TS女神の地球救済政策 ~26年かけて異世界を救った元勇者、絶世の女神になって帰還したら地球が滅びかけていたので、ダンジョン災害で救います~ 作:TS女神
【Side:東都理工大学教授 榊原恒一】
私は、オカルトというものが嫌いだ。
幽霊、超能力、予言、呪い。世の中には科学では説明できないとされる現象がいくらでも存在するが、その大半は調べてみれば勘違いや思い込み、あるいは意図的な捏造で説明できる。
もちろん、現代科学ですべての現象を説明できるなどと思い上がっているわけではない。分からないものは分からない。それでいいのだ。
問題なのは、分からないものに対して十分な検証もせず、『神秘』だの『奇跡』だのと名前をつけて思考を止めることである。観測し、仮説を立て、再現性を確認する。それが私の信条だった。
だからこそ、世界中で発生しているという一連の『神託』についても、私は慎重な立場を取っていた。
一度目の夢も二度目の夢も見ている。あの白く巨大な空間も、その中央に立っていた銀白色の髪の女性も、これまでの人生で見たどんな夢より鮮明に覚えていた。
彼女は自らを女神ルミエラと名乗り、この地球を管理する担当神になったと宣言した。さらに、およそ一年後には世界各地にダンジョンが発生し、その内部には『魔物』と呼ばれる危険な生物まで現れるという。
世界各地の人間が、ほとんど同じ内容の夢を見ている。それ自体が極めて異常な現象であることは否定しようがない。
だが――。
「だからといって、あれが本当に神だという証明にはならん」
数日前、研究室で学生たちにそう言ったのは私自身だった。
未知の技術によるものなのか、未知の生理現象なのか、それとも現在の科学では想定すらできない何かなのか。原因は分からない。
しかし、分からないから女神である、という理屈だけは認めるつもりがなかった。
ましてや魔力や魔法、ダンジョンなど、これまで物語の中にしか存在しなかった言葉を夢の中の女性が口にしたからといって、そのまま事実として受け入れるほど私は素直ではない。
そんな私が三度目にあの場所を訪れたのは、それから間もなくのことだった。
◇ ◇ ◇
気がつけば、また同じ空間に立っていた。
どこまでも続く淡い青白色の空と、雲海の向こうまで並ぶ巨大な白い柱。足元には磨き上げられた鏡のような白い床が広がっており、その中央には銀白色の長い髪と蒼い瞳を持つ、人間離れした美貌と体つきの女性が立っている。
もはや見間違えようもない。
(……三度目か)
一度目ほどの驚きはなかった。
世界中の人間が同じ夢を見たという報道も、二度目の神託が各国で一致していたことも確認されている。この夢が再び訪れること自体は、十分予想できていた。
やがてルミエラがゆっくりと目を開く。
「皆さん、再びお会いしましたね」
柔らかな声が、広大な空間へ静かに響いた。
「前回は、ダンジョン内部に危険な『魔物』が存在すること。そして、これから一年を使って、皆さんに身を守るための知識と術をお教えしていくことをお話ししました」
そこまでは覚えている。問題は、その『術』とやらが何なのかだ。
「今回は、その第一歩として――『魔力』についてお話しします」
私はわずかに眉を寄せた。ついに来たか。
「現在の地球には、すでに異世界から流れ込んだ魔力が存在しています。そして、この星に暮らしている皆さんの身体にも、ごく少量ではありますが、魔力が馴染み始めています」
(身体の中に?)
当然ながら、そんなものを感じた記憶はない。医学的な検査で未知のエネルギーが検出されたという報告も、少なくとも公には出ていなかったはずだ。
「今はまだ、自分の中に魔力が存在していることを自覚できない方がほとんどでしょう。ですが、意識して感じ取る方法を覚えれば、多くの方が少しずつ認識できるようになります」
ルミエラが胸元へ片手を添える。
「難しいことをする必要はありません。まずは身体の力を抜き、普段の呼吸を続けながら、自分の身体の内側へ意識を向けてみてください」
私は半信半疑ながらも、その言葉に従った。夢の中なのだから、試すだけなら何の損もない。
「心臓の音や呼吸とは違う、身体の内側をゆっくりと巡っている感覚を探してください。温かく感じる方もいれば、冷たく感じる方、僅かな圧力や流れとして感じる方もいます。感じ方には個人差がありますので、他の人と同じである必要はありません」
(随分と曖昧だな)
そういう説明は、いわゆる疑似科学でもよく使われる。自分だけに分かる感覚であり、個人差があり、すぐに分からなくても問題ない。これでは、いくらでも逃げ道を作れる説明だ。
私は内心で評価を下げながら、それでも言われた通り意識を集中してみた。当然ながら、この時点では何も分からない。
「すぐに感じ取れなくても心配する必要はありません。一度で分からない方は、目を覚ました後も、一日に数分程度試してみてください。無理に長時間続ける必要はありません」
(まあ、そうだろうな)
私は小さく息を吐いた。ところが、ルミエラの説明はそこで終わらなかった。
「そして今回は――魔力を感じ取ることができた方へ、もう一つだけお教えします」
彼女が片手をゆっくりと持ち上げる。
「皆さんに覚えていただく、最初の魔法です」
(…………魔法?)
思わず目を細めた。
魔力を感じろと言うだけなら、まだ本人の主観でいくらでも説明できる。だが、魔法となれば話は別だ。
もし彼女が言う魔法とやらを、目覚めた後でも本当に使えるというのなら、事情は大きく変わってくる。
「これからお教えするのは、《光球》という非常に簡単な魔法です」
ルミエラの掌の少し上に、小さな白い光が生まれた。
最初は豆粒ほどだった光がゆっくりと膨らんでいき、やがて卓球の球ほどの大きさになると、柔らかな白い光を周囲へ放ち始める。
「《光球》には、物を燃やすほどの熱も、人や物を傷つける力もありません。周囲を明るく照らすだけの魔法です」
彼女が軽く手を動かすと、白い光もその動きへ合わせるように空中を移動した。
「魔力を感じ取ることができた方は、その一部を掌へ集めるように意識してみてください。そして、集めた魔力に『光る』という形を与えます」
(……夢の中では、いくらでも見せられる)
目の前の光景がどれだけ美しくても、それ自体には何の証拠能力もない。ここは夢なのだから、空を飛ぼうが炎を出そうが、目の前の女性が巨大化しようが、それだけなら何も不思議ではない。
重要なのは、目を覚ましてからだ。
「最初から大きな光を作る必要はありません。ほんの僅かでも、目に見える光が生まれれば成功です」
ルミエラが微笑む。
「すぐに成功しなくても、焦らないでください。魔力を感じ取ることと同じように、魔法を使えるようになるまでの時間にも個人差があります」
そして、手の上に浮かぶ光球をこちらへ見せるようにしながら、ゆっくりと言葉を続けた。
「目を覚ました後、魔力を感じることができた方は試してみてください」
白い光が、彼女の掌の上で静かに輝いている。
「これが、皆さんが最初に覚える魔法――《光球》です」
◇ ◇ ◇
「…………」
目を開けると、見慣れた寝室の天井が視界へ入った。枕元に置いてある時計を見ると、午前五時四十七分。普段起きる時間より少し早い。
「三回目……か」
身体を起こして眼鏡を手に取る。
夢の内容は鮮明に覚えていた。魔力の感じ方と、そして《光球》という魔法。私はしばらくベッドの上で座ったまま考えていたが、どうするかなど考えるまでもなかった。
「試せと言われたのなら、試すしかないな」
どうせ何も起こらない。それならそれで一つの結果だ。
私はベッドの上で背筋を伸ばし、夢の中で教えられた通り、ゆっくりと呼吸しながら自分の身体へ意識を向けた。
心臓が動き、呼吸に合わせて胸が上下している。腹部には寝起き特有の重さがあり、肩も少し凝っている。
それ以上のものなどない――そう思いかけた時だった。
「…………ん?」
僅かな違和感があった。
最初は血流かと思ったが、どうにも違う。腹部の奥、正確な場所を指し示すことは難しいものの、身体の内側に今まで一度も意識したことのない感覚が存在していた。
温かいようにも感じるが、温度とは少し違う。ごく微弱な何かが、ゆっくりと身体の中を巡っている。
「……まさか」
姿勢を変えてみても、その感覚は消えない。呼吸を止めても残っており、脈拍を測りながら意識を向けても、心拍とは明らかに周期が違っていた。
私は眼鏡を押し上げる。
「いやいや」
まだ何も証明されていない。
夢の中で身体の内側へ意識を向けろと言われたため、普段なら無視している身体感覚を勝手に『魔力』だと思い込んでいるだけかもしれない。人間の認知など、いくらでも騙される。
問題は次だ。
私は右手を前へ出した。
「確か……掌に集める、だったな」
先ほど感じたものへ意識を向け、その一部を右腕へ流すように想像してみる。
「…………」
何も起きない。
「まあ、そうだろう」
少し安心した自分がいた。これでいきなり光でも出たら、二十年以上物理学を研究してきた自分の常識が朝食前に吹き飛んでしまう。
もう一度、身体の奥にある奇妙な感覚を探し、今度はそれが肩から腕へ、そして掌へ流れていく様子を意識してみる。
すると、右手が僅かに温かくなったような気がした。
「気のせいだ」
声に出して否定しながら、夢で教えられた内容を思い出す。集めた魔力に、『光る』という形を与える。
「形を与えると言われてもな……」
あまりにも非科学的な表現だ。光には波長があり、光子があり、エネルギーがある。何をどうすれば、体内にあるとされる謎の何かから光が生まれるというのか。
分からない。分からないが――。
「……《光球》」
試しに口に出した。
別に詠唱が必要だとは言われていない。単なる気分である。
その瞬間だった。
「…………」
掌の上に、ぽう、と小さな白い光が灯った。
「…………」
私は動かなかった。いや、動けなかったと言った方が正しい。親指の爪より少し大きい程度の頼りない光で、明るさもせいぜい小型の常夜灯程度だろう。
それでも、確かに光っている。
「…………は?」
五十三年生きてきて、これほど間の抜けた声を出した記憶はなかった。
右手をゆっくり動かせば、光も一緒に動く。顔を近づければ眩しく、左手をかざせば掌に薄い影までできた。
試しに目を閉じても瞼の向こうが僅かに明るく、もう一度目を開ければ、やはりそこには白い光が浮かんでいる。
「待て」
私は慌てて枕元のスマートフォンを掴み、カメラを起動して画面を右手へ向ける。
「…………映っている」
画面の中にも、確かに白い光があった。
角度を変えても消えることはなく、動画撮影を開始して右手を左右へ動かせば、小さな光がそれに合わせて動く様子がそのまま記録されていく。
心臓が速い。先ほどまで測っていた自分の脈拍など、もはやどうでもよくなっていた。
「いや、待て。熱は?」
左手の指を恐る恐る近づけてみるが、ほとんど熱を感じない。さらに指先を近づけても火傷するような感覚はなく、ティッシュを一枚取って光のすぐ近くへ持っていっても燃えも焦げもしなかった。
「…………本当に、光るだけなのか?」
夢の中で説明された通りだった。私はしばらく無言でそれを見つめていたが、やがて耐えきれなくなった。
「……は」
笑いが漏れる。
「はは……」
自分でも信じられないくらい、口元が緩んでいた。
「本当に出た」
もう一度、掌の上を見る。
「魔法……」
普段なら鼻で笑っていた単語を、自分の口で呟く。だが今は、その言葉以外に何と呼べばいいのか分からなかった。
「いや」
私はすぐに首を振る。
未知の発光現象や未知のエネルギー変換と呼ぶことだってできる。だが、無理に言い換える必要があるのだろうか。
「……別に、無理に言い換える必要もないか」
夢の中の存在はこれを《光球》という魔法だと説明した。その手順を真似した結果、本当に同じ現象が再現された。なら、少なくとも現時点では《光球》と呼ぶのが最も簡単だ。
「まずいな……」
口ではそう言いながら、私は笑っていた。
「これは、まずいぞ……!」
◇ ◇ ◇
「教授、おはようございます」
「ああ、おはよう!」
「……教授?」
大学へ到着した私を見て、研究室の学生が不思議そうな顔をした。当然だろう。普段なら朝から必要以上に大きな声を出すことなどない。
「どうしたんですか? なんか今日、機嫌よくないですか?」
「そう見えるか?」
「見えます。怖いくらい」
「失礼な奴だな」
私は鞄を机の上へ置く。
「ちょうどいい。君、三回目の神託は見たか?」
「見ましたよ。魔力のやつですよね」
「《光球》は?」
「え?」
「試したか?」
「いや……起きてすぐ大学来たんで。というか、あれ本当にできるんですか?」
「できる」
「…………はい?」
私は右手を差し出した。
「見ていろ」
身体の内側へ意識を向ける。自宅で一度成功したためか、先ほどよりも魔力の感覚を捉えるのは簡単だった。
腕へ流し、掌へ集め、そこに光る姿を思い浮かべる。数秒後、掌の上に小さな白い光が生まれた。
「…………」
学生の目が見開かれる。
「…………教授」
「なんだ」
「それ、何ですか?」
「《光球》だ」
「いや、それは神託で聞きましたけど!」
「だから《光球》だと言っている!」
自分でも分かる。声が弾んでいた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 本当に!? 何か仕込んでないですよね!?」
「私が朝から君を驚かせるために手品を仕込んでくるような人間に見えるか?」
「今日はちょっと見えます!」
「いいからスマートフォンを出せ! 撮影しろ!」
「はい!?」
「それから研究室の連中を呼べ! 分光器も使うぞ。照度、スペクトル、表面温度、電磁場、測れるものは全部測る!」
「教授、落ち着いてください!」
「これが落ち着いていられるか!」
学生が完全に引いた顔をしたが、知ったことではない。
五十年以上生きてきて、昨日まで存在しないと思っていた魔法が今、自分の掌の上で光っているのだ。これで興奮するなという方が無理だった。
◇ ◇ ◇
「……では、本来なら前回の続きから始める予定だったが」
一限目、百人近い学生が座る講義室の前で、私は教卓に手を置いた。いつもなら雑談などせず、そのまま講義を始めるところだが、今日は違う。
「予定を変更する」
教室のあちこちから、小さなどよめきが起きた。
すでに三度目の神託について話している学生も多いのだろう。席についてからもスマートフォンを眺めている者が目立つ。
「君たちの中に、昨夜――と言っていいかは微妙だが、三度目の神託を見た者はいるか?」
ほとんど全員の手が上がった。
「では、魔力を感じることができた者は?」
今度は数が減ったものの、それでも二十人ほどが手を挙げている。思っていたより多い。
「《光球》に成功した者は?」
数秒の沈黙のあと、まず後方で一人、それから前方でも一人と手が上がり、最終的には三人になった。
「なるほど。では、まだ成功していない者にも分かるように、先に一つ見せておこう」
「先生?」
最前列の学生が首を傾げる。
私は右手を前へ出した。もう三度目ともなれば、最初よりかなり早い。数秒もしないうちに、掌の上へ白い光が灯った。
「…………」
講義室が静まり返った。
百人近い学生がいるはずなのに、驚くほど音がない。私は小さな光を掌の上で浮かせたまま、教室全体を見回した。
「これが、《光球》だ」
一秒、二秒、三秒と沈黙が続いた、その次の瞬間。
「「「うおおおおおおおおおっ!?」」」
教室が爆発した。
「マジ!?」
「先生できたの!?」
「本物!?」
「動画撮っていいですか!?」
「俺もやる!」
「ちょっと待て、静かにしろ!」
自分で見せておいて何だが、収拾がつかない。
「先生! どうやったんですか!?」
「神託で言われた通りだ!」
「俺、魔力分かんないんですけど!」
「焦るな! ルミエラも個人差があると言っていただろう!」
「先生、女神様のこと普通に信じてるじゃないですか!」
「神であるかどうかは別問題だ!」
私は即座に否定した。
「彼女が本当に神なのか、それとも我々の理解を遥かに超えた別種の存在なのか。それはまだ分からん!」
そこで一度言葉を切り、掌の上で輝く光を見る。
「だが――彼女が『魔力』と呼んでいる何らかの現象が存在すること。そして、彼女が教えた手順によって、この《光球》が現実世界でも再現できること。この二つは、もう私自身が確認した」
教室が少し静かになる。
「観測できる。撮影もできる。再現もできる。ならば、もはやオカルトではない」
自分でも、少し笑っていた。
「立派な研究対象だ」
「先生、めちゃくちゃ楽しそうですね」
「当たり前だ!」
即答すると、教室から笑い声が上がった。
「既存の物理学で説明できるのか、それとも根本から新しい理論が必要なのか。そもそも魔力とは何なのか。人体のどこに存在し、どうやって光へ変換されているのか。調べることが山ほどある!」
私は教卓へ両手をついた。
「場合によっては教科書を書き換えることになるぞ!」
「教授、今日の授業はどうするんですか!」
学生の一人が笑いながら尋ねてくる。
「…………」
私は少し考えた。
本来なら、予定していた講義を続けるべきだ。大学教授として、それが正しい。正しいのだが、掌の上には今朝までこの世界に存在しないと思っていた魔法が浮かんでいる。
「予定変更だ」
「やっぱり!」
「今日は《光球》を調べる!」
「うおおおおっ!」
「ただし遊ぶな! 成功した者は前へ来い! まだできない者も、教えられた手順以上のことを勝手に試すな!」
歓声が上がる講義室を見渡しながら、私はふと思った。昨日までなら、こんな光景を見せられても何かの冗談だと思っただろう。だが今は違う。
学生たちのあちこちで、夢の中で教わった通りに目を閉じ、自分の身体の内側へ意識を向ける姿が見える。
そのうち一人が声を上げた。
「あっ!」
全員の視線が集まる。女子学生の掌の上に、豆粒ほどの小さな光が浮かんでいた。
「出た……!」
本人が一番驚いた顔をしている。
「先生! 出ました!」
「ああ、見えている!」
「これ、本当に私が出してるんですか!?」
「そのまま維持してみろ! 無理はするな!」
すると、さらに別の場所からも次々と声が上がり始めた。
「俺も!」
「こっちも出た!」
「待って、写真撮る!」
「光量違わない?」
「先生、色がちょっと黄色いです!」
「全員勝手に動くな! 順番に見る!」
もう講義どころではなかった。けれど、これほど大学らしい時間もないのかもしれない。
誰も正解を知らず、教科書にも載っていない。目の前で起きている現象について、教授も学生も同じ場所から調べ始める。
その日の午前中、東都理工大学の一室では予定されていた物理学の講義が完全に中断され、学生たちの掌に浮かぶ小さな光を相手に、大騒ぎの観測と測定が始まった。
そして、それとほとんど同じことが世界中の至るところで起きていた。
昼を迎える頃には、動画投稿サイトやSNSへ無数の映像が投稿され始めている。
子供の掌に浮かぶ光や、会社の休憩室で大人たちが歓声を上げる様子、家族全員で《光球》を試している光景などが次々と共有され、病院や大学、研究機関ではすでに測定機器を使った検証まで始まっていた。
世界中の人間が同じ夢を見たというだけなら、まだ説明のつかない異常現象で済んだのかもしれない。
しかし、今度は違う。夢の中で教えられた方法によって、人類は現実世界で本当に光を生み出したのだ。
女神ルミエラが《光球》と呼んだ、小さな小さな光。
その日、現代の地球人類は初めて――自分たちの手で『魔法』を使った。