。
体が十歳だからかムラムラしない――なんてことはないですわ。普通に興奮してます。興味あるよ、だって男だもの。
だからとりあえず一回胸揉んでそれ以上はやめとく。ワカバにまさぐられて起きたって話を聞いたしな。
うん、普通に柔い。BよりのCとみた。中学生にしては大きめだろうか。
役得役得――って、ホント何してんだ俺。今更後悔かよ。
「次に左っと」
いやー、俺の嫁、ココロたん! 寝顔もかぁいいね!
人間だったらさぞかし美少女だったに違いない。なんか可愛さの中に凛としたものを感じるね。
しかし嫁にするとしたら、進化させる奴も考えないとな。リーフィア、エーフィ、ブラッキー、シャワーズってところか。嫁という形を考えると。
一番はエーフィだなぁ……。せっかくの雌だし。可愛いのにしないと。
しかし性格本当に何なんだ? 意地っ張りとか勇敢とかなら余裕でリーフィアにするんだけど。でも性格臆病だったら……って、あんなヒノアラシと同じ性格なんてあり得ないか。どう考えてもおかしい。
原点に帰ろう。コイツの初めの印象を考えるんだ。
まず俺に会って怖がる。逃げる。二回目に出会う。きのみを置く。おそるおそる食べてくれる。八回目ぐらい。俺にきのみくれる。食べると喜ぶ。十回目以降からこうしたきのみを分け合う動作を繰り返す。
……うん、普通の反応だと思う。ここから考えるに――
寂しがり屋はまずないだろう。じゃないと一人でぼっち行動とかしない。んじゃきまぐれ? しかしきまぐれというには行動がきちんとしすぎている。
穏やか……と言えば、戦闘を見る限り全然穏やかに見えない。おとなしい……これが妥当なんだろうか。
ホント普通だな! マジ人間みたい。俺の見てきたポケモンの性格、あまりに濃すぎたからなぁ。
「……いや、待てよ?」
これって性格濃い方が能力の差ができやすいって考えた方がいいのかな。
そうなると、別段として性格考えなくていいんじゃね? うわ、俺偉すぎだろ。
んじゃエーフィに決定! もう知ーらない! 性格なんて関係ねーよ! 俺は嫁を嫁らしく作り上げるだけだ! 強い嫁に仕立て上げるんだ!
よっしゃ、今日からめっちゃ毛づくろいしまくってなつき度上げまくるぞ!
「よろしく頼むな、ココロ」
俺の嫁かつ俺の相棒たるココロの名前を静かに唱え、ふさふさの首元を撫でた。
何故か、その表情が少しだけ柔らかくなった気がした。
第七話でした。
R15はこういう時のためのものでした。
それとコトネの歳とトレーナーになりたかった理由も……。案外あっさりしすぎた感が否めないですけど、こういう感じで宜しくお願いします。
では次話で。