狂龍王転生 ~死にたくないので龍神と協力する~   作:谷氏

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時は少し戻ります


7話 邂逅

 

34歳、職歴なし、住所不定、無職だった俺は、ある日トラックに轢かれて死んでしまうも、ルーデウス・グレイラットとして異世界に転生した。

 

今度こそ本気を出して、後悔しない人生を送る。

そう誓った俺は今日———最近できた友達、シルフのもとへと遊びに向かっていた。

 

かつて、外に出ることすら怖がっていたルーデウスは、ロキシーのおかげでもういない。

いつものように家を出た俺は、意気揚々とシルフのもとへと向かうのだった。

 

 

しかし、その道中、ふと目に留まるものがあった。

 

(珍しいな……)

 

黒髪黒目の、俺と同い年くらいの少年。

 

なんとなく前世を思い出させるような男の子が、ふらふらと森の近くを歩いていたのだ。

 

この世界に来てからというものの、日本人を思わせるような純粋な黒髪は見たことがなかった。

どこか懐かしさを覚え、俺はその黒髪から目を離せなくなる。

 

だからこそ、見てしまった。

黒髪の少年が――森の中へと入っていくところを。

 

「確か、森は魔力溜まりができやすいから、危ないんだったよな……」

 

このあたりは、そもそも魔物が出にくいうえ、定期的に魔物狩りも行われているため、比較的安全な地域だ。

 

だが、森の奥地となれば話は別だ。

魔力溜まりができやすい環境では魔物の発生率も高くなるらしく、俺も森に入るときは、比較的浅い場所までにとどめていた。

 

しかし、少年が入っていった場所には、はっきりとした道がない。

もし迷い込めば、あっという間に森の奥地まで入り込んでしまうかもしれない。

 

「……いや、案外、森に詳しいのかもしれないしな」

 

そう考えた俺は、そのまま森を通り過ぎようとした。

 

だが、あんな黒髪の少年は、このあたりで見たことがない。

もしかしたら、よそから来たのかもしれない。

何より、あのふらふらとした足取りが、どうにも気にかかった。

 

「……クソッ! 今世こそ後悔しないように、本気で生きるって決めただろ!」

 

俺は気合を入れるため、両手で自分の頬をパチンと叩いた。

明日の朝、魔物に襲われた少年の無惨な遺体が見つかったりしたら、俺はきっと後悔する。

それだけは、絶対に嫌だった。

 

俺は黒髪の少年が向かった方へ、駆け足で追いかけた。

 

 

---

 

 

「おいっ、待てよ!」

 

俺はようやく追いついた少年の服をつかんだ。

 

見た目に反して足が速かったらしく、追いかけているうちに、かなり森の奥まで来てしまっていた。

 

少年は、黒い瞳をまん丸にしてこちらを振り返った。

 

「えっ、なに?」

「なに、じゃないだろ。こんな森の中に、君みたいな子供が一人で入ったら危ないじゃないか」

 

俺の言葉を聞くと、少年はしまった、という顔をした。

それから困ったように頬をかき、こう言った。

 

「そういう坊やも子供だろ? こんな森の奥まで来ちゃって……」

 

お前のせいだよ。

やれやれ、とでも言いたげに首を振るマセガキに腹が立ったが、俺はぐっと怒りをこらえた。

結構イケメンなのも、苛立ちポイントだ。

 

「ほら、村まではこっちだから。行こうよ」

 

俺はマセガキの手をつかみ、村の方へ引っ張ろうとした。

しかし、マセガキは何故か抵抗する。

 

「いや、俺は……いいよ。この森にも詳しいんだ。だから――」

 

バキッ。

 

少年の言葉を遮るように、何かが折れる音がした。

俺とマセガキは、恐る恐る音のした方へ目を向けた。

 

 

そこには、巨大な魔物がいた。

 

 

「ガァアアアア!」

 

魔物が咆哮を上げる。

 

その姿を前に、俺は凍りついた。

命を危険にさらされるなんて、初めてのことだった。

体に染みついていたはずの魔術も剣術も、頭の中からすっかり抜け落ちてしまった。

 

魔物の牙が迫る――。

俺は思わず目を閉じた。

 

(もう駄目だっ……!)

 

 

――ヒュン。

 

 

いつまでたっても、痛みは襲ってこなかった。

恐る恐る目を開けると、巨大な魔物が真っ二つに斬り裂かれていた。

 

「えっ……」

 

驚きのあまり、俺は何度も目を瞬かせた。

少年は、剣らしきものをすでに腰に収めているところだった。

 

「悪かったな、巻き込んで」

 

少年は振り返り、困ったように笑いかけてきた。

俺は声も出せず、魚のように口をパクパクさせるばかりだった。

 

 

――しかし、倒したはずの魔物が再び動き出した。

 

死に際の悪あがき、というやつだろう。

俺は反射的に火魔術を放つ。

今度はなぜか、体が動かすことが出来たのだ。

放った火魔術は、少年の横を通り過ぎ、魔物へと当たる。

 

魔物は悲鳴を上げ、そのまま今度こそ動かなくなった。

 

「……! 驚いた。ありがとな。まだ子供なのに、無詠唱魔術が使えるなんてすごいな」

 

そう言って、マセガキは俺の頭を撫でようとしてきた。

俺はすかさず、その手を避ける。

子供に頭を撫でられるなんて、まっぴらごめんだ。

 

「……そういう君もすごいね。父さまくらい強いかも」

「ハハッ、そうか。ありがとな」

 

気づけば、俺はその場に尻餅をついていた。

差し出された少年の手を借りて、どうにか立ち上がる。

 

「それじゃ、お前は帰らないとな」

「僕だけじゃなくて、君もね」

 

どうやら、このマセガキはまだ懲りていないらしい。

俺がそう返すと、少年は困ったように笑った。

 

「いやいや、子供は早く帰らないといけないぜ」

「だから、それは君も――」

 

少年の黒い瞳が、一瞬、金色に光ったような気がした。

思わず、俺は言葉を止める。

 

「じゃないと、連れ去られちまうぞ」

 

まるで、子供を怖がらせるための、ありふれた脅し文句のような口調だった。

 

 

「わるーい龍神様に、な」

 

 

 

---

 

 

「ルディ!」

 

ハッとして、俺は目を開けた。

 

目の前では、シルフが心配そうに俺をのぞき込んでいた。

 

「いつもの場所に来ないと思ったら、こんなところで寝て……風邪引いちゃうよ」

 

慌てて飛び起き、周囲を見渡す。

どうやら俺は、木の下で眠っていたらしい。

 

「シルフ、黒い髪をした、俺たちと同じくらいの年の子供を見なかったか?」

「……? 来たときは、ルディしかいなかったよ」

 

夢だったのだろうか。

そう思ってしまうほど、あの黒髪の少年がいた痕跡は、どこにも残っていなかった。

 

「ルディ! 昨日の続きを教えてよ!」

 

どうやらシルフは、待ちくたびれていたらしい。

 

申し訳なく思った俺は、ひとまず考えを打ち切り、シルフに魔術を教えることにした。

 

 

あの不思議なマセガキのことを、心の片隅で気にかけながら。

 

 

---

 

 

 

ブエナ村。

 

森の奥、そのさらに奥。

 

恐ろしい顔をした男が、そこに立っていた。

誰もが近づくことを恐れるようなその男に、黒髪の少年は臆することなく歩み寄る。

 

「遅かったな。魔物の活性化の様子を見に行くだけだと言うのに」

「いやー、ちょっとした子守(アクシデント)に巻き込まれてね」

 

黒髪の少年は、身につけていた魔道具の電源を切った。

すると、黒かった髪は銀色へと変わり、少年の背丈もまた、大人のそれへと変化していった。

 

「面白い子だったんだよな〜。また会えるといいな」

 

そう言って、金色に変わった深い瞳を細める。

 

 

彼らの邂逅は——もう間もなく。

 

 




魔道具と仮面は、どちらも素顔を隠す為の物ですが、使い分けている意図があるようです。
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