死にたくないので龍神オルステッドに協力することになった。
というわけで――
「んじゃ、俺は家でゆっくりしてるから、なんか協力してほしいことがあったら言いに来てね~~グエッ」
そんな感じで家に帰ろうとしたら、首根っこを掴まれた。
普通に窒息死するからやめてほしい。
どうやら、オルステッドの旅についていかないといけないらしい。
研究もしないといけないし、やだやだと駄々をこねたが
「俺がいない間に貴様に雲隠れされたら、流石の俺も骨が折れるのでな」
と一蹴された。
企みがちゃんとバレている。
流石、龍神様ですね。
しかし、旅に出るとなると問題なのが俺の
「おい…………そんな荷物で移動する気か? もっと減らせ」
「嫌だね!!!」
現在、俺の背中には大量の魔道具が入ったクソデカバッグが背負われている。
そして、その後ろには俺の愛すべき作品たちが乗ったクソデカ荷台がある。
なお、これを引くのは俺自身だ。
オルステッドの呪いのせいで馬を飼えないからね。
「いい加減にしろ。荷台など引いて旅ができるものか」
「はぁ!? 俺の自動人形を置いてけって言うの!?」
全てが俺の自信作であり、愛した物たち。
もう恐らく帰ってこられないであろう家に放置するのは嫌なのだ。
ずっと一緒さ………………
「よほど自分の作品を破壊されたいと見える」
「あっ、ああっ、ちょ、待って! 待ってください!!!」
手をコキコキと鳴らし始めるオルステッド。
これはマジでやられる。
「人形はいいだろう」
そう言うと、オルステッドは片手で俺の自動人形を掴み、そのまま地下室へポイと投げ入れた。
「ああああああああああああああああああ!!!!!」
「ふん。行くぞ」
俺は襟足を掴まれ、オルステッドに引きずられた。
さようなら、俺の愛しのオートマタ…………。
「しかし、まだ多いな」
ジロリとオルステッドが俺の魔道具たちに目をやる。
慌てて俺は自分の身体で魔道具たちを隠した。
自動人形を捨てられたのに、この子たちまで捨てられたくないわ!!
「ふむ……」
顎に手を当て、何か思案するオルステッド。
やがて、ふと思いついたように口を開いた。
「空中要塞に置いていくか。ペルギウスなら預かってくれるだろう」
「え゙っ」
俺はギギギ……と首をオルステッドへ向ける。
「く、空中要塞って、まさかケイオスブレイカーとかいう名前のやつじゃ……」
「空中要塞はケイオスブレイカーしかないだろう? ほら、笛を寄越せ」
なぜ笛の存在を知っている…とか言いたいことは山ほどある。
だが、これだけは伝えなければならない。
「俺は行かない」
「なに?」
笛を渡されたオルステッドは、眉をひそめる。
「お前一人で行け。いや、でも俺の作品をあいつに……? あぁ……」
「俺は
「…………クッソ、二度とアイツの顔なんて見たくなかったのに……」
オルステッドは、そこまで聞いてようやく首を傾げた。
「お前たちは親交が深かったと記憶しているが……」
「はぁ!?俺と!?ペルギウスが!?冗談でもやめろよ、そういうこと言うの!!!」
俺の怒声を聞いて、オルステッドは驚いたようだった。
普段は怖い顔のくせに、驚いた時はやけにあどけない顔をするよな。
そんなことを思いながらも、俺は力説する。
「ペルギウスはな……俺の因縁の相手なんだよ」
「そうか。着いたぞ」
「あれは忘れもしない……ファッ!?」
引きずられていたせいで気づかなかったが、いつの間にか遺跡に到着していた。
ここで笛を吹けば、アルマンフィが来てひとっ飛びだ。
なんで方法まで知ってるんだよコイツ。
ていうか、人の話を聞けよ!これだから龍族ってやつは!!
――もう笛吹いてやがる!!
「光輝のアルマンフィ。参上……っ、!?」
アルマンフィはオルステッドを見た瞬間、驚愕したようだった。
オルステッドの呪いって、精霊にも効くんだな。
そんなことを思いながら、俺はアルマンフィに手を振った。
「よっ、アルマンフィ。久しぶりだな」
「ッ……カオ、ス……。コイツは一体……」
アルマンフィは恐怖か嫌悪のせいで、苦しそうな表情を浮かべている。
……これは確かに、俺がいないと面倒くさそうだな。
「この方は新たな龍神、オルステッドサマだ。用事ついでにアイツに会いたいってさ」
「………………構わないそうだ」
ペルギウスに確認を取っていたのだろう。
少し間が空いてから、返事が返ってきた。
アルマンフィは転移の魔導具を俺たちに押し付けると、さっさと行ってしまった。
多分、一刻も早く離れたかったんだろうな。
懐かしい感覚を通り抜け、空中要塞ケイオスブレイカーへ転移する。
ここに来るのは久しぶりだ。
それこそ、ペルギウスと大喧嘩した時以来なので――
……おや?200年以上経ってるな。
龍族になると、なんだか時間感覚が狂う。
転移先には誰もいなかった。
前はシルヴァリルあたりが来てくれた気がするが、俺が嫌われているのか、オルステッドの呪いが凄まじすぎて近づけないのか……。
まぁ、恐らく後者だろう。
久しぶりではあるが、ペルギウスがいる場所は大体覚えている。
俺たちは謁見の間へと向かった。
謁見の間に入ると、相変わらず偉そうな奴が中央の椅子にふんぞり返っていた。
「よぉ……久しぶりだな、ペルギウス。老けたか?」
「フン。カオス、まさか貴様が誰かの子飼いになるとはな」
「案外、犬になるのも悪くないぜ。ワンワン」
ニヤニヤと口元を歪めるアイツ――ペルギウス。
いつ見ても腹の立つ顔をしているぜ。
「して……貴様が新たな龍神か。名は?」
「……オルステッドだ」
「ふむ。オルステッド、か。貴様にはどうやら強力な呪いがかかっているようだな。我の眷属が騒いで仕方がなかったぞ」
「すまない」
「フン。まぁいい」
やけに殊勝だな、ペルギウスの前のオルステッドは。
あれ……俺って手荒に扱われてる……!?
「それで、何用だ? 我にもカオスのように、お前の配下になれと命じるか?」
ピリッとした空気が流れる。
俺があんまり好きじゃない雰囲気だ。
多分、どこかで眷属たちが潜んでいるのだろう。
すぐに攻撃できるように。
「……いや、そのつもりはない。挨拶ができれば、と思っただけだ」
「……なるほど」
ペルギウスはオルステッドを見定めるように目を細めた。
しばらく、氷のような空気が流れる。
俺はなんとかこの空気が緩まないかなと思い、オルステッドの後ろで盆踊りをしてみた。
「相分かった。ウルペンの後継者であり、同じ龍族のよしみだ。何か困ったことがあれば、我を頼るがいい」
フッと表情を和らげるペルギウス。
空気も落ち着いていった。
盆踊りのおかげかな。
「カオス、その不愉快な踊りを今すぐやめろ」
違ったらしい。
しゅん……。
「それで? カオス、貴様、何か我に用事があるのではなかったか?」
「あ、そうだった」
そもそも、ここに来た理由を忘れるところだった。
俺は背中に背負っていた大量の魔導具を降ろして言った。
「俺が作った、この素晴らしき魔導具たちを保管する権利をお前に与えよう。ありがたく思うんだな!」
「帰れ」
「アー!! 待って!!」
マントを翻して去ろうとするペルギウスを、必死に食い止める。
腹は立つが、貴重品の保管を任せられるほど信頼できるのは、コイツ以外にいないのだ。
「て、丁重に扱うなら、使う権利もやろう……」
「やろう? 随分と立場が上になったものだな」
「クッ…………」
「貴様は頼む側だろう? 相応の態度というものがあるのではないか?」
ペルギウスは、どこか楽しそうに腕を組む。
チラリとオルステッドを見たが、相変わらず怖い顔をしていた。
いや、違う、あれは――もの珍しいものを見た、って顔だ。
役立たずめ。
「………………俺は旅に出ないといけなくなったので、俺の愛する魔導具たちを保管してほしい…………た、のむ」
「そういえば!貴様は二百年前のことで、まだいじけていたのだったな!その態度も改めないといけないのではないか?」
「あ! れはお前が………………………………いや、分かった」
俺がすべての言葉を飲み込み、了承すると――
ペルギウスは、それはもう愉快そうに笑った。
「オルステッド、貴様のおかげで、このようなカオスの顔を見ることができた。礼を言うぞ」
「あ、ああ…………」
「カオス、お前の大切な魔導具は、甲龍王の名にかけて預からせてもらおう。これからは227年も拗ねていないで、ここに来ることだな。魔道具の様子も見たかろう」
くそう……
こんな形で因縁に決着がつくことになってしまった。
いつかペルギウスに土下座させてやることが夢だったのに。
「ハッ、律儀に来てない年数を数えてるなんて、よっぽど俺が恋しかったみたいだな!」
苦し紛れに捨て台詞を吐く。
どうせ、「気色悪いことを言うな」とか、そんなことをすぐに言われる。
「………………」
そう思ったが、やけに沈黙が長い。
不審に思って伏せていた顔を上げると――
ペルギウスは、不愉快そうに目をそらした。
「ウルペンにも敵わなかった貴様の、その情けない姿を見るのは滑稽だからな」
「………………あ゙?」
その日。
某魔王にも負けないほどの怒声が、ケイオスブレイカーに響き渡った。
ちなみに、空中要塞から出る際、オルステッドにこう言われた。
「やはり、お前たちは仲が良いんだな」
龍神は、目と耳が腐っているのかもしれない。
彼らの喧嘩については次回