剣で杖に勝てるわけないだろ!(マジ)(当たり前)(いい加減にしろ) 作:愛してるゲームしようぜ!
「剣が杖に勝てるわけないだろ」
それは、俺の父であるゲイル・ヴェルナーが、六年務めの前夜に台所のテーブルで放った一言だった。
怒鳴り声ではない。
いつもの低くて平坦な声だ。
ただ、いつもよりほんの少しだけ箸の進みが遅くなっていた。
「分かってるよ」
「分かっていないだろう」
「分かってるって。杖のほうが強いし、速いし、遠くから撃てる」
「そこまで分かっていて、なぜ持っていかない」
「いや、持ってはいくよ。荷物の底に」
「底」
「底」
父は、静かに箸を置いた。
それから、深く、長く息を吐いた。
その顔には、はっきりと『頭が痛い』と書いてあった。
俺はカイル・ヴェルナー。
明日、十四歳の務めに出る。
■
ここで少しだけ、この国の話をしておきたい。
この国の名はマドリア。
というか、この世界にはマドリアしか存在しない。
六十年前の『統一戦争』で、世界中の国が全てマドリアに併合されたからだ。
教科書では一年生の最初に習う。
戦う相手が人間の中からいなくなったので、それ以降国の知恵と金は全部まとめて魔法の研究に注ぎ込まれた。
その結果が、今のこの国である。
朝は、魔力式の目覚まし灯で起きる。
蛇口を捻れば、魔石で温めた湯が出る。
洗濯物は、風の魔法陣を刻んだ籠に突っ込めば乾く。
町を走る乗合馬車は、馬ではなく浮遊石で浮いている。
便利すぎて、むしろちょっと怖い。
そんな国だから、昔の戦争で使われていた武器は、もう誰も使わない。
槍も、弓も、斧も、そして剣も。
みんな、博物館のガラスの向こうに行った。
あるいは物置の奥に。
あるいは台所に。
「剣って、つまりすごく長い包丁でしょ?」
というのが、今のこの国の常識である。
なので、俺が腰に剣を差して外を歩くと、大体の人は「あら、大きな包丁ね」という顔をする。
違う。
いや、確かに肉も野菜も切れる。
切れるけど、違う。
話を戻そう。
そんな魔法まみれのこの国には一つだけ、やたらと古風な慣習がある。
六年務め。
十四歳になる年の春、国中の子供は全員務め所に呼び出される。
そこから六年間、冒険に駆り出されるのだ。
森へ。海へ。洞窟へ。ダンジョンへ。
魔物を倒し、素材を集め、生きて帰る。
それだけの、極めてシンプルな制度。
ただし、生きて帰れるのは大体半分である。
……シンプルなだけで、全く優しくない。
■
台所のテーブルの向かいで、父が眉間を揉んでいた。
「……カイル」
「うん」
「お前の魔力は、平均程度だ」
「知ってる」
「水と風の適性があって、どちらもそこそこだ」
「知ってる」
「杖を持てば、並の務め人としてはやっていける」
「知ってる」
「なら、なぜ」
「だって、剣のほうが好きだから」
「…………」
父がまた黙った。
この人は、元々口数の少ない人だ。
大工の棟梁で、腕っぷしは村で一番。
そして、務めを生き延びた一人前の大人でもある。
そんな父がこういう顔をする時は、大体怒っているのではなく、困っている。
「理由には、なってないな」
「うん。でもそれしか理由がないんだ」
これは本当だった。
俺は、剣のこと以外はごくごく普通の人間だと思う。
朝は弱いし、嫌いな食べ物は人参だし、今日の夕飯の煮込みの味付けにも、ちょっと自信がない。
でも、剣のことだけは、どうしても譲れない。
その理由を、自分でも上手く説明できないのだから、父に伝わるはずもない。
「……最初に、あれを見つけたのはいつだったか」
「七歳」
「そうか、もう七年か」
「うん」
父は窓の外を見た。
夕暮れの空が、薄く朱に染まっている。
■
七歳の夏だった。
俺はその日、台所で芋を魔法で茹でようとして鍋を丸ごと焦がし、父にこっぴどく叱られた。
それで、家の裏の物置に逃げ込んだのだ。
物置は、暗くて、埃っぽかった。
積まれた木箱の隙間から、細い光が差している。
その光の先にそれは立てかけてあった。
布に包まれた長い何か。
近づいて、布をめくった。
鞘に収まった一本の剣だった。
……いや、七歳の俺に、それが『剣』だなんて分かるはずがない。
ただ、長いと思った。
包丁にしては長すぎる、と。
両手で柄を握って、引いた。
シャリン、と。
小さく澄んだ音がした。
刃が、光を拾った。
それだけだった。
本当に、たったそれだけ。
でも、その瞬間俺は思ったのだ。
あ、これだ、と。
何が『これ』なのかは、今でも上手く説明できない。
ただ、自分の中の何かがぴたっとはまった。
鍵穴に、鍵が入ったみたいに。
「……何を、している」
背後から低い声がした。
振り向けば、父が立っていた。
叱りに来たはずの顔が、俺の手の中の剣を見て固まっている。
「それは、玩具じゃない」
「……ごめんなさい」
「怒っていない」
父は、俺の手から剣をそっと取り上げた。
そして、布で包み直した。
その手つきが、驚くほど丁寧だったのを覚えている。
「父さん、それ、なに」
「剣だ」
「けん」
「俺が生まれる前からこの家にあった。誰のものかは分からん」
「……なんで物置に?」
「使い道がなくなったからだ」
それ以上のことを、父は話さなかった。
ただ、物置の外に出る時に、ぽつりと言った。
「……持ちたいなら、持て」
「いいの?」
「ただし、手入れは毎日やれ。一日でも怠ったらそいつは錆びる」
「さびる」
「錆びたら二度と元には戻らん。いいな」
それから七年、毎日欠かさず手入れをしている。
朝起きたら、まず布で刃を拭く。
夜寝る前に、もう一度拭く。
雨の日は油を引く。
それから素振りだ。
最初は薪を割るところから始めた。
次に、藁束を斬った。
やがて、野菜を斬るようになり、肉を斬るようになり、気付いたら台所の包丁の出番がなくなっていた。
……まぁ、その辺の事情は父には黙っている。
多分、バレているけど。
■
その夜。
俺は旅の荷物を土間に広げていた。
着替え。毛布。携行食。
小さな鍋と、塩の包みと、火打ち石。
務め所から届いた、召集の木札。
父が、台所から何かを持ってきた。
布に包まれた小さな瓶。
「香草だ」
「え?」
「干して、砕いてある。肉に使え」
「……ありがとう」
「あと、これも」
もう一つ、布包みが差し出される。
中には、使い込まれた小さな木の匙が入っていた。
「俺が、務めの頃に使っていたやつだ」
「え、これ」
「……飯を作る時に、使え」
父は、それだけ言ってそっぽを向いた。
耳の先が、ほんの少し赤い。
……なるほど。
これは、アレだ。
不器用な父さんの、精一杯の餞別だ。
「父さん」
「なんだ」
「務めの間、飯ってどうしてた?」
「…………」
父は、しばらく黙ってそれから静かに言った。
「飯が、食えなくなった奴から死んだ」
「…………」
「魔物に殺された奴より、飢えて動けなくなって死んだ奴のほうが、よっぽど多かった」
「……そう、なんだ」
「だからお前は、どんなに疲れても、どんなに怖くても、まず飯を作れ」
「うん」
「食って寝ろ。それが一番大事だ」
重い。
重いけど、きっと真理だ。
俺は、木の匙を荷物の一番上に入れた。
父は、剣の方をちらりと見た。
「……カイル」
「うん」
「剣は、杖に勝てん」
「分かってる」
「だが、お前が勝てないとは言っていない」
「…………え?」
聞き返したが、父はもう、背を向けていた。
その背中が、いつもより少しだけ小さく見えた。
「六年後に、帰ってこい」
「うん」
「飯は、作って待っている」
「…………うん」
■
翌朝。
村の外れの停留所に、務め専用の浮遊馬車が来た。
乗る人間は、俺ひとりだ。
務めの出発日は、誕生日の翌日と決められている。
だから、同い年の子供たちは、それぞれ別の日に別々に出ていく。
寂しいような、気楽なような、そんな出発だった。
「じゃあ、行ってくる」
「ああ」
「ちゃんと、食べるから」
「ああ」
「手入れも、毎日する」
「ああ」
「…………」
「…………」
会話が、続かない。
まぁ、父さんとは昔からこうだ。
俺は馬車に乗り込んだ。
扉が閉まり、ふわりと地面から体が浮き上がる。
窓の外で、父は立ったまま動かなかった。
手も、振らなかった。
ただ、じっとこちらを見ていた。
……やがて、その姿が小さく見えなくなる。
「…………」
なんだか、急に一人になった気がした。
物理的な問題でなく、心の問題だ。
■
務め所は、ラスタという町にあった。
人口三万。
六年務めの出発点であり、帰還点でもある。
その中心に聳える、白い石造りの建物が務め所だ。
役所と、ギルドと、病院と、墓地が全部くっついたような、すごく縁起の悪い建築物である。
正面の扉をくぐると、だだっ広いホールが広がっていた。
天井が高い。
床が磨かれている。
そして、誰もいない。
……いや、本当に誰もいない。
出発日が人によってバラバラだからだろう。
数百人が入れそうなホールに、俺ひとり。
足音がやたらと反響する。
「…………すいませーん」
返事はない。
かわりに、ホールの中央にある背の高い石柱がぼんやりと光った。
『いらっしゃいませ。務め受付盤です』
声がした。
石柱の表面に、文字のような光の筋が走っている。
どうやら魔法式の自動受付らしい。
「あ、どうも。カイル・ヴェルナーです。召集の木札を──」
『木札を右の窪みにお置きください』
言われた通りに置く。
木札が、淡く光った。
『確認しました。カイル・ヴェルナー様、十四歳男性。ご出身はミルト村。間違いありませんか』
「はい」
『ありがとうございます。続いて、得意属性の測定を行います。杖を左の窪みにお置きください』
「……杖」
『杖です』
「あー……」
荷物をごそごそと探る。
底のほうから、父が買ってくれた杖を引っ張り出した。
……うん、新品だ。
全然使っていない。
『確認しました。魔力測定を開始します』
杖が、ぼうっと光る。
『水属性、中。風属性、中。その他、微小。総合評価、標準です』
「まぁ、そうでしょうね」
『おめでとうございます。標準的な務め人として、十分な資質です』
「ありがとうございます」
『それでは、装備の登録に移ります。ご携行の武器・調理器具・その他の道具を全てお見せください』
来たな。
俺は、腰から、剣を、鞘ごと外した。
そして、石柱の前に、そっと掲げた。
『…………』
石柱の光が、ちかちかと瞬く。
『…………識別中』
「はい」
『…………識別中』
「はい」
『…………該当、なし』
「なし、ですか」
『登録区分を、検索します』
数秒の、沈黙。
『候補一。調理器具(大型)』
「違います」
『候補二。骨董品』
「違います」
『候補三。工具』
「違います」
『候補四。旧式戦闘具』
「それです!」
『確認します。旧式戦闘具に分類してよろしいですか』
「はい!」
『登録しました。なお、旧式戦闘具は現行の務め基準において推奨装備ではありません』
「知ってます」
『死亡率が、杖使用者の一・八倍に達するという統計があります』
「……そうですか」
『ご注意ください』
「ご親切に、どうも……」
機械にまで心配されるとは。
俺は、ちょっとだけ遠い目をした。
『以上で登録は完了です。カイル・ヴェルナー様。最初の任務をお伝えします』
「はい」
『ラスタ近郊の森にて、角兎を一体討伐してください。討伐の証として、額の角を持ち帰ること。期限は三日以内です』
「角兎、ですか」
『はい、新人の定番の獲物です。杖で遠くから撃てば、まず負けません』
「……杖なら、ね」
『はい。杖なら』
念を押された。
俺は、剣を腰に戻して務め所を出た。
■
森は、ラスタの北にあった。
昼の光が、木々の葉の隙間から斑に差している。
空気がしっとりと湿っていて、土の匂いがした。
俺は、腰の剣の柄に手を添えながら、慎重に進んでいた。
──怖い。
正直に言う。
めちゃくちゃ怖い。
十四歳だ。
つい最近まで、村の学校で算術のテストに頭を抱えていた子供だ。
それが今、一人で魔物のいる森を歩いている。
「……大丈夫、大丈夫」
小声で自分に言い聞かせる。
十年近く毎日素振りをしてきた。
体は覚えている。
しばらく歩いた、その時だった。
ガサッ。
十歩ほど先の茂みが、揺れた。
足が止まる。
息を、殺す。
茂みの隙間から、茶色い毛玉がのそりと現れた。
犬ほどの大きさ。
額には、小さな、しかし鋭い角。
赤い目が、まっすぐに俺を見ていた。
角兎だ。
「…………」
向こうは動かない。
俺も動かない。
風が、木々を揺らす音だけが聞こえる。
鞘から、剣を抜いた。
シャリン、と。
あの夏の物置と同じ音がした。
その音で、少しだけ気持ちが落ち着いた。
「……よし」
角兎の鼻が、ひくひくと動いた。
次の瞬間。
地面を蹴る音がした。
速い。
思っていたよりずっと。
角が、俺の腹を狙って一直線に突っ込んでくる。
──避けろ。
頭では、そう思った。
でも、足が動かない。
竦んでいる。
完全に、固まっている。
……あ、これ、死ぬ。
そう思った瞬間。
手が、勝手に動いた。
ほとんど反射だった。
半歩右へ。
剣を下から振り上げる。
──ザッ。
軽い手応え。
視界の端を、茶色い塊が横切った。
その後ろで、ごろんと何かが転がる。
恐る恐る、振り返った。
角兎が地面に倒れていた。
首が、離れている。
「…………」
俺は、しばらく突っ立っていた。
剣は未だ握られたまま。
頭が真っ白だった。
やがて、膝ががくがくと震え始める。
「…………うわ」
その場にへたり込んだ。
「うわ、うわ、うわ……」
情けない声が口から漏れる。
手が、小刻みに震えている。
額から冷たい汗がぼたぼた落ちる。
倒した。
倒した、のだ。
……いや、ちょっと待て。
今のは、運が良かっただけでは?
兎がたまたままっすぐ突っ込んできて。
たまたま俺の剣がその軌道に入って。
たまたま体が勝手に動いて。
偶然が三つ重なっただけでは?
「……杖なら、もっと簡単だったんだろうなぁ」
つい、そんな独り言が出た。
杖なら、遠くから一発。
震えることもなく、汗をかくこともなく。
確かに、剣は杖に勝てない。
父の言う通りだ。
でも、
倒れた角兎を見る。
その額の角が、光を反射してきらりと光った。
……まぁ、倒せたことには変わりない。
「よし」
俺は、深呼吸を一つした。
それから立ち上がった。
膝はまだ少し震えていたが、少しずつ元気が戻ってきた
「任務達成、か」
角を剣の切っ先で慎重に切り取り、袋に入れる。
残った兎の体はどうしようと考えた。
ふと、父の言葉が頭をよぎった。
──飯が食えなくなった奴から死んだ。
「…………」
そうか。
俺は、にやりと笑った。
「今夜の飯は決まりだな」
■
日が傾き始めた頃。
俺は、森の外れの小さな空き地に野営地を構えていた。
近くには細い小川が流れている。
水の確保ができる。
父が昔教えてくれた、野営の鉄則の一つだ。
まず、小川で兎の血抜きをして、皮を剥ぐ。
これが思っていたより大変だった。
指が滑る。
皮がなかなか剥がれない。
そもそも、内臓の処理が予想の十倍くらい生々しい。
「うぇ…………」
顔をしかめながら、なんとか肉の塊にした。
それから、拾い集めた枯れ枝に、火打ち石で火をつける。
火は魔法で起こせるのだが、魔力は温存しておきたい。
何が起こるか分からないし
ぱち、ぱち、と、小さな火が枝を舐め始めた。
鍋に水を張る。
荷物から、芋と玉ねぎを取り出した。
それから。
「…………」
腰の剣を見る。
台所の包丁は持ってきていない。
つまり、この旅で食材を切れる刃物はこれしかない。
「……すまん」
誰にともなく、謝った。
それから、平たい石の上に玉ねぎを置く。
剣を抜いて、構えた。
シュッ。
──スパッ。
玉ねぎが、驚くほど薄く、綺麗にスライスされた。
刃が長いので、一息で、根元から先までためらいなく通る。
断面が、鏡みたいにつるつるだった。
「…………すっげ」
思わず、感嘆の声が出る。
これ、台所の包丁よりよっぽど切れるのでは?
……いや、まぁ当たり前か。
こっちは毎日手入れをしているのだから。
調子に乗って、芋も、肉も、次々と切っていく。
鍋に放り込む。
父にもらった香草をぱらりと振る。
塩をひとつまみ。
弱火でじっくり煮込む。
やがて、鍋からいい匂いが立ち上り始めた。
……これは期待できる。
木の匙で味見をした。
父から貰ったあの匙だ。
「…………」
口の中に、温かいスープが広がる。
肉は柔らかく。
野菜はほんのり甘く。
香草の風味が鼻に抜ける。
……あ。
これ、父さんが昔作ってくれた味に、似ている。
「……旨い」
ぽつりと、声が漏れた。
誰も聞いていない。
けれど、言わずにはいられなかった。
器によそって、ゆっくりと食べた。
一口一口、噛みしめるように。
体の芯が、じんわりと温まっていく。
震えていた手が、いつの間にか止まっていた。
──ああ、そうか。
父の言った通りだ。
飯が食えれば、生きていける。
怖くても、疲れても、飯さえ食えば、明日がある。
食べ終わって、器を小川で洗い、剣の手入れをした。
布で刃を丁寧に拭う。
今日、初めて生き物を斬った刃。
その上を、布がゆっくりと滑っていく。
……まだ、手は少しだけ震えていた。
それでも、剣は昨日と変わらず静かに光を返している。
「……今日はありがとな」
つい、そんな言葉が口をついた。
剣に話しかける十四歳。
我ながらちょっと危ない。
けれど、誰も見ていないので構わないことにした。
手入れを終えて、剣を鞘に収める。
焚き火の火が、ぱちぱちと弾けた。
夜の森は、静かで、冷たくて、暗い。
梢の隙間から、星がいくつも見えた。
六年。
二千と百九十日。
その最初の一日目が終わろうとしている。
「……長いなぁ」
毛布にくるまって、空を見上げながら呟く。
一人で過ごす夜は、思っていたよりずっと広かった。
その時だった。
ふと、視界の端で何かが光った。
「ん?」
体を起こす。
目を凝らす。
谷を挟んだ、遥か向こうの、森の奥。
小さな橙色の光が、ぽつんと灯っていた。
──焚き火、だ。
間違いない。
誰かがあそこで、火を焚いている。
俺と同じ務めの人間だろうか。
それとも別の何かだろうか。
見えるのは、豆粒みたいな小さな光だけ。
それなのに。
その光を見ていると、胸の奥が少しだけ温かくなった。
「…………」
世界に、自分以外の人間がいる。
そんな当たり前のことが、今夜はやけに嬉しかった。
「……よし」
俺は毛布に潜り込んだ。
明日も飯を作って剣を拭いて歩こう。
あの光のことは、また、明日、考えればいい。
目を閉じる。
焚き火の爆ぜる音を子守唄代わりに。
──こうして、俺の六年務めの最初の夜は更けていった。
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