ぱんぱかぱーん。
晴れて同僚ができた社畜カオスです。
これで俺の仕事も、だいぶ楽になるだろう。
新人君には大いに期待している。
今日は、その
あの戦いからそれなりに時間も経ったし、魔力も回復しているだろう。
顔面に着けた仮面を弄りながらしばらく小屋で待っていると、ノックの音が聞こえてきた。
「ルーデウス・グレイラット!参りました!」
「ああ……早かったな」
ルーデウスの声が固い。
随分と緊張しているようだ。
「入ってもよろしいでしょうか!」
「なぜ許可を求める。ここはお前の所持している小屋だろう?」
「ハッ! 失礼します!」
そうしてガチガチに緊張した状態で入ってきたルーデウスは、オルステッドを見てビクッとし、さらに俺を見てもう一度ビクッとした。
そういえば、俺がいることを手紙に書いてなかったな。
もしかしたら想定外だったかもしれない。
二対一じゃ怖いか…………いや、二対二になったな、これ。
「大勢の仲間を引き連れてくるかと思っていたが……二人か」
「はい、一人で参り……え、二人?」
ルーデウスは首を傾げた。
どうやら、勝手に着いてきてしまったようだ。
「エリス・グレイラット! 入ってくるがいい!」
オルステッドがそう叫ぶと、バンッと音を立てて勢いよく扉が開いた。
「オルステッド! ルーデウスに手を出したら、私が叩き斬るわよ!」
おお、怖い。
バンバンに殺気を感じる。
剣を突きつけられて、ちびっちゃいそうだ。
「そのつもりは無い」
「信用できないわね!」
「だろうな」
エリスはそれだけ言うと、小屋の隅に陣取り、腕を組んで立った。
ルーデウスがエリスとオルステッドを交互に見ながら、しどろもどろしていると、
「どうした、ルーデウス・グレイラット。座れ。話をする」
と、オルステッドが声をかけた。
何となく立っていたが、俺も座った方が良いだろうか。
まぁ、このままでいいや。
ルーデウスにはエリス、オルステッドには俺が護衛として控えている。
そう考えれば、バランスがいいもんな。
ま、戦闘になったら究極鎧のない俺は、一番にボコボコにされるだろうけど。
何やらルーデウスと話したエリスは、何か納得したのか剣を収め、ルーデウスの横に座った。
あれ。
立ってるの、俺一人になっちゃった……。
「失礼しました」
「構わん」
「どうにも、エリスはまだオルステッド様のことが信用できないようで……でも、呪いでは仕方がありませんよね」
オルステッドに、お前も座れと言ってもらえることを期待したが、そのまま話を始めてしまった。
完全にタイミングを失ったので、そのまま置物になることにしよう……。
オルステッドはルーデウスに守護魔獣の魔法陣を渡した後、自身の呪いについて説明し始めた。
「まず、一つ目だが、確かに俺は生まれた時から、世界中のあらゆる生物から忌避されている」
「……でも、俺はそんなに嫌いではないのですが」
「そういった者も、時には存在する。ナナホシやカオスなどがそうだ」
「なるほど」
ルーデウスは俺のことをチラリと見てきた。
なんで立ってんだろう、とか思われていそうだな。
ルーデウスは少し迷った後、口を開いた。
「オルステッドさん。隠し立てするつもりはありませんが……俺は元々、ナナホシと同じ世界の人間でした。その辺りも関係しているのでしょうか」
その言葉に、俺は仮面の内で目を見開いた。
その言葉が本当なら、ナナホシと同じ世界……。
つまり、俺と同じ日本から来たということだ。
「……ルーデウス・グレイラットは偽名だというのか?」
「そこら辺は話すと長くなるのですが、俺はナナホシと違い、その……気付いたら、この世界でルーデウス・グレイラットとして生まれていたんです……ええと、なんて言えばいいでしょうかね」
「転生か」
まさか、俺以外にもこの世界に転生してきた人がいたとは。
思い返せば、確かにあの戦いの時に『注文の多い料理店』を意識したような紙があったりした。
多分、話は本当だろう。
オルステッドも、俺という存在がいたからか、すんなりとルーデウスの話を受け入れた。
「恐らく、貴様が俺を怖れないのは、転生体なのも関係しているだろう」
「他にあなたを怖れない人物はいるんですか?」
「何人かの例外を除けば、古代龍族の血を引く者だけだ」
オルステッドはチラッと俺に目をやった。
俺が沈黙を保つのを見て、前世のことを話す気はないと悟ったのだろう。
視線を戻し、話を続けた。
「二つ目の呪い、ヒトガミから見えなくなる呪いに関してだが……これは呪いではない」
「と、言いますと?」
「大昔に、初代龍神がヒトガミと戦うために編み出した秘術……運命を見る力を得ると同時に、世界の理から外れる術だ」
これは俺も同じ説明を受けた。
運命によって定められた歴史を見ることができるのだ、と。
だが、恐らくこれは嘘だろうと思っている。
多分、何度もタイムリープをして、その者が辿る歴史を知っている……というのが正しいような気がする。
未だにオルステッドは俺に本当のことを教えてくれないので分からないが。
信用してもらえていないのは、少し悲しい。
俺がしょぼんとしている間にも、会話は進んでいた。
初代龍神の秘術のことや、ラプラスのこと。
そして、転移事件。
一通りオルステッドに疑問を答えてもらったルーデウスは、一拍置いて、言いにくそうにこちらを見てきた。
「それから……その……この方って……」
「コイツか。狂龍王カオスだ」
それは分かってんだよ、という顔をルーデウスはした。
ごめんな。
俺らのボスはコミュ障なんだ。
言葉足らずな奴には頼らず、ちゃんと自分で自己紹介しよう。
そう思ってルーデウスに近づくと、ルーデウスはまたビクリと肩を揺らした。
どうやら、かなり怖がられているらしい。
この仮面のせいだろうか。
最初に会った時は、キャラ作りもしていたし、何か勘違いしているみたいだな。
……ムクムクと、良くない悪戯心が芽生えてきた。
「……オルステッド……様の配下をしている、カオスと申します。今回のことは見逃してあげますが、今後あのようなことがあったら…………分かりますね?」
「ハ、ハイ! もちろんです、カオス様!!」
顔面を蒼白にしたルーデウスは、激しく首を振った。
今なら三回まわってワンしなさいと言ってもやりそうだ。
「オルステッド様の命令には絶対に従うこと!」
「ハイ!」
「カオス先輩と敬意を付けて呼ぶこと!」
「ハイ!」
「そして寝る前は、夜空に向かって『オルステッド様最高』と三回言うこと!」
「ハイ!」
「それから…………いてっ」
オルステッドが俺の頭を殴った。
「遊ぶな」
完全にルーデウス『で』遊んでいることがバレたらしい。
そろそろ笑いも堪えきれなくなってきたので、種明かしといこうか。
俺は顔を覆っていた仮面を外した。
「ッハハハ、悪かったよ。悪ふざけしすぎたな。
改めて、俺はカオス。お前と同じで、一応オルステッドの下についている。同僚ってことになるから、気軽に呼んでくれよ」
簡単にだが、素を見せて自己紹介をした。
ルーデウスはしばらくポカンとしていたが、俺の差し出した手を見て、慌てて握り返してくれた。
「え、あ、はい! ルーデウスです。あの……よろしくお願いします、カオス、さん」
呼び捨てはしっくりこなかったのか、「さん」付けで呼ばれた。
残念だが、フレンドリーな先輩でいれば、いつかは打ち解けてくれるだろう。
お互いに挨拶を終えたルーデウスと俺は、席につく。
自然な流れで椅子をゲットだぜ。
「……一応、俺は未来の情報を得ているのですが」
座り直したルーデウスは、そんなことを打ち明けてきた。
どうやら、未来の自分がタイムスリップして日記を渡しに来たらしい。
内容をチラリと見ると、大量の文章が乱雑に書かれている。
これは読むのが大変そうだ。
「俺は、これからオルステッドさん……様の、配下になる。ということで、よろしいですよね?」
「…………ああ。お前がそのつもりである限りはな」
日記から目を離すと、ルーデウスはなんだかモジモジしながら口を開いた。
「それで、その……非常に言いにくいことなのですが……。
――雇用条件に関してなのですが」
「雇、用……条件……?」
コヨウジョウケン……?
コヨウ……。
雇用条件……!?
ルーデウスは、休みが欲しいとオルステッドに申し出た。
休み。
なんて甘美な響きだ。
そうだ。
俺に足りなかったのは、休日だ。
「それはお前次第だ。ルーデウス・グレイ……」
俺はオルステッドの頭をはたいた。
「馬鹿たれ! 休みは大事だぞ!」
俺は思わず立ち上がって力説した。
「休日は、心身の健康を保ち、仕事の生産性や創造性を高めるために極めて重要で——」
「落ち着け。俺はアトーフェとは違う。
家族を命がけで守ろうとしたお前を、その家族から引き離そうとは思わん。そう何年も連れ回すつもりも……今のところは無い」
「あっ、本当ですか?それを聞いて、安心しました」
「えっ、俺、数十年連れ回されたんだけど……」
文句を言ったら、お前に休みなんているの?という顔をされた。
「お前に休みは必要だったか?」
言われもした。
しかも、これはあれだ。
嫌味とかじゃなく、本当に疑問に思っている顔だ。
とりあえず俺は、不眠不休一週間マラソンがどれだけ辛かったかを事細かに説明してやり、音を上げたオルステッドから休みを勝ち取った。
ルーデウスは青ざめていた。
出口で見送ってやると、ルーデウスはふと足を止めた。
「あの……カオスさんって、その……シャリーアに住んでいたりしませんでしたか?」
まさか、そのことを知っているとは思わず、俺は目を丸くす。
「あぁ、住んでた。数十年……いや、もうすぐ百年くらい前になるか。よく知ってるな」
「いやぁ、えっと、その……」
言いにくそうにしていたルーデウスは、昔の俺の家を改造して、現在そこに住んでいることを明かした。
「カオスさんの家を勝手に取って、非常に申し訳ないです。まぁ、出てけと言われたら困ってしまうんですが……」
居心地悪そうに頭をかくルーデウス。
そんな顔しなくてもいいのにな。
不本意ではあったが、もう捨てたと思っていた家なのだから。
「謝らなくていいよ。もう、とっくに取り壊されたとばかり思っていたしな。あの家も、使ってくれる人がいて本望だろ」
そう言うと、ルーデウスはホッとしたように胸を撫で下ろした。
——いつでも遊びに来てください。
そう言って帰っていったルーデウスの背中を見ながら、昔住んでいたあの家がルーデウスの家になっているとは何だか酔狂な巡り合わせだな、と感慨深くなった。
「……そういえば地下室にあった人形についてカオスさんに聞くの忘れてたな……」