30話 行動方針
俺がオルステッドと共に、ヒトガミを討ち滅ぼすと約束してから、しばらくの時が経った。
その間に俺たちは、あのシーローンでの一件を経て、今後の行動方針を大きく見直すことにした。
まずは、ラプラスについてだ。
俺が秘宝の代わりになるものを作り上げれば、必ずしもラプラスを殺す必要はなくなる。
だが、オルステッドと二人で話し合った結果、ラプラスを倒すための準備も並行して進めておくべきだ、という結論に至った。
理由は単純。魔神となったラプラスが脅威だからだ。
魔龍王だった頃ならまだしも、ヒトガミの手によって魔神となったラプラスは、ヒトガミに良いように操られる可能性もある。
たとえ第二次ラプラス戦役前に、世界を渡る方法を見つけ出せたとしても、確実にラプラスを対処してから、ヒトガミの元に向かったほうが確実だろうという話になった。
せっかく作った装置が、ラプラスのせいで壊された、とかになったら嫌だしね。
あとはもう一つ、理由がある。
結局、秘宝以外の方法が見つからなかった時のため、だ。
俺自身はあまり言いたくないし、発明出来る自信もあるんだけどね。
やっぱりね、オルステッドは半信半疑のようなのでね。
ちょっぴりムカつくが、備えあれば憂いなし、ともいうので大目に見よう。
それに、俺自身が研究の途中で死ぬ可能性だってある。
もしものときに研究を引き継いでくれる人間がいればいいのだが、今のところ、技術的な面でも信頼性の面でも、安心して任せられる人物はいなかった。
ペルギウスなら、あるいは……と思わなくもない。
だが、今の段階で秘宝のことを彼に伝えるのは、まだ危険だろう。
ただでさえ、オルステッドがループしているという秘密まで知られているのだ。……わりと俺のせいだけど。
今のところは見過ごしてくれているようだが、わざわざ余計なリスクを増やす必要もあるまい。
とはいえ、俺個人としては、ヒトガミによって分かたれたラプラスを、倒さず出来ることなら元に戻したいとも思っている。
そもそも、元を辿れば俺たちは、同じヒトガミを殺したい者同士なのだ。
俺が秘宝を使わずにヒトガミのもとへ辿り着く方法を見つけられれば、ラプラスだって一緒に戦えるかもしれない。
敵が増えるのは困るが、味方が増える分には大歓迎だ。
ペルギウスが黙っちゃいないような気もするけど、そこは頑張って俺が取り持てば……いや、無理かなアイツ頑固だし……
ラプラスはペルギウスにとって、大切な仲間を殺された仇だ。
俺の言っていることが理想論なのは間違いないが、それでも同じ龍族同士、仲良くできないものかなとは、思っている。
さて、ラプラスを倒すと決めた以上、次に必要なのは戦力の確保だ。
とはいえ、この方面についてはルーデウスが中心となって動いてくれている。
アイシャたちが立ち上げた『ルード傭兵団』を活用したり、各国の権力者と交渉したりと、着々とラプラスとの戦いに向けた準備を進めているようだ。
俺も何度か、パーティーや話し合いの場に、一緒に出てくれないか、と頼まれたことがある。
なんでも、龍族である俺が同席すれば、交渉の信憑性や説得力が増すらしい。
オルステッドは呪いのせいで出席できないからな。
しかし、申し訳ないが断固拒否させていただいた。
俺に礼儀作法なんてものが身についているはずもないし、ああいうお堅い場では、余計なことを口走って失言する未来しか見えない。
下手をすれば、交渉をまとめるどころか、余計な火種を生み出しかねないだろう。
というわけで、よほどの事情がない限り、外交関係はルーデウスに一任することにした。
適材適所って大事だよな。
それから、事務所にもオルステッドと俺の秘書を用意してくれるとかなんとか。
事務仕事を任せられる人がいれば、俺も自分の研究に専念できる。
出来るだけ早く来てくれると、嬉しい。切実に。
しかし、仲間を増やすにあたって、一つ懸念するべきことがある。
それは、ヒトガミの存在だ。
いつ、どこで、誰が使徒になるのか分からない。
そんな状況で、手当たり次第に仲間を増やすのは、それなりに危険を伴う。
せっかく集めた戦力の中に使徒が紛れ込んでいた、なんてことになれば目も当てられない。
ルーデウスが持っている龍神の腕輪のように、ヒトガミの干渉を妨害できる道具がほかにもあればいいのだが……。
完全な再現は難しくとも、劣化版くらいなら作れるかもしれない。
使徒になる可能性をゼロにできなくても、少しでもリスクを減らせるのなら、それに越したことはないだろう。
このあたりも、今後の研究課題になりそうだ。
そんなわけで、計画を具体的に詰めていくうちに、戦力以外にも必要なものが色々と見えてきた。
ある日、ルーデウスがこんな提案をしてきた。
「やはり、連絡手段があった方がいいと思うんです。声や文字で、離れた場所にいる相手にも情報を届けられるような魔道具ってありませんかね? それか、作れませんか?」
「声や文字を届ける魔道具か……」
オルステッドが考え込む。
声や文字を離れた場所まで届ける道具。
つまり、ルーデウスが欲しがっているのは、携帯電話のようなものだろう。
「作れるぞ」
「えっ!?」
俺が即答すると、ルーデウスが驚いた顔でこちらを振り向いた。
「七大列強の石碑とか、冒険者ギルドのカードがあるだろ? あれ、確か元々は龍族の技術なんだけど……あの仕組みを応用すれば、多分できるぞ」
「なるほど……!」
ルーデウスが納得したように頷く。
「問題は大きさか。持ち運べるサイズにするのは、ちょっと難しそうだな」
「大きさは多少大きくても大丈夫だと思いますよ。どこかに設置して、固定式にすればいいんですから」
固定電話でもいいってことか。
確かに、連絡手段としての役割を果たすだけなら、それでも十分だ。
だが、やはり持ち運びができた方が便利だろう。
「ま、色々と改良して作ってみるよ。しばらく時間をくれ」
「ありがとうございます! お願いします」
ルーデウスが嬉しそうに頭を下げる。
よし。久しぶりに、ちょっと面白そうな研究課題ができた。
オルステッドにも意見を聞きながら、あれこれ試行錯誤してみるとしよう。
それからしばらくして、今度はルーデウスが魔導鎧の輸送方法に頭を悩ませていることを知った。
そういえば、ルーデウスの魔導鎧もかなり大きい。
あれを召喚魔術なしで運ぶとなれば、相当な手間がかかるだろう。
すっかり失念していた。
もっと早く相談してくれれば、俺が使っている輸送方法を教えてやったのに。
ということで、双方向の転移魔法陣を使って運ぶ方法を教えてやった。
スクロールは必要になるが、これなら輸送のたびに苦労することもなくなるはずだ。
この程度の魔法陣なら俺にも書けるので、いくつか予備も用意して渡しておいた。
これで輸送問題はひとまず解決だ。
そして、魔導鎧と究極鎧の開発にも、お互いの研究成果を持ち寄ったことで進展があった。
魔導鎧の方は、より小型で高性能な『三式』の開発が進んでいる。
俺の究極鎧に関する情報も役立っているようで、こちらは比較的順調だ。
全体のバランスを重視しながら、それぞれの機能を少しずつ伸ばしているらしい。
『三式』が順調に進んでいるため、『三式』とは真逆の方面での開発も始めたようだ。
『三式』はもう少し時間がかかりそうだが、短期決戦型鎧の方は一、二年もせずに完成するのではないだろうか。
一方、究極鎧の方はというと……少々行き詰まっていた。
消費魔力を抑えることには成功したものの、そこから先がなかなか難しい。
どうしてもほかの性能を引き上げようとしたり、頭部や細部までに鎧の面積を増やそうとすると、肝心の防御力が落ちてしまうのだ。
恐らく、魔力の密度の問題だろう。
面積を広げればその分密度は下がり、防御力も落ちる。当然だろう。
だったら腕でも何でもで、頭を守った方が、よっぽど防御力が保たれるのだ。
それに、俺はルーデウスほど魔力が多いわけでもない。
面積や性能を増やせば、魔力消費の激しい鎧になる。
そうなれば、稼働時間が一気に短くなってしまう。
オルステッドからも、闘神鎧を超え得るほどの防御力を失うのは惜しいと言われた。
あれもこれもと欲張った結果、肝心なときに動けなくなっては本末転倒だ。
結局、俺は防御特化の方針を維持することにした。
…………つまるところ、昔と何も変わらないのである。
こうして振り返ってみると、最近の俺の仕事はなかなかに忙しい。
主に携帯電話の開発を進めながら、無の世界へ辿り着くための研究をする。
ルーデウスやザノバに呼び出されれば、魔導鎧や究極鎧、呪い除けのヘルメットについて話し合う。
その合間には、龍神の腕輪のような道具を作れないか考察し、オルステッドの資料作りまで手伝う。
おや?
ルーデウスとザノバ、その他にも傭兵団や技術者など、人手は増えた。
なのに、俺の仕事も増えている気がするな……?
まあ、魔道具を作るのは半分趣味みたいなものだ。
自分が好きでやっていることも多いし、面白い研究ができるのなら、それはそれで悪くない。
というわけで、俺は忙しいながらもなかなかに充実した日々を過ごしているのだった。
まぁ、スローライフが恋しくないかと言われれば、嘘になるんだけど。
……
…………
………………明日はナナホシのところに、遊びに行〜こう!
次の日、遊びに行く前に捕まったカオスくんは、オルステッドの書類作りを手伝わされるのであった。