「はぁ!! 何それ!? 才色兼備で文武両道かと思いきや、実はサイコな電波ってか。 くー! どんだけキャラ付けすれば気が済むんだ。 萌えか! 萌えなのか~!」
「萌えっつーか、ただ変なだけだろ」
放課後。
まどかから話を聞いたさやかと杏子がほむらに抱いた印象を喋る。
「まぁ、確かに少し変だけどあんまり気にすることはないと思うぞ?」
「うん、ありがとう」
「つーかよ、本当に初対面なんだよな? あの転校生」
疑問に思ったのか、バッグからポッキーを取りだし、食べながら杏子が質問する。
「う~ん…常識的には初対面だと思うんだけど…」
「え、何それ? 非常識だと心当たりがあるわけ?」
「うん。」
「夢の中で会ったことがある、ような…」
「あはははは! 何それ、ちょーウケるんだけど」
「もう! 真面目に聞いてよ! 真剣に悩んでたから」
笑うさやかに怒るまどかだが、さやかがゴメンゴメン、と宥める。
「あっ…俺そろそろ行かないと。 じゃあな!」
時計を見た将汰が急に立ち上がり急いで荷物の中に詰め込んで、教室を出ようとする。
「あ! ちょっと! どこに行くのよ!」
「バイトだよ! バイト!」
「ねぇって! ……行っちゃったか」
「まぁ、晶さん二人暮らしだからな。 生活費とか大変なんじゃね?」
「あっ。 ねぇ、私たちもそろそろ行こうよ。 みんな待ってるかもしれないよ」
「もうそんな時間? 杏子、アンタはどうすんの?」
「あ~、私は用事かあるからパスで」
待ち合わせの時間が近付いたからなのか、二人は席を立ち、用事があるらしい杏子に別れを告げ、目的地へと向かい出した。
「将汰、これを2番テーブルに持ってってくれ」
「はい、分かりました!」
店長に言われて、出された料理を2番テーブルに持っていく。
学校帰りの学生が多いせいか、店の中には何時もより人がいた。
そんな状況でも将汰は文句のひとつも言わない。と言うよりも言う権利は無いと思っている。
色々なバイトを探している時に人手不足と聞いてなんとか雇ってもらった経緯があるし、生活費を姉の給料だけで済ますのはいけないと思ったので、自分の生活費ぐらいは自分で何とかしようと決めているからだ。
「おい将汰! 出前が入ったからちょっと行ってきてくれねぇか」
「いいですけど、大丈夫なんですか? 俺が抜けて」
「なぁに、すぐ近くだから問題ねぇよ」
「分かりました。 じゃあ、行ってきます」
返事をするとバイクに乗り注文先に向かう。
『ハロ~~ッ沢芽シティッ!!』
「ん?」
バイクで移動している途中、ビルに設置されたモニターから声が聞こえる。
『今日も町の至るステージでビートライダーズがホットなダンスを踊ってるぜ。 ファンたちのテンションもグングン上 昇 中 だッ~! そんな奴等の状況をビートライダーズホットラインからDJサガラがおおくりするぜッ!』
モニターではこの町『沢芽市』に住む人間なら知らない人間はいないとまでされる人気DJ、DJサガラの配信が流れていた。
彼の話術はなにか人を惹き付けるものがあるらしく、実際町の人間はモニターか手元のタブレットで配信を見ていた。
『所々相手のチームのステージを奪うためチーム同士の衝突が起こっているようだが、そんな時は拳を使うんじゃなくてロックシードを使ってのインベスゲームで決着をつけるのがクールなやり方ってもんだぜッ!』
インベスゲーム。
それは沢芽市に存在するビートライダーズと呼ばれる若者たちが自分たちのステージを相手のチームから守るため、もしくは奪うためにするロックシードと呼ばれる果物や種を模した錠前を使うことで操るインベスと呼ばれる存在を戦わせるゲームのことだ。
インベスゲームで相手チームを倒し、ランキング上位に上がる、それが今沢芽市で人気の娯楽だった。
「またか……ずいぶん変わっちまったな、この町も……ん?」
移動しているとなんだか人が騒いでいるのが見える。
「!? あれは…!」
騒ぎの中心に居たのはインベスだった。それも
インベスはロックシードで呼べばホログラムの様な姿で出てくるが、もしバトルフィールドから出れば実体化する。
おそらく誰かがインベスゲーム中にロックシードを手放し、コントロール出来なくなったのだろう。
インベスにも驚いたが将汰が驚いたのはインベスが襲っている人物だった。
将汰はすぐにバイクを動かし、インベスに突っ込む。
「キィィッ!?」
「! 将君…」
インベスを弾き飛ばし、襲われていた少女、まどかの近くに落ちていたロックシードを拾い閉じようとする。
すると、インベスの近くにチャックの様なものが現れ、入り口らしきものが開く。
インベスがそこを通るのを確認するとロックシードを閉じ、入り口を消す。
一先ずなんとかなったが、ロックシードは壊れていた。
「大丈夫か、まどか?」
「う、うん…。ありがとう…」
「将汰さん!」
手を伸ばしまどかを立たせると『チーム鎧武』のメンバーが集まってきた。
「よぉミッチ。みんなも大丈夫か?」
「はい…けど……」
「インベスゲームの途中にロックシードを手放すとはな!」
将汰の問いにチーム鎧武の少年、呉島光実が答えるとステージにいた赤いコートの青年が叫んだ。
「あいつ等は…確かバロンの……」
「試合放棄と見なしていいんだな! だったら今日からこのステージは俺たち『チームバロン』のものだ!」
「はぁ……」
「ま、まどか、元気出しなって!」
「お前が言うな」
落ち込むまどかを元気付けようとするさやかだが将汰にツッコまれ怯む。
「うぐっ…だ、だってしょうがないじゃん! いきなりステージを寄越せなんて言われたらさ…」
話によると、ことの始まりはチーム鎧武のメンバーがステージで踊っていると先程の青年、チームバロンのNo.2的な人物、ザックがリーダー以外のメンバーを引き連れ、ステージを懸けてインベスゲームで勝負を仕掛けてきたらしい。
普通はチームのリーダーの指示を仰ぐべきなのだが、怒ったさやかはリーダー不在のままインベスゲームを受けてしまった。
結果はロックシードを落としてしまいあの騒ぎが起きたというわけだ。
さやかが言うには、何かが手に当たりロックシードを落としてしまったという話なのだが……
「よお、将汰。元気そうだな」
「裕也…」
そんな三人に声を掛けてくる人物がいた。
名前は角居裕也。チーム鎧武のリーダーだ。
「さやか、ミッチから聞いたぞ。俺が行くまで待てって言ったろ?」
「うぐっ……」
「裕也さん…これ…ごめんなさい……」
まどかが壊れたロックシードを見せながら謝る。
「気にするなって。だからそんなに落ち込むな」
「…うん」
「なぁ、将汰」
「ん?」
「ちょっといいか?」
まどかとさやかを帰らせ、バイトを終わらせた後、将汰は裕也と共にドルーパーズという店に来ていた。
ドルーパーズとはフルーツを専門に扱っている店で将汰たちの行き付けの店だ。
「またロックシードか…。最近はどれだけランクが高いロックシードを揃えているかでチームの格付けが決まるようなもんだな…」
店の奥に居る錠前ディーラーのシドからロックシードを買い、嬉しそうに店から出て行く人を見ながら裕也が呟く。
「俺はあんまり好きになれないな…」
「そうか? 喧嘩で怪我人が出るよりマシだしかわいいもんだと思うぜ?」
ドルーパーズの店長、坂東清治朗がパフェを将汰と裕也のテーブルに置きながら将汰の呟きに応える。
「そもそもあのインベスって一体何なんだ! ランキングだって1年前までは誰も気にしていなかったのに、今じゃみんなインベスゲームに勝ってランキングを上げることに必死だし…!」
ビートライダーズには
ダンスやインベスゲームの様子をネットで配信し、街の人々の投票によりチームの順位が決まる。
現在の1位は先程のチームバロンだ。
ちなみにチーム鎧武は最下位になっている。
「お前がいなくなってストリートの様子はすっかり変わっちまった…。1年前、お前が帰ってきた時はまた前みたいになると思ったんだけどな……」
「裕也……」
「分かってるって。チームを抜けた時みたいにあの時も何かあったんだろ? あの時のお前、普通じゃないくらい元気なかったもんな。心配すんな。チームのみんなもいつかお前がチームを抜けた理由を分かってくれるって!」
「……ああ」
この街に帰ってきて、たくさんのものが変わっていた―――――
街も。人も。自分の知っているものはほとんど―――――
でも、それでも変わらないものもあった。
そのことが少しでも良かったと思う将汰だった。
「ただいま~」
「おかえり」
夕方。
マンションに帰ってくると台所から姉、桜庭晶の声が聞こえた。将汰は椅子に座ると、はぁ、とため息をつく。
「どうしたの? 元気ないけど…」
「なぁ、姉さん。変わるのってそんなにいけないことなのかな……」
「どうしたの急に?」
「この街はずいぶん変わっちまった…。街だけじゃない。人も、ルールも、たくさんのものが…。ビートライダーズも昔はみんな一緒に笑いあっていたのに…今じゃ、みんないがみ合ってランキングを上げることに必死になってる。だったら、いっそ変わらない方がよかったんじゃ……」
たくさんのものが変わってしまった。その結果、傷ついたものや失ったものがたくさんあった。
なら、変わること自体が間違いなんじゃないのか、そう思う将汰が聞いたのは――――
「う~~ん…それは違うと思うよ?」
――――否定する姉の言葉だった。
「えっ、な、何で! だって、変わったからみんないがみ合うように―――」
「確かにみんな変わったからそうなっちゃったけど、それは仕方ないことだと思う」
「仕方ないこと…?」
「そう。だって、変わった後に良くなるか悪くなるかなんて、誰にも分からないもの。大切なのは、そういうことを恐れないで変わることだと思う」
「大切なのは…恐れずに、変わること……」
「そう! で、一番ダメなのは、そういうことを恐れたり色んなことに執着して変わろうとしないこと。良くも悪くも、変わることは大切だからね。将汰はさ、どんな自分に変わりたいの?」
「俺の…なりたい自分…」
昔、変わろうと思ったことがあった。でも、その結果、色んなものを傷付けて…それで、変わろうと思ったのが間違いだったと思って……。
でも、それが間違いだっていうんなら――――
「俺…変身したいんだッ! 何でもできる自分に…!」
もう失敗はしない。
もう誰も傷付かないようにしたい。
――――そんな自分になりたい。
「…そう。だったら、はいこれ」
晶が将汰に渡したもの、それは……
「…えっ? ジャガイモ?」
ジャガイモだった。
「まずは家のこと全部出来るようにならないとね。いきなり違う自分になろうだなんて…人生甘く見すぎだぞ! っと。」
「うッ!」
喝を入れるかのように腹パンをくらった後、一緒に料理を作る。
両親が死んでから、ずっと二人で暮らしてきた姉と弟。せめて、その関係だけはこれからも変わらないでいてほしいな、と思う将汰だった。
「何の用だ…」
ドルーパーズにて、裕也はシドに呼び出されていた。
「何…おたくのチームがピンチと聞いてな。とっておきの秘密兵器でも用意してやろうかと思ってな」
「また新手の錠前か…」
うんざりしたように言いながら向かいの席に座る裕也。
「ふっ……いや……」
面白がるような笑みを浮かべながらシドが
「これは……」
そこにあったのは刀が付いたベルトのドライバーのようなものだった。
話は全部頭の中で出来てるのに腕が全然追い付かない……。
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