狂龍王転生 ~死にたくないので龍神と協力する~   作:谷氏

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27話 決着

 

 

——————ル!

 

眠い。

 

——駄目だ、ねぇ————

 

うるさい。

静かに眠らせてくれよ。

 

——駄目だよっ……! 今度こそ————決めたん……!

 

何だよ。聞こえないよ。

何が駄目なんだ。

 

——今度こそ自由に生きるって————死にたくないんでしょ——!

 

そうだよ。

死にたくないよ。

 

あんな前世はもううんざりなんだ。

せっかく生まれ変われたんだから、自由に生きたいんだ。

 

でも、何故か体が、どうしても重い。

 

——君ならやれる————生き残って! 死ぬな!

 

俺ならって、何だよ。

無理だよ。

俺なんて大した人間じゃない。

 

——諦めないで——さっさと目を開けて……!

 

 

 

————————ハル!

 

 

 

 

「はっ……!」

 

俺は目を開けた。

次の瞬間、全身を激痛が駆け巡る。

 

「グッ……!」

 

俺はうつ伏せに倒れていた。

 

呼吸をしようとすると、口からおびただしい量の血が溢れ出す。

胸だけじゃなく、体中のあちこちも刺されていた。

 

腕も切り落とされている。

片腕を斬られた記憶はあったが、今は両腕ともなくなっていた。

 

 

 

絶望的な状況だ。

 

せっかく取り戻した意識が、痛みにより再び遠のきそうになるのを、何とかこらえる。

通常、俺が治癒魔術を使うには、傷口に触れて発動させる必要がある。

だが、今の俺にはそのための腕すらない。

 

しかし、一つ頭に過った。

自分の体ならどうだろうか、と。

触れなくても、治せるのではないか、と。

 

やったことはないけれど、できるかもしれない。

 

絶対に死なない。

死んでなんかやらない。

生きて、オルステッドを助けなければ。

 

 

俺は芋虫のように地面を這った。

目を閉じ、自分の体に意識を集中させる。

 

損傷した重要な臓器から修復するのだ。

魔力で失われた組織を再生成し、衰えた機能を補完する。

細胞の一つ一つにまで意識を向け、損傷箇所を修復していく。

 

痛みで意識が逸れそうになるのをなんとか堪え、魔力を動かした。

 

いける。

俺なら、やれる。

 

全身を焼き尽くすような激痛に耐えながら、俺はひたすら治癒に集中した。

 

そして。

 

 

 

「ッ~~~~!!!! ッ、グハッ、はっ、はっ……!」

 

——成功、した。

 

 

俺は体を起こし、自分の体を確認した。

 

胸の傷も、なくなっていた両腕も、体中に刻まれた傷も、綺麗さっぱり消えていた。

……正直、死んでいなかったのが不思議なくらいの状態だった。

あそこで意識を取り戻せたこと自体、奇跡と言っていいだろう。

 

 

俺はゆっくりと立ち上がった。

 

血を失ったせいか、寒いしかなりクラクラする。

いや、これは魔力も相当消耗しているな。

あれだけの傷をすべて治したのだ。当たり前といえば当たり前か。

俺の魔力量は、ルーデウスほど規格外じゃないからな。

 

 

周囲を見回すと、俺を取り囲んでいた兵士たちはもういなかった。

 

「装備は……あった」

 

究極鎧と賦刃は、俺のすぐ近くに転がっていた。

正直、奪われていてもおかしくないと思っていたが……俺が死んだと思って油断したのだろうか。

それとも、後で回収するつもりだったのか。

 

……いや、何か、急いでいたのか?

 

このタイミングで急ぐようなことといえば……

 

 

————オルステッドだ。

 

俺は駆け出した。

 

 

 

そもそも、レオナルドの計画は、オルステッドを引きつけ、その隙に暗殺者を送り込む予定だったはずだ。

だが、奴は暗殺計画そのものが芝居だったと言っていた。

つまり、最初からパックスを暗殺するつもりなどなかったのだろう。

 

ならば、オルステッドはどうなる?

オルステッドは現在、俺が聞きだした暗殺者が通る進路で、待ち構えているはずだ。

だが、その暗殺者自体が嘘だったというのなら——

 

 

オルステッドのもとに、別の罠が仕掛けられている可能性がある。

 

「ッ、クソッ……!」

 

大失態だ。

こんなことでは、オルステッドに見捨てられても文句は言えまい。

 

あんな兵士ごときにやられるオルステッドではないだろうが、余計な魔力を消耗させられる可能性はある。

どんな罠が張られているかも、分からない。

急いで向かい、俺が蹴散らさなければ。

 

フラつく体を叱咤しながら、暗殺者を送り込むと言っていた方向へと走った。

 

 

 

「——!」

 

兵士が、大勢いる。

どうやら、この先が戦場になっているらしい。

何やら兵士たちがざわついていた。

 

一人一人は大したことがなくても、今の体で全員を相手にするのは厳しいだろう。

早くオルステッドのところにも向かわねばならない。

 

俺は透明マントを被り、兵士たちに見つからないよう、その隙間を縫って先へ進んだ。

 

 

 

次第に、阿鼻叫喚の声が近づいてくる。

叫び声だけでオルステッドの居場所が分かるとは、なかなか便利だ。

 

なんてふざけたことを考えている場合じゃない。

俺はさらに足を速めた。

 

 

 

 

————いた。

 

オルステッドだ。

 

大勢の兵士に囲まれている。

その中で、オルステッドと、尻餅をついたレオナルドが向かい合っていた。

 

俺は一旦、透明マントで姿を隠したまま、しばらく状況をうかがった。

 

 

オルステッドが消耗している様子はない。

列強2位を本当に舐め腐っていたのか、大した罠も、攻撃もなかったようだ。

一方のレオナルドは、汗をだらだらと流しながら何やら喚いている。

どうせ、負け惜しみだろう。

 

兵士たちも、疲弊しているというより、恐怖でまともに動けなくなっているようだった。

 

 

……特に小細工を仕掛ける必要もなさそうだ。

そう判断し、俺が飛び出そうとした、その矢先。

 

 

「おおおおぬしの仲間は裏切ったのだぞ!!! 儂ではなく、そちらを殺せ!!!」

 

 

レオナルドの言葉に、俺は足を止めた。

 

レオナルドは肩を震わせながら、それでも必死にオルステッドへ訴えかける。

 

「ここには暗殺者が向かっていると聞いて来たのだろう!? 奴は儂から報奨を受け取り、おぬしを売ったのだ! ここに奴がいないのが何よりの証拠!」

 

 

心臓が急速に冷たくなった。

 

 

レオナルドは、俺に標的を変えようとしているらしい。

 

俺が、暗殺者を率いるヒトガミの使徒が、ここに来ると言ったのだ。

オルステッドからすれば、俺が嘘をつき、自分を罠にはめたと思ってしまっても、仕方がない。

 

 

何よりも、俺はオルステッドに信頼されていない。

 

 

そもそも俺は、秘宝のために殺されるはずだった人間だ。

それをなんとか口八丁で乗り切り、オルステッドの下につく形で共にいるに過ぎない。

少なくとも、オルステッドはそういう認識のはずだ。

 

脅し、脅される関係で、信頼されていないのも、当たり前なのだろう。

大切な事(ループ)について教えてくれないのだって、仕方がない。

 

仕方がない、けれど……

 

 

何十年も一緒に過ごしてきたのに、そんな関係にしかなれなかったことが、胸を締め付けられるほど悲しかった。

 

 

透明マントの中で、俺は唇を噛み締めた、その時だった。

 

 

 

「くどい。カオスは裏切ってなどいない」

 

 

顔を、上げた。

 

オルステッドは、何度も同じことを聞かされたと言わんばかりに、うんざりした様子で言った。

レオナルドは慌てたように声を上げる。

 

「な、何を根拠にそんなことを……!」

「俺がカオスを————信じているからだ」

 

息を呑んだ。

 

オルステッドの顔には、嘘も取り繕いもなかった。

ただ、真っ直ぐな目をしていた。

 

「カオスは俺の仲(・)間(・)だ。アイツは俺のために尽力してくれている。それを疑う理由などない」

 

その言葉だけで、もう充分だった。

 

 

俺は透明マントを取り払い、オルステッドを背後に庇うようにして、二人の間に降り立った。

 

「ごめん、遅れた」

「! …………構わん」

 

ちらりと後ろを見ると、オルステッドが少しびっくりした顔をしていた。

そういえば、この透明マントを着ていると、オルステッドですら俺の存在に気づけないんだったな。

 

 

レオナルドは、俺の姿を目にした途端、顔を青ざめさせた。

 

「お、お前は……! 確かに殺したはず!」

「ところがどっこい、生きてんだよなぁ」

 

俺は賦刃を抜いた。

 

「何度も串刺しにしてくれたみたいで……。これは、お返ししてやらないとな?」

「ヒッ……! へ、兵よ!」

 

レオナルドの呼びかけに、恐怖で震えていた兵士たちが、我に返ったように動き始めた。

王を見捨てて逃げ出さないのは、見直した。

 

 

だが、俺とオルステッドが並び立つ以上、負ける道理などない。

オルステッドが前に踏み出て、俺の隣に立った。

 

「行くぞ、カオス」

「ああ——了解」

 

互いにそれ以上の言葉は必要ない。

 

俺たちは示し合わせたように地面を蹴り、戦場へと駆け出した。

 

 

 

 

 

決着は、ものの数分でついた。

 

死屍累々の中、意識を保っているのは、無様に尿を垂れ流しながら這いずっているレオナルドだけだった。

 

「さあ……さっさと協力者、他の使徒の居場所を吐いてもらおうか?」

 

兵士の中に、それらしき人物はいなかった。

すでに逃げたのか。それとも、巧妙に姿を隠しているのか。

そもそも最初から協力者なんていなかったのか。

 

どちらにせよ、レオナルドから聞き出す必要がある。

 

「っは、ハハハ……」

「?」

 

レオナルドが、突然笑い始めた。

絶望的な状況に、気でも触れたのだろうか。

 

「儂が……この儂が、シーローンに何もせず、ただのこのこと出てきただけだと思うか?」

「何?」

 

オルステッドが反応した。

近づいてくるオルステッドにも構わず、レオナルドは目を血走らせながら続けた。

 

「シーローンでは、すでにクーデターが起こっているだろう! クーデターによってパックスは死に、シーローンは力を失う! そうすれば、あの国は我が国のものだ……! たとえ儂が死のうとも、この国は発展していく……!」

「おい! どういうことだ!」

 

俺はレオナルドにつかみかかり、問い詰めた。

すると、レオナルドは気味の悪い視線を向けてきた。

そして、ゆっくりと口を開く。

 

「ナキモノ……お告げに無(・)き(・)者(・)よ。いくら藻掻こうと、ヒトガミ様には敵うまい。ヒトガミ様に消されるその日まで、精々足掻くんだな」

 

もう、レオナルドは俺を見ていなかった。

 

ただ青い空を仰ぎながら、うわ言のように呟いている。

 

「ああ、ヒトガミ様のおっしゃったとおりだ……。ヒトガミ様! 見ていてください、我が国の発展と、そして儂の忠誠を……!」

 

そう言うと、レオナルドは舌を噛み切った。

 

「なっ……!」

 

俺は慌ててレオナルドの容体を確認した。

治癒魔術を使えば、まだ助けられるかもしれない。

だが……

 

俺はオルステッドを見た。

オルステッドは少し考え、それから首を横に振った。

 

「……無駄だろう」

 

俺もそう思った。

ここまでヒトガミに傾倒しているのだ。

助けたところで、他の使徒について何も吐かないだろう。

 

俺は剣を構え、そのままレオナルドの首を断ち切った。

 

 

 

終わった。

 

……いや、まだだ。

 

「レオナルドが気になることを言っていたよな。シーローンでクーデターが起こっているとか何とか……。今から急いで——っ、あ?」

 

オルステッドの顔が歪んだ。

 

いや、オルステッドだけじゃない。

目に映るすべての風景が歪み、方向感覚がなくなっていく。

 

 

……魔力切れだ。

 

そう思った頃には、俺の意識は彼方へと飛んでいってしまったのだった。

 

 

 

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