ダンジョンに銃火器を持ち込むのは間違っているだろうか 作:遺物
朝食に使った卵から、黄身が二個出てきた。
ダンジョンに向かう途中に、硬貨が落ちているのを見つけ、少し儲けた。
だから、たぶん今日はいい日になる。
嫌な
ーブモオオオォォォォォォ!!!!ー
「ミノタウロスがいんだよ…」
ー当日の早朝ー
なんだか、今日のダンジョンは、いつもより様子がオカシイ。冒険者の姿もなければ、モンスターの影も見当たらない。俺は拍子抜けしてしまい、武器を影の中に収めている。両手を空にし、ぶらぶらと腰の横で揺らしている。完全に気を抜いている。自覚はあるが、本当に何も警戒すべき敵がいないのだ。
「そういえば、剣姫との特訓の件、上手くいったみたいだな。」
俺は壁にスーパーボールを投げつけながら聞いた。跳ね返ってくるボールを掴み、また壁に投げつける。道のど真ん中で、堂々とただの雑談をしていても、全く襲われる気配がない。
「あ、うん!すごく良い経験になったよ!レベル6の冒険者との戦闘訓練が、あそこまで役立つとは…」
「それだけじゃないだろ?剣姫との時間はどんなモンだったよ?」
「んな…なンですかそれは?!リリは聞いてませんよ?!」
装備の整理をしているリリが素っ頓狂な声を上げた。
「そういやリリは寝てたから知らなかったな。」
「いや〰〰。アイズさんに稽古をつけてもらってさ。おかげでかなり強くなった気がするよ。」
「く……アイズ・ヴァレンシュタイン……ベル様を誘惑するモノですか…要チェックです…」
あまりよく聞き取れなかったが、何やらとても怖いことを言っている気がする。ベルも楽しそうで、なによりだ。俺も、昨日はティオナ達とひたすら遊んだだけだったしな。後からでも、リリを誘えばよかった。
「ん…あぁ〰〰〰…なんだかやけに暇ですね…リリは向こうの方見てきます…」
リリが立ち上がり、通路の先へ進もうとする。俺は慌てて立ち上がり、リリの前に出る。
「おぉっと、危ないよリリ。あっちの方は、俺が地雷を仕掛けてある。モンスターが引っかかれば、爆発音がこっちまで聞こえてくる仕組みだよ。ま、さっきから音は聞こえてこないわけだけど……」
そう言った瞬間、地面が揺れた。通路の向こうに炎が爆ぜるのが見えた。俺は自身の身体の前に銃を向ける。すると、反対側の通路からも爆発音が聞こえた。しかも、爆発音の後、足跡も聞こえてくる。この階層に出現するモンスターなら、一度の爆撃で十分なはずなのだが……それでも倒れない相手ということか?
「『もう日が暮れる』…『プレゼント・デイ』…」
ベルと俺は、リリを背後にかばうように立った。俺はヘルメットの側面を触り、懐中電灯を出現させる。スイッチを入れて明かりをつけた瞬間…
まずいモノが見えた…このままでは……俺はリリを横に突き飛ばした。地面に倒れ込むリリと目が合った。そして、俺は何かに持ち上げられ、壁面に叩きつけられた。
「エン!!」
「エン様!」
「モーマンタイ!!」
視界の左側に大きな角が見える。赤く、ゴツゴツした岩石のような肌。俺は銃口を奴の頭に押し付け、引き金を引く。二発ほど当たると、片手で俺の胴体を掴み、ベルの方に投げ飛ばされる。地面に転がる俺に、ベルとリリが駆け寄る。
「エン様!怪我は?!」
「あぁ…クソ!大丈夫!痛いだけだ!」
俺を投げ飛ばした奴が通路の向こうに立ちはだかる。さらに反対方向からも、全くよく似た見た目の奴が現れる。よく見ると、細部が少し違う。体中についた傷跡や、持っている武器の種類が違う。俺を投げ飛ばした奴が持っているのは槍。ベルの方からやってきた奴は大剣を持っている。どちらにしろ、最悪の相手なのは変わりない。
「逃げましょうベル様!エン様!」
「いや……リリは後方に下がっていてくれ!」
「…それと…救援要請も頼むよ、リリ…『もう日が暮れる』 『プレゼント・デイ』」
俺は後ろにいるリリに、スキルで出したメガホンを渡す。
「はいコレ。ここのボタンを押したら、声を大きくすることが出来るからさ。」
「これが何かは分かりませんが、救援のことはお任せください!」
リリが今来た道を戻っていく。十分距離が離れたのを確認し、俺とベルは武器を胸の前に構える。
「にしても……よりにもよってだね…」
「だよな~………はぁ~…だからさ~…なんで一桁代の階層に…」
ーブモオオオォォォォォォ!!!!ー
「……ミノタウロスがいんだよ…」
ため息をついた瞬間、ミノタウロスが俺に向かって槍を突き刺しに来るのが見えた。視界いっぱいに槍の先端が広がったが、直後に俺の目に映ったのは、ダンジョンの天井だった。直撃する寸前で、ベルが俺の足を払って転ばせたのだ。
地面に倒れながら、銃を構え、連射する。たいていの敵はこれで倒せるのだが、今回の奴らは少し違った。二体とも、武器を盾のように使って、俺の射線を切ったのだ。そして、武器を構えながら俺から離れ、岩陰に隠れていった。
「逃げた?!」
「……っぶな…いや、逃げたんじゃない。隠れただけだ。にしても、あいつら……高い知能があるな。」
奴ら、俺の銃が危険な物だと理解している。自身の身体を武器で守ったり、壁に隠れたりするのがその証拠だ。
「武器を構えとけよ、ベル……どうせまた、すぐに出てくるさ……ほら、来るぞ!」
二体同時にこちらに突撃してくる。大剣を持っている方が、頭をベルに向けながら、角を突き立てる。ベルを角に引っ掛けながら、ミノタウロスが通路を走り抜けて行く。
「ベル!!」
「僕はいいから!エンはそっちをやってくれ!!」
何を言ってるんだ。ベルは、俺がコイツを一人で倒せるとでも思ってるのか。
「えぇ……いや…あの…二人で一体をやるんじゃ…え…あ…もう見えない…あぁ…」
ベルは、影の向こうに消えて行ってしまった。残されたのは、俺とミノタウロスのだけ…
「あ、へへ…どーも…」
ーブオオオオオォォォォォォォ!ー
「ピギャアアアアアァァァァ!」
手榴弾を両手に一つずつ掴み、ミノタウロスにぶん投げた。だが、爆発する直前に槍で払われてしまう。やっぱり、一筋縄ではいかないよな。
いける。このまま撃ち続ければ、削り切ることが出来る。ダメージを蓄積させて、倒す。別に一撃で決めなきゃいけない訳じゃない。俺に、そんな英雄みたいな戦い方は向いてない。
ベルが居れば。そう思ってしまった。一人でダンジョンに潜ることはあったが、決して自分の実力を見誤ることはしなかった。強敵が現れれば、絶対に戦わず、逃げに徹した。勝てるか分からない戦いでは、常に隣にベルが居た。
雑念が混じった。その一瞬の感情の隙を、ダンジョンは決して見逃さない。
「……な…?!」
ミノタウロスが体勢を変えた。片手で槍を持ち大きく振りかぶり、もう片方の手、俺に向けて狙いを定める。防御を完全に無視した、攻撃に突出した構え。
「…槍投げか!」
俺は銃を投げ出し、横向きに思い切りジャンプした。だが、間に合わなかった。飛来した槍は、俺の左肩を貫き、後ろの壁に突き刺さった。
もう左腕は使えない。奴を
俺が痛みに悶えている間に、ミノタウロスは回り込んで槍を回収している。とにかく、痛み以外のことを考えろ。頭を働かせ続けろ。奴の攻撃手段は槍の突き、払い、投擲。そして、頭の角での突撃。今の俺が出せる武器で、奴を一撃で屠ることが出来るものはなんだ?奴の攻撃をかいくぐり、確実に倒せるものは………かいくぐる必要はあるのか?
「あぁ…クソが!」
思いついた、これなら勝てる。でもな……絶対痛いよな…当たり所が悪ければ、全然死ねるよな…でも…
「もういい、迷ってる時間なんかないよな…『もう日が暮れる』…『プレゼント・デイ』!」
俺は
「ッシャ行くぞォ!!!」
俺は奴に向かって走りだす。槍を振り回す奴の攻撃を、盾で防ぎながら、ジャンプで避ける。槍のリーチの内側に入り込み、
ミノタウロスは、俺の銃を奪い取り、脇に払いのけた。腰を低くし、頭を下げ、角を俺の腹に突き立て、思い切り上空に向かって投げ飛ばした。
そう、これで良い。真上に飛ばしてもらうのが良いのだ。俺を仕留めるためには、奴も真下に移動してくるはずだ。槍を投げるにしても、俺が落下する位置を狙う必要がある。これで、俺とミノタウロスの位置は、必ず直線上に来ることになる。
空中で身体がフワリと浮き、下に落ちていく。下方を見ると、予想通り、ミノタウロスが槍を構えている。コイツには…コレを食らわせてやる。
地面で
「……さぁ…喰らいなよ……対戦車ライフルの味をよ!」
放たれた弾丸が、空気を切り裂き、真っ直ぐミノタウロスの眉間へ走る。ミノタウロスが槍を投げたが、弾丸はそんな武器をものともしなかった。弾丸は、回転しながら飛んでくる槍を粉砕し、少しも勢いを衰えさせることなく、ミノタウロスの眉間を撃ち抜いた。
俺は、撃った反動で回転しながら、ミノタウロスの死骸の上に落ちた。ちょっとは緩衝材になったのかもしれないが、普通に痛い。奴の死体が灰になり、魔石が残る。
俺は地面に寝転がり、目をつむった。体中が痛い。ダルい。眠い。疲れた。休みたい。それに滅茶苦茶……
「ふぅ……あぁ…お腹すいたな……」
ーーー
「…だから……彼を…助けて…」
あ……なんだ…誰だ……?
「彼を……向こうに…もう一人……」
眠いんだ…静かにしてくれ……頼むよ……
いや、こんなことしてる場合じゃない。起きて、ベルとリリがどうなったのか確認しなくては。顔をもたげ、地に腕をつける。胴体を上げ、脚に力を込めて、立ち上がろうとする。だが、誰かが俺の身体を押さえつける。
「ちょっと、エン。立ってはいけない。気絶するほど血を流しているのだから、しっかり寝ていなくては。」
「離してくれ……俺は行かないと…あれ……リヴェリアさん……?」
俺を押さえていたのは、リヴェリアさんだった。なんで彼女がここにいる?
「リヴェリア……さん…何してるんですか…」
「私達も、ダンジョンから帰還するところだ。そこで先ほど、戦いの跡と、倒れている貴方を見つけた。」
「そう……ですか…なら…皆も…?」
「あぁ、無事だ。保護している。心配しなくていい。我々、ロキ・ファミリアが、無事に地上へ送り届けよう。」
そうか、それなら安心だ。てか、ベルはアイツに勝ったのか。あんなナイフでどうやったんだ?疑問はあるが、とにかく、皆が無事で何よりだ。俺はもう、後のことはロキ・ファミリアに任せ、ゆっくり寝ることにした。
オッタルのどうでもいいメモ
・この為だけに、わざわざ二体もミノタウロスを用意してくれた