【うすほそ】軽部生海とかいう女性声優wwww【低音ハスキーボイス】 作:おフィ
顔合わせから数週間が経ち、迎えたダンスレッスンの日。軽部はこの日が来るのが憂鬱でならなかった。
運動神経は悪くないと思う。だがダンスという運動神経とは別の技術を要求される手合いとは、相性が悪かった。
養成所でもダンスレッスンはあったが、その時も講師からの評価は高くなかった。
軽部がスタジオに入ると、ViZと隼瀬の二人が既に来ていた。この二人は確か、顔合わせの時も早く到着していた。
余程の心配性なのか、単に早めに到着したい性分なのか。
「軽部さん、おはようございます」
「ぉはようこざいます……」
二人とも落ち着いた笑みを浮かべ、挨拶をしてくる。軽部はそれにしっかりとした返事を返そうとしたが、残念ながら出だしと終わりの声が小さくなってしまった。
二人はそんな軽部を気に留めることなく、軽い雑談を始めた。
「お二人はダンスの経験はあるんですか?」
ViZが言う。ダンスレッスン初日で聞くこととしては普通の内容だった。
「僕は無いですね、軽部さんは?」
「ぁ、俺も無いです……」
隼瀬が無いと言った時、軽部は安心した。自分だけではない、というのは不安をかなり和らげてくれる。
「良かった。実は僕も無いんですよ」
ViZがどこか安心した様子で言う。それに対し軽部は、意外だと思った。この高身長イケメンは社交ダンスやジャズダンスが似合いそうだと勝手に思っていたから。
奇しくもダンス未経験が三人揃ったということで、レッスンに対する不安を吐露し合う。すると徐々にキャストが集まり、やがてダンスの講師と思わしき人物が入ってくる。
「おはようございます」
「おはようございます!」
顔合わせの時も思ったが、声に圧がある。女性の声ではなく、男性の太い声だから余計にそう思うのだろう。
「うん、いい返事ですね。これから、このアイドルート Free!の振り付けを担当しますMASAKIといいます。皆さん、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
返事を返しながら、軽部は思う。少し、チャラそうな見た目をしている。
ダンスを極める人なんて大抵が陽キャだという偏見があるのも大きいが、それでもこのMASAKIという男の見た目は、軽部には少し軟派そうに見えた。
——だが、その考えは甘かったと思い知らされることになる。
ダンスレッスンが始まる前、ウォームアップの段階からその片鱗は見えていた。割と長めのストレッチを終えてプランクをしている時だった。
筋力が無い軽部がプランクに苦戦するのは必然のことだったが、それを見てMASAKIは。
「軽部くん、下がってきてるよ! もう少しだけ踏ん張って!」
「っ、はい……!」
この時思った。この講師、話し方に反して多分全然優しくねぇぞ、と。優しくない、というのは語弊があるかもしれない。
少なくとも、仕事に手を抜かない人間である、ということがこの段階で伝わってきた。
「よしっ、プランク終了!」
合図がされると、軽部はベタッと倒れ込む。息は荒くなっているし、腕はもうプルプル。腹筋もかなり痛みがある。
「軽部くんは筋力には自信が無い感じかな?」
「……はい。すみません」
「いやいや、これからだからね! 聞いた話によると、アイドルートは運動が苦手な人も立派に踊れるようになるらしいからね。僕も、軽部くんがちゃんと踊れるようになるために頑張るよ!」
その言葉は、既に疲れている身体に沁みた。少なくともこの人は、これだけで自分を見捨てようとはしない。
むしろ、アイドルートの一員になれるように尽力してくれる人だ。
そう分かったら俄然やる気が出てきた。軽部は重い身体を持ち上げ、水分補給をしに行く。
「では、今日は軽くステップを踏むところから始めましょう。僕の動きを真似してみてください」
MASAKIはそう言って踊り踏み始める。一回は見本を見て、二回目から一緒に踊る。
見るからに簡単そうなステップ。なのに一部のキャストは途中でリズムがズレたり、何か動きの感じが違うという事態が発生した。
(……なるほど。軽部くんと、有涼くんかな)
鏡で動きを確認しながらMASAKIはそう確信した。この二人は、恐らくダンスが苦手だ。
軽部はリズム感は悪くないがどこか自分の動きに自信が持てていない感じがあるし、有涼は動きの大きさは悪くないが、リズムが途中からズレていく。
そして軽部は、自分の身体を操ることに慣れていなさそうということも分かった。恐らく、運動の経験自体少ないのだろう。
対して有涼は身体の動かし方は分かっているが、そもそもダンスに慣れていない感じがある。
それを確認したMASAKIは、この二人への接し方を頭の中で組み立てるのであった。
「空賀くんは経験者なんだっけ?」
「はい。アイドルを少し」
「うんうん、いいね。君は問題無さそうだ」
「ありがとうございます」
元アイドルの空賀は流石の一言に尽きる。講師と同じ動きをしているのに、何かが違う。
そんなキャストが居た中で、空賀だけは講師と同じような動きをしていた。
「じゃあ今日はこのステップを完璧にするところまでやろうか!」
「はい!」
初歩的なステップ。でも、それを顔をしっかり上げてこなすというのは、意外と難しい。
つい自分の動きが合っているのか、下を向いて 確認したくなる。その度にMASAKIに指摘されハッとして顔を上げる、その繰り返しだった。
「……そこまで!」
MASAKIの合図で、動きが止まる。MASAKIは笑顔のままパチパチと手を叩く。
「皆、初日にしては良かったよ! 次回、二週間後は始めにこのステップのおさらいをサラッとして、軽めに一曲踊ります」
一曲踊る、という言葉に少しざわつく。やっとステップが踏めた段階なのに、もう曲に合わせて踊るのか。
そんな空気を察したのか、MASAKIは真剣な表情で語り始める。
「いいかい? スケジュールが決まれば、基本的に延期は無い。そして君たちは、最高のステージを届けることが仕事。そのためには、短い期間で詰め込むことだってあるんだ」
その言葉に、背筋がスッと伸びる。確かに先輩キャストが生放送やラジオなどで、このライブの時はレッスン期間が短くて大変だった、という様な話をしていたことがあった。
それをファンとして聞いていた時は「凄いな」くらいだったが、いざ自分たちがやるとなると、凄いなんてものではない。
「厳しいことを言っているのは分かっています。けど、いずれ君たちもそういう経験をするのだから、今のうちに慣れておいた方がお得だよねって話なんだ」
とはいえ、アイドルート Free! が全世界に公開されるのはだいぶ先の話。なのでMASAKIもそこまで詰め過ぎにはしない、と付け足す。
「ダンスに慣れないうちから詰め込みすぎて怪我しちゃったら大変だからね、そこそこ早めくらいのペースでいくよ。いいかな?」
「はい!」
「うん、いい返事だ。じゃあ後で課題曲を送るので、今日は解散!」
解散の合図と共に、一斉に動き出す。と言っても全員、自分の荷物の方へ向かうだけなのだが。
軽部は水分を補給して、考える。次のレッスンは一週間後。たった二週間で、一曲分の振り付けを頭に入れられるのだろうか。
そう考えてから、やめる。MASAKIも言っていたが、アイドルートではダンスに自信の無い人が踊れる例が多数ある。
自分もそうなれるように努力する。ただ、それだけのことだ。
「お疲れ様でした」
一人、また一人とスタジオから出ていく。軽部もスタジオを出て、更衣室で着替えてからビルの外へ出だ。
春の風が、心地良い。軽部はまだ少し冷たい風を浴びながら、駅へと向かうのであった。
今軽部のイラスト依頼しているので少々お待ちを……。
うすほそなイケボのイケ女です(癖を詰め過ぎ)。