TS女神の地球救済政策 ~26年かけて異世界を救った元勇者、絶世の女神になって帰還したら地球が滅びかけていたので、ダンジョン災害で救います~ 作:TS女神
さて。
説明すると決めたはいいものの、問題はどう説明するかだった。
「銃が効くか効かないかだけなら簡単なんだけどな……」
翌日、俺は自室のベッドに腰掛けながら、目の前に浮かべた半透明の画面を眺めていた。そこには、昨日一般向けの意見窓口へ寄せられた質問が並んでいる。
【なぜ戦闘訓練には銃がないのですか?】
【一般的な銃器は魔物に通用しますか?】
似た内容をまとめれば七十万件以上。世界全体で考えれば驚くほど多い数字でもないのかもしれないが、それでも無視していい数ではない。
何より、その疑問はもっともだった。俺が最初に訓練用として用意したのは、剣や槍、棍棒、盾、弓、クロスボウといった、異世界で魔物と戦っていた頃にはごく自然だった武器ばかりだ。
けれど、ここは地球である。国によっては剣や弓より銃器の方が遥かに身近なのだから、なぜ戦闘訓練に銃がないのかと疑問に思う人間が出るのは当然だった。
「……まあ、俺が異世界基準で考えすぎてた部分もあるよな」
普通の銃が魔物に効かないわけではない。むしろ、浅い階層に出す予定のコボルドやゴブリン程度なら、下手に剣を振り回すより遥かに安全で強力だ。
問題になるのは、その先である。
魔力を持つ生物が当たり前に存在する世界では、強い魔物ほど肉体そのものが普通ではなくなっていく。筋肉や骨格が魔力で補強され、皮膚や鱗が異常に硬くなっていたり、多少の傷なら短時間で塞がったりするためだ。
もちろん、ある地点を境に物理攻撃が突然通用しなくなるわけではない。ただ、同じ一発で与えられる損傷が小さくなり、一体を倒すために必要な火力も増えていく。
「そこを言葉だけで説明しても、分かりにくいよな」
昨日考えていた通り、神託空間で実際に見せるのが一番早いだろう。
魔力そのものは普通の人間には見えないが、神託空間なら可視化できる。身体から武器へどう魔力が移り、使用者の手を離れた後にどう減衰していくのかまで映像として見せれば、言葉だけで長々と説明するより直感的に理解できるはずだ。
「女神様が剣振り回しても、まあ……別にいいよな」
神様だから武器を使ってはいけないなんて決まりはないし、俺自身が説明しながら実演した方が細かな調整もしやすい。
そこで神託空間には剣や弓、クロスボウを用意し、銃については内部構造まで見せられる模式図を作ることにした。魔力の流れも淡い光として可視化しておけば、どこまで力が伝わっているのか一目で分かるだろう。
「これなら分かりやすいか」
何度か説明の順番を確認した後、その日の神託として世界へ固定する。
◇ ◇ ◇
淡い青白色の空の下、鏡のように光を反射する白い床がどこまでも広がっている。雲海の向こうには巨大な白い柱が立ち並び、静かな光が空間全体を満たしていた。
見慣れた神託空間の中央で、俺はいつもの白銀の神衣を纏って立つ。
「皆さん、再びお会いしましたね。地球担当神のルミエラです」
世界中の人間へ向けて固定された神託が、眠りについた者から順番に届けられていく。
「今回は、皆さんから多く寄せられていた質問の中から、武器と魔力についてお話しします」
右手を軽く振ると、その手の中に一振りの剣が現れた。
「言葉だけでは分かりにくいと思いますので、実際に見ていただきましょう」
柄を握り、そのまま自然に剣を構える。何十年も繰り返してきた動作だけに、身体が変わっても構え方そのものを忘れることはない。
俺の身体へ淡い青白色の光を浮かび上がらせる。
「まず、剣や槍のように、使用者が直接持ち続ける武器についてです」
胸元から肩へ流れた光は腕を通って掌へ向かい、そのまま柄を越えて刀身へと移っていく。やがて剣全体が淡い光に包まれた。
「身体強化と同じように、魔力は自分の身体だけでなく、触れている物へ流すこともできます。剣や槍の場合、使用している間は手で握り続けていますから、戦闘中も継続して魔力を送り込むことができます」
説明に合わせて剣をゆっくりと振ってみせるが、刀身を覆っている光は途切れない。そのまま一度剣を消し、今度は弓と矢を取り出した。
「弓も基本的には同じですが、少し仕組みが変わります」
矢をつがえて弦を引き絞ると、身体から流れた魔力が腕を通って弓へ移り、さらに弦と矢へ伝わっていく。その様子が分かるよう、青白い光としてはっきり浮かび上がらせた。
「矢をつがえ、弦を引いている間であれば、使用者から矢まで魔力を通すことができます」
そのまま指を離す。
鋭い音とともに放たれた矢は、遠くに用意した標的へ向かって一直線に飛んでいく。矢にはまだ魔力が残っているものの、俺の手を離れた瞬間から、それを覆っていた光は少しずつ薄くなっていた。
「一度手を離れれば、新たな魔力を送り続けることはできません。矢の中に残った魔力も、時間とともに少しずつ失われていきます」
とはいえ、普通に弓を使う程度の距離であれば、着弾まで必要な魔力を残すことはそれほど難しくない。
続いてクロスボウを取り出し、装填したボルトへ直接手を触れる。
「クロスボウも基本的には同じです。ボルトへ触れている間であれば、装填時や射撃直前に魔力を込めることができます」
実際にボルトへ魔力を流し、淡い光が内部へ浸透していく様子を見せる。ここまでなら比較的単純な話だ。
「では、銃はどうでしょうか」
クロスボウを消し、代わりに俺の横へ現代的な拳銃の模式図を浮かべる。銃全体を半透明にすると、内部にある弾倉や薬室、銃身、そこに収められた弾丸までが一目で分かるようになった。
「銃を手に持っている以上、銃本体へ魔力を流すこと自体は可能です。ただし、現在地球で一般的に使われている銃器は、使用者の魔力を弾丸へ伝えることを前提に作られていません」
模式図の中で、握っている手から銃本体へ魔力が流れる様子を青い光で示す。しかし、その光は内部に収められている弾丸へ同じようには伝わっていかない。
「特に、発射される弾丸へ安定して魔力を込め続けるという点では、剣や弓に比べて扱いにくくなります」
もちろん、まったく不可能という意味ではない。
「弾丸そのものへ直接触れ、事前に魔力を込めることはできます。しかし、先ほどの矢と同じように、新たな魔力が供給されなければ、内部に残った魔力は時間とともに散っていきます」
今度は魔力を込めた弾丸を模式図の中に表示し、その光が時間とともに少しずつ薄れていく様子を見せる。
「素材や構造を工夫すれば、この問題を改善できる可能性はあります。ただ、現在一般的に使われている銃器は、そうした用途を想定したものではありません」
そこで一度言葉を切った。
ここまで聞けば、銃そのものが魔物には向かないのかと思う人間もいるだろう。だからこそ、次の部分はきちんと分けて説明しておく必要がある。
「ただし――ここまでの説明は、『銃が魔物に効かない』という意味ではありません」
俺の横へ新たな映像を浮かべる。そこには一体のコボルドと、拳銃を構えた人型の模型が表示されていた。
模型が引き金を引くと、乾いた発砲音とともに弾丸がコボルドへ命中する。その身体は衝撃で大きく揺れ、そのまま地面へ倒れ込んだ。
「浅い階層に存在する低位の魔物であれば、地球の一般的な銃器でも十分な効果があります」
次に映したのは、先ほどより一回り大きく、厚い皮膚と筋肉質な身体を持つ魔物だった。全身には薄く魔力が巡っており、銃弾を一発撃ち込んでも傷はつくものの、それだけでは倒れない。さらに二発、三発と続けて命中して、ようやくその動きが止まった。
「魔物が強くなるほど、魔力によって肉体そのものが強化されていたり、硬い外皮や鱗を持っていたり、再生能力を備えた個体も増えていきます。また、身体が柔らかく、弾丸が命中しても衝撃を逃がしてしまうものや、人間のような急所を持たないもの、そもそも通常の物理攻撃とは極端に相性が悪い魔物も存在します」
映像には、弾丸が身体を貫通してもほとんど動きを止めない柔らかな魔物や、骨だけの身体を持つ魔物が短く映し出される。さらに別の映像では、放たれた弾丸が半透明の魔物をそのまますり抜けていった。
「相手によっては、単純に弾丸の威力を上げるだけでは効率よく倒せない場合もあります」
さらに映像を切り替えると、今度は硬い外殻に覆われた大型の魔物が現れた。放たれた弾丸は外殻の一部を砕いたものの、それだけで致命傷を与えるには至らない。
「さらに、ある程度以上に強力な魔物になると、肉体の強化だけでなく、魔力そのものを防御に利用する個体も現れます」
映像の中で別の魔物が姿を現す。その身体を薄い光の膜が覆い、飛来した弾丸が触れた瞬間、光が揺らいだ。弾丸は完全に弾かれたわけではないものの、その勢いを大きく削がれている。
「こうした防御も絶対的なものではありません。十分な火力を加え続ければ突破できる場合もあります。ただし、その分だけ必要になる弾薬や火力も増えていきます」
説明に合わせて、何発もの弾丸を受けた魔力障壁が徐々に揺らぎ、やがて砕ける様子を映し出す。
「ですから、普通の銃弾が、ある場所から突然まったく通用しなくなるというわけではありません。問題になるのは、効くか、効かないかではなく、一体を倒すためにどれだけの火力と弾薬が必要になるかです」
映像を三つに分け、一発で倒せる魔物、数発を必要とする魔物、さらに多くの弾丸を撃ち込まなければ倒せない魔物を並べて表示する。
「個人が持ち運べる弾薬には限界があります。より強力な銃器を用いれば倒せる相手でも、その武器や必要な弾薬をダンジョン内部へ持ち運び続けられるかは別の問題です」
特に探索では、火力だけでなく、それをどこまで運べるかも重要になる。一方で、剣や槍なら、本人の魔力が続く限り戦闘中に何度でも魔力を送り込むことができる。
「そのため、ダンジョンの奥へ進み、より強い魔物を相手にするほど、魔力を直接利用しやすい武器の方が効率面で有利になる場面が増えていきます」
ただし、それは銃より剣の方が強いという意味ではない。
「繰り返しますが、銃器そのものが弱いという話ではありません。浅い場所では非常に強力ですし、より大きな火力を用いれば、強い魔物を倒せる場合もあります」
もっとも、ダンジョン内部では単純に火力を増やせばいいというわけでもない。銃声や爆発音、振動に反応する魔物もいるため、一体を倒すために大きな音を出した結果、周囲にいた別の魔物を呼び寄せることもあり得る。
もちろん、物理攻撃が通用する相手であれば、十分な威力を持つ攻撃で強引に突破できる場合もある。極端な話、大型の砲でも撃ち込めば、大抵の魔物は無傷では済まない。
ただし、それを一人の探索者が担いでダンジョンの奥まで持っていけるかとなれば、まったく別の話だ。
「では、なぜ現在の戦闘訓練に銃器を用意していないのか。これについても、いくつか理由があります」
俺の横へ世界地図を表示する。
「まず、銃器の所持や利用環境は国によって大きく異なります。日常的に銃器を扱う人が多い地域もあれば、一般の人がほとんど触れる機会のない地域もあります」
全人類へ同じ条件で提供する最初の訓練として考えれば、地域による差が大きすぎる。
「そしてもう一つ。今後のダンジョン探索では、魔力を武器へ流す技術そのものが重要になります」
再び剣を手に取って軽く構えると、身体から手を通して刀身へ魔力が滑らかに流れていく。
「今の戦闘訓練では、単に魔物を倒すことだけではなく、武器を扱いながら身体強化を維持し、将来的には武器へ魔力を通す感覚を身につけてもらうことも想定しています」
一度だけ剣を振り、静かに構えを解く。説明のためにやっているだけなのだが、こうして世界中の人間から見られていると思うと少し妙な感じがした。
まあ、今さらか。
「もちろん、これは銃器を使うべきではないという意味でも、地球にある武器を捨てるべきだという意味でもありません。人類には、人類がすでに積み重ねてきた技術があります。それを捨てる必要はないでしょう」
剣を消し、俺は小さく微笑む。
「むしろ、魔法やダンジョンから得られる素材と組み合わせれば、今までとは違った武器が生まれる可能性もあると思います」
魔力を保持しやすい弾丸や、魔力を伝えやすい素材、発射直前に内部の弾丸へ魔力を流せるような仕組みなど、考えられるものはいくつもある。そうした技術が作られるようになれば、今説明した銃器の欠点も大きく変わってくるはずだ。
もっとも、そこまで俺が完成品として与える必要はない。地球にはすでに、俺の知らない技術を積み重ねてきた人間が大勢いる。新しく魔力という要素が加わったなら、それをどう利用するかは人類自身で考えてもらえばいい。
「今回は、銃器と魔物について多く質問をいただいていたため、少し詳しく説明しました。今後も、皆さんから寄せられた疑問のうち、多くの方に関係すると判断したものについては、このような形でお答えしていく予定です」
表示していた模式図や映像をすべて消し、最後にいつものように微笑む。
「それでは、またお会いしましょう」
◇ ◇ ◇
【Side:アメリカ陸軍少佐 マイケル・ウォーカー】
「……なるほどな」
目を覚ました俺は、しばらく天井を見上げたまま、今見た内容を頭の中で反芻していた。
夢――いや、もうあれをただの夢と呼ぶ人間は随分減っただろう。今見たのは、女神ルミエラによる新しい神託だ。
ベッド脇の時計を確認すると、時刻はまだ早朝だった。隣では妻が眠っていたため、起こさないよう静かに身体を起こし、枕元に置いてあったスマートフォンだけを手に取ってリビングへ向かう。
「銃が効かないわけじゃない、か」
ソファへ腰を下ろしながら呟く。
それは、俺にとってかなり重要な情報だった。
俺はアメリカ陸軍の少佐で、元々は歩兵畑の人間だ。今は作戦立案に関わる立場にいるが、拳銃やライフルはもちろん、機関銃や各種の支援火器も馴染みのないものではない。
だからこそ、今回の神託には納得できる部分が多い一方で、考えなければならないことも山ほどあった。
銃が強力な武器であることに疑いはない。
適切な訓練を受けた兵士が扱えば、刃物を手に接近するより遥かに遠くから攻撃できるし、コボルドとかいう小型の魔物が普通に肉と骨を持つ生物なら、銃弾を受けて平気なはずもない。
神託の映像でも、実際に一発で倒れていた。
「問題は、その先か」
一発で倒れるなら何も問題はないし、二発や三発でも十分現実的だ。
だが、一体を倒すために十発、二十発と必要になれば話はまるで変わる。一体だけならまだいいが、五体、十体と続き、その先にさらに何体いるか分からない場所へ入るなら、個人が携行できる弾薬量は確実に問題になる。
もっとも、軍隊は一人で戦うわけではない。
一個分隊なら、一人の探索者とは比べものにならない量の弾薬を持ち込める。小隊規模まで広げれば機関銃を含めた火力も増やせるし、入口近くまで車両が使える環境なら、車両による継続的な補給だって可能だろう。
そう考えれば、浅い階層において軍がかなりの優位を持つ可能性は高い。
だが――。
「それで全部解決するなら、話は簡単なんだがな」
今回の神託では、女神はわざわざ銃声や爆発、振動へ反応する魔物が存在すると説明していた。
一体を倒すために発砲すれば、その音を聞いた別の魔物が寄ってくる可能性がある。そこで再び銃を使えば、今度はさらに広い範囲へ自分たちの存在を知らせることになるだろう。
開けた場所なら火力を集中して迎え撃つこともできるだろうが、狭い通路や曲がり角の多い場所では事情が違う。人数を増やせば隊列は長くなり、全員が同時に射撃できるわけでもない。
しかも、女神がこれまで説明してきたダンジョンには、単純な洞窟だけでなく、森林のような広い内部環境まで存在するらしい。
どんな地形が待っているのかも分からない以上、既存の歩兵部隊をそのまま送り込めばいいと考えるのは早計だった。
「軍隊なら補給できる。だが、補給線そのものを守らなきゃならないわけか」
ダンジョンの奥へ進むほど、入口からの距離も伸びる。
弾薬を運ぶ人間が必要になり、負傷者を後送する経路も確保しなければならない。人数を増やせば運べる物資は増えるが、その人数を維持するための水や食料、装備もまた増える。
火力だけを見れば、数が多い方が強い。しかし、探索という仕事まで含めれば、それほど単純ではない。
そして何より興味深かったのが、魔力と武器の関係だった。
剣を握っている間は、本人の身体から武器へ魔力を送り続けられる。弓の場合も、放つ直前まで矢へ魔力を込めることができる。
一方で、現在使われている一般的な銃では、弾丸へ同じように力を送り込むのが難しい。
「威力そのものより、補給と継続性の問題か」
女神が言っていたのは、銃より剣の方が強いなどという馬鹿げた話ではない。相手と状況によって、効率のいい武器が変わるだけだ。
浅い場所で弱い魔物を相手にするなら、銃器は非常に強力だろう。だが、奥へ進んで魔力によって強化された敵が増えれば、一体あたりに必要な弾薬も増えていく。しかも、神託で見せられたように、弾丸そのものと相性の悪い魔物までいる。
骨だけの魔物に人間と同じ狙い方をしても意味が薄い。柔らかな身体を持つあの魔物も、弾丸が貫通した程度ではほとんど止まらなかった。そして、半透明の魔物に至っては、そもそも弾丸が身体をすり抜けている。
「口径を上げれば全部解決、とはいかないか」
硬い相手なら火力を増やすのは有効だろう。魔力障壁だって、女神が見せた通り十分な攻撃を加え続ければ破壊できる場合がある。
だが、物理攻撃そのものと相性が悪い相手に、さらに大きな弾丸を撃ち込んでも意味がない。そして火力を増やすほど、重量、弾薬、発砲音、振動といった別の問題も大きくなっていく。
その状況で、本人の魔力をそのまま攻撃力へ変えられる武器が有利になるというわけだ。
なら――。
「銃弾に魔力を残せるようにすればいい」
気づけば、声に出していた。
神託の中で女神も言っていた。
『素材や構造を工夫すれば、この問題を改善できる可能性はあります』
つまり、不可能だとは一言も言っていない。
「……面白いな」
魔力を通しやすい素材や、内部に魔力を保持しやすい素材を使うのか。あるいは、発射直前に弾丸へ魔力を送り込めるような仕組みを作るのか。その役割を弾丸や薬莢に持たせるのか、それとも銃そのものを根本から作り直すのか――今の俺には分からないし、そもそもそこは専門分野でもない。
だが、人間が銃を作り始めてから今日まで、一度も改良を止めたことなどない。新しい環境が生まれれば、その環境に合わせて道具を変える。それは銃に限った話でもなく、人間がずっと繰り返してきたことだ。
軍の研究部門だけではない。民間企業も大学も、すでに同じことを考え始めているだろう。そこまで考えたところで、ふと神託の中で剣を構えていた女神の姿が頭に浮かんだ。
「それにしても……」
別に派手な剣技を披露したわけではないし、魔力を流す様子を見せるため、ほんの少し振ってみせただけだった。それでも、戦闘について多少なりとも知っている人間なら、おそらく同じことを感じただろう。
「あれ、素人の持ち方じゃなかったよな」
それは剣だけではなく、弓を扱う姿を見ても同じだった。
矢をつがえ、弦を引き、狙いをつけて放つまでの一連の動作にはほとんど迷いがなく、余計な力も入っていない。少なくとも、見よう見まねで武器を扱っている人間の動きには見えなかった。
「神様だから何でもできる、で済ませられる話なのかね」
俺には判断できない。そもそも神という存在について、人類はまだほとんど何も知らないのだ。ただ、少なくともルミエラが武器というものを知識だけで説明していたわけではなさそうだった。
スマートフォンを開いてみると、案の定、ネットではすでに今回の神託について大量の書き込みが始まっている。
『銃、普通に効くじゃん』
『浅層なら銃めちゃくちゃ強くない?』
『米軍歓喜では?』
『でも奥で一匹に何十発も必要になったらキツいってことか』
『機関銃持ち込めばよくね?』
『音で敵呼ぶって女神様言ってただろ』
『ゴーストみたいなの普通にいたんだけど』
『あれ銃どうすんの?』
『魔力乗せられる剣が強くなる理由は分かった』
『弓って思ったより魔力と相性いいんだな』
『女神様が剣持ってるの格好良すぎる』
『というか構え慣れてない?』
『弓まで普通に使えてたんだが』
『神様って武器使う必要あるの?』
『女神様、実は戦闘系の神だったりする?』
「……やっぱり同じこと考えるよな」
思わず苦笑する。
機関銃を持ち込んだ場合はどうなるのか。分隊や小隊規模で進入した場合はどうか。あるいは、車両まで入れるような広いダンジョンなら、どこまで火力と補給の優位を活かせるのか。おそらく今この瞬間、世界中の軍関係者が似たような計算を始めているはずだ。
だが、現時点では答えを出すための情報が足りない。ダンジョンの地形や魔物の種類と数、行動範囲や感覚器官、補給のしやすさに加えて、今後、魔力を利用した装備がどこまで発展するのかも分からない。既存の軍事常識だけを当てはめて、最適解を決められる段階ではなかった。
それでも、今回の神託ではっきりしたことはある。銃は十分に使える武器だが、それだけですべてを解決できるわけではない。
剣や槍も、単に古臭い武器だから再び使われるのではなく、魔力という新しい要素が加わることで、これまでとはまったく違う価値を持つことになる。
そして一年後、本当にダンジョンが現れるのなら、人間は既存の戦い方をそのまま持ち込むだけではなく、ダンジョンという環境そのものに合わせた新しい戦術を作らなければならないのだろう。
「ダンジョン専用の部隊編成、か……」
ふと、そんな言葉が口から漏れる。今まで存在しなかった任務なのだから、既存の歩兵部隊がそのまま最適だとは限らない。
火力だけではなく、魔力を扱う能力や探索技術、補給や救護、さらには魔物そのものに関する知識まで必要になる。そうした要素を組み合わせた、これまでとはまったく違う部隊が求められる可能性もあるだろう。
そして、それは武器についても同じだった。
「魔力を使う銃、か」
もう一度その言葉を口にしながら、先ほど見た神託を思い返す。少なくとも、俺の知る限りではまだ存在していない武器だが、ほんの少し前まで、魔法そのものが現実に存在するなど誰も本気では考えていなかった。
そう思えば、魔力を利用した新しい銃が生まれることだって、決して遠い未来の話ではないのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、窓の外では朝日がゆっくりと昇り始めていた。