場面は変わり、謁見の間へと移る。
何かが分かったらしいアリエルは、すぐさまペルギウスとの謁見を求めた。
ふんぞり返るペルギウス。
それに対峙するアリエル。
ドドン、という効果音でも入りそうだなと思いながら、俺は二人の行く末を見守った。
「この度は謁見の場を用意していただき、誠にありがとうございます」
「能書きはいい。今日は何の用だ? その出で立ちを見るに、茶会の誘いとは思えぬが……」
クリアナイトの能力で会話の内容は聞いていたくせに、何をいけしゃあしゃあと……。
こいつの、こういうすっとぼけたところはあまり好きじゃない。
「ペルギウス様に、私がアスラ王国国王となるための、お力添えを願いに参りました」
「ほう……ならば、改めて問おう」
玉座に肘をついたペルギウスは、頬杖をつきながら尋ねた。
「王として最も重要な要素とは、なんだ?」
アリエルは、ペルギウスの目を真っ直ぐ見つめている。
「王として重要な要素。それは……『意思を継ぐ』ということです」
……なるほど。
ペルギウスが思っていた答えとは、違うだろうな。
「つまり、貴様が王になりたいと思う志は、所詮は他人に左右されるものというわけだ。そのような者が、真の王と呼べるか?」
ペルギウスは不満そうだ。
馬鹿にするような笑みを浮かべながら、アリエルを揺さぶっている。
——だが、そんな小細工は無駄だろう。
問答を繰り返すアリエルの瞳には、強い光が宿っている。
その光は——あの泥臭いガウニスに、よく似ていた。
「それで、その答えで、この我に本当に力を貸してもらえるとでも思ったのか?」
「いいえ、ペルギウス様。しかし、これが私の本当の気持ち。嘘偽りのない、アリエル・アネモイ・アスラの、王となる心構えです」
そしてアリエルは、言い切った。
「それが拒絶されるというのなら、ペルギウス様のお力など、必要ありません」
そうだ。
ペルギウスの傀儡になるのではない。
アスラの王となるのだ。
ならば、ペルギウスなんて雑魚————必要あるまい。
ペルギウスは目を見開いていた。
奴も驚いただろう。
あの弱くて頼りなかったお姫様が、ここまで強く立ち上がっているのだ。
もうアリエルは、お姫様じゃない。
立派なアスラ王だ。
「よくぞ言った、アリエル・アネモイ・アスラよ! 貴様の信念、しかと聞き届けた!」
ペルギウスは手を上げ、そして宣言したのだった。
「この甲龍王ペルギウス・ドーラ。貴様の力添えとなることを、今は亡き朋友ガウニス・フリーアン・アスラに誓おう!」
謁見の間を出るとき、俺の前を歩いていたルーデウスが、ふと立ち止まってペルギウスの方を振り返った。
アリエルとペルギウスのやり取りの中、ルーデウスは、始終目を白黒させていた。
よほど混乱していたのだろう。
「どうした、ルーデウス・グレイラットよ」
「いえ……結局のところ、王として最も重要な要素というのは、あれで正解だったのですか?」
ペルギウスは、フン、と偉そうに顎を上げて言った。
「我の望む答えではなかった」
まぁ、だろうな。
では何故、と問いかけるルーデウスに、ペルギウスは楽しそうに笑った。
「アリエル・アネモイ・アスラは、ガウニスと似ても似つかぬ。しかし、アリエルの言葉、アリエルの立ち振る舞いを見ていて、ふと思い出したのだ。かつてガウニスが言った『理想の王様』とは、このような者ではなかったか、とな」
ペルギウスは懐かしそうな目をしながら、ガウニスについて語りだした。
また始まったよ、ガウニス語り……。
正直、耳にタコができるくらい聞いた話なので、俺はルーデウスを追い越して、先に退出しようとした。
だが——
「待て、カオス。そしてルーデウス・グレイラット」
ゲッ、呼び止められた。
仕方がないので、渋々振り返る。
「我からも一つ、貴様らに問おう」
「なんだよ」
「なんでしょうか」
「なにゆえ、貴様はオルステッドの名を出さなかった? 我は奴が嫌いだが、それでも奴の名を無視はできん。あの場においてオルステッドの名を出せば、もっと楽に話が進んだであろう?」
お前が断ったんだろうが。
そう思っていると、今度は俺に目を向けてきた。
「カオスも、貴様には我とする取引材料がいくらでもあるだろう。オルステッドも、それを望んでいるようだった。何故そうしなかった?」
取引材料……何の話だ……?
…………あっ。
ひょっとすると、俺の作った魔道具のことだろうか。
確かにここ二百年以上、ペルギウスに新作の魔道具をあげたりしていなかったな。
預けた魔道具も、あげたわけではないし。
…………えっ、俺の魔道具が欲しかったのか?
もしかして、俺が一人でペルギウスのもとに直談判しに行っていたら、ペルギウスからそういう提案があったのかもしれない。
やばい、何故と言われても困る。
思いつかなかったから、としか言えない。
あと、普通にペルギウスに頭を下げたくなくて意地を張っていただけだ。
だが、そんなふうに慌てている俺とは裏腹に、ルーデウスが格好いいことを言い始めた。
「私や、オルステッド様が王になるわけではありませんので」
「しかし、奴はアリエルを王にしたいのだろう? 貴様はそれに同調しているのだろう? ならば、目的のためにオルステッドの名を最大限に使えばよかろう」
「だとしても、やはり王になるのはアリエル様で、それに協力するのはペルギウス様ですからね。俺やオルステッド様は手伝いはしますが、所詮は外様。必要以上に名を出し、強引に話を進めるのはよくないと判断しました」
すごい、その通りだ。
何も考えていなかった俺とは大違いだ。
ペルギウスが目線をこちらに向けてきたので、俺はルーデウスに同調するように、「そういうことだ」と不敵な笑みを浮かべて答えてやった。
「貴様のその考え、温すぎるぞ。そしてカオス、貴様は今、適当に同調したな。やはり何も考えていなかったか、阿呆め」
ぴしゃりと言い放ったペルギウスは、そのまま謁見の間を後にした。
俺とルーデウスは、お互いに顔を見合わせる。
ルーデウスは、しょんぼりした顔をしていた。
多分、俺も同じ顔をしているだろう。
まぁ、ともかく。
これで、アリエルが王となる道は開けたのだ。
すべて良しとしよう。