((皆大変だ!今日の朝、第2フロアのボスの居場所が見つかって、プレイヤーがボス討伐に出発したらしい!!))
優の声が、寝起きでぼんやりしていた頭に少しずつ染み込んでいく。
(討伐隊が、もう出発した……?)
ようやく状況を理解した。
(なんてこった……僕達が寝ている間に……。)
(でも、優はどうしてその情報を知ってるんだ?)
「ねぇ、なん――」
「どこでその情報を知ったの?」
僕が口を開くのと同時に、聡が尋ねる。
「実は朝ごはんを買いに街へ出たら、こんなものが配られていたんだ……。」
優はそう言って、一枚の紙を僕達の前へ差し出した。
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楽園タイムズ VOL.1
世紀歴20×0年4月13日 5:00発行
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EDENの最新情報をお届けする公式情報誌
『楽園タイムズ』本日創刊!
【速報】
第2Floor「Masquerade Kingdom」の
フロアボスを発見!
今朝未明、郊外の屋敷跡にて
大型モンスター
【Cardinal Cerberus】
の存在が確認された。
現在、有志プレイヤーによる討伐隊が結成され、
現地へ向かっている。
腕に覚えのあるプレイヤーは、
至急、下記の地点へ集結せよ!
【MAP】
↓
……
【編集部ひとこと】
今回のボスは三つ首との噂!
一人で挑むのはおすすめしません☆
制作:『楽園タイムズ編集部』
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この情報誌はプレイヤー有志によって
制作・配布されています。
情報提供者募集中!
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それは、驚いたことに、試験開始以来初めて発行された情報誌だった。
(なんか、すごいポップだな…)
「凄いな……ついにプレイヤー同士で情報を共有する文化ができ始めたんだ。」
聡が感心したようにつぶやく。
「どうする?俺達もすぐ追いかけるか!?」
「うーん、行ったことない場所だし、まずは様子を見ながら向かおう。
追いつけたら、そのままボス戦に参加すればいい。」
樹の質問に答える。でも正直、昨日の今日で早速バトルする気にはなれない。
「よし!身支度を整えて出発するニャ!!」
ダルタニャーは元気いっぱいに言うが…
(え、NPCもフロアボス攻略に参加できるの…?)
この世界のNPCの役割に疑問を抱きつつ、
装備やアイテムの準備が一通り完了したところで宿を出て、郊外へ向かう。
フロア2に入った時は、街中にゲートが設置されていたため、
街の外に出るのはこれが初めてだ…。
一歩街の外へ出ると、地平線の彼方まで草原が続いていた。
青空の下、風に揺れる草原が波のようにうねる、
天気は良く晴れていて、頬を撫でるそよ風が気持ちいい…。
(こんな日はモンスターと戦うんじゃなくてのんびり日向ぼっこしたいな…なんて)
そんな僕の思いとは裏腹に、皆はさくさくと歩き始める。
足元に広がる草原は、現実と見分けがつかないほど精巧だった。
草を踏みしめる感触も、頬を撫でる風も、本物と何ひとつ変わらない。
(改めて……ここがシステムの中だなんて思えない。)
非現実の中で現実を味わっていると、不意にモンスターのポップアップエフェクトが走る。
―――その瞬間。
条件反射のように、全員が武器を抜き、戦闘態勢へ移行した。
そして、僕達の前に現れたのは――
《Grass-Fed Beef》
(……これって、もしかして。)
「この牛、めちゃくちゃ美味い串肉を落とすやつじゃね?」
「そうにゃ! 確かこんな名前だったニャ!」
このプログラムが始まって以来、初めて食料になりそうなモンスターだ。
樹とダルタニャーの目は、完全にハンターのそれになっていた。
ー戦闘開始ーー!
牛型モンスターは雄叫びを上げると、一直線に僕達へ突進してきた。
素早さはないが、身体が大きいため当たったら吹き飛ばされそうだ…
全員、突進をさらりとかわし、横っ腹目掛けて剣をふるう。
<モォ!!>
モンスターは短く鳴き声を上げ、再び突進のポーズをとる。
しかし、今度も同じ攻撃…正直言って
「……弱い。」
食料用モンスターだからだろうか、
攻撃は単調で、動きも鈍い。
正直、フロア1の猫モンスターの方がよほど厄介だった。
ポップアップした牛モンスターを難なく倒す。
すると、もはやお馴染みとなったリワード画面が開いた。
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Reward
・牧草牛の生肉 ×4
・牧草牛の乳 ×2
・牧草牛の革 ×3
・コイン ×300
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(いや、生肉渡されても困るんですけど……。)
樹とダルタニャーは恨めしそうにリワード画面を見ている。
さすがの食いしん坊達も、生肉をそのままかじる勇気はなかったらしい。
リワード画面を閉じようとした時、ふと思い出した。
(そういえば…)
「ねぇ、昨日レッグストロング達と闘った後の報酬で、経験値の他にスキルポイントっていうのが入ってなかった?」
隣を歩いていた優が反応する。
「あった!あった!あのポイントってなんなんだろ?
説明には、スキル用の経験値って書いてあったけど…」
「昨日寝る前にチェックしたんだけど、どうやら
アタックスキルに経験値を振れて、攻撃力アップとかスキル硬直を短くできるらしいね。」
(おぉ、さすが聡。昨日のうちにもう検証してたのか。)
「この先、実力が拮抗する相手と戦うとなった時、スキルポイントの振り方が勝敗を左右しそうだね。」
ダルタニャー以外の3人が僕の言葉に頷く。
しばらく道なりに歩いていると、周りの風景は草原から舗装された道へと変化していき、
ちらほらとプレイヤーの姿を見かける。
やがて、小さな村へと到着した。
すると…
「うおおおおおお!いけええええええ!」
「一斉攻撃をしかけろ!!!」
どこからともなく叫び声が聞こえる。
どうやらすでにボス攻略は始まっているようだ…。
5人で目くばせをし、声のする方向へ向かう。
小さい村のため、目的の場所へはマップを観ずともすぐに辿り着いた。
目の前には鉄格子に囲まれた広い土地が見える。
そして、鉄格子の外では数百人ものプレイヤーが身を乗り出すように観戦していた。
「いけ!そこだ!!」
「なにやってんだよ~~今チャンスだっただろ!!」
「がんばれ~~あと少しだよ~!!」
そして鉄格子の中では――。
ケルベロス型ボスモンスター《Cardinal Cerberus》と、
1000人ほどのプレイヤーが激戦を繰り広げていた。
体高はおよそ三メートル。
漆黒の毛並みに覆われた三つの頭は、それぞれが獰猛な牙をむき出しにし、獲物を探すように周囲を睨みつけている。
その場に立っているだけで、まるで空気そのものが重くなったような圧迫感を覚えた。
――まさに、地獄の番犬。
(これが、フロア2のボス……。)
どうやら、外にいるプレイヤーは中のプレイヤーを応援しているようだ。
その光景には、強い違和感を覚えた。
(2日前に、あれだけのことがあったというのに……。
どうして誰も怯えていないんだ?負けるのが怖くないのか…?)
異様な光景だった。
命懸けのはずのボス戦は、まるでイベント会場のような熱気に包まれていた。
「とりあえず、中に入ってみるか…」
そう言った樹が、鉄格子の入り口の門に手をかけようとする。
すると、横から男子プレイヤーがその手を制止した。
「おい、チョト待てよ!」
(なんか、昔のドラマで聞いたようなセリフだな…)
「なんだよ…」
「今俺たちは順番待ちしてるんだよ!」
「は?どういうことだよ?」
「だ~か~ら~!!このボスの敷地には一度に入れる人数が決まってるの!
戦闘に参加できるのかは早いもの順なんだよ!!」
「ああ、そうだったのか、ごめんな。」
「分かればいいんだよ、最後列はあっちな」
男子生徒が指をさした方向には、長い行列ができていた。
(順番待ち?まるで遊園地のアトラクション気分だな…)
「樹!とりあえず鉄格子の外からボスの様子を見てみよう。」
僕の声に反応した樹は、男子生徒との会話を切り上げてこちらを向く。
「いったいどうなってんだ…」
樹のつぶやきももっともだ、この状況は不可解すぎる…
鉄格子沿いに歩き、人だかりの少ない場所まで来る。そこは屋敷の裏手にあたるようだった。
格子越しに屋敷の敷地内を見る。中ではプレイヤーが一心不乱にボスと戦っている。
(こうして外側から見ると、なんだか他人ごとに見えるな…)
「なんで皆、こんなに楽しそうなんだ……。
負けたら、自分を失うんだよ?」
優が僕が考えていることと同じ感想を漏らす。
「確かに気になるね、ボス戦を最初から見ていた人がいないか、ちょっと聞いてみよう…」
聡の提案に皆賛成して、
手分けして、近くにいたプレイヤーに話を聞いて回る。
集めた情報を整理すると、どうやらこういうことらしい。
情報誌を見たプレイヤー達は、ボスの居場所にはすぐ辿り着けたらしい。
でも、誰も最初の一歩を踏み出せなかった。
まあ、それも当然だ。
今のEDENで負けるということは、自分自身を失うということなんだから。
ところが、その重苦しい空気をぶち壊したプレイヤーが一人だけいた。
その人物は群衆の前に立つと、怖気づくプレイヤー達へ向けて演説を始めたらしい。
詳しい内容までは分からなかったけど、その言葉は見事に皆の心を動かした。
恐怖は闘志へ変わり、気がつけば誰もがボス討伐へ向かっていた。
そして今では、この命懸けのボス戦は、まるでスポーツの試合を観戦しているかのような熱気に包まれている――。
「一人でこの熱気を作ったのか!そいつ本当に高2か!?」
「素晴らしい騎士道にゃ!仲間にスカウトするニャ!」
樹とダルタニャーはリーダーシップを取った謎の人物を素直に称賛している。
一方、聡は少し難しい顔をしている。
「正義感で動いているなら、味方として心強いプレイヤーだ、
本当に正義感だけで動いているならね……。」
「は?どういう意味だよ?」
純粋に褒めていたところに水を差された樹は、少し不機嫌に聡に尋ねる。
「一人で大勢のプレイヤーを動かしたってことは、
良くも悪くも人を先導できる人間ってことでしょ。」
(確かに……。人を導く力は、使い方一つで英雄にも独裁者にもなる。
それに、言葉だけで数百人を動かすなんて、普通の高校生にできる芸当じゃない。)
その謎の人物のことは気になったが、僕は再び鉄格子の向こうで繰り広げられるボス戦へ視線を戻した。
最初は、プレイヤー側が押しているように見えた。
しかし、徐々に何人かのプレイヤーがボスの攻撃を受け、床にたたきつけられる。
「あと少しだ!」
「いけぇぇぇ!!」
ボスに負けじと、周りの歓声も大きくなる。しかし、
――その歓声は、一人の悲鳴によってかき消された。
「う、うあああああああああああああああ!!」
その瞬間、一つの頭がプレイヤーの身体を丸ごと咥えた。
鋭い牙がプレイヤーに追撃を加える。
(あ、あの人死にそう)
「あの人やばい!!死んじゃうよ!!」
周りのプレイヤー達は、加えられた人物を助けようと奮闘するが、
その攻撃を受け流しながら、ボスはさらに噛む力を強める…
「う、うあああああああああああああああ、
た、助けてくれ!!!!!!!」
この世界では痛みこそ感じない。
その分、HPゲージが削られていく恐怖だけが、容赦なく心を締めつける。
次の瞬間――
プレイヤー達の奮闘も、叫びも届かず、
そのプレイヤーはまばゆい光となって弾け…その光もやがて風の中に消え去った。
(死んだ。)
拍手や歓声が響いていたはずの場所に、今は静寂だけが残っている。
数字でしか見ていなかったはずの「不適合者」が、今、目の前で現実になった。
「見ているだけしか、できなかった…」
プレイヤーの死を目の当たりにした優が隣で呆然としている。
(別に優が気に病むことじゃないと思うけど…)
一人のプレイヤーの凄惨な死を受けて、プレイヤーの全体に動揺が走る。
先ほどまでの勢いや歓声は息をひそめ、ボス攻略にも陰りが見えてきた…
ーーーその時、
「全員、顔を上げろ!!犠牲は覚悟の上だったはずだ!
倒れた仲間の分まで私たちが前へ出る!
我々に続け!!」
その瞬間、人混みが左右へ割れた。そして、真ん中から一人の青年が現れる。
(あの時の……。)
それは、銃士入団試験を受ける際、城ですれ違った白髪の男子生徒だった。
彼は、自分のパーティーメンバーであろう数人の男子生徒を引き連れ、
ボスの前に立つ。
ボスの鋭い眼光が、白髪の男子生徒を睨みつける。
――――瞬間、三つの首が一斉に牙を剥き、白髪の少年へ襲い掛かった。
それに合わせて、取り巻きのプレイヤー二人が、盾を持ちつつ前に出て、二頭の牙から彼を守る。
そして残りの一頭の攻撃にあわせて、白髪の男子生徒が両手剣をふるう。
ズシャ!!
タイミングよく振り下ろされた、剣がボスの右目を斬り裂いた。。
<ガアアアアアアアアア!>
ダメージを受けたボスは怯み、うめき声を出す。
「今!総員突撃!!」
彼のパーティーメンバーだけでなく、
その声に鼓舞された周囲のプレイヤーも再び熱気を取り戻し、
ボスを包囲して攻撃をし始めた。
連携を取り戻した攻略組は、一気に攻勢へ転じた。
少しずつ、だが確実にボスのHPを減らしていき、
<ウォオオオオオオオオン!>
負けた悔しさか、それとも
主を守れなかった悔しさか――。
どちらともとれる断末魔をあげ、
フロア2のボス《Cardinal Cerberus》は爆散した…。
「うをおおおおおおおおお!!」
「やったーーーーーーー!」
「勝った、勝ったぞ!!」
ボスと戦っていたプレイヤーも、外から応援していたプレイヤーも、一丸となって勝利を喜んでいた。
優、樹、ダルタニャーも応援していたメンバーとハイタッチしたり拍手をしたりしている。
(ボス戦を途中で立て直したのは凄かった…)
(ボス戦の前に全員を鼓舞した人ってもしかして…)
隣で騒いでいたプレイヤーが優に何かを説明している。
「そうだそうだ!あいつだよ、あの白髪の!
演説の内容が良すぎで見た目を忘れてたよ(笑)
あんな派手な見た目してるのにな!」
(やっぱり…)
どうやら彼がこの勝利の立役者のようだ…
少なくとも、この場にいた誰もが彼を楽園の救世主だと思っただろう。
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ボス攻略の興奮が冷めやらぬまま、
ボスが陣取っていた屋敷跡に次のフロアへのゲートが開かれる。
そのゲートの出現もさらにプレイヤーを熱狂させた。
我先にとゲートへ駆け出すプレイヤーたち。
その姿を横目に見ながらこれからのことを皆と話す。
「今回は乗り遅れちまったな~~」
「まあ今回は銃士入団試験クエストに時間を使い過ぎたね。」
樹の言葉に返答して、ある一つの疑問が生まれた。
(あれ……。あの白髪の男子生徒も銃士入団試験を受けていたはずだ。
僕たちと同じ条件だったのなら、ボス戦に間に合うはずがない。)
(なのに、なんで……?)
「~い…」
「お~~~い、玲?」
会話を途中で切り、考え込んでしまっていたため
樹の声に気が付かなかった。
「あ、ごめんごめん、ちょっとぼーっとしてた(笑)」
「おいおい、しっかりしてくれよ…
で、これからどうするよ?」
「もうこのフロアでやることもないし、フロア3に行こう!」
「賛成。」
僕の意見に短く聡が賛同してくれる。
優はどう?と聞こうとすると、彼の顔は暗い。
「?、どうした?」
「ああ、えっと、フロア3に行くってことはさ、
ダルタニャーともお別れってことでしょ、ちょっと寂しくてさ…」
(なるほど、そういうことか…)
確かに、賑やかし要員が一人減ると思うと少しさびしいな…
意外と5人パーティーのほうがしっくりくるのか?
当人はどう考えているのか、ダルタニャーの方を見る。
「おみゃ~たち、何してるニャ、さっさと行くニャ!」
ダルタニャー、僕達が悲しまないように
わざとあっさりした態度をとっているのか…
僕は、ダルタニャーというNPCへの評価を改める必要があったようだ…
そんなことを思っていると、眼鏡をかけたドジな少年と自分が重なり思わず声が出る。
「ダ、ダルえもん…(泣)」
「ほらほら、ゲートにいくにゃ」
ダルタニャーは優と樹の手を引き、ゲートへと向かう…
彼はゲートの前まで来ても、その足を止めない。
そして、そのまま…
「ちょ、ちょっとダルタニャー?
もうすぐゲート通っちゃうけど!?」
僕の声など聞こえていないかのように、ダルタニャーはそのまま歩き続ける。
そして…
「通った!!」
びっくりした僕は、同じくびっくりしている聡と目を合わせる。
あわてて3人の後を追って、ゲートを潜る。
ゲートを潜った先には、フロア2と同様の中世ヨーロッパ風の街並み…。
しかしフロア2と比べ物にならないほど、煌びやかで活気のある街だった。
先にゲートを通っていた、ダルタニャーがこちらを向き、声を上げる。
「ここが女王のいる『王都』、フォルクシュタインにゃ!!」
(君、ゲート通れるんかい…)
賑やかでおしゃべりな猫型NPCとの冒険は、もう少し続く…
次回 第三章!!