「じゃあ、それまではバロンとは休戦ですね。ええ、分かっています。おやすみなさい、まどかさん。……はぁ、何処に行っちゃったんだろう将汰さん……」
そう力無く言いながら、僕は自分の住む”呉島邸”に帰ってきた。ただし、その服装はいつものビートライダーズの服ではなく自身が通っている学校の制服で、だ。
本当なら、みんなみたいにガレージだけでなく自分の家で思いっきりみんなのことを考えながら練習をしたい。その日起こった出来事を思い返しながら、笑って、喜んで、そんな毎日を送りたい。
だが、僕にはそれが出来ない。――――いや、
今日もそんな空しさを思いながら歩みを進めていく。
アーマードライダー鎧武とアーマードライダーバロンの決闘から数時間が経った。あれから二人は姿を消したままだ。
ロックビークルとやらでレースを行っていた二人は突如として姿を消した。あれからみんなで二人を探したが、結局二人は見つからず今日はうやむやのまま解散となった。最初は警察に届けようという声も上がったが、ことがことだ。ただの子供の悪ふざけで相手にされないのが目に見えている。そもそも、インベスゲームなんて訳の分からないゲームをしている時点で馬鹿にされているんだろう。
本当に頭にくる。こういう自分たちが大人で、僕たちが子供ってだけで自分たちが正しいと思いながら上からものをいう人は……。
誰にも気付かれないように音を立てずに家の中に入る。このまま静かに自分の部屋まで――――
「光実」
「! 兄さん……」
――――行こうとして、僕を呼び止める声が階段の上から聞こえ足を止める。
どこか怪しむような、そんな声色で僕の兄”呉島貴虎”は僕のことをその鋭い目で見つめていた。
呉島貴虎
この家に住む二人の呉島の人間の内の一人。兄さんと僕だけの二人だけの兄弟。現時点でのこの家の家長といっても過言ではない。
「こんな時間まで何処に行っていた?」
「うん、今日は塾の特別講習だったから」
―――――勿論、嘘だ。
塾なんてとっくに終わっている。今日は塾を早く終わらせ、チーム鎧武のガレージに行っていた。勿論、そんなことは口が裂けても言える訳が無い。
兄さんは僕がビートライダーズをしているだなんて知る由も無い。
「近頃、成績が伸び悩んでいるようだが」
「中間考査の成績ではクラスでもトップだったよね」
事実、ビートライダーズの活動で勉強が若干疎かになっているが中間考査などの成績については全然問題ない。
「お前なら学年トップも狙えたはずだ」
そうだ。
確かに真剣に勉強に打ち込めば学年トップを狙えただろう。
だが、それはみんなとの……チームのみんなとの時間を減らすということになる。そんなことだけは絶対に嫌だ。あそこは―――僕が見つけた初めての場所なんだ。
だが、そんなことは兄さんには関係が無いだろう。
「光実、お前はいずれユグドラシルで俺の片腕を継がなければならない男だ。そのために今考えること、やるべきこと、全てが分かり切っている。そうだな?」
「……もちろんだよ、兄さん」
僕たちの父、呉島天樹はユグドラシルコーポレーションの重役の一人だ。当然、その息子である兄さんはその父の跡を継ぐ為に幼いころから教育を受けている。
当然、僕も例外ではない。
そうだ。分かり切っている。
兄さんが僕に求めているのはそんなものじゃない。将来ユグドラシルの為に、兄さんの為に勉強して役に立つ。
それが、兄さんが僕に求めていることだ。
僕のその言葉を聞くと、満足したかのように笑いながら僕の肩に手を置き、語りかける。
「なら、集中しろ。余計なことに気を取られるな。無駄なものを切り捨てることでお前の人生は完成されるんだ」
「……分かってる。僕の人生は無駄だらけだ」
そう。僕の人生は無駄だらけだ。
ビートライダーズの活動なんて将来、なんて役にも立たない。そんなことは分かり切っている。
分かり切っているはずなのに…………どうしても手放したくない。
例え――――どんなものを犠牲にしても。
「光実……」
その時、二人の会話を妨げるかのように兄さんの携帯がなる。僕はチャンスと思い、すぐに部屋に駆け出す。
まるで……兄さんから逃げ出すかのように。
「じゃあ、おやすみなさい!」
「私だ。……何?」
-------
「何処まであるんだよここは……行っても行っても森だらけじゃねーかよ」
戒斗と分かれてしばらく歩き回っている将汰だが、行けども行けども回りの景色が変わらないことにだいぶ気が削がれていた。途中で何回も同じところを通っているのではないかと思ってしまうほどあまり変わらないのだ。気が滅入るのも仕方ないことだろう。
「ん? あれって……人? 何でこんなところに人が…………」
少し急になっているところに数人の人影が見えた。
普通なら喜ぶべき場面だが、その人影は全員何か防護スーツのようなもので身を包み、手にはこの森の植物らしきものをご丁寧にビンのようなものに入れて採取していた。
明らかに迷い込んだにしては怪しすぎる。そう思いながら見ていると、足元の木を踏んでしまいその音で向こう側がこちらに気付いた。
「あ……え~と………すいません、聞きたいことが………って、ちょっと!? 何で逃げるの!?」
気付かれたのなら仕方ないと思いながら近づくも、こちらに気付いた瞬間、向こうはこちらに目もくれず一目散に逃げていった。
「なんだあれ。明らかに怪しすぎるだろ………」
そう思いながら逃げていく人たちを見ていく――――――その時。
バンッ!!
「!? 危なッ!!」
背後から物音がし、反射的にしゃがむと先程まで自分の頭があった場所を一筋の弾丸が通り過ぎていった。
「何なんだよいった………い……」
背後を見る。
そこに立っていたのは一人のアーマードライダーだった。
だが、それは自身も……恐らく町のみんなもまだ見たことは無いであろう姿だった。
左腰には自分が持つ無双セイバーと同じものをぶら下げ、左手には緑色の盾を持ち、盾と同じ緑の鎧を身に纏い、こちらを静かに見つめる白い姿がそこにあった。
その白い姿を見た瞬間――――――
「ッ――――――――!!!!!??」
――――――頭が真っ白になった。
―――――全部、お前のせいだ。
「白い……アーマードライダー………」
その白き姿が、かつて見たあの白い仮面ライダーを思い出す。
あの時………自分に残酷な現実を叩きつけながら自分を痛めつけてきた――――あの指輪を嵌めた仮面ライダーのことを。
「(違う……! あいつはあいつじゃない!)」
一瞬だけ姿が重なるが、すぐさま頭から外し目の前のアーマードライダーを見る。
相手はこちらを見つめたままいつの間にか右手に持っていたロックシードを解錠し、放り投げる。何のつもりだ、そう思った瞬間、近くにいた一体のインベスが放り投げられたロックシードに近づき――――食べた。
「ギイイィィィァァアッ!!!」
まさか、そう思った瞬間、インベスは体が植物に覆われ、現れたのは先日自分が戦ったのと同じシカインベスだった。
「! 成長した!? やっぱり……こいつらロックシードを食べて強くなるのか……」
「ギイイィィィィッ!!」
「うお?! 変身!」
『オレンジ!』
こちらに突っ込んでくるインベスを避けながら、戦極ドライバーにロックシードをセットする。
本来なら入口が開き現れるオレンジ鎧がこちら側で変身するからなのか、頭上に現れる。
『ロック・オン! ソイヤッ!』
『オレンジアームズ! 花道・オンステージ!!』
「はぁっ!!」
変身すると同時に二本の刀でインベスを切り付ける。インベスも自身の角を使い、刀を弾きながらこちらに反撃を仕掛けてくる。弾きながら白いアーマードライダーを見るが、インベスを呼び出した後はこちらを観察するかのように見ているだけだ。
ならば今相手にすべきは目の前のインベスなのだが、前の奴と同じなだけあって頑丈なのか刀のダメージがなかなか通らない。
「だったら!」
『パイン!』
『ロック・オン! ソイヤッ!』
オレンジロックシードを外し、パインロックシードをセットし切る。それと同時に纏っていたオレンジ鎧が消え、新たに鎧を身に纏う。
『パインアームズ! 粉砕・デストロイ!!』
「おらぁっ!!」
「ギィィ!?」
右手に表れたパインアイアンを振り回し、シカインベスに何度も叩きつける。やはり相性がいいのだろう。先程よりも確実にダメージを与えていることが分かる。
「行くぜ!」
『ソイヤッ! パインオーレ!!』
カッティングブレードを二回倒す。すると、右足に黄色いエネルギーが徐々に収束していく。
エネルギーを溜め終わると同時にパインアイアンをインベス目掛け思いっきり蹴り飛ばし、すかさず無双セイバーを構え、パインアイアンで怯んだインベスに近づき抜刀の要領で切り付ける。
「はああぁぁぁっ!!」
「ギイイィィィァァアアッ!!??」
「ふう……なぁ、あんた一体……え?」
一体誰なんだ、そう聞こうと振り向いた将汰だったが、白いアーマードライダーはこちらに無双セイバーを抜き、左手に盾を持ちながら近づいてくる。
言わなくても分かった。次はこいつの戦うことになるのだと。
「ち、ちょっと待ってくれ! 俺はあんたと戦うつもりはない! ただ人を探してるだけだ!!」
「はあぁ!!」
「なっ?!」
何とかこちらに敵意が無いこと、この場で戦うつもりは無いことを相手に伝えるが、相手は聞く耳も持たずこちらに向かって剣を振るう。
すかさず自身も無双セイバーで防ぐが、予想外の威力に押し負け、弾き飛ばされる。
何とか体勢を立て直そうと立ち上がるが、いつの間にか目の前に接近され再び切りつけられる。
「ふん! はあぁぁあ!!」
「ぐっ!! うわぁっ!!」
何とか続けられる剣戟を防ぎ続けるがすぐに分かる。
その一撃一撃が確実にこちらの命を取る攻撃だと。
相手はこちらを確実に倒すのに何のためらいも無いのだと。
「(こいつ、強い……!! 先生と同じかそれ以上に!! しかも攻撃に何の躊躇も無い!)」
「ほらほらどうした? 命のやり取りはこれが初めてではないだろう?」
そう軽く言いながらも、こちらに向かって放つ攻撃は勢いを増すばかりで無双セイバーを防ぐのも限界になり、タイミングを見て後ろに下がりながら避け続ける。
「逃げるな。さあ、かかって来い」
「何でだ?! 何であんたと戦わなきゃならない!!」
「何故…だと? はぁ! はあぁっ!」
戦う理由を問う将汰に一瞬だけ動きを止めるがすぐに白いアーマードライダーは無双セイバーを振りかざしてくる。なんとか距離を取り続けても、すぐに相手は間合いを詰めて切り付け続けるため休む暇も無く剣戟が続く。
「敵に何故等と問いかける者は、そもそも戦う資格すら無い!」
「ぐあっ!!」
再び一撃、ニ撃と切り付けられ地面に倒れる。立ち上がろうとするが受けたダメージが大きいせいか、上手く体に力が入らない。
そんな将汰にお構いなく、白いアーマードライダーは無双セイバーの鍔を引き、銃口をこちらに向ける。
「そのベルトは過ぎた力だ。手放してもらおう」
バンッ! バンッ! バンッ!
3発。白いアーマードライダーが放った弾丸はたったの3発だけだったが、今の将汰には十分過ぎる程のダメージが奔る。
「はあ、はあ……そ、そんな……」
「戦いに意味を求めてどうする? 答えを探しだすより先に、死が訪れるだけの事。ふん! はあぁっ!!」
「ああぁっ!!」
また切り付けられ後ろに飛ばされるが何とか木にぶつかり止まる。すぐに白いアーマードライダーに向き直るが、横目で後ろを見る。
木にぶつからなければ落ちていたであろう川が見える。落ちればただではすまないであろう高さに足を取られないように気をつける。
「はあ、はあ………」
「この世界には、理由のない悪意など、いくらでも転がっている。ふんっ!」
「ぐっ……!」
「そんな事さえ気付かずに、今日まで生きてきたのなら貴様の命にも意味は無い。今、この場で消えるがいい!」
一閃、その必殺の一撃を何とかかわしたがそれにより背後の木を切断され支えるものの無くなった将汰に続く盾による攻撃をかわす術は無かった。
「うわああぁぁぁぁぁあああっ!!!」
「う、うぁ………」
川に落ちたのは運が良かったとしかいいようがない。
もしも、落ちていたのが川ではなく地面であったなら今の比ではないくらい大きな致命傷を受けていただろう。だが、受けたダメージは少ないとは言えない。変身が解けているのが何よりの証拠だろう。
「あ…ああ………」
上を見る。
白いアーマードライダーは尚もこちらを見続けている。
「あああああああああぁっっ!!!!!!」
逃げなければ。
逃げなければまたあいつは自分を殺しに来る。
―――――――あの白い仮面ライダーのように。
それは恐怖なのか、はたまたただの防衛本能なのか。将汰の足は白いアーマードライダーとは逆の方向へと走り出していた。
何処に逃げればいいのかは分からない。
何処でもいい。
あいつがいない所へと――――――。
「…………ふん」
白いアーマードライダーは逃げていく将汰を見ながら変身を解く。
アーマーが弾ける様に消えると、そこに立っていたのは呉島光実の兄”呉島貴虎”だった。貴虎は自身の携帯を取り出し、自身が最も信頼する親友に連絡する。
「凌馬、私だ」
『やぁ、貴虎。侵入者は追い返すことは出来たかい?』
「当然だ。だが、逆に拍子抜けしたな。あの学園の仮面ライダーだったというからどれほどの実力かと思ったら、逃げるだけだ。これでは訓練にさえならない」
『はっはっは! 相変わらず手厳しいねぇ。まぁ、それも仕方ないか。何せ君が相手だったからねぇ……で、彼はどうしたんだい?』
「ああ、多少痛めつけておいた。これでこの森に不用意には近付こうとは思わないだろう」
『ふぅん……ま、何にせよこんな夜中までお疲れ様。帰ってゆっくりするといい』
「ああ、そうさせてもらう」
-------
「では決まりだな。これから『レイドワイルド』と『インヴィット』はチームバロンの傘下だ」
チームバロンの溜まり場に戒斗率いるチームバロンのメンバーだけでなく『チームレイドワイルド』のリーダー、初瀬亮二と『チームインヴィット』のリーダー、城乃内秀保が集まっていた。
話の内容は先程戒斗が宣言した通り、チームバロンを旗本にした三チームによる連合チームの結成だ。
謎の森で将汰と別れた後、戒斗は一人ロックシードを集めていた。理由は単純に戦力の増強だ。今までは錠前ディーラーであるシドからロックシードを買わなければいけなかったが、あの森に行けばいくらでもロックシードを集められる。道中、インベスとも戦っていたが粗方集め終わると戒斗はバイクで森を脱出し、自身の拠点でレイドワイルドとインヴィットのリーダーである二人と話を始めた。
連合チームになる為の条件は至極単純、シドの代わりにロックシードを提供すること。そして連合チームでランキング上位を独占すること。
今ランキングはチーム鎧武が破竹の勢いでランキングを上げてきている。だがもし複数のチームが連携を取り、チーム鎧武を迎え撃てばその勢いは止まり、上手くすれば自分たちのランキングも上がる。
とても合理的な協力関係だ。だが、そこに信頼関係は一切存在しない―――
「おい戒斗、いきなりどうしたんだよ? あんな奴らと手を組むなんて……」
「別にどうということはない。俺も奴らもお互いの為に利用しあうだけだ」
そうザックの質問に答えながら戒斗は森で手に入れた新たなロックシードを見つめる。
「……って、戒斗さん! それってクラスAのロックシードじゃないですか!? 一体何処で………」
「いずれ話す。だからあまり気にするな」
今一度自身の心と向き合う戒斗。はたしてこれが自身の求めている強さと同じなのか、それはまだ彼自身も分からない。ただ、一つだけ理解していた。
これもまた、一つの強さの形だということを……………。
-------
「将君!!」
「将汰さん!!」
「………まどかにミッチ? どうしたんだよそんなに慌てて……」
「そりゃ慌てますよ! 家に帰ってきたって聞いたから急いで行ったのにすぐに出かけたって聞いたんですから!!」
「将君、一体何処に行ってたの……みんな心配してたんだよ?」
晶から姿を消していた将汰が帰ってきたと聞いて、急いで家に向かったまどかと光実だがまたすぐに家からいなくなった将汰を探しに町中を探していた。だが、見つかったのは以外にもチーム鎧武のガレージの近くだった。
「悪い……ちょっと色々あってな………」
「色々って………」
「それに俺もちょうどみんなに用があったんだ。これ………」
そう言いながら、将汰はバッグから戦極ドライバーをまどかに手渡してきた。
「返すよ。もう俺には必要ないものだ」
「えっ、これって………」
「俺はもうチーム鎧武のガレージには行かない。用心棒もやめる」
「そんな……」
「将汰さん………一体何があったんですか………」
「そ、そうだよ。一体どうしたの………」
「―――――もう一度あの森に行った。裕也が消えたあの森に」
「―――えっ?」
「そこで…別の白いアーマードライダーに出会った」
「白い…ライダー?」
「恐ろしく強くて歯が立たなかった。俺はそいつに殺されかけた」
「そんな……殺すだなんて…」
「本当だ!! あいつは本気だった……」
「でも、だからってガレージにも来ないなんて……みんな悲しむよ…」
「二人には分かるか? 相手との圧倒的な力の差を見せ付けられて、自分の弱さを痛感させられて、そして自分に迫ってくる―――死の恐怖が?」
「っ……それは………」
自分の手を見ながらそう二人に語りかける将汰。
まどかと光実にも分かった。後姿だけでも分かるほどにその声が、その手がその、背中が、その体が震えていることに――――。
「一度は立ち直った……立ち直ることができた。でも、もう無理だよ。俺はもう――――変身できない」
「将汰さん……でも!」
「―――――うん、分かった」
「っ!? まどかさん」
「いいんだよ光実君。元々、私たちの問題だったんだし将君が無理する必要なんかないよ………」
驚く光実に首を横に振りながら将汰から戦極ドライバーを受け取るまどか。暗い顔をする将汰の震える手に自分の手を添えながら笑顔で語りかける。
「これはみんなで預かっておくから、今はゆっくり休んで。また元気になったら一緒に遊ぼうよ。ね?」
「―――うん、ごめん、まどか………」
「まどかさん、聞きましたよねバロンチームの連合の件? この先、将汰さんがいないと!」
「いいの……将君は手伝ってくれてただけだから」
将汰と別れたまどかと光実はバロンが他のチームと結託し連合チームになっていることについて話していた。今まではバロン以外のチームはどれだけ強くてもインベスしか使ってこなかったため何とかすることが出来ていた。
しかし、バロンと結託したということは今後はアーマードライダーとインベス、その両方を相手にしなけらばいけないということ。アーマードライダーである将汰がいない今、他のチームを渡り合うことが出来るのか。光実はそこが心配だった。
「でも!」
「たぶん将君が行ったっていう森……私も行った事があるんだ」
「えっ………」
「そこでとっても怖い目にあって……最初はこれでいいのかなって思ってた。将君にこんな危ない役割をさせてて……でも、やっぱり駄目だよ。やっと、やっと……元気な将君に戻ってくれたのに私たちのせいでまた辛い思いをさせちゃうなんて……!」
一年前に久しぶりに会ったときは碌に会話もしてくれなかった時を思い出す。
酷く疲れたような顔をして、すぐに気付いた。
―――――また、無茶したんだ。
―――――また、傷ついたんだ。
―――――私の知らないところで、たった一人で………。
もうこんな顔を見たくない。だから、みんなで守らなくちゃ……いつもしてくれてるみたいに。
「たった一人で傷つくなんて、おかしいよ……! そんなのって……そんなのって………!!」
「誰かの為に傷つくのが……そんなにおかしいことなんですか?」
「え?」
「確かに、将汰さんは誰かの為に頑張ってくれてます。それで傷つく時だってあります。でも―――僕は将汰さんが間違っているだなんて思わない。だって、そんな風に悲しんだら……本当に将汰さんのやってきたことは何だったのか分からなくなっちゃいますよ!」
「光実君………」
「将汰さんは必ず立ち直るって信じてます。一年前のようにまた………あの人は何も間違ったことなんてしていないんです!」
そう言いながら、光実はどこかに走り出して行った。
-------
呉島邸
自分の机に座りながら光実はチーム鎧武のみんなが映っている動画を見ていた。何かに苦悩するかのように、何かを決意するかのように。
「(僕だって変わりたい……こんな自分はいやなんだ)」
ステージの端でみんなを見守る自分、闘っている将汰の後ろで見ているだけの自分、そして……兄を避け続けている自分―――――様々な弱い自分が頭をよぎる。
「でも、僕に出来ることなんてあるのか?」
いや、違う。何が出来るとか、何が出来ないとかじゃない。何かをしなくちゃいけないんだ!!
そう決意しながら光実はある決意を掲げる。
-------
「いらっしゃーい……って、光実じゃねーか。一人なんて珍しいじゃねーか」
「こんにちは。シドは来てますか?」
「おう、奥にいるぜ」
次の日。
ドルーパーズに訪れた僕は阪東さんからシドの場所を聞き、奥に向かう。目的はロックシードだけじゃない。戦極ドライバーだ。
チーム鎧武とチームバロンの二つの戦極ドライバー。複数存在しているということは、恐らくまだある筈。そう思った僕はすぐシドのところに向かった。
「よう、今回はどんなものをご所望だい?」
「今回はちょっと特別でね。ロックシードと……それを嵌めるドライバーが欲しいんだけど……」
そう言いながら僕は自分の財布からカードを取り出す。
たとえどれだけかかろうとも必ず手に入れるために、カードの中には複数のロックシードを変えるだけのお金が入っている。
だけど―――――
「―――悪いがそいつはいくら出されても無理だ。諦めな」
―――――え?
「ど、どうして?!」
「戦極ドライバーは俺がこれと見定めた人間にしか渡さないって決めてるんだ。それにお前さん、呉島貴虎の弟だろ?」
「っ! 兄さんを知ってるの…?」
「父親はユグドラシルの重役の一人で、あいつもユグドラシルのプロジェクトリーダーだ。そんな奴の弟に火遊びを教えたなんてばれたら俺がこの町にいられなくなる」
確かにこの人の言うことは最もだ。でもまさか兄さんのことを知ってたなんて。
このままじゃ何も出来ない……!!
何か、何か方法は………!!
―――――あるじゃないか。それも飛びっきりのが。
「ねぇ、シドさん」
僕はシドの対面に座りながら口を開く。
この人は確かに兄さんのことを知っていた。
―――――でも、僕のことは?
当然、知るわけが無い。僕は兄さんとは違ってユグドラシルに顔が利くわけじゃないから。それを最大限使わせてもらう。
「確かに僕の兄は呉島貴虎だ。ユグドラシルのプロジェクトリーダーを務めるくらいのすごい人だ。―――そして、僕はその呉島貴虎の弟だ。いずれはユグドラシルに入り兄さんの仕事を手伝うことになるだろう。そして出世もする。もしかしたら、兄さんよりも上に行くかもしれない」
そこまで聞いてようやくコーヒーを飲む手を止め、シドがこちらを向く。
まずは第一段階。こちらに注意を向かせること………次は―――――
「シドさんは兄さんのことは知っていても僕のことは何にも知らないよね?」
「おいおい……」
「先行きどちらに付くべきなのか……今のうちに考えておいても損は無いと思うよ?」
第二段階、未知の実力者への危険視。
実力を知っているのと知らないのとでも大きく違う。それが今この場において僕が使える唯一のカードだ。
「――――は、はは、はっーーーーーはっはっはっはっはっは!!!」
突然シドが笑い出した。
―――――勝った。
僕は顔にこそ出さないが、内心で勝利を確信していた。
「ずいぶん面白いことを行ってくれるじゃねえか。気に入ったぜ」
そう言いながらコーヒーを飲み干しシドは席を立ち、店から出て行こうとする………その直前で歩みを止め、僕に話しかけてきた。
「言い忘れていたが、たとえ俺が忘れ物をしていたとしても、行儀のいい呉島の坊ちゃんならご丁寧に俺に届けてくれるんだろうな?」
そう言い残し、今度こそシドは店から出て行った。
「行儀のいい呉島の坊ちゃん………ねぇ……」
そう言いながら、僕はシドの座っていたソファに置かれている戦極ドライバーとロックシードを見つめていた。
-------
次の日。
いつものようにチーム鎧武の面々はステージにいた。ステージの前には観客がいて、ステージの上にはいつものメンバーがいて。
ただし、そこにアーマードライダーである彼の姿だけが無かった。
「おや~、チーム鎧武。いつもの用心棒はいないのかなぁ~~?」
そんな状況を見逃す者は少なくは無かった。
人をおちょくるような声を出しながら観客たちを掻き分け、ステージの前にその男、城乃内が現れる。
既にチームバロンを旗本にした連合チームの噂は沢芽市の人々に知れ渡っていた。もちろん、その傘下に入ったレイドワイルドとインヴィットのことも。
城乃内の手にはクラスAのロックシードが握られている。ステージを懸けてのインベスゲームを仕掛けてきたことは明白だった。
「っ、この――――」
「待ってさやかさん。ここは僕が」
え、とその場に驚いたような声が聞こえる。城乃内の前に出ようとするさやかを光実が手で制し、前に出た。当然、みんなが驚いた。今までチームのいざこざでも積極的に前に出ることは一切無かった光実がさやかを止めて自分が前に出てきたのだ。
「でも光実君!」
「安心してくださいまどかさん。僕たちの―――あの人の場所は、僕が守りますから」
「何だ、出てきたのはいつも後ろにいたお前か」
「チームインヴィットの城乃内だな。インベスゲームに限らず、卑怯な手で相手チームからステージを奪うことで有名な……」
「ふっ……策士って言ってほしいね」
みんなの前に出ながら、光実は目の前にいる城乃内を睨み付ける。
「将汰さんがいない時を狙ってきたんだろうけど、そうはいかない」
城乃内がロックシードを構える中、光実が取り出したのは―――――戦極ドライバーだった。
「なっ――!? まさか……お前も…!!」
「光実君、それって?!」
戦極ドライバーをセットすると、中華風の音楽が一瞬鳴り、フェイスプレートに緑色の仮面が浮かび上がる。
『ブドウ!』
右手を左肩まで持っていきロックシードを解錠する。音声がなると同時に、光実の頭上にブドウを模した鎧が現れる。
右手を上から右に、左手を下から左に円を描くように広げ、胸の前でクロスさせロックシードを前に突き出し、ベルトにセットする。
『ロック・オン!』
ロックシードがセットされ、辺りに中華風の音声が響き渡る。
「(辛いこと……悲しいこと……世の中から決して消えることは無い――――)」
呉島として生まれ、それが当たり前として生きてきた。未来を決められ、抗うことも出来ず、ただ受け入れるだけの人生だった。
―――――でも知った。知ってしまった。
―――――それがどれだけ辛いことなのか。
―――――それがどれだけ………空っぽなのか。
『私の名前は鹿目まどか。君は?』
―――――初めてだった。
心の底から―――――この笑顔を守りたいと思ったのは。
―――――初めてだった。
その笑顔のために頑張っているあの人を見て、あんな風になれたら………なんて思ったのは。
「(でも、大切な人が傷付くくらいなら……自分が傷付いたほうがいい―――――)」
―――――そうだよね?
―――――将汰さん。
「変身ッ!」
『ハイィ~~!』
『ブドウアームズ! 龍・砲 ハッハッハ!!』
歓声が沸きあがり、音声と同時にブドウを模した鎧が展開される。
ブドウの実の様な模様が胸にあり、頭には龍のヒレの様なものが付いた緑の戦士がそこにいた。
ブドウのロックシードを使う、チーム鎧武二人目のアーマードライダーがここに誕生した。
『沢芽シティ&ビートライダーズの諸君!! ビッグなニュースだぜ!』
「………? 何だ?」
何処ともなく歩いていた将汰の耳に近くの女性が持っているタブレットからDJサガラの声が聞こえてくる。気のせいでなければ、その声はどこかいつもの様なテンションとは少し違っていた。
まるで、新しいおもちゃを見つけたような声でサガラは話を続ける。
『オーケー! このホットな映像をまずは見てくれよ!』
そう言いながらサガラが出した映像に将汰は言葉を失った。
何かの間違いではないだろうかとも思った。だが、間違いでなければサガラの出した映像に映っていたのはチーム鎧武の仲間である呉島光実が戦極ドライバーを使い、アーマードライダーに変身している映像だった。
『ななななな何と! チーム鎧武に二人目の鎧武者が出現! クラスAのロックシードで挑んだチームインヴィットを見事に……撃退だ!! 新たな戦士はチャイニーズテイストのガンスリンガー! 決め技が火を吹く様はまさにドラゴンの息吹!! 名づけてアーマードライダー”龍玄”といこうじゃないか。オーケー! 盛り上がってきたぜッ!!』
少しずつ。
だが、確実に沢芽市にアーマードライダーは誕生していく。
それが――――仕組まれたことだと知らずに。
最新話投稿しました。
ちょくちょく後の伏線を入れているけど、実質的なオリジナル展開まで後少しです。
仮面ライダーナックル/仮面ライダーデューク、ランキング1位おめでとう!!