ずっと退屈だった。
無機質な部屋で、ただ自分の心音を聞くだけの日々。
誰かと遊びに行くことも。
走り回ることも。
好きな職業に就くこともできない。
己を蝕む病を恨むことしかできず、俺は十六年という短い生涯でこの世を去った。
もし生まれ変わることができたら、次こそは自由に生きたい。
そう願いながら――。
かくして俺は、剣と魔法の異世界に転生した。
しかも今度は、とてつもなく丈夫な身体を持って。
初めは、それはもう喜んだ。
少し走れば山をいくつも越えられる。
剣を振れば、木なんて簡単に真っ二つになる。
呪文を唱えれば、好きなだけ憧れの魔法を使える。
自分の身体に鱗が生えていることだって、カッコいいな、くらいに思っていた。
しかし、そんな有頂天になっていた俺の気持ちは、一緒に暮らす老人たちの言葉によって地獄へと突き落とされることになる。
「貴方様は、五龍将が一人、狂龍王カオス様。来たるべき時に、その胸の内にある秘宝を我らが主にお渡しするのですよ」
なんか比喩的な物かと思った。
だが、どうやら言葉通り、俺の命そのものを差し出さなければならないらしい。
何だそれは、と思った。
ようやく自由に生きられると思ったのに、俺の命は結局、その「いずれ来る主」とやらのものなのだ。
主のために研鑽し、主のために役立つ技術や道具を残す。
全ては、我ら龍族を滅ぼした
いや、知らんが???
確かに話を聞けば、ヒトガミとやらがまあド畜生な悪神だということは分かる。
しかし、当時生まれてすらいない俺には関係ないだろう!
なぜそんな先祖の恨みのために、せっかく授かった命を差し出さなければならない?
そう老人たちに訴えると、彼らは「何て恥知らずなことを!」と激昂し、俺を監禁しようとしてきた。
ので、逃げた。
元々、老人数人と俺だけの集落だ。
いや、集落とも呼べないかもしれない。
その中で一番強いのは俺だったので、軽く抵抗するだけで抜け出すことができた。
追手は色々と来たものの、俺の身体はこの世界でもそれなりに強いらしく、苦労することなく撃退することができた。
そして俺は、憧れの異世界スローライフを始めた。
好みの家を自分で作り上げ、魔法で好き放題したり。
生活水準を日本にいた頃に近づけるため、魔導具を開発したり。
作った魔導具が世界的大ヒットを飛ばして、大儲けでウハウハしたり。
儲けた金で、憧れだった自動人形を趣味で制作したり。
万が一、未来の主とやらが来た時のために鎧を作ったり……。
なんか途中でラプラスとやらが暴れる戦争が起きたりしたようだが、そんなことには興味がない。
ただ、自分のやりたいことを思うままに楽しんだ。
だって俺は、自由なんだから。
――まあ、そんな自由も数百年で終わっちまったんだけどな。
突然やって来た、俺の主――オルステッドに目をやる。
鎧のおかげでなんとか生き永らえたが、正直、勝てる相手ではないことは一目で分かった。
ウルペンなんかより、ずっと強い。
「お前、俺のことはどこまで聞いている」
俺を下したオルステッドは、なかなか俺のことを信用してくれそうにない。
何故か分からないが、出会った時からずっと不可解そうな顔をされた。
まあ、ずっと仏頂面で何を考えているのか分かりにくいんだけど。
「んーと、俺が里のジジイ共に聞いたのは……初代龍神様の御子様がそろそろ転生してくるので、力にならないといけない……とか。でも御子様には呪いがかかってるーとか。俺の胸?には秘宝が宿っていて、ヒトガミのところに行くにはこれが必要……とか、かな」
「……それ以外は、特に聞いていないか?」
「?ああ。ジジイ共も、あんまり分かってない感じだったしな」
「そうか……」
そう呟き、オルステッドは考える素振りを見せる。
何か、足りない情報があっただろうか。
これから協力関係を結ぶなら、情報共有も大事だろう。
「……まあ、いい」
よくねーよ。
…………龍族というのは、言葉足らずな奴が多いような気がする。
集落のジジイもそうだし、ウルペンも似たようなところがあった。
でも
いや、アイツは分かっていて黙っておく質だった。
「聞かなかった貴様が悪いだろう」とか、ムカつくニヤケヅラで俺のことを馬鹿にしてきやがったアイツ。
あれは一生許さねぇ。
「あの闘神鎧に似た鎧はなんだ?」
突然話題を変えてきたオルステッド。
ところで、とか、さて、とかいった接続詞を使わないのだろうか。
龍族の会話方式、というやつなのか。
やはり龍族はコミュ障ばかりなのだろう。
「あれは闘神鎧をモデルに作ったものだ。まあ、実際に見たことがあるわけでもないし、文献も少ないから、ほぼオリジナルだけどな」
実際の闘神鎧とは似て非なるものであり、性能もほとんど異なる。
というか、ほぼ防御力に特化した代物だ。
「ふむ。流石、狂龍王カオスの作品というべきか……。銘は何というのか?」
「銘? ああ、名前か。まあ別に、
「そうか……つまらん名だな。俺が新しくつけてやろうか? そうだな……」
「いや、遠慮しておく」
オルステッドは鬼の形相をした。
……いや、これはムッとしている顔だな。
でも俺は知っている。
龍族がつける名前って、やけに中二病臭くて背中が痒くなるんだ。
不満気なオルステッドには悪いが、多分この究極鎧は、普通に「鎧」と呼ばれ続けることになるだろう。
こうして俺は、自分の命を脅かす龍神オルステッドに協力することとなった。
憧れだった自由な異世界生活が、大きく狂わされることになるとは……
俺はまだ知らない。