優達との待ち合わせ場所に向かうため、とりあえず渋谷駅まで歩いてきた。
渋谷駅の改札を抜け、ホームで待っていると、意外にも電車がやってきた。
(このプログラム、データ容量どうなってるんだ……)
運転席には誰もいない、どうやら自動操縦らしい。
窓の外には見慣れたビル群、その先には高い壁が見える。
おそらく、あの壁の向こうには何もない。
自分でもわからなかったが、なぜだかそう思った。
そんなことを考えつつ、ぼーっと外を眺めていると、
同じ車両に乗った女性プレイヤー集団の話が聞こえてきたため、思わず聞き耳を立てる。
「さっきのネズミ、本当にキモかったよね(笑)」
「ね、モンスターって全部あんな感じなのかな?」
「え~、もっとかわいいやつがいい!」
「あ、そういえば私猫のモンスター見たよ!」
「え、かわいかった?」
「それがさ、その猫急に消えたんだよ」
「は?」
(消えた……?)
「角曲がったと思ったらいなくなってて」
「なにそれかわいい!不思議の国のアリスみたいな感じかな?」
「(笑)次に猫見つけたら私たちも付いていこうか。」
話は尽きることなく、女子プレイヤーはキャッキャと騒いでいる。
(ふーん、道案内する猫か、ねずみのいる場所でも教えてくれるのかな…。)
((新宿です))
新宿駅についたので、ホームから改札口に向かう。現実の新宿駅とは違い、だいぶ規模は小さいらしい。
そのおかげか、いつもは改札口を探すのに手間取るのだが、今回は迷わずに東口までたどり着いた。
あとは西武新宿駅前まで道を直進するだけ…
「てめーふざけんじゃねーぞ!」
突然、男性プレイヤーの怒鳴り声が聞こえてきた。
その声の聞こえる方向を見ると、何やら駅前の広場で、大柄な男子が小柄な男子を怒鳴りつけている。
そして周りには少しだが、人だかりが出来ていた。
(なんか揉めごとかなぁ?)
少し考える…
(まあ、僕には関係ないか…)
無視して西武新宿駅に歩き出そうとする。
「なんか揉めているみたいだね。」
聞き覚えのある声に後ろから話しかけられた。
(この声は!!)
振り向くと、美男子という言葉がぴったりのイケメンがそこに立っていた。
「優!」
「久しぶりだね、玲!」
久々の再開に両手でハイタッチをする。
彼の名前は日向 優(ひなた ゆう)。
幼稚園からの付き合いになる幼馴染だ。
優は祖母譲りなのか、日本人離れした整った顔立ちをしている。
爽やかで、背も高くて、性格もいい。
神様はこいつに何物与える気なんだろうか、
せめて僕にも身長5センチくらい分けてほしい。
……いや、3センチでもいい。
そんなことを神様にお願いしていると、後ろから軽くチョークスリーパーをされた。
「俺らもいるぞ!」
腕から脱出しつつ、後ろを振り向く。
そこには、背が高く日に焼けたスポーツマン然とした青年と、色白でどこか眠たげな雰囲気の少年が立っていた。
「樹、聡!」
立花 樹(たちばな いつき)、佐々木 聡(ささき そう)がそれぞれ僕に話しかける。
優、樹、聡、それに僕は中学時代バスケットボール部に所属していた、いわゆる、いつめんってやつなのだ。
「ていうか玲、そこで揉めてるの見て見ぬふりしようとしたでしょ?」
冷ややかな目で僕を見つめてくる優。
「だって僕に関係なさそうだし…」
「相変わらず人に興味ないよね、おまえ(笑)」
樹が茶化すように言う。
優が人だかりを指差しながら口を開く。
「とりあえず何があったのか聞いてみようよ」
「え~~~~~~、ほっとこうよ~~~!」
僕は声と表情で全力の反対の意思表示をしたが、優は構うことなく人だかりに向かった。
(やれやれ)
聡と目配せをし、仕方なく僕達もそれに続く。
「なにかあったんですか?」
優が尋ねると、大柄な男子が怒りを吐き出すように答えた。
「なにかあったじゃねぇ!こいつが俺の邪魔してきたんだよ!」
その言葉に、小柄な男子が青ざめた顔で反論する。
「違う、邪魔をしたんじゃない!罠に嵌らないように止めたんだよ!」
一触即発の空気に、優が仲裁に入る。
「ちょっと待って、二人とも興奮しすぎだ。一旦離れて、それぞれの話を聞かせてくれないかな。」
樹が僕に耳打ちする。
「玲、あっちの大男は俺と玲で聞こう。優と聡はもう一人の方な。」
そうして二手に分かれ、それぞれの言い分を聞いた。
合田 猛というらしい大柄な男子は、
「猫を追うといい狩場に行けると聞いて追っていたら、家が近所の細川に邪魔された」と苛立ちを語った。
なるほど、そういう理由で揉めてたわけか。
となると向こうの言い分も聞かないわけにはいかないか…。
ベンチに座り、樹を二人で話の整理をしていると、聡が向こうから歩いてくる。
どうやらあっちの聞き取りも終わったようだ。
「合田君、細川君のところに一緒に行こう。」
「悪い、俺はちょっとここで頭冷やすわ。細川に強く当たっちまったし……」
合田君は、決まりが悪そうにそう言った。
「分かった、じゃあここでしばらく待っててくれないかな?」
僕のその言葉に、合田君はYESともNOとも言わなかったが、理解はしただろう。
一方の細川 守君は、蒼白な顔でこう続けた。
「その通りの意味です、このフロアにいる猫はネズミと協力してプレイヤー狩りをしているんです!」
(そんなまさか…)
あまりの急展開に僕たちは顔を見合わせた…。
どうやら細川君が言うには、猫のモンスターを追っていった高校のクラスメイトが戻って来ず、メールの返信も無いらしい。
「でもさ、それだけじゃ罠って分からなくね?」
樹がもっともな疑問を投げかける。
「確かにそれだけでは信憑性が薄いです。でも僕はその他に、老人NPCから話を聞いたんです!」
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老人NPCは、いつもと同じように笑っていた。
だがその口調は、以前とは微妙に違っていた。
まるで――
こちらの“行動を知っている”みたいに。
「お前さん、まだ気づいとらんのか」
「この街ではな、猫もネズミも……“役割”なんじゃよ」
「ましてや、猫はうさぎではない…」
細川君が、そこで一瞬言葉を詰まらせた。
「猫が導く狩場ではな」
「狩る側と狩られる側が入れ替わる」
「だから皆、笑いながらついていく」
老人NPCは怪しく笑いながら答えた。
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しばらく、誰も口を開かなかった。
先に沈黙を破ったのは、樹だった。
「……それでなんで、猫を追うことが罠になるんだ?」
努めて軽い調子で、僕に話を振ってくる。
助け船だ、と分かった。
「地図に載ってるんだけど、このフロアの名前、Alice inなんだよ。
不思議の国のアリスは、うさぎを追いかけて迷い込む。
だったら――うさぎを、いや猫を追っても、行き着く先は同じってわけさ。」
「はえー、なるほど」
樹がわざとらしいほど大きな声で頷く。
ふっと、場の空気が緩んだ。
しかし今の話、なんともホラーテイストの話だが、細川君が嘘をついているとも思えない。
「うーん、そのNPCに直接話を聞かないかぎりはなんとも言えないなぁ~」
僕のつぶやきに優がにやりと笑い答える。
「玲ならそう言うと思ったよ!」
細川君の案内で、高架下へ向かう。
都会のビル群を抜けると、急に日差しが遮られた。
コンクリートの柱が等間隔に並び、その隙間から漏れる光だけが足元を照らしている。
上を電車が走るはずもないのに、どこかで金属の軋む音が響いた気がした。
湿った空気と、人の気配のなさ。
賑やかだった新宿駅前とは、まるで別の世界だった。
しかし…
「あれ、どこにもいないね…」
優がきょろきょろ見渡しながら言う。
「そんな、さっきまでここにいたのに…」
細川君がショックを受けた様子で呟いた。
「うーん、徘徊型のNPCなのかな?」
僕の予想を聞いた聡がおもむろに口を開く。
「仮に徘徊型だとすると、探すのは結構大変かも」
「参ったな、これだと合田君を納得させられないよ…」
優が困ったようにつぶやく。その声を聞き、細川君はうなだれているみたいだ。
「あんなに責められていたのに、合田君を助けたいんだ?」
「うん、向こうの世界ではいつも助けてもらってたから、こっちの世界では何か役に立ちたいって思ってるんだ。」
細川君が照れくさそうに答える。
「ふーん、まあなんにせよ合田君と合流して説明しないとね。」
老人NPC探しを断念した僕たちと細川君は、
合田君が待っているはずのベンチに向かった。
しかし、その場所に合田君の姿はなかった。
「あいつ、待っててくれって言ったのに。」樹が怒りながら言う。
「まあ、待つとも待たないとも答えなかったし、そもそも僕達の指示を聞く必要はないもんね。
合田君は居なくなっちゃったし、今回は一件落着ということでよろしいですか?」
(居なくなった人間を捜すのは手間だし、僕達がこれ以上かまう必要もない…)
「「だめにきまってるだろ!」」
優と樹のダブルツッコミが入る。
聡は、どちらでもよさそうに、自分のメニュー画面で何かを調べている。
「すみません、僕1人では難しいので、合田君を探すのを手伝ってもらえませんか?」
細川君は懇願するような目で僕を見つめてくる。
そのやりとりを見て、僕がどのように答えるのか様子を見ている3人…。
(………)
「…わかった…」
困った人を見捨てる事ができない、情に厚く、優しい自分、
くぅ~~~~推せます(笑)
(なんて…本当は、3人の手前断らなかっただけだけどね…)
とはいってもこのフロアも広いし、どうやって探すか…
あ、そうだ!
「細川君は合田君をフレンド登録してる?
してたらお互いの位置情報が分かるんだけど…。」
細川君に期待を込めて尋ねる。
「すみません。していません…。」
「そっか…」
(ていうか、よくその関係性で助けようと思ったな…。)
そう思いながら周りを見渡していると、視界に見覚えのある女性プレイヤーの二人組が目に入る。
(あの人達、確かさっきもここにいたよな…)
聞かぬは一生の恥と自分を鼓舞し、思い切って声をかけてみる。
「すみません!さっきそこのベンチに座ってませんでした?」
「え?あ、はい…」二人組のうち一人の女子が答える。
(なんかめっちゃ警戒されてるし…)
「ちょっと聞きたいんだけど、そこのベンチに座ってた大柄な男子生徒、どこに行ったか知らない?」
「…」
(なんで無言なんだよ!)
僕が女子生徒から情報を聞き出すのに苦戦しているのを見かねて、優が会話に入ってきてくれた。
「ごめんね、急に…僕らさっきそこにいた男子とは友達でさ、ちょっとはぐれちゃったんだよね?
どこに行ったか見ていたら教えてくれないかな?」
優が爽やかな笑顔でそう尋ねる。そして、女子生徒が優の顔を見た瞬間に表情が変わったのが分かった。
「あ、はい!」
(あれ?さっきまでと反応違くない?)
「さっきそこにいた男子ですよね?」
「なんか、顔は良く見えなかったんですけど、爽やかな男子に話しかけられているのを私たち見ました!」
「その人に連れられてビルの外に出ていったよね?」
「うん、そうだった!仲良さそうに出ていったよね…。私たちが知っているのはそれくらいです。」
話を聞き終わり優が笑顔で答える。
「そっか、ありがとう!すごく助かった。」
「ぜんぜん、お安い御用ですよ!」
「どこ高校なんですか~」
(なんでや!僕も全く同じ質問したやないか!)
キャッキャうふふと今度は優に対する質問コーナーが始まっていた。
(なるほど。質問内容じゃなくて質問者の問題か。)
と二人組の女子を恨めしく見ていると、会話を切り上げた優が戻ってきた。
「誰かに付いて行っちゃったらしいね、誰だったんだろ?」
「恐らくだけど、猫を追うとうまい狩場があるって最初に合田君に伝えたプレイヤーだろうね。
一人になった瞬間を狙われたか、たまたまか…どちらにしてもあまりいい状態じゃないね。」
僕が考察も交えて優に答える。
これからどうするか、5人で悩んでいるとビルの外からがやがやと声が聞こえてきた。
「なんだ?」
その声の原因をみるためにビルの外を見る。
ビルを出てすぐ道の真ん中には、人だかりができていた。
その真ん中には小型の動物、あれは…猫か?
「こいつが噂の猫か…」樹つぶやくが聞こえる。
どれほどキューティーな顔をしているのかと人混みを避けつつ猫の顔を覗き込んでみる。
薄汚れた白い毛並みに覆われたその姿は、お世辞にもかわいいとは言えなかった。
名称はMocking Cat…あざ笑う猫か…
顔をよく見ると、口角が不自然なほど吊り上がっており、まるでこちらを見て笑っているかのようだった。
いや、笑っているというより――嗤っている。
その視線は、まるで人間を品定めしているようだった。
「確かにこれは怪しいな…」
合田君を追うために、こいつを追うしかないのか…
そう考えていると、猫の周りに突然ポップアップエフェクトが発生し、Condemned Ratが召喚された。
「まじか!」
「こいつが召喚したのか?!」
樹、聡が次々と驚いた声を上げる。
僕達5人と周りで歓声を上げていたオーディエンスも次々と武器を取り、Ratとの戦闘を開始する。
「おっしゃ!一匹撃破!」
「楽勝楽勝」
次々と撃破されるRatとそれに追随して上がる歓声。
「こいつほんと弱いな、3発で倒せるわ(笑)」
(このRatも最初のやつと同じ強さか…)
(あれ?)
(あのRat、逃げようとしてないか?)
ある個体だけ、
戦うより移動を優先している。
(逃げている個体と逃げていない個体がいる。)
(注意深く観察すると、足を失った個体だけ動き方が変わってる…)
(戦闘AIじゃない別の行動パターンに切り替わっている?)
(だとしたら、あれは逃走じゃない、目的地へ移動するんだ。)
(Alice in…)
(猫はうさぎではない…)
(猫は人間を連れてくる)
(だったらそこにボスもいるはず!)
その瞬間、この世界に来てから積み重なった疑問が一気に頭に流れ込んできた…
そして戦場の真ん中で考え込む。
「ちょーーい!お兄ちゃん、何動き止めてるんだよ!!」
僕の突然の奇行に樹が驚く。
「玲、どうした?」
「なんか繋がりそう?」
優、聡が気にかけてくれる。
その言葉に僕は、
「ごめん!もう少しで思いつきそう!
だから、僕のガードよろぴくぅ~~!」
3人に向かってお願いする。
「「「了解!」」」
僕のふざけたお願いに、3人は苦笑いしながらガードを承諾してくれた。
そして顎に左手を当てて、僕は再び思考に入る…
(チュートリアルにしても弱すぎる初期モンスター)
(わざと倒されやすいようにしている?)
(それはなぜか…)
(攻撃を受けたことで発動するAIパターン、発動条件は足と回数?箇所?)
(時間がない)
(一匹ずつ試している暇はない)
(だったら可能性を一気に全部潰す!)
考えがまとまり、3人に声をかける
「優、樹、聡!今から僕が言う指示通りRatを攻撃してほしい!」
僕を中心にガードを固めていた3人が一斉に僕の方向を向く。
「聡はRatの右前足と左後ろ足を攻撃して、樹は左前足と右後ろ足、優は前足両方ともを攻撃!」
僕の声に3人が頷く。
そして僕もratに向き合う。僕が狙う攻撃カ所はratの両後ろ足。
ほかの部位は攻撃せずに、特定のポイントのみを狙って攻撃することは正直言って難しい。
まず最初にRatに剣を振りかぶる、これは空振り、でもそれでいい。
今の空振りで、Ratが僕の敵意に気がついたようだ。
そして、お互いに距離取る。
Ratの動きを注意深く観察する。すると、前足に力が入るのを確認できる。
次の瞬間こちらに向かってジャンプ!
(その動きはチュートリアルで見た!)
ジャンプに合わせて膝を曲げて腰を反らせる、Ratが僕の真上を通過すると同時に、剣を一振り!
そしてRatの後両足にダメージを与えた。
「ギーー!」
Ratはダメージを認識したのか悲鳴を上げ、その場でもがいている。
後ろ足の全てを失ったため、どうやら動くことが出来ないようだ。
(ハズレか…)
戦況を確認するために周りを見渡すと、
他の3人も僕の指示通りに攻撃してくれている。
3人のRatも僕のRatと同様に動けなさそうだ、
そう一匹を除いて…。
(当たり!聡が攻撃した個体。
右前足と左後ろ足の欠損がキーだったか。)
「おい、一匹逃げていくぞ!」
樹が叫ぶ。
「そのまま逃していいよ!」
とまどっている様子の樹に言う。
「玲、これって一体どういうこと?」
優が僕に尋ねる。
「僕の予想だと、猫もネズミもどちらでもボスへ行く。ただし猫は餌ルート、ネズミは攻略ルートになる。
攻略ルートに乗るためにはRatの部位破壊によるアルゴリズムの設定が必要だったってわけ。
ちなみに2カ所破壊した理由は、1カ所破壊だけでは逃げるそぶりを見せず、3回攻撃を当てると倒せちゃうから。
どちらにせよ部位破壊したRatを追えば、先回りしてボスの場所へ行ける。そうすれば合田くんを見つけられるかも…」
「いや待て、そんなこと分かるのかよ!」
「相変わらず変なところで頭が回るね」
樹、聡が関心したような声を漏らす。
「よし、じゃあネズミに案内してもらおうか、不思議の国にさ!」
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