ダンジョンに銃火器を持ち込むのは間違っているだろうか 作:遺物
そんないい日だったのに。バスから降りてちょっと歩いたところで、俺は通り魔に刺されてしまった。人生の幸運と不運は、差し引きゼロになるようにできている。そんな話を聞いたことがあるが……どうやら、本当らしい。
でも、あんまり悔いはない。母さんに今までちゃんと感謝は伝えてきたし、父さんの仏壇には、毎朝欠かさず挨拶していた。
そんな、たかが十七年の、うっすいうっすい人生の振り返りにも飽きてきたところで、そろそろ目の前の出来事に向き合わなきゃいけないらしい。
「そういうわけで、君は今日からヘスティア・ファミリアの一員だ!よろしくね、
つい数分前、俺が目を覚ますと、空が見えた。正確には、屋根に空が見えるほどの大穴が開いていた。周りを見渡すと…言っちゃ悪いが、痴女と、女子みたいな顔した少年がいた。
家の中はボロボロで、とても現代のそれには見えなかった。一旦情報を整理しようと、彼らに話しかけようとしたが、俺には見向きもせず、勝手に話が進んでいった。
俺が気を失ってる間に、ひとしきり驚きの感情は出し切ったのだろうか。マジで二人の間でしか話し合っていない。
「この屋根の弁償代はどうするんだいベル君!」
「それは…僕がダンジョンに潜って稼ぎます!」
「ありがとうベル君!でもゴブリンをちまちま倒すだけじゃ、工事の金も稼げないんだよ?!」
「う~ん…あ、神様!それなら…」
「ん?…あ~なるほどねベル君…」
こうして俺は、屋根の修理代、ソファやテーブルの弁償代、さらにはベル君との昼寝を邪魔した迷惑料、エトセトラエトセトラの代金を稼ぐため、ベル・クラネルと共にダンジョンに潜ることとなった。行く当てもないし、正直言って、俺はとてもありがたかった。
ちなみに、この時の俺は知らなかったのだが、俺はいきなり空から天井を突き破って落ちてきたらしい。悪いことをしたな。
朝。家の方から物音がした。金属がぶつかる音がしたので、ベルが起きたのだと分かる。ヘスティア様が先に起きたなら、ベルの叫び声がするはずだからな。
俺は相変わらず、外で筋トレをしていた。なぜか分からないが、この世界に来てから、異様に筋肉の付き方や、身体能力が発達の仕方が、明らかにおかしい。食事がいいのか、大気の成分が現代世界と違うのか、理由は分からない。だが、俺の力は確実に一般人の範疇を超えていた。
「エン!早いね。もう準備出来てるの?」
「あぁ、俺はあと服を着ればすぐに出れるぞ。準備が出来たら、ヘスティア様を起こしてきてくれ。」
「分かった!」
ベルが行ったのを確認して、俺は深呼吸をし、体中に力を込める。
「ふぅ…『もう日が暮れる』…『プレゼント・デイ』」
影が足元から全身を包み込む。次の瞬間、影が消えると、俺は軍服に身を包まれていた。陸上自衛隊の軍服。叔父さんが持っていたのを触ったことがあったから、再現できた。そして、暗視スコープ付きのゴーグル。普通のヘルメット。
俺の力は『プレゼント・デイ』。『もう日が暮れる』という詠唱をすることで、現代技術を再現することが出来る。再現と言っても、自分の影の中から現代文明のものを取り寄せることが出来る。しかし、拳銃や自動小銃のような、自分の影の中に収まる物しか出すことが出来ない。だから、戦車やビルなんかは出すことが出来ない。
だが、それも今の所だけかもしれない。ヘスティア様が、スキルは進化すると言っていた。ならば、もっと頑張れば、現代日本の都市をそのまま再現できるかもしれない。まぁ、まだ全然この力のことは分からないが。
軍服に手のひらで影を落とし、色を変えていく。迷宮5階層で、緑の壁なんてそうないからな。黒色に変えておかないと意味がない。
下には防弾チョッキを着ている。万が一、俺が接近されることがあった時の為だ。もう一度死ぬなんてのは、御免被りたい。
ベルが服を着替え、ヘスティア様も出てくる。
「では、行ってきます!神様。」
「俺も行ってきます。ヘスティア様。」
「うむ、気を付けて行ってきたまえよ。と~く~に!ベル君!エン君は…心配いらないよね。君のやるべきことは、ベル君の死守だ!」
相変わらずこの調子だ。まだ数週間しか彼女と一緒にいないが、本当にベルが好きなんだな。ちょっと行き過ぎな気もするが。
「大丈夫ですよヘスティア様。彼も十分強い。いらぬ心配ですよ。」
「ありがとうエン…君のその言葉だけで、僕は…僕はぁ…!」
「ほら、行くぞ。さっさと片づけて、それから…」
俺はベルの肩を持ち、塔に向かう。あれが今から俺達の行く場所だ。俺達がモンスターを殺し、金を稼がせてもらう場所だ。
「うん、ご飯だよね!」
俺達がダンジョンに潜り、まずやること。それは、ベルに端から端までランニングしてもらうことだ。彼にモンスターをおびき寄せてもらう。彼にはだいぶ負担がかかるが、これが一番手っ取り早いのだ。
「エン!いいよ!」
「オッケー!伏せてろ!」
丁度いいサイズの岩に設置しておいた
…待て。何かおかしい。ゴブリンの様子がだ。一切ベルに対して興味を示していない。武器を持っていないのもチラホラいる。これはちょっとまずいかもな…
「ベル!12時の方向に敵影!爆発と同時に走れ!」
「え?!待ってエン待って!」
俺は後ろに向かって発煙弾を投げる。そして、ダンジョンの角から出てきた奴にぶつかり、炸裂する。煙の中から不気味な咆哮が聞こえる。逃げなきゃいけないオーラがビンビンで、ろくに後ろを見ずにダッシュする。
ーブモオオオオオォォォ!ー
ミノタウロスだ。ゴブリン達はコイツから逃げてきたのだ。俺は後ろに向かって
「ちょ!エン!僕いる!後ろ僕いるから!」
「あぁごめん忘れてた!」
危ない危ない。もしベルに弾痕が残ってしまったら、絶対に俺がやったとバレる。そんなこと考えるな。とにかくここから逃げ出さないと。あ…そういえば…
「君のやるべきことは、ベル君の死守だ!」
怒られるよな~。愛しのベル君が傷ついて帰ってくることあったら…まずいよな~。彼を守ることが最善手だ。俺が立ち向かうべきか……いや無理だ。俺一人じゃ勝てない。
「危ない!」
え?俺?前からベルの声がする。なんで前から…?じゃあ俺の後ろには何が…
ーブオオオオオォォォ!!ー
「パアアアアアアアアア―――――――!!?」
真後ろ、目と鼻の先の所にミノタウロスがいる。考え事してる間に追いつかれてた。まずいまずいまずい。とにかく攻撃しないと。
「『もう日が暮れる』!早く出ろ!マジで早く!」
足元から
「まずいよエン!このままじゃ!」
「は?!何言ってん……だあああああ!?」
目の前にあった光景に、俺は絶望した。道が無かった。あったのは壁のみ。完全な行き止まりだ。眼前の壁に手を当て、俺が今から出来ることを考える。選択肢は、諦めずに戦う、ベルを襲わせてる間に逃げる、それか自爆。2個目は確実に無し。3個目は絶対に嫌だ。個人的に嫌だ。
つまり、選ぶべきは…1つ目!
雀の涙ほどの勇気を振り絞り、銃口を奴に向ける。奴のあのカワイイ顔に風穴を開けてや……カワイイ?
目の前に居たのは、右手に持っている剣すら綺麗な装飾品に見えるほど、美しい女性だった。彼女の足元に、灰の山が積もっている。あれがミノタウロスだった物か。死体も残らないとは、無惨なモノだな、魔物とは。
「あ……どうも…ありがとうございます。危ないところを助けていただいて…ほら、ベル。お前もちゃんと、ありがとうを言いなさい。感謝が出来ない大人になるんじゃあないよ。」
にしても、俺が振り返るまでの、あの一瞬でミノタウロスを倒すとは、中々デキる人だ。ベルの方を見ると、俯いて口をパクパクさせている。耳まで真っ赤だ。なるほど、彼はああいう女性が好みなのか。
「あ、あ、あり、ありありがとう、ございました―――――!」
彼は、大声で感謝しながら、ミノタウロスから逃げた時より早いスピードで走り去っていった。まぁ、彼もまだ少年なんだ。恋には多感な時期なのだから、あまり引き留めるのもよそう。俺はというと、一切魅力を感じない。罰ゲーム告白などという拷問の効果で、女性恐怖症な
「彼、大丈夫?」
「ああいう子なんです。気にしないで。じゃ、重ね重ね、ありがとうございました。魔石はアナタに譲りますので。それでは。」
「うん。じゃあね。」
その後、ベルがいないのでふんだんに
「ごめんエン!置いてったりして……」
「そんな気にしてないから、落ち込まなくて良いよ。ゴブリンを倒したのと、帰り道で手に入れた分の魔石は手に入ってる。十分儲けものだ。そう落ち込むんじゃない。それに…」
俺は酒瓶と、肉が積まれた皿をベルに渡しながら聞く。
「彼女のこと、確か…アイズ・ヴァレンシュタイン…だっけ。どう思ってるんだ?」
「いやいや!何も思ってないよ…本当に…!」
「何も思ってない相手にする態度じゃあ無かったけど?」
「…うぅ……」
相変わらず、彼は可愛い反応するな。ヘスティア様がいじりたくなるのも分かる気がする。俺は挙動不審な彼を肴に、酒を喉に流し込む。
ドカッ!
突然、扉を蹴破る音と共に、ギャアギャアと騒がしい連中が店に入ってくる。そう言えば、今日だったか。ロキ・ファミリアが遠征から帰ってくる日。苦手なんだよなぁ。ああいう声の大きい集団は。
「ギャハハハハ!そうだアイズ!アイツの話をしてやれよ!あのトマト野郎の話をよ!」
「え?」
「ベル。ああいう類の話は無視に限るぞ。聞くんじゃない。」
「ソイツ、ミノタウロスに追いかけられて、兎みてぇに逃げ回ってたんだよ!で、ウチのアイズが切り刻んだミノタウロスのくっせぇ血を浴びて、トマトみてぇに真っ赤になってたんだぜ?!ギャッハハ!情けねぇったらありゃしねぇ!」
「はぁ……そうだ、ベル…店を出るぞ。出来るだけ静かにな。」
言った通り、頷くだけのベルの背中を押し、俺はこっそり会計を済ませる。店の入り口にベルを待機させ、俺は影からあるものを取り出す。
「爆発したら逃げるぞ…」
「ねえ何が?何が爆発するの?」
「お客さん何してるニャ?」
「3…2…1…へいオオカミ君!これどうぞ!」
俺は手に持ったものを、あの白いヤンキーみたいな男に投げつける。
「あ?んだコレ…」
奴がキャッチした瞬間、俺は脇目も振らず、ダッシュする。ベルもそれに続き、店を後にする。
ボカン!!!
「ウギャアアア!!」
「なんだコレ!」
「待ててめぇら!」
発煙弾が爆発し、店内が煙に包まれる。大丈夫。傷つける気はない。阿鼻叫喚の悲鳴を聴いて、俺はテンションがおかしくなる。
「フハハハハハ!ハハハハハ!ざまあ味噌漬け、くたばれ陽キャ!」
「何してるのエン!あと何言ってるのエン!」
「フハハハ!過去の清算だよベル!フハハハハハハハハ!」
こうして、この日の俺らの冒険者生活は幕を閉じたのだった。