この素晴らしい青い青春に祝福を!   作:気弱

4 / 4
この新人冒険者に洗礼を!

アクセルの街を全方位から優しく取り囲む、なだらかでどこまでも青々とした広大な草原

 

本来であればそこは、心地よい温かな風に揺られながらのんびりと楽しそうに跳ね回る『空飛ぶキャベツ』や、草むらの影から時折ひょっこりと顔を覗かせる無害な小動物系のモンスターばかりが姿を現す、癒やしと穏やかさに満ちた安全地帯のはずだった

 

「――いーやーぁぁぁ――っ!?!? なんでこんなことに――っ!?」

 

「うおーっ!?!? あ、あいつら!!本当に 余計な事ばかりしやがってー!!??」

 

そんなのどかな草原の澄み渡る地平線を背景にして、私、梔子ユメは目いっぱいに大きな涙の粒を浮かべ、喉の奥から絞り出すような情けない絶叫を上げながら、必死の形相で先頭を走るカズマさんの背中を追いかけて全力疾走していた

 

「か、カズマさん、カズマさんっ……!? ジャイアントトードの討伐なんて、基本中の基本のクエストで、ベテランの冒険者さんたちにとっては朝飯前だって聞いてましたけど……もしかして全然慣れてなかったんじゃないですかっ!?」

 

「慣れてるよ!! これでも過去何回も討伐してるんだからな!? だが今回は調子に乗りすぎて、うちの主力のアイツらが致命的な馬鹿をやらかしたからこうなってるんだよ!!」

 

怒りに満ちたカズマさんが激しい息を吐きながら、走りざまに勢いよく自分の背後を指さす

 

その指先の先――私たちのすぐ後ろから、地の底を揺らすような重苦しい足音を響かせて追いかけてくる巨大カエルたちの群れには、信じられないことに、すでに全員が頭から丸呑みにされ、それぞれ頭や手足だけを口の外に間抜けに突き出した状態のアクアさんたちが、まるで不気味なパレードの行進のように一列に並んでぶら下がっていたのだ

 

「カズマー、時間はまだ十分にありそうですので、慌てずマイペースで助けてくださーいねー」

 

「ふ、ふふふ……っ! 素晴らしい、実に、実に素晴らしいぞ……! この全身をねっとりと密着して包み込む圧倒的な異物感と、胃液の微かな灼熱……! ああ、久しぶりに全身で味わうこの屈辱的な敗北の感覚……たまらんっ……! もっと強く締め付けてくれても構わんのだぞ……!」

 

「ぷはっ……! か、かじゅましゃん……! 生臭い唾液が耳の中まで入って……ぷはっ! ゆめーっ、私を置いていかないでー! 女神を見捨てるなんてバチが当たるんだから、早く助けてぇーっ!」

 

「私、初めての記念すべきクエストなのに、どうしてこんな絶体絶命の場所からツッコミを入れなきゃいけないんですかっ!?」

 

めぐみんさんはカエルの巨大な口の隙間から顔面だけをひょっこりと覗かせながら、まるでポカポカ陽気のピクニックの途中のようにどこか優雅にのんびりとカズマさんに声をかけているし、ダクネスさんに至ってはなぜか全身の肌を真っ赤に染め上げ、うっとりと潤んだ瞳で何やら完全に「満更でもなさそうな恍惚の表情」を浮かべて身体をくねらせて身悶えしている

 

そしてアクアさんに至っては……カエルがよほどアクアさんの味を気に入ったのか、ゲコゲコと低く鳴く粘着質の舌に押し出されたり再び奥へと飲み込まれたりを滑稽に繰り返しながら、水しぶきと一緒に奇声を上げている始末だった

 

あまりにもシュールで、あまりにもカオスすぎる極限の危機的状況! しかも、私のすぐ真後ろにピタリと張り付いて大きな地響きとともに飛び跳ねている巨大な緑色のカエルなんて、私のことまで美味しく丸呑みにしようと狙っているのか、その間抜けで緩そうな黄色い目つきとは裏腹に、心底背筋が凍りつくような恐ろしい殺気をビシビシと放っているのだ

 

こ、怖すぎるよぅ……っ!

 

どうして、こんな平和でのどかな街の近郊で、私たちがこんな命がけの鬼ごっこを繰り広げる羽目になってしまったのだろうか

 

すべての発端は、遡ることほんの数十分前の出来事にあった――

 

昨日、私たちは受付のルナさんから「まだ一般のギルド掲示板には貼り出されていない、特別で新鮮な初級クエスト」を、私の初陣のために特別に優先して受注させてもらっていた

 

ターゲットは『ジャイアントトードの討伐』

 

このアクセルの街の周辺ではもっとも有名でポピュラーなカエル型の大型モンスターであり、本来であれば暖かい「春頃」に、泥の中での長い冬眠から目覚めて餌を求めて街の近くの草原までノコノコと這い出してくる……はずのものだった

 

だが、少し前に起きた街周辺を大きく揺るがす『盛大な大爆発』のすさまじい魔力の激しい余波で、なんと本来ならまだ泥の中でぐっすり眠っているはずの数匹の凶暴なカエルたちが、よりにもよってこの凍てつく冬の時期に目を覚ましてしまい、お腹を極限まで空かせて草原で暴れ回っていたらしい

 

それにしても、今思い返せばあの時からすごく不審な点があった

 

あの依頼書を見せられた時、ルナさんもカズマさんも、ジャイアントトードのクエストの詳細を説明している最中になぜかずっとじっとめぐみんさんのほうを鋭く睨みつけていたし、当のめぐみんさんも、なぜかものすごくわざとらしく「フ〜〜♪」なんてヘタくそな口笛を吹きながら、これ以上ないほど露骨に視線をあさっての方向へ逸らしていたのだ

 

まあ、今さらそんな裏事情や大人の暗黙の了解について深く考えても仕方ないのだけれど……

 

ともかく、私は自分の人生で初めての「冒険者としての記念すべき初クエスト」に胸をときめかせ、ワクワクとした期待とちょっとの緊張を胸に、カズマさんたちと一緒に意気揚々とアクセルの街の重厚な門をくぐり抜けて、外のどこまでも続く青々とした草原へと一歩を踏み出したのだった

 

街の外は風が吹き抜けてどこまでも広くて、目的のカエルの姿を見つけるまでの道中は、カズマさんたちと色々な世間話をしながら楽しく歩くことができた。

 

例えば、カズマさんとめぐみんさんは、毎日の日課として「1日1回、ある古城に誰もいないことを確認してから盛大に爆裂魔法を放ちに行く」という謎のルーティンをこなしていること

 

初めてジャイアントトードと遭遇した時、調子に乗って単身突撃したアクアさんがあっさりと頭から丸呑みにされて「助けてぇ〜!」と大泣きしたことなど、色々な裏話を教えてくれた

 

そして、その中でも私が思わず吹き出してしまったのが、カズマさんが腰の皮ベルトに下げている小ぶりな『短剣』にまつわる切ないエピソードだった

 

最初は、いかにも昔話の勇者様が持っていそうな、ギラギラと眩しく輝く格好いい長めのロングソードをわざわざ注文して取り寄せたらしいのだけれど、カズマさんにはまったく扱いきれずに抜刀すら怪しく、すぐに今の小ぶりで地味な短剣へと交換せざるを得なかったのだとか

 

その話を聞いたとき、私は「たしかに、自分に合わない長物や重い剣よりは、小回りの利く短い武器のほうが扱いやすくて実用的だよね」とごく自然に納得したのだけれど、その直後にアクアさんがニヤニヤと意悪く笑いながら、その短剣には恥ずかしい「名前」が刻まれているのだと教えてくれた

 

どんなカッコいい名前がついているんだろうって、私もすごくワクワクしながら「教えてください!」と尋ねたところ、カズマさんは急にガックリと両肩を落とし、まるでこの世の終わりのような死んだ目をして

 

『……こいつ(めぐみん)のせいで、俺の大切な相棒の名前は……ちゅんちゅん丸になったんだよ……』

 

と、掠れた声で遠い目をして教えてくれたのだ

 

……その名前のネーミングセンスがあまりにもシュールすぎて、笑ってはいけない場面だという理性が必死にブレーキをかけたのに、どうしてもこらえ切れなくなって、プッと盛大に吹き出してしまった私

 

その直後、カズマさんから「お前まで俺の黒歴史を笑うなぁっ!」と、ごく優しく、しかし容赦のない拳のゲンコツを頭に食らってしまったのだった

 

ひぃん、ポコンって音がしたよ、痛かった……

 

そんな他愛のない和やかな会話をしながら、目的地である背の高い草むらのエリアにたどり着いたときのことだった

 

カズマさんがピタリと足を止め、右手に短剣を構えながら鋭い視線を周囲の静まり返った草むらに走らせ、小声で緊迫した警告を発した

 

『おい、ここら辺一帯にジャイアントトードの気配がするぞ。みんな、絶対に油断するなよ』

 

『よ、ようやくですね……! 私、がんばります!』

 

『ふふん、安心しなさいユメ! 私たちベテランの冒険者がしっかりと手取り足取りサポートしてあげるから、貴方は安心してあのカエルのお腹の中にでも……じゃなくて、安心して私達のすぐ近くにいなさい!』

 

『えっ、お腹の中ですか!? いま絶対お腹の中って言いましたよね!?』

 

アクアさんの不穏すぎる物騒な言い間違いに、私は思わずその場でピョンと飛び上がりそうになるほど驚いた

 

たしかに『ジャイアント』という大層な名前がついているくらいなのだから、体のサイズが大きいというのは頭では想像がついたけれど……まさか、人間が丸ごと簡単にスッポリと飲み込まれてしまうほど巨大だなんて、一体どういうことなの!?

 

『――来たぞッ!』

 

カズマさんの緊迫した叫び声が響いたその瞬間、ずっしりと大地を揺らすような重い着地音が、私たちのすぐ近くの草むらからドシンと響き渡った

 

『……うわっ、嘘でしょ、これ……すっごく、大きい……!?』

 

そこには、赤、青、緑、そして鮮やかな黄色の――それぞれ奇抜な原色をまとった、まるで悪趣味で巨大なぬいぐるみのようにも見える巨大なカエルたちが、全部で4匹も不気味に黄色い目をぎょろつかせて現れていた

 

だけど、私が想像していたよりも遥かに規格外の大きさだった

 

四足でべっとりと座っている状態ですでに私の背丈の二倍は軽く超えているし、あの広すぎる口のサイズなら、私の頭から足先まで一飲みにするのにほんの数秒もかからなさそうだ……!

 

『ユメ、よく見ていなさい! これこそが、水の女神アクア様が誇る究極の必殺奥義よっ!!』

 

私がその圧倒的な異形の存在感を前にして身体を強張らせている中、アクアさんはこともあろうに、一切の危険を顧みず一目散にカエルたちのほうへと駆け出してしまった

 

その華奢な右拳には、なぜかどこか神々しい真っ赤な後光のような光がギラギラと纏われていて、これから何が起きるのか予感させるような凄まじい技の波動がビンビン伝わってくる!

 

『おい、バカっ、待て――っ!? お前、ジャイアントトードの特性を忘れているわけじゃねえだろうなっ……!?』

 

『ジャイアントトードの特性……?』

 

猛突進していくアクアさんの無防備な背中を、カズマさんが必死に腕を伸ばして止めようとする

 

どうしてそんなに慌てふためいているんだろう? 私はすっかり混乱しながら、隣にいたダクネスさんの甲冑の袖をそっと引っ張った。

 

『ジャイアントトードという魔物は、見た目通りそれほど足は素早くはないんだ。だから、油断さえしなければ伸びてくる長大な舌さえしっかりと避けていれば、そこまで苦戦する相手ではないのだが……問題は、奴らには『たった一つだけ』、絶対に忘れてはならない決定的な注意点があるということだ』

 

ダクネスさんは困ったような、でもどこか期待に満ちた嬉しそうな、なんとも複雑な笑みを浮かべて説明してくれる

 

その説明がまさに終わろうとした、まさにその刹那――!

 

『受けてみなさい! 我が怒りの鉄拳――ゴッド・ブロ――ウッ!!』

 

神々しい叫び声とともに、アクアさんの輝く拳が、目の前にいた緑色のジャイアントトードのぶよぶよした巨体腹部へ渾身の力で叩き込まれた

 

しかし、かなり距離が離れている私にまでハッキリと聞こえてくるほどの、あまりにも拍子抜けするような、文字通りの『ポヨンッ♪』という間の抜けた柔らかい音が、広大な草原の真ん中にむなしく響き渡っただけだった

 

……もしかして、このカエルさんたちの特別な身体特性って……

 

『……そうだ。ジャイアントトードという魔物は、魔法以外のあらゆる『打撃物理攻撃』に対しては、信じられないほどの驚異的な無敵の衝撃吸収耐性――つまり、打撃が一切効かない滅法強い肉体を持っているんだよ……』

 

『あ……っ、忘れてたーーっ!?』

 

『うわぁぁ――っ!? アクアさんが一瞬で丸呑みにされたぁ――っ!?』

 

アクアさんの悲痛な叫び声が響き渡るのと全く同時に、青い巨大カエルがまるで大好物のデザートを口に放り込むかのように、アクアさんの頭から上半身をスッポリと豪快にくわえ込み、そのまま喉を鳴らしてゴクリと飲み込んでしまったのだった

 

あ、あんなに無防備に突っ込んで、簡単にスッポリ食べられてしまって、本当に大丈夫なの――!?

 

『わーっ! は、早く……助けなさいよぅ……! んぶっ……! ぐるじい、た、たひゅけってぇ――っ!?』

 

『か、カズマさんっ! は、早く助けないと!? アクアさんが本当にそのまま胃袋に溶かされて食べられちゃいますっ!?』

 

『大丈夫だ! ジャイアントトードの消化液はクソ遅いから、あいつの救出は後回しで平気だ! それより、めぐみん!』

 

『ふっ、お任せくださいカズマ! 我が完璧なる詠唱の調べと、爆裂の美学に酔いしれるがいいのです! ……【 黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が深紅の混淆を望みたもう! 覚醒のとき来たれり、無謬の境界に落ちし理、無行の歪みとなりて現出せよ――】』

 

めぐみんさんが手元の宝杖を天高く誇らしげに掲げ、禍々しい呪文をものすごい気迫と速さで唱え始めると、彼女の足元から周囲の空間にかけて、赤黒く不気味で美しい魔法陣のような幾何学模様がボワッと眩しく浮かび上がってきた

 

す、すごい……! これが、あの噂に聞いていた本物の、人類最強の威力を誇る爆裂魔法……! あんなの直撃したら、カエルさんたちなんて一瞬で消し飛んじゃうよ……!

 

『――穿て! エクスプロージョンッ!!』

 

(パクッ)

 

『『あっ』』

 

まさにその最高潮のフィニッシュのタイミングで、めぐみんさんが杖をジャイアントトードの群れに向けて渾身の魔法を解き放とうとした、まさにその刹那

 

いつの間にか足元の湿った土の中に深く忍び込んで気配を消していたのだろう

 

一匹の巨大な赤いカエルが、ものすごいスピードで地面から飛び出し、長い詠唱の真最中だっためぐみんさんごと、一飲みにパクリと豪快に飲み込んでしまったのだ

 

その直後、ジャイアントトードたちの位置とはまったく違う方向の、誰もいない遠くの地平線の空に向かって――ズズズンッ! と大地を引き裂くような凄まじい大爆発の激しい光と、鼓膜が破れそうなほどの凄まじい大轟音が盛大に巻き起こった

 

……えっ? 遠くのキノコ雲を見る限り、魔法の威力自体は桁違いに凄まじくて感動的だけど……も、もしかして、肝心のターゲットを仕留める前に自分自身がカエルに食べられちゃったから、これって完全なる大失敗じゃ――!?

 

『おいっ……! いったいあいつは何をやっているんだよ……! だからジャイアントトードの群れを相手にする時は、悠長に無駄な大技の詠唱なんてしてる暇はないからもっと手短にやれって何度も言っただろ――っ!』

 

『か、カズマ……っ!』

 

『んだよっダクネス!? この修羅場中の修羅場に、これ以上俺に余計なトラブルと仕事を増やさないでくれよ……!』

 

自分のせいで最悪の状況になったのを見て、頭を抱えて絶叫するカズマさんの背中を、ダクネスさんが切羽詰まった、けれどどこか熱を帯びた怪しい声で呼んだ

 

言われるがままにカズマさんが振り返ってみると、そこにはいつの間にか背後まで静かに忍び寄っていた黄色いカエルに、これまた見事に全身をがぶりとくわえ込まれ、なぜか満足げに顔を真っ赤に染め上げながら、もぞもぞと怪しく悶えているダクネスさんの姿があった

 

『ひ、ひぁぁ……っ! 久しぶりにこの野性味あふれるダイナミックで容赦のない捕食を全身で味わったぞ……! このカエルのネバネバした舌と内壁の刺激、なかなか……実に、良いっ……!』

 

『良くねぇよっ!! なんでお前まで自ら進んで嬉しそうに食われて満足してやがるんだよっ!? ほんとこのパーティろくな奴がいねぇ!!』

 

『も、もしかしてダクネスさんって凄いドM!?』

 

『今更気づいたのかよ!!』

 

完全に精神が崩壊しかけているカズマさんが、髪の毛を両手でガシガシと痛いくらいに掻きむしりながら絶叫する

 

だが、その激怒するカズマさんの背後の地面が、まるで生き物のようにボコボコと不気味に大きく盛り上がってきた

 

『か、カズマさん……! 後ろ……後ろからまたカエルが……っ!』

 

『は? なんだよ、ユ、メ……って、うわぁぁぁ――っ!? でけぇのが下から出たぁぁ!? に、逃げるぞ――っ!!』

 

『ひぃぃぃ――っ!? 待って、私を置いていかないでぇぇ――っ!?』

 

文字通り間一髪のタイミングで、真後ろの地面から音もなく突き出してきた緑色のカエルの長い粘着質の舌を、カズマさんと一緒に必死の形相で真横へ跳び退いて回避する

 

そのまま私たちは、お互いの足がもつれて転びそうになりながらも、なりふり構わず、恥も外聞もなく広大な草原を全力で突っ走ることになったのだ

 

そして――怒濤のパニックを経て、現在に至るというわけなのだった

 

な、なんで私記念すべき初陣のクエストで、ここまで命がけの壮絶な死闘を繰り広げなければならないの――っ!?

 

「か、カズマさん! まずは、めぐみんさんをどこかのタイミングでカエルの口から無理やり引っ張り出して、あの強力な爆裂魔法でこのカエルたちをまとめて一気に吹き飛ばしてもらいましょうよっ!」

 

必死の形相で疾走しながら、私は藁にもすがる思いで起死回生のアイデアをカズマさんに叫んだ

 

「無理だ! 今の爆裂魔法を使った後のめぐみんを救出したところで、あいつは全魔力を綺麗さっぱり使い果たして、その辺に転がってるただの重い石ころ以下の置物と同じなんだよ!」

 

「えええええーーっ!?!?」

 

私の切実な提案を冷酷無比な一刀両断で叩き斬りながら、カズマさんは激しく肩で息をして走り続けつつ絶叫を返す

 

「あいつの代名詞である爆裂魔法はな、一発撃ったらその日の全活動限界と魔力を一気に迎える悪辣な仕様になってるんだ! つまり、ここで命がけで助け出したところで、どうせ今日二撃目は逆立ちしたって撃てやしないのさ!」

 

「カズマさーん……。そこはもう少し言い方というものがあるでしょうに。事実だからこそ、なんだか心底やるせなくなるような愛のない物言いは控えてもらいたいものですねー……」

 

呑気に巨大なカエルのぬるぬるした胃袋からぽっかりと顔だけを突き出しているめぐみんさんが、まるでどこかの他人の噂話でも聞いているかのように、やれやれといった気怠げな声を漏らす

 

ど、どういうことなの――!? めぐみんさんは最強クラスの凄い職業だって聞いていたのに、たったの1回魔法を撃っただけで完全に全身麻痺の戦闘不能になっちゃうなんて、そんな極端すぎる燃費の悪すぎる魔法って一体ありなの……!?

 

「そ、それじゃあ、せめてダクネスさんを先に助け出して、あの大きな剣で前線を食い止めて――」

 

「あいつを助けたところで戦力には一切ならん! 何しろあの脳筋聖騎士は、目の前で一切動かない巨大な訓練用の的に対してすら華麗に空振りしまくる正真正銘のへっぽこクルセイダーだぞ! ついでに言うなら、我がパーティの誇る駄女神アクアの役割も基本は後方支援魔法だけだから、この前衛が壊滅した状態じゃ何の役にも立たないからな!」

 

「えええええええーーっ!?!?」

 

あまりの衝撃の真実に、私はもはや絶叫以外の感情を完全に失いかけていた

 

自慢の最強火力は1日1発限定の使い捨て、頼みの綱の聖騎士様は剣が絶対に当たらないドMのポンコツ、そして支援担当のアークプリーストは真っ先に突撃してカエルに美味しく食べられている

 

こ、こんなのってあんまりだよ……! 本当に、こんな根底から破綻しているパーティが、ギルドのルナさんから「魔王軍幹部を次々と打ち倒したアクセルの街の英雄たち」なんて大層なおだてられ方をされていたっていうの……!? 信じられない、絶対に何か別の世界の伝説の勇者一行と聞き間違えているに違いないよ……!

 

「じゃ、じゃあ、この絶体絶命の状況から、私達はこれからどうやって切り抜ければいいんですかっ!?」

 

「ゆ、ユメ――っ!? 下だ、避けろ――っ!!」

 

会話に夢中になりすぎて足元への注意が完全に散漫になっていた私の視界の隅で、獲物を狙いを定めていた緑色のジャイアントトードの不気味に伸びるベトベトした長大で粘着質な舌が、容赦なく私の右足首へと力強く絡みついた

 

「へっ……!?」

 

次の瞬間、私の体はバランスを盛大に崩して芝生の上へと倒れ込み、まるで吸引機に吸い込まれるような猛烈な勢いで、あの悪夢のようなカエルの巨大な暗い口の中へとズルズルと力任せに引きずり戻されていく

 

不思議なものだった

 

これだけの超スピードで真っ暗なカエルの口へと直行しているはずなのに、私の脳裏ではなぜか周囲の時間がスローモーションのようにゆっくりと感じられ、このアクセルの街へ来てからの慌ただしくも鮮やかな日常の日々が、走馬灯のように頭の中で次々と鮮明に蘇ってきた

 

これが、人間が人生の終わりを迎える時によく言う「走馬灯」ってやつなのだろうか……?

 

私自身、これまでの過去の記憶の大部分がすっぽりと抜け落ちているから、生まれ故郷の懐かしい思い出なんて何一つないけれど……それでも、この不思議な異世界で目覚めてから、カズマさんたちと出会い、毎日ドタバタと理不尽に振り回されながらも笑いの絶えない温かい日々は、すごく、すごく楽しかったなぁ……

 

……あ、でも、やっぱりあの魔法道具店でバニルさんにマジギレされて殺人光線を直撃させられたあの瞬間だけは、人生の走馬灯にエントリーさせたくないほど本気でトラウマ級に怖かったなぁ……

 

そんなバカみたいなことを頭の中でぐるぐると考えているうちに、巨大なトードの禍々しい口元が、ついに目の前の視界いっぱいにまで迫ってきた

 

あのねっとりとした粘液に全身が包み込まれたら、きっと私の大切に直してもらった制服も髪の毛も、すべてがネバネバの生臭い唾液でドロドロに汚れてしまう……!

 

「やっぱりヌルヌルしたカエルの唾液まみれになるのだけは絶対に嫌ーーっ!!?!?」

 

(パクッ……!)

 

ぷつりと意識の糸が途切れる直前、私の全身を包み込んだのは、外の冷たい冬の風とは対照的な、妙に生温かく、そして奇妙に柔らかいカエルの肉壁の感触だった――

 

```

* * *

 

```

 

その後、私を含めたパーティメンバー全員を生きたまま美味しく丸呑みにして満足しきっていたジャイアントトードたちを、命からがら逃げ延びたカズマさんが例の愛刀「ちゅんちゅん丸」を片手に、必死の思いでカエルの弱点を突きまくり、どうにかこうにか全員分の生還救出劇を成し遂げてくれたのだった

 

だが、その壮絶な救出劇の代償として……私を含めたパーティの面々は、文字通りカエルの強烈な粘液と胃酸の混じった生の体液で、頭のてっぺんから足の爪先までびちゃびちゃのドロドロに汚染され、まるで泥の底から這い上がってきたゾンビのような惨めで悲惨な姿に成り果てていた

 

「ちょっとカズマよ! なんで私を救出する時に、一番最後に引っ張り出した挙句、わざわざ泥水の中を引きずり回したのよ! 謝りなさいよ、この薄情で鬼畜な人間のくせに!」

 

「うるせえな! お前みたいな一番手のかかる駄女神は、少しばかり逆さ吊りにされてカエルの反省汁を全身から垂れ流すぐらいがちょうどいいんだよ!」

 

アクアさんが相変わらず全身粘液まみれの姿で、甲高い怒声でカズマさんに掴みかからんばかりに文句を浴びせかけ、その周囲でダクネスさんが「ふぅ……この全身の気色悪い粘着感が、妙に肌の毛穴を引き締めてくれて……ふふっ、悪くないぞ……」と相変わらずの怪しい変態ムーブをかましているのとは裏腹に――

 

私は、生まれて初めての実戦クエストで味わった極限の恐怖と、精神的ショックのあまり、草むらの上にぺたりと力なくへたり込み、ボロボロと大粒の涙を零しながら「うえぇぇん……っ」と声を出してめそめこと泣きじゃくってしまった

 

すると、そんな私の様子に気づいたみんなは、自分がカエルの唾液まみれでそれどころではないはずなのに、慌てた様子で私のもとへと駆け寄ってきてくれたのだった

 

カズマさんは慌てながらも、不器用な手つきで自分のポケットから出せる限りの綺麗なハンカチを差し出して私の頭をポンと優しく撫でてくれたし、アクアさんは「ほら、泣かないでユメ! 早くお家に帰ってみんなで一番大きいお風呂に入りましょ!ウチのお屋敷のお風呂はすっごく大きいのよ!」と、温かい手で優しく私の背中をさすってくれた

 

めぐみんさんも、ダクネスさんも、みんな自分の汚れも気にせず、すごく優しく温かく私のことを囲んで慰めてくれたのだ

 

みんな、口は悪いけれど本当にとっても優しかった……だけど、もう二度とカエルの口の中だけは入りたくないよぉ……!




次回は来週の日曜日までに出せたら良いなぁ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

先生LOVE勢TS転生者生徒(作者:めめ師)(原作:ブルーアーカイブ)

連邦捜査部「シャーレ」に専属で所属する唯一の生徒、小比類巻 サトミは転生者である。▼前世でプレイしていたゲーム「ブルーアーカイブ」でこの世界で起こる出来事の知識を中途半端に携えた彼女は、この先巻き起こる悲劇を回避するために奔走する。▼...まあそれとは別に「ブルーアーカイブ」の例に漏れず主人公たる先生に惚れているため、日夜先生を落とそうと様々な嗜好を凝らすの…


総合評価:402/評価:7.46/連載:20話/更新日時:2026年10月30日(金) 17:56 小説情報

スリーさんは透き通るCODEを作りたい(作者:頂きに立った)(原作:ブルーアーカイブ)

よりにもよってキヴォトスにCODEを作っちゃった偽スリーのお話


総合評価:644/評価:8.5/連載:6話/更新日時:2026年11月03日(火) 01:30 小説情報

なりそこないと、壊れた生徒(作者:クレナイハルハ)(原作:ブルーアーカイブ)

ある日、大人になれない俺は突如「先生」となった。▼本物の「先生」と「生徒」達が生きるこの世界で先生のなり損ないとなった俺は、ナニカアッタセカイの生徒と共にこの世界で生きていくことになる。▼──王女が最後に残した"モノ"に触れ、喪失と後悔から天童アリスを演じる「ケイ」。▼──ある事件から、友を"失い"トリニティを自主退学…


総合評価:13662/評価:8.96/連載:49話/更新日時:2026年09月27日(日) 03:54 小説情報

TS女神の地球救済政策 ~26年かけて異世界を救った元勇者、絶世の女神になって帰還したら地球が滅びかけていたので、ダンジョン災害で救います~(作者:TS女神)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

高校二年生だった高瀬悠真は、気まぐれな邪神によって異世界へ放り込まれた。▼そこは魔王によって人類が最後の一国まで追い詰められた、滅亡寸前の世界。▼それから二十六年。▼勇者となった悠真はついに魔王を倒し、さらには自分を異世界へ送り込んだ邪神まで撃破する。▼しかし、その代償――というより邪神からの余計な置き土産によって、悠真は絶世の美女神へと姿を変えてしまった。…


総合評価:2390/評価:8.32/連載:26話/更新日時:2026年11月04日(水) 07:05 小説情報

新人先生はネタバレ生徒しか引けない(作者:KuRoNia)(原作:ブルーアーカイブ)

シャーレに着任したばかりの先生が、シッテムの箱で見つけた『募集』機能。▼それは、シャーレに入部届を出している生徒をランダムで呼び出す、いわゆるガチャのようなものだった。▼軽い気持ちで初回募集を行った先生の前に現れたのは、臨戦状態のホシノと黒いドレス姿のシロコ。▼だが先生は、まだアビドスにも行っていない完全な新人先生だった。▼「うへ……最序盤じゃん」▼「ん、ネ…


総合評価:15306/評価:8.89/連載:125話/更新日時:2026年11月05日(木) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>