転生したら余命僅かな美少女だったので、悪のカリスマの振りして遊んでる。 作:悪のカリスマをこよなく愛するオタク
ショッピングモール大炎上事件が起きてから、数週間が経過した。
事件が起きてから数日間は、各種メディアに取り上げられていたものの、あっという間に人々の記憶から消えていく。
この世界では、怪人による騒動など日常茶飯事。
私が体験したような事件など、特別でも何でもない。
……だがしかし。
「どうしよう。どうしようどうしようどうしようぅぅう」
当事者である私は、気が気じゃ無かった。
様々な要因によって胃が痛む私は、ベッドの上で布団を被りながら転がりまわる。
炎を操る怪人が暴れ回ったショッピングモール炎上事件。
それを解決したのは、怪人を殺したミゼと、傍観者だった私なのだが。
この世界において、魔法少女以外による魔法の行使は禁止されている。
勿論、怪人に襲われていたという状況から、情状酌量の余地があると認められるかもしれない。
でも、その場合であっても、色々と面倒な事になるのは容易に想像がつく。
非行少女と見做されて、GPSをつけられたり、更生プログラムを受けさせられたり。
ただでさえ、短い余命を、無駄な時間で浪費したくは無い。
何より、私は悪のカリスマの真似して遊び尽くした末に、死ぬと決めた。
それなのに、警察に捕まってしまったら、失格も同然。
呆気なくお縄についた間抜けの烙印を押され、カリスマとしての威厳がなくなる。
そんなの、絶対に御免である。
「♪〜」
なんて事を考えていると、枕元にあるスマホが振動し始め、着信音が流れ始める。
すぐさま手に取って、通話ボタンを押す。
「クロ。そろそろ時間だよ」
聞き馴染みのある声が、耳に届く。
いっそ「体調が悪いから、今日は行けない」と言ってしまおうか。
そんな邪念を抑えながら、口を開いた。
「ええ。今すぐ、向かうわ……ミゼ」
短く返答した私は、通話終了ボタンを押す。
これから何が起こるかを考えると、怖くて怖くてしょうがない。
足が小鹿のようにブルブルと震え、ただでさえ痛い全身がキシキシと軋む。
(いきたくないいきたくないいきたくないいきたくないぃぃい……!)
けれども、悪のカリスマとして行かない選択肢など選べはしない。
心の中で本音を吐露しながらも、私は出かける準備を始めたのだった。
月が覗くくらいの時間。
電柱に寄りかかっていた私は、待ち人の姿を発見する。
「ごめんなさい。待たせてしまったかしら?」
「ううん。今来たところ」
私の方に歩み寄るクロは、相変わらず微笑んでいる。
この時が待ちきれなくて、つい電話してしまったけど、怒ってないようで一安心。
今日は、クロと一緒に狩りをする日。
異形の姿になった哀れな獣を……私が、解放してあげる日。
「今日はまず、路地裏に行くね」
「…………そう。貴女に任せるわ」
クロの返答を聞いた後、歩みを進める。
私は、彼女のお陰で真の自由を手に入れた。
法やルールとか、見えない鎖に縛られる事なく生きる喜びを知った。
その上で、私は他の人にも真の自由を与えるという目標を立てた。
何にも縛られずに生きる喜びを分け与える事で、沢山のキラキラが見たいから。
……とは言っても、具体的な方法は全然考えてないんだけどね。
でも、きっと、クロは考えてる。
私と同じ理想を持ってて、私よりも頭が良い彼女は、とてつもない計画を練ってる筈。
そうとなれば、私にできる事はただ一つ。
クロと私の理想を実現させる剣になって、邪魔する奴らを排除する。
ただそれだけ。
レベル1のままで、魔王に挑む勇者はいない。
大きい事を成し遂げるためには、戦闘経験を積んでレベルアップするのが大事。
ってなわけで、ここ最近、私は狩りをしてる。
石の裏をめくって、虫を見つけるみたいに。
魔法少女が行かない場所を探して、怪人を見つける。
そうして、戦って殺して、誰よりも強く……。
「…………を…………あ」
暗がりの中に潜む脅威に気がついた私は、思考を止める。
目的地である路地裏。
その突き当たりに、怪人はいた。
「……う………………ま……」
くちゃくちゃと咀嚼音が聞こえてくる。
黒いモヤがかかったような、妙に手足が長い人型の怪人が食べているのは、まごう事なき人間であった。
食べられている人は、もはや原型を留めていない。
周りに落ちているリュックなどの物品を見て、人間だったと分かるだけ。
……この人は、夜中に出歩くと怪人に食べられるって親に教えられなかったのかな。
因みに、私は教わってない。
寧ろ、怪人に食べられちゃえって言われてたくらいだけどねー。
「……ミゼ。頼めるかしら」
「うん。いつもの、よろしく」
化け物が人間を食べてる光景を前にしても、クロはいつも通り。
全く動揺せずに魔法を行使して、私の首輪の効力を消してくれる。
クロの「枷を外す」魔法が効く時間は30分。
時間制限があるのはキツいが、仕方ない。
クロ曰く、本気を出せば首輪を壊すことも出来るらしいけど……壊しちゃったらメンドくさいことになるからね。
どーにかこーにかして、30分以内に怪人を倒すしかない。
「…………ぐ……………あ……」
敵意を察知した怪人が、自分の影から黒い手を生やす。
次いで、こちらに向かって伸ばしてきた。
ぐんぐんと近づいてくるソレを、私は一つ残らず魔法で消しとばす。
空気を圧縮して固めた、不可視の弾丸を用いて。
私の魔法は「空気を生み出して操る」魔法。
生み出す空気には趣向を凝らせるし、生み出せる量にも限界はない。
空気を構成する物質を変える事も出来るし、空気を固定したり圧縮したりできる。
扱いは難しいけど、やれる事が多くてお気に入りの魔法である。
「ぎ……が……」
空気の弾丸は、無数の影の手を貫通して、怪人本体も貫く。
最後に、呻き声を上げた化け物は、原型を保てずに塵となって消えた。
「お疲れ様。今日も、見事な手際だったわ」
「蚊を潰したようなものだから。こんなので褒めないで」
「フフッ……照れているのかしら。お可愛いわね、ミゼ」
諸々の処理が終わって、帰る途中。
クロに揶揄われた私は、露骨に顔を逸らす。
その行動自体が、私が照れている証明になってるのは分かるけど、そんなの知らない。
何もせずに、されるがままにされる方が、癪に触るので、こっちの方がマシだ。
「それで、話は変わるけれど……何故、貴女は執拗に怪人を付け狙っているの?」
唐突に投げかけられた疑問。
熱に浮かされた思考を切り替えて、ちょっと考えてみる。
察しの良いクロの事だから、私の狩りの意図は理解してる筈。
なので、強くなりたいから……なんて答えは求めてないだろう。
彼女が欲している回答は、もっと核心に迫るもの。
「可哀想だから、かな」
私は、率直な意見を述べる。
怪人は、哀れな生き物だ。
私の記憶が正しければ、怪人は人間が持つ負の感情が爆発する事でなっちゃう存在。
怒り、悲しみ、不安、妬み、罪悪感、恐れ。
これらの負の感情を抑圧し続けた人が限界を迎えて、化け物になっちゃうそうだ。
きっと、怪人になりたくてなる人は少ない。
思い通りにいかない現実に押しつぶされて、不自由である事に耐えきれずに、化け物になる人が大半だと思う。
こんなのって、ないよ。
だってさ……勿体無いじゃん。
人の魂はキラキラ輝けるのに、一度も光る事なく怪人になるなんて勿体なさすぎ。
世界そのものに可能性を潰されるなんて、可哀想にも程がある。
「可哀想だから、解放してあげたい」
だから、意思も自我も失われて、亡者みたいに人間を襲う怪人を救済したい。
死を与える事で、終わらぬ悪夢から解放したい……と、思う。
因みに、ショッピングモールで戦った炎の怪人のような奴は例外だけどね。
アイツは、完全に心の底から殺戮を楽しんでた、根っからの悪人タイプ。
絶対に、人間だった頃も碌でなしだったと断言できる。
あの怪人は救済する必要はない。
ああいうタイプと戦うとギラギラしたキラキラが見れるから、嫌いじゃない。
でも、クロには劣る。
もっと言うと、比べる事すら烏滸がましいね。
「……そう。貴女は優しいのね」
「そんな事ないよ。それはそれとして、自分が一番大事だし」
「フフッ。自分より他者を慮る人間なんて、存在するかどうかも怪しいわ」
「ま、そんなもんだよね」
私とクロ。
二人で並びながら、夜道を歩く。
ここだけの話、ちょっとだけ嘘をついた。
少なくとも、私は……自分よりも、クロの方が大事。
彼女のためなら、何だって出来る。
何だって、してあげたい。
「……ミゼ」
「何? クロ」
「私達二人で、怪人が生まれない世界を。魔法少女が必要ない世界を作りましょう」
いきなり何言ってるの?
なんて言って、水を差したりはしない。
何故なら、クロの表情はいつになく真剣だったから。
今の世界に、私の居場所はない。
いや、この世界に不満を抱えてるのは……きっと私だけじゃない。
逃げようとしても逃げ場なんてないことが分かってるから、必死に我慢してるだけ。
働かないと、ご飯が食べれないから。
人の顔色を伺わないと、社会から弾かれるから。
理不尽な現実を否定しても、どうしようもないと理解してるから。
耐えて耐えて耐えて、生きてるだけ。
これは、思い込みでも何でも無い。
みんなが幸せでハッピーなら、怪人なんて存在は生まれない。
誰かの犠牲の上で世界が成り立っているから怪人が生まれて、それを倒す魔法少女が存在する。
そうなると、魔法少女だって可哀想だ。
ただの女の子が、世界の歪みから生まれた化け物と戦わされて、歪みきった世界を守るために命を消費してる。
みんな、この有り様が変なのは分かってる。
でも、目を逸らしてるんだ。
そうじゃないと、生きていけないから。
こんなの、最高に最低だ。
だからさ、やっぱ必要なんだよ。
人間には、真の自由が。
この世の全ての人間が抑圧から解放されれば、負の感情なんて消えて無くなる。
法や秩序、モラル、世間体、プライド。
こいつらは……最初から要らなかったんだ。
全部、何もかも、ぶち壊してしまえばいい。
ありとあらゆる見えない鎖を消しとばして、誰もが自分の意思で生き方を選べたら。
怪人なんて生まれなくて。
魔法少女だって、必要なくなって。
退屈極まりなかった世界が、真の自由を得た人々のキラキラで一杯になる。
……ああ、なんて素敵なんだろう。
クロは、こんな世界を作りたいんだね。
「どう? 素敵だと思わない?」
「うん……とても、良い。最高だよ、クロ」
世界そのものを相手にするだなんて。
まさに、狂気の沙汰だ。
正気とは思えない。
けど、それで良い。
人生は一度きり。
やり直しは出来ないのだから、やりたい事をやりきらないとね。
このイかれた理想を追いかけた果てに、死が待っていたとしても構わない。
クロが一緒にいてくれるなら、世界全てが敵になっても怖くない。
「こんな夜更けに出歩くのは、良くないですよ〜」
不意に。
甘ったるい声が、後ろから聞こえてくる。
くるりと振り返ると、そこには……。
「……ここ最近、噂になっている怪人狩り。もしかしなくても、貴女達ですよねぇ」
フリフリしたピンク色のドレスを着用している桃色の髪の少女。
ショッピングモールにて、炎の怪人と戦っていた魔法少女の片割れが、私達を見据えていた。