狂龍王転生 ~死にたくないので龍神と協力する~   作:谷氏

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22話 信頼

 

 

 

「……よし、これで……」

 

 

俺は完成した魔道具を高々と掲げた。

 

「てってれ~! 透明マント~~!!」

 

時間ができた俺は、とうとう秘密道具シリーズ第一作目、透明マントを完成させた。

文字通り、このマントを被ると姿が透明になる。

しかし、このマントの真髄はそれだけではない。

 

なんと、姿だけでなく、魔力、音、気配、マントで覆うそのすべてを消してくれるのだ。

 

よくあるだろう。

透明マントを被って移動したはいいものの、うっかりくしゃみをしてしまい、居場所がバレる……なんて事故が。

しかし、このマントならそんな心配は無用。

誰にも気取られることなく、どんな場所にも忍び込めるのである。

今ならなんと、お値段アスラ金貨十万枚!

 

……嘘だ。今のところ、これを売るつもりはない。

 

 

しかし、我ながら惚れ惚れする出来栄えだ。

もしかしたら、オルステッドすらも欺けるかもしれない。

 

唯一の欠点は、マント自体の気配も消えてしまうせいで、たまにどこへ置いたか分からなくなることくらいだろうか。

 

 

 

——コンコンコン。

 

俺が自作の魔道具にうっとりしていると、事務所の扉がノックされた。

 

俺は首を傾げる。

 

今はオルステッドもルーデウスもいないし、帰ってくる予定もまだ先だったはずだ。

ほかにここへ来そうなのはクリフかザノバあたりだが、二人ともこの時間は用事があったはず。

 

特に敵意も感じなかったので、俺は警戒することなく扉を開けた。

 

 

……あれ?誰もいない。

 

「あの……」

 

思っていたよりもずっと下の方から声がした。

 

目を向けると、活発そうなメイド服の少女が俺を見上げていた。

俺が尋ねるよりも早く、少女はきびきびと自己紹介を始めた。

 

「突然訪ねてしまい申し訳ありません! 私はルーデウス・グレイラットの妹、アイシャ・グレイラットと申します! オルステッド様の配下、カオス様とお見受けしますが、お間違いないでしょうか!」

「は、はい……」

 

あまりにもしっかりした挨拶に、思わず頷いてしまった。

そういえば、ルーデウスの会話や日記に、アイシャとかいう妹が登場していた気がする。

なるほど。このしっかりした子が、そうなのか。

 

「実は、カオス様にお願いしたいことがあって参りました!」

「お願い?」

 

俺は首を傾げた。

 

「実は……」

「あ、待った」

 

なんだか話が長くなりそうな気がしたので、俺は手で制した。

アイシャは目をぱちくりさせる。

 

「中に入りなよ、アイシャ…ちゃん。お茶も何もないけどさ。あと、そんなに畏まらなくてもいいよ。立場的にはルーデウスと一緒だし。様付けとか、なんか痒いし……」

 

俺がそう言うと、アイシャは少し肩の力を抜いた。

 

「はい! えっと……カオスさん。ありがとうございます」

 

その呼び方に、やっぱりルーデウスの妹なんだなあと実感した。

 

 

 

 

「お兄ちゃんに頼まれたんです」

 

事務所のテーブルに着いたアイシャは、少し不満そうに口を開いた。

 

「リニア……っていう、お兄ちゃんのお友達が、お兄ちゃんのお金で商売を始めることになったんですけど……そのお目付け役をしてほしい、って」

「ほう」

 

どうやらルーデウスは、借金を返済させるために、リニアに人を集めて商売を始めるよう命じたらしい。

だが、そのリニアという子はなかなか心配な人物らしく、アイシャがお目付け役を任されたということだ。

 

「お兄ちゃんに言われた通り、人を集めて、その人たちを使って商売を始めたんです」

「すごいな。何人くらい集まったの?」

「三十人くらいです」

 

思ったより多かった。

どうやら大学のツテを使ったらしい。

 

「でも、集まったばかりだと、やっぱり連帯感もなくて……。お兄ちゃんが帰ってくるまで、何をすればいいのかも分からないですし。どうしようかなって……」

「なるほどねぇ」

 

俺は顎に手を当てて考え込む。

 

……残念ながら、俺の頭ではいい案が思いつきそうにない。

 

「ルーデウスが帰ってくるまで、まだ一ヶ月以上はあるだろうし……難しいなぁ」

「そうですよね……。そこで、思ったんですけど」

 

アイシャは、ここからが本題だと言わんばかりに身を乗り出した。

 

「空中要塞にいるナナホシさんに相談したらどうかなって」

 

確かに、それはいい案だ。

ナナホシは異世界から来た身でありながら、見事な手腕で商売を成功させた経験がある。

相談相手としては、これ以上ない人物だろう。

 

……あれ?

もしかして、最初から俺の頭は当てにされていなかったのでは?

 

「確かに、ナナホシにアドバイスをもらうのがいいと思う」

「ですよね! じゃあ、空中要塞に行きたい……んですけど……」

 

アイシャは何か言いたげに、俺を上目遣いで見つめてきた。

 

なるほど。ようやく本題が分かった。

アイシャは俺に、空中要塞まで連れて行ってほしいのだ。

そうならそうと、最初から言ってくれればよかったのに。

一生懸命考えていた自分がちょっと恥ずかしい。

 

「分かった。俺がペルギウスのところに、一緒に連れて行ってやるよ」

「! ありがとうございます!」

 

アイシャの顔がぱっと明るくなった。

ちょっと居た堪れない気持ちになっていたが、こんな可愛い笑顔が見られるなら安いものだ。

 

 

 

 

アイシャはその後、リニアを連れてきた。

 

「お前がボスの下僕かニャ? 群れの立場をしっかりわきまえ——」

「リニア!」

 

俺を指さしたリニアの頭を、アイシャがぺしんと叩いた。

 

「カオスさんはお兄ちゃんの下僕じゃなくて仲間! つまり、リニアより上ってこと!」

「ニャ、そうなのかニャ……?」

 

えぇ、こいつが……? とでも言いたげな顔をされた。

別に畏まってほしいわけではないが、ここまで舐められるとちょっとむかつくな。

 

 

 

 

というわけで、早速笛を使ってアルマンフィを呼び出し、空中要塞へと向かった。

 

ナナホシに会いに行く前に、まずはペルギウスに挨拶を済ませておく。

 

「貴様から来るとは珍しいな」

「今日の俺は付き添いだ」

 

俺は肩をすくめ、アイシャとリニアに目を向けた。

リニアはペルギウスに怯え、顔を青くしている。

ペルギウスにはビビるのに、俺のことは舐めている……一体、何が違うというのだろうか。

 

アイシャは一歩前に出ると、ペルギウスに深々と頭を下げた。

 

「お初にお目にかかります。ルーデウス・グレイラットの妹、アイシャ・グレイラットと申します」

 

その後、アイシャは見事な話術でペルギウスの機嫌を取ってみせた。

彼女と話し終えたペルギウスは、すっかり上機嫌で言った。

 

「賢き者は嫌いではない。ゆっくりしていくがいい」

「ありがとうございます」

 

 

ペルギウスへの挨拶を終えた俺たちは、ナナホシの部屋を訪ねた。

 

ナナホシは相変わらず、魔法陣の研究や勉強に励んでいた。

 

「? 珍しい面子ね」

 

俺たちを見るなり、ナナホシは怪訝そうに眉をひそめた。

俺は付き添いだと説明し、アイシャとリニアを前に出す。

 

「久しぶりニャ、サイレント」

「お久しぶりです、ナナホシさん」

 

それからアイシャは、今回の事情をナナホシに説明した。

 

「うーん、そうね……」

 

ナナホシは考え込むように宙を見つめた。

しばらく黙っていたが、やがて何かを思い出したように顔を上げる。

 

「『制服』はどうかしら?」

「制服?」

 

アイシャが聞き返した。

 

制服といえば、ナナホシがこの世界にやってきたときに着ていた、高校の制服を思い出す。

しかし、それがどう役に立つのだろうか。

 

「全員が同じ服を着ることで、連帯感を高められる……って聞いたことがあるわ。そうすれば、特に何もしなくても、みんなが同じ組織の一員だって意識できるんじゃないかしら」

 

なるほど。確かに一理ある。

学校でも制服を着ることで、「自分はこの学校の一員だ」という自覚につながっているような気がする。

 

「あとはそうね……『礼儀』も大事っていうわね」

 

ほう、礼儀。

実に日本人的な言葉である。

 

「礼儀正しく相手に接すれば、商売相手にも信(・)頼(・)してもらえるでしょ? だから、礼儀を教えるのもありだと思うわ」

 

さすがナナホシ。

的確なアドバイスをもらい、アイシャは夢中で頷いていた。

 

「ありがとうございます! とても勉強になりました!」

 

ナナホシは、これでよかったのかしら、とでも言いたげな顔をしていたが、心配はいらなさそうだ。

アイシャの目はキラキラと輝いている。

きっと、何かひらめいたのだろう。

 

 

 

 

ナナホシからアドバイスをもらった俺たちは、空中要塞をあとにし、シャリーアへと戻った。

 

「カオスさん、本当にありがとうございました!」

「いやいや、俺は連れて行っただけだし。いい案を思いつけたのは、ナナホシと、アイシャちゃんの実力のお陰だよ」

 

頭を下げるアイシャに、俺は手を振った。

本当に礼儀正しい子だ。

 

背後で頭の後ろに手を組んでいる猫(リニア)にも、見習ってほしいものである。

 

「お礼に、カオスさんを名誉会長にしておきますね!」

「名誉会長……?」

 

リニアを連れて走り去るアイシャの言葉に、俺は首を傾げた。

 

 

まあ、彼女たちの役に立てたのならよかった。

そう思い、俺は胸をなで下ろした。

 

 

 

 

 

 

一ヶ月後。

 

アイシャたちがどうなったのか気になった俺は、彼女たちが借りたという建物を、窓の外からこっそり覗いてみた。

 

……なんだ、あれ。

 

建物の中では、虎のマークが入った黒いコートを着た屈強な男たちが、ずらりと並んで一斉に腰を折り曲げていた。

そして、男たちが頭を下げている先には、アイシャとリニアがいる。

 

いや、二人の様子もなんだかおかしい。

サングラスをかけ、ふんぞり返りながら金を数え、悪い笑みを浮かべている。

 

俺は、そっと窓から目を逸らした。

……見なかったことにしよう。

 

大変よろしくないことになっている気がする。

だが、俺の責任じゃ……ないよな?

 

どうしよう。ルーデウスに責められたりしたら。

確か、今日あたり帰ってくるはずだ。

いや、なんなら、もう事務所に戻っているかもしれない。

 

 

 

俺は急いでその場を離れ、事務所へと戻った。

 

俺が、妹を悪の道に勧めた人物だと思われれば、ルーデウスに怒られてしまう。

ルーデウスが帰って来る前に、必要な物だけ回収して、少し雲隠れしよう。

 

 

そう考えたのだが、事務所からはすでに人の気配がしていた。

 

……帰ってきている。

 

どうやらルーデウスは、オルステッドに仕事の結果を報告しているらしい。

 

(どうしよっかな……)

 

俺は事務所を遠巻きに眺めながら悩んだ。

 

しかし、ふと思い出す。

そう、俺には秘密道具があるじゃないか。

 

「てってれ~! 透明マント~!」

 

これを被れば、ルーデウスに見つからずに事務所へ忍び込める。

オルステッドにはバレるかもしれないが……そこは察してくれるだろう。多分。

 

 

俺は透明マントを被り、事務所へと近づく。

運良く扉も開いていたので、隙間からするりと潜り込んだ。

 

奥の部屋を覗き込むと、案の定ルーデウスがオルステッドに仕事の結果を報告している最中だった。

 

ルーデウスは俺に気づいていない。

オルステッドも、特に反応を示さなかった。

……まさか、この透明マント、オルステッドにすら有効なのか?

 

これはとんでもないものを作り上げてしまったかもしれない。

俺は思わず、にやりと笑った。

 

「——リーンハルトとゲルトラウデって、通常のル(・)ー(・)プ(・)だとくっつかないんでしたっけ?」

 

用事を済ませてさっさと立ち去ろうとした俺は、ルーデウスの言葉にぴたりと動きを止めた。

 

「ああ。だが、お前のおかげで今(・)回(・)は(・)結ばれることになるだろう。よくやった」

 

……やっぱり、そういうことか。

予想はしていたが、やはりオルステッドはループしているらしい。

 

というか、ルーデウスにはループのことを明かしているんだな。

これはもしかしなくても……

 

 

俺にループのことを言い忘れているな?

 

 

今度改めて聞いてみよう。

そしたら多分「言ってなかったか?」って顔をされるんだろうな。

言葉足らずなのは今に始まったことではないが、少し矯正してやらないといけない気がする。

 

 

 

「——で、カオスさんにも説明を……あ、カオスさんにはル(・)ー(・)プ(・)のことを伝えちゃ駄目なんでした。どうしましょう……」

 

 

心臓が冷たくなった。

 

「カオスには俺から言っておく」

「そうですか」

 

 

……今、間違いなくルーデウスは、俺(・)に(・)ル(・)ー(・)プ(・)の(・)こ(・)と(・)を(・)伝(・)え(・)て(・)は(・)い(・)け(・)な(・)い(・)と言った。

 

そして、オルステッドもそれを否定しなかった。

伝え忘れていた、なんてものじゃ無かった。

ルーデウスには明かしたのに、俺には明かさない意図が明確にあったのだ。

 

どうしてか?

長年一緒にいながらも教えてくれなかった理由。

 

 

そんなものは一つしかない。

 

 

俺が————信(・)頼(・)されていないからだ。

 

 

 

ギシッ。

 

 

俺の足が床を軋ませる音がした。

そこで初めて、透明マントを落としていたことに気づいた。

 

ルーデウスとオルステッドがこちらを振り向く。

 

二人とも、姿を表した俺を見て目を丸くしていた。

あからさまに、しまったといった顔をしている。

 

どうやら、このマントは本当にオルステッドすら欺けるらしい。

 

「い、いつから……?」

 

ルーデウスが冷や汗を流しながら尋ねてくる。

分かりやすすぎる反応だ。

 

「ル(・)ー(・)プ(・)、か……」

 

俺が呟くと、ルーデウスの肩がびくりと跳ねた。

今の一言で、俺がどこまで聞いていたのか察したのだろう。

 

俺はオルステッドを見つめた。

相変わらずの怖い顔。

何を考えているのか、さっぱり分からない。

 

「聞いたけど。殺すか? 俺のこと」

「……それはお前次第だ」

 

……否定しないんだな。

 

最後に残っていた望みまで打ち砕かれ、乾いた笑いが漏れた。

 

 

 

俺は床に落ちた透明マントを拾い上げた。

 

そして——事務所を飛び出した。

 

「——ッ、カオスさん!」

 

背後から聞こえる声を振り切り、俺は走った。

 

 

 

仲間だと思われていなかった。

信頼されていなかった。

 

 

たったそれだけのことが、どうしようもなく苦しかった。

 

 

 

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