狂龍王転生 ~死にたくないので龍神と協力する~   作:谷氏

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王竜王国編
24話 トラップ


 

 

久しぶりに、学校へ来ることができた。

ようやく、ずっと悪かった体調が回復してきたのだ。

 

 

教室に入ると、見慣れた顔がいくつも目に入る。

おれは、少し緊張しながらも、その中から友達の姿を探した。

 

友達は教室の中心で話していたので、すぐに見つけることができた。

久しぶりに彼らに会えたことが嬉しくて、おれの胸は弾んだ。

待っていてくれたんだ。

そう思いながら、彼らに声をかける。

 

 

 

しかし、振り返った彼らの顔は、怒りに歪んでいた。

 

——はぁ? 今さら何だよ

——おまえが休んだ劇、誰が代わりやったとおもってんだよ!

——来るって言ったのに嘘つき。もうしんじらんねー

——お前なんか……クラスの仲(・)間(・)じゃねえよ

 

次々と浴びせられる言葉に、頭が真っ白になった。

 

ようやく、まともに動けるくらいまで体調が戻ったのに。

また一緒に過ごせると思っていたのに。

 

違う。こんなことを言われるために、学校へ来たわけじゃない。

 

おれが悪いことは分かっていた。

約束を守れなかったことも、迷惑をかけたことも。

それでも、もう聞きたくなかった。

 

耳を塞いでも、彼らの声は頭の中に響き続ける。

その場に蹲り、顔を伏せた。

 

いやだ、誰か——

 

 

 

ハッと、目を覚ました。

 

荒い呼吸を繰り返しながら、ぼんやりと周囲を見渡す。

見慣れた空中城塞の一室。

そこは、あの学校ではなかった。

 

先ほどまで聞こえていた声も、もう聞こえない。

——どうやら、夢を見ていたらしい。

 

俺は、溜息をついた。

 

「嫌なことを思い出した……」

 

 

 

 

俺が事務所を飛び出してから、しばらくの時間が経った。

 

オルステッドの冷酷な態度に心をへし折られた俺は、人の温かさが恋しくなり、空中城塞へと逃げ込んだ。

目指す先は、ナナホシセラピーである。

 

突然転がり込んできた俺に、ペルギウスは邪魔くさそうにしたり文句を言ったりしたが、なんだかんだ俺を置いといてくれた。

良い奴である。めんどくさかっただけのようにも見えるが。

 

ナナホシも、事情を察してか、俺を気遣ってくれた。

彼らのおかげで、オルステッドに抉られた心の傷も、どうにか落ち着きを取り戻しつつある。

 

とはいえ、まだ全然オルステッドの顔は見たくないけども。

 

 

ルーデウスに居場所がバレるというハプニングもあったが、今のところ何の音沙汰もない。

おそらく、俺がここにいることを黙っていてくれているのだろう。

良き同僚を持ったものだ。

ここに来て、人の温かみを実感する。

 

 

さて、そんな俺が何をやっていたかというと。

いつもの部屋でお留守番中に、うたた寝をしていたようだ。

 

ナナホシは現在、ペルギウスの授業を受けている。

なんだかんだ言いつつ、ナナホシもペルギウスも忙しい身だ。

いつまでも俺の相手ばかりしているわけにはいかない。

最近は俺の調子が戻ってきたことに気づいたのか、二人から放置される時間も増えてきた。

うーん寂しい。

 

仕方がなく、俺が一人、部屋で暇を持て余していた、そのときだった。

 

 

コロンッ。

 

扉の向こうから、小さな何かが転がる音がした。

 

「?」

 

特に警戒することもなく、扉を開ける。

すると、廊下の床に、小さな粒が一つ転がっていた。

 

「なんだこれ」

 

しゃがみ込んで拾い上げる。

それは、前世を思い出させるような、やけにショッキングな赤い包み紙にくるまれていた。

中には、何か弾力のあるものが入っているらしい。

さっきの音を立てた物にしては、柔らかすぎるような気がする。

 

俺はその包み紙を広げた。

 

「これは……!?」

 

包み紙の中にあったのは、キラキラと光を反射する、透明感のある赤い小粒だった。

この形、この色、この質感。

 

これは……グミ、では?

 

この世界にグミなんてあるのだろうか。

しかし、どう見てもグミである。

少なくとも、俺の知る限り、これほどグミらしい見た目をした別の食べ物など存在しない。

 

前世では病気のせいで食事にもいろいろと制限があり、好きなものを好きなだけ食べることはできなかった。

そんな俺にとって、グミはちょっとした楽しみの一つだった。

 

あの、歯を押し返すような独特の弾力。

噛むたびに広がる甘い味。

小さな一粒に詰まった、ささやかな幸福。

 

まさか、こんな異世界で再会することになるとは。

 

 

「はっ……!」

 

気づけば、口元からよだれが垂れていた。

 

おそらくルーデウスあたりが、ナナホシに渡すために持ってきたものなのだろう。

以前もポテトチップスを持ってきていたし、前世の食べ物をそれなりに再現する技術を持っているらしい。

あのポテトチップスも、なかなかの再現度だった。

ならば、このグミだって、きっと前世と同じような味がするに違いない。

 

ま、まぁこれがたとえ毒であれ何であれ解毒魔術が得意な俺には問題ない。

ちょっとくらい食べたって問題なかろう。

 

そう思った俺はヒョイと口にグミを入れた。

 

「……!」

 

甘い。

いちご味だ。

噛めば、歯にむにゅりと押し返してくる懐かしい弾力。

甘ったるいようでいて、どこか癖になる味わい。

 

間違いない。紛うことなき、グミである。

 

気がつけば、あっという間に一粒を食べ終えていた。

 

物足りなさに、しょんぼりと視線を落とすと——今度は、紫色の包み紙にくるまれた小粒が目に入った。

ぶどう味に違いない。

 

よくよく見れば、廊下の先にも、同じような包み紙が点々と落ちていた。

 

なるほど、ルーデウスが持ってきた際に、うっかり落としてしまったのだろう。

これは届けてやらねばならないな。

 

俺は次々と落ちているグミを拾い上げながらグミの行列を辿っていった。

時々、拾ったグミを口に入れながら。

 

ルーデウスの所まで辿り着いたら、ちょっと分けてもらおう。

そんなことを考えながら、ひたすらグミを拾うためにしゃがんで移動していた時——

 

ふと頭上に影が差した。

 

「……?」

 

不思議に思った俺は顔を上げる。

すると、そこには呆れ顔のペルギウスとナナホシとルーデウスが揃っていた。

 

そして————相変わらず怖い目で見下ろす、オルステッドの姿があった。

 

 

「ほんとに引っかかった……」

 

ルーデウスかナナホシがどちらからともなく呟いた。

 

俺は、罠にかかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

お縄に頂戴になった俺は現在、森の中を歩くオルステッドに、俵のように抱えられていた。

 

誰かが見たら明らかに人攫いだと思うだろう。

誰もいないが。

 

俺を捕まえたオルステッドは「王竜王国に行く」とだけ言って何の説明も無く、空中城塞から連れ出した。

勿論、ルーデウス達に見送られながらである。

裏切り者どもめ。

 

というかあんな屈辱的な方法を取らなくてもオルステッドなら俺のことを捕まえられただろうが。

あんな巫山戯(ふざけ)たやり方、どうせルーデウスが提案したに違いない。

 

優しさで落とし物を届けてあげようというだけだったのに、あれじゃまるで俺が食べ物に釣られたみたいじゃないか。

誠に遺憾である。

 

 

「……逃げないからそろそろ降ろしてくれます?」

 

そろそろ抱えられるのが辛くなってきた俺はオルステッドにそう提案した。

離してくれるか若干不安だったが、俺がどうせ逃げても捕まえられるからか、素直に降ろしてくれた。

 

「それで……俺に何をさせる気でしょうか」

「……王竜王国にヒトガミの使徒がいる可能性がある」

 

俺の刺々しい敬語に、若干眉を潜めながらも、オルステッドは続けた。

 

どうやら、ザノバ宛にシーローン王国から帰国命令が来たことが発端だったらしい。

ザノバの弟、パックスがシーローン王国にてクーデターを勃発させ、王の地位を得た。

そしてその王となったパックスが戦争のためにザノバを呼び寄せたそうだ。

一連の流れがヒトガミの仕業である可能性があるとし、ルーデウスはシーローン王国へ、そしてオルステッドと俺は王竜王国へと向かい、ヒトガミの思惑を探り、阻止する、ということらしい。

 

「俺は外から使徒が誰か探る。お前は内部に潜入して探れ」

 

俺の返事を待つことすらなく、オルステッドは荷物を差し出してきた。

見覚えのある鞄。使い慣れた魔道具。事務所に置いてきたはずの品々。

どうやら、俺がいない間にきっちり回収してきたらしい。

 

「……承知しました」

 

当たり前にやってくれるだろうみたいな態度には、腹が立つ。

こちらは怒ってるし傷ついているのだが、一体どういうつもりなんだろうか。

無理矢理連れ出しやがって。

 

 

しかし、ヒトガミの仕業かもしれないなら仕方がない。

物作り仲間のザノバが死ぬのは、俺も嫌だしな。

 

こうして俺は、不本意ながらも、つかの間の逃避行を終えたのだった。

 

 

 

王竜王国の王都に到着した俺は、オルステッドと別れた。

 

人目につかない路地裏に身を隠し、渡された荷物を漁る。

その中から、お目当ての魔道具を取り出した。

 

「てってれ~、んーと……変身腕輪(メタモルブレス)~」

 

……名前を考えていなかったので、今適当に名付けた。

自作の腕輪型魔道具を腕にはめ、スイッチを押す。

 

するとなんということでしょう、俺の銀色だった髪と金色の目は黒くなり、背も子供サイズに縮んだのだった。

 

「……あっ、しまった。前に設定したときのままだな。まぁ、いっか。子供の姿の方がやりやすいか」

 

水たまりに映る——前世の自分の姿を確認し、俺は腕輪型の魔道具を眺めた。

 

これは俺が開発した変身用の魔道具だ。

顔や体格はもちろん、声や匂い、服装まで変えられるため、魔力眼や獣族の嗅覚でも見破ることは難しい。

 

ただし、明(・)確(・)に(・)イ(・)メ(・)ー(・)ジ(・)で(・)き(・)る(・)姿(・)に(・)し(・)か(・)変(・)身(・)で(・)き(・)な(・)い(・)という欠点がある。

曖昧な想像で変身をすると、不気味の谷のような気味の悪い仕上がりになってしまう。

そのため、基本的には実在する人物をしっかり観察し、脳内でイメージする必要があるのだ。

結構難しく、まぁまぁコツがいる。

 

 

しかしその点、前世の自分なら完璧に再現できる。

そんな訳で、一般人に溶け込みたい時には、この腕輪で前世の姿に変身しているのだ。

変に誰かに化けて、ドッペルゲンガーだ〜!なんてなるリスクもない。

街に降りる時や人と接触する機会が多くなる時には、重宝していた。

 

……もっとも、この世界では東洋人風の顔立ち自体が珍しい。

黒髪黒目の少年ではかえって目立つ可能性もあるため、あまり多用はできないだろう。

本格的に城へ入り込むなら、透明マントを使うか、現地の人間に化けた方がいい。

 

 

「ま、ひとまずはこれでいいか」

 

俺はフードを深くかぶり、路地裏から表通りへと出た。

 

王竜王国の王都は、なかなかに活気があった。

 

行き交う人々の声。

立ち並ぶ商店。

石畳を踏み鳴らす足音。

あちこちから漂ってくる食べ物の匂い。

 

 

「……まずは観光だ!」

 

俺は堂々と仕事を後回しにすることにした。

 

ふと鼻をくすぐる香ばしい匂いがあった。

見ると、通りの一角に焼き鳥の屋台が出ている。

 

「おっちゃん、これ、5本!」

「あいよ、毎度あり!」

 

店主が手際よく肉を焼き、タレを絡めていく。

差し出された串を受け取り、俺はさっそく一口かじった。

 

「……うまっ」

 

やはり、食事というのはいい。

多少食べなくても生きていける体とはいえ、うまいものを食べる喜びまでなくなったわけではないのだ。

 

そんなことを考えていると、店主がこちらに声をかけてきた。

 

「坊主、この辺じゃ見ない顔だな。どっから来たんだ?」

「誰も知らないような田舎町から。ちょっと嫌気がさしてさ、憧れの王都に出てきたんだ」

「へえ、そうかい!」

 

自分の街を褒められたのが嬉しかったのか、店主は上機嫌に笑った。

そして、周囲を気にするようにちらりと視線を巡らせると、声を潜めた。

 

「まあ、せっかく来たんだ。楽しんでいきな。……ただし、気をつけろよ」

「ん?」

「最近、外から来た人間が増えてるんだ。妙な連中も多い。油断してると、坊主なんかあっという間にさらわれちまうぞ」

「外から来た人間?」

 

俺が首を傾げると、店主はさらに声を低くした。

 

「王城の方で、何やら妙な動きがあるらしくてな。王様が何を考えてるのかは知らねえが……噂じゃ、戦争でも始めるんじゃないかって話だ」

「……ふーん」

 

俺は串を持ったまま、何気ない調子で頷いた。

 

「ありがと、おっちゃん。気をつけるよ」

「ああ、そうしな!」

 

店主に別れを告げ、焼き鳥を頬張りながら歩き出す。

残りの焼き鳥は袋に包んで、荷物の中に入れておいた。

 

 

住宅街に足を踏み入れたところで、今度は別の声が聞こえてくる。

 

「おーい! そっち行ったぞ!」

 

見ると、少年たちが広場で玉蹴り(サッカー)をしていた。

 

————お前なんか……クラスの仲間じゃねえよ

 

彼らの姿に、少し、前世の同級生を思い出し、足が止まった。

慌てて頭を振って、嫌な思い出を打ち消す。

 

 

転がってきた玉は、俺の足元で止まった。

俺はそれを軽く足で転がしながら、少年たちのもとへ返した。

 

「おっ、お前上手いな!」

「でしょ?」

「なあ、もう一回蹴ってみてよ!」

 

どうやら、ちょっとした技を見せただけで興味を持たれたらしい。

前世でもサッカーなんてほとんどやったことがないのだが、体を動かすのは嫌いではない。

俺は肩をすくめた。

 

「そんなに言うなら、俺も混ぜてよ」

「いいぜ!」

 

そのまま、しばらく少年たちと遊ぶことになった。

 

少年たちが息を切らしてきたので、休憩を勧める。

俺は屋台で買った焼き鳥を少年たちに差し出した。

 

「ほら、食べる?」

「えっ、いいの!?」

「やった! うまそう!」

 

少年たちは目を輝かせ、嬉しそうに肉へかぶりついた。

 

「うまっ! 最近、飯が微妙に足りなくてさー」

「そうなのか?」

「うん。なんか、かーちゃんが税金がどうとか言っててさ」

 

少年が、串を握ったままぼやく。

すると、隣にいた茶髪の少年も頷いた。

 

「俺んちも! でも、うちは姉ちゃんが王宮勤めだから、まだマシなんだって」

「お姉さんが王宮勤め? すごいね」

「っつっても、ただのメイドだけどねー」

 

少年は照れくさそうに笑った。

 

それから日も暮れてきたので少年たちと別れを告げた。

走り去っていく少年たちの後ろ姿を見届ける。

 

その中の茶髪の少年を見て、俺は————目を細めたのだった。

 

 

 

 

 




カオス捕獲大作戦

発案&実行:ルーデウス
監修:ナナホシ
協力:ペルギウス
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