【うすほそ】軽部生海とかいう女性声優wwww【低音ハスキーボイス】   作:おフィ

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4th Voice

 軽部は、そのメッセージを見た時に安堵した。MASAKIから送られてきたメッセージには、『一曲って言っちゃったけど、一曲の一番だけでした。不安がらせていたら、ごめんなさい!』と書かれていた。

 たった二週間で一曲をフルで通すのではなく、一番終わりまで。そう考えた瞬間、一気に気分が楽になった。

 

(……とはいえ、大変なんだよな)

 

 ダンス未経験。踊った経験といえば、養成所のダンスレッスンと学校の授業だけ。

 そして、そのどちらの経験も自信に繋がるような結果は残せなかった。

 不安は、ある。だが、本番は待ってくれないとMASAKIは言っていた。なら、ウジウジ考えてないでやるしかないだろう。

 軽部はクローゼットから動きやすいTシャツとズボンを手に取ると、すぐに着替えて動画を確認する。

 MASAKIから送られてきた動画の曲は、軽部でも聴いたことがある有名な男性アイドルのソロ曲だった。

 追加で送られてきたメッセージには、『比較的簡単だけど基礎が詰まった良い課題曲だよ!』と書かれていた。

 確かに、見た目は簡単そうだった。パッと見で激しく動いているようには見えないし、難易度の高い技をしている訳でもない。

 むしろ、サビなどにはキャッチーな振り付けが盛り込まれていて、覚えやすい。

 

(……これを、二週間でか)

 

 軽部はダンス素人。振り付けを覚えるだけでも一苦労なのに、アイドルらしく見栄えまで意識しないといけない。

 それはきっと、想像よりも難しいのだろう。

 直感でそう思った軽部はスマホを機材に繋いで大きなモニターに映し、確認しながら踊る。

 一階だから、下の階の住人に配慮しなくて済むのは良かった。軽部は黙々と映像通りのダンスをこなしていく、が。

 

(……いや、ターン出来ないんだが)

 

 正確には、回るだけなら出来る。だが、回った後に綺麗に止まることが出来ない。この曲は、最後にターンして終わる。

 フィニッシュのタイミングでフラついてしまったら、非常にダサくなる。だからターンは確定で出来るようにしないといけない。

 

(あとは……ここか)

 

 Bメロに入った直後、ステップのリズムが変わるところ。Aメロのリズムにばかり気を取られていると、絶対ここでズレる。

 だが軽部はまず、ターンを完璧にしようと決意する。終わり良ければ全て良し……ではないが、終わりが決まっているかいないかで見栄えはかなり変わるだろうから。

 

(……ムズいな)

 

 しばらく経って、そう実感した。やはり、回るだけなら簡単だ。だが、その場で綺麗に一回転してピタッと止まるのは、かなり難しい。

 

(これに加えてBメロのステップもある。更に全体の振りも覚えないといけない……キツいな)

 

 だが、誰かに頼るという選択肢は無い。正確に言うと浮かんだが、すぐに切り捨てた。

 ほぼ初対面の相手にダンスを教えてくださいと言えるほどのコミュ力は軽部に備わっていない。

 それに、空賀以外に誰がダンスが得意なのかも分からない。空賀に聞くという手もあるが、アイドル経験者に自分の下手なダンスを見せるのは、恥ずかしい。

 故に、自分一人で解決するしかないのだ。

 

(まず振りから覚えるか? いやけど、ターンとステップも……)

 

 一体どこから始めればいいのか、軽部には分からなかった。色々考えた末に、ターンを習得するために一日を費やした。

 翌日も引きこもってダンスの練習をしようとしたが、その前に軽部は思い出す。

 一人だけ相談できる人がいるじゃないか、と。

 

『今、時間ありますか? 少し相談したいことがあって』

 

 返信はすぐに来た。

 

『大丈夫ですよ。どうされました?』

『中村さんって確か、ダンス経験者でしたよね? 振り入れで躓いているんですけど、何からやったらいいかとか教えてもらえませんか? 課題曲はこれです』

 

 次の返事は、すぐには来なかった。中村も何をどう伝えればいいのか悩んでいるのだろう。

 

『私流ではありますが、私ならまず全体の振りを身体に覚え込ませます。最低でも、見ないで踊れるくらいには。その後に細部を詰めていきます』

 

 返事は五分後に来た。追加で来たメッセージによると、まず全体像を掴めないと一曲通して踊るという課題をこなせなくなる可能性が高いからだという。

 

『あと、手より足から覚えてください。足の動きから覚えることで、自然と手の動きもついてくると思いますよ』

『なるほど……あと、ターンが出来ないんです。その場で回れないし。ピタッと止まれないです』

『顔を切る、という言葉があります』

『顔を切る、ですか?』

『はい。回る直前までは正面を向いて、回った瞬間に風を切るように身体と顔を一瞬でまた正面に戻すことです』

 

 中村曰く、良い練習方法があるとのこと。まず両足で立った状態で、顔を正面に向けたまま身体を限界まで横に向けて、もう動けないとなった瞬間に顔と身体を一瞬で正面に戻すというもの。

 

『あと、正面には目印があるといいですね』

『なるほど……やってみます、ありがとうございます!』

『いえいえ。お役に立てたなら何よりです』

 

 軽部はスマホの画面を消し、早速壁に色付きのテープを貼って目印を作る。

 

(顔は正面のまま、身体を限界まで横に向ける)

 

 そして、身体と顔を一気に正面に戻す。

 

「お、おお……?」

 

 昨日までよりは、上手くいった気がする。それでも最後はやっぱりフラついてしまった。

 

(まあ、一回で出来るなんて思ってなかったし。ターンはこれで練習するとして……全体の振りを確認しないと。足から、だったよな)

 

 足の動きを観察しながら、軽めに動く。画面の向こうのアイドルは簡単そうにやっている。

 だが自分でやってみると、案外難しい。確か、このアイドルはダンスが上手いことで有名だったはずだ。

 上手い人ほど、難しい技を簡単そうにこなせるのは知っていた。だが、こうして自分との違いを体感すると、見る目が変わる。

 今まで以上に、尊敬する。ドラマやバラエティなどに出演しつつ、ライブもこなす。そんな大変なことをしている彼らに、畏怖に近い感情すら覚えた。

 

 ―六日後。

 

 ターンに費やした初日を含めて、七日目。

 軽部は全体の振り付けを見ないでも踊れるようになった。足の動きから先に覚えた方がいい、という中村の助言は大層役に立った。

 足がしっかり動くという確信があると、自然と手も動いてくれる。軽部はその後も黙々と全体を通して踊る練習をして——十日目。

 この日は、Bメロ入りのステップを練習すると決めた。フィニッシュのターンも大事だが、それは練習の最後にちまちま練習していたのである程度は様になってきていたから。

 

(えーっと、こっからリズムが変わるんだよな)

 

 そこまで大幅にリズムが変わる訳ではない。が、それがかえって難しい。

 大胆にリズムが変わってくれた方が、こちらとしても一旦リセットする感覚でやれるのに。

 そこまで考えて、それがMASAKIの狙いだと気付く。

 簡単そうに見えて、意外と難しい。その、丁度良い難易度のダンスをしっかりこなせるか見たいのだろう。 

 

(……やってやる)

 

 試されているなら、乗り越える。軽部の心に、静かに火が灯った。

 そうして、十日目はステップの練習と数回の全体通しで終わった。

 迎えた、十三日目。ダンスレッスンを明日に控えたこの日は、ようやくターンに本腰を入れる。

 

(顔を、切る)

 

 回す直前まで、前を向く。回り始めたら、一気に戻す。自分のなかの一本の軸を意識して、その軸がブレないように。

 

「……出来た」

 

 練習開始から一時間ほど経った時だった。その瞬間は意外とあっさり訪れた。

 クルッとその場で一回転して、静止。その動きがそれなりに上手く出来た。

 

(……この感覚を、もう一回)

 

 一回出来ただけで浮かれる気はない。何故ならプロは常に完璧を求められるものだから。

 一回出来たからいいのではなく、毎回同じことを出来るようにしなければいけない。

 

(つ、疲れた……)

 

 時刻は午後21時半。休憩も挟みつつだがずっと踊り続けていた軽部は、床に座り込む。

 身体は、痛い。MASAKIからプランクはレッスンの最初に必ずやると言われたことで、日課に昇格していた。その影響がモロに出ている。

 

(……明日か)

 

 他のキャストは、どれだけ踊れるようになっているのだろうか。

 そう考えながら、軽部は着替えを手に浴室へと向かうのであった。

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