Paradise Sixth ―楽園適性試験―    作:針々

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Stage1-4 アリスは証言台に立つ。

 

(あんなに沢山いた前進隊の数が…)

 

フロアボスの側近の一角を倒し、弛緩していた自分の心が再び緊張していくのが分かる。

その瞬間、プレイヤーの一人がボスの攻撃に吹き飛ばされてこちらへ飛んできた。

 

「大丈夫?」

 

HPは僅かだが残っている、まだゲームオーバーではない

 

「う……い、家に帰りたい…」

プレイヤーが泣きながらつぶやく。

 

完全に心が折られてしまっている。

 

――――この人はもう戦えなさそうだな。――――

 

(このまま押し切れると高を括っていた…

桜木達の戦況はあの美女が入り、安定し始めている。

となると僕達はフロアボスの方にいくべきか?どうする?早く決断しなきゃ…)

 

「玲、どうした?何に迷ってる?」

僕の焦りが顔に出ていたのだろうか、優が心配して話しかけてきてくれた。

 

「今、ボス攻略の戦況はあまり良くない。戦力がばらけすぎていて、ボス側にじりじりと防衛線を押し下げられているんだ。

僕達が前進隊か桜木達のどちらかの加勢に向かえば、戦況を変えられるかもしれない…

でもどちらを先に片づけるべきか迷ってる…。」

 

「そっか、なら2人と3人で別れよう。僕と樹は桜木達を助けに行く、玲と聡と細川君はフロアボスの方に行って。」

 

「(4人の連携が崩れると、ゲームオーバーのリスクが高まる)いや、僕達が分かれるのは…」

優の提案に僕は難色を示す。

 

「前進隊と桜木達どっちが倒れても僕たちは終わりだ。唯一戦況を変えられる可能性がある僕らが

 どちらの戦いにも参加するべきだ。」

 

「わかった、でも絶対に無理はしないで…。」

優の意見を採用し、絶対に死なないようにお願いする。

 

「もちろん!玲も死んじゃだめだよ!」

 

樹、聡、細川君に状況を説明し、二手に分かれる。

 

そして、聡と共に、ボスのもとへ向かう。

 

「これが第一フロアのボス。The Scythe of Proclamationか…」

近くで見るとなんて恐ろしいデザインをしているんだ。

黒く窪んだ二つの目は一切の光も通さない。どこまでも暗くその目の闇に落ちて行ってしまいそうだ…

 

ボスが大鎌を振り上げる。そしてその軌道の先には、完全に戦意を喪失しているのか、頭を抱えてうずくまっている女性プレイヤー。

このまま鎌の攻撃を喰らえば、彼女のHPは跡形もなく消え去るだろう。

 

聡と目を合わせ、二人でボスと女性プレイヤーの間に入る。

振り下ろされる大鎌を二人の剣で受ける。

 

「うぐぐ、、、、」

 

二人がかりだが、ボスのパワーに押され、少しずつ足元が滑る。

 

「「せーのっ!!」」

 

声を合わせ、二人で同時に一気に剣に力を込める。

少しずつ大鎌を押し返していき、そして弾き返した。

 

「フーーーーー」

(なんとか受けきれた…でも次は受けきれるかどうか…)

 

ボスの圧倒的なパワーに自信が喪失していく。

 

そんな僕達をボスは待っていてくれない。

追い打ちをかけるようにボスのドレスの一部が変化し、4匹のMocking Catが召喚された。

 

(こいつはスナッチ能力を持つモンスターか…)

 

召喚されたMocking Catは4手に分かれ、聡・優・樹に向かって走り出した。

そのうち1匹が僕の方向に向かってきている。武器をスナッチされるわけにはいかない…。

飛び込んできたMocking Catに合わせて、右手で持つ剣に左手を添えアタックスキルの発動モーションに入る。

 

(トレース・エッジ)

 

自分に向かって飛び込んできたMocking Catの一匹の腹に命中させる。

すると、当たり所が良かったのか、それとも単にHPが少ないのか分からないが、

一回の斬撃で猫のHPが3割ほど削れる。

返す手でもう一撃同じ軌跡をなぞる、すると残る猫のHPは4割となった。

 

(なるほど、こういう使い方か…)

 

間髪入れずに吹き飛んだ猫に追撃を加える。

通常攻撃5発+スラッシュ、僕の猛攻を受け、反撃することなく猫のモンスターは砕け散った。

聡・優・樹をそれぞれ見ると、彼らも難なく猫を倒せたようだ。

 

ポップアップしていたリザルト画面を確認する。

 

reward

 

・汚らしいの毛皮

・猫の爪 

・ファスト・ハンドアックス

・コイン × 150

 

(!、武器をドロップしてる。これってもしかして…)

 

聡にリワード画面を見せようとしたところ、ボスが急に叫び出した。

 

「さっきの猫のモンスター、完全に僕達を狙ってたね、トランプ騎士を倒したからかな?」

聡に尋ねる。

 

「うん、トランプ騎士の並びを崩したから、女王の怒りを買ったみたいだね…

 

 ん?並び…隊列…乱す、、、まさか…」

 

聡が何かを思いついたようだ。

 

「玲、僕最近身長が2㎝伸びたんだよね」

 

「え?お、おめでとう?」

聡に急なカミングアウトに思わずお祝いの言葉を言ってしまった。

 

「ありがとう、それと、玲はこれから女王に狙われるから気を付けて」

 

そう言うやいなや、ボスが僕に向かって突進してくる。

その形相を見て、僕は思わず走って逃げ回る。

逃げている僕に追いついてきた聡が説明を始めた。

 

「どうやらこの部屋、扉の外に掛けてあった女王の法律によって管理されているらしい。

 トランプ騎士を倒したことによる疑念と、今の確認で確かになった。」

 

(なるほど、なんでもない日には「おめでとう」と言ってはならない…か。

 ん?ちょっと待てよ?)

 

「僕を実験台にしたってこと!?」

 

「そうだよ」

聡があっけからんと言う。

 

「てめーちょっと後で体育館ウラ来いや!」

あまりの理不尽さに、昭和のヤンキーのごとく聡にタイマンを申し込んでしまった。

なんて考えていたが、

なるほど、扉の外の法律はそいういうギミックだったのか、でも…

 

「やばい、法律ぜんぜん覚えてない…」

僕が絶望した声を出す。

 

「それは大丈夫。全部僕が覚えているから。」

 

「さすが聡!俺たちにできないことを平然とやってのける、そこにシビレる!憧れるゥ!」

 

「はいはい、今からボス攻略に役立ちそうな法律を言っていく。よく聞いてて

 盗んだものは返さなければならない、女王が質問した場合三秒以内に答えなければならない、

 誕生日はなんでもわがままを言ってもいい、女王を怒らせた者は首を切られるものとする、

 女王の命令と法律が矛盾する場合法律を優先すること、トランプ兵への命令は女王のみが行える、

 法廷ではアリスの発言を妨げてはならない

 この中で今の戦況をひっくり返せる法律は…」

 

「「誕生日はなんでもわがままを言ってもいい!!」」

 

「今日誕生日の細川君!」

 

(そうか、アリス=プレイヤーではなかった、今日誕生日のプレイヤーがアリスだったのか!)

 

「そうと決まれば、細川君と合流してわがままをいってもらおう!」

僕の提案に聡が頷く。

 

僕らは急いで、優・樹そして桜木チームのもとへ向かった。

 

「優・樹・桜木!」

 

「玲、てうおおおおおい!ボス付いてきてるじゃねーか!」

 

樹のツッコミを受け流し、このフロアと女王の法律について説明する。

 

「なるほど、それがボス戦の攻略プランってことか!」

優が納得する。

 

「で、俺らは何すればええんや?」

 

桜木、意外と話が早いじゃん。

「とりあえず今のまま戦線維持、そして、アリスがチャンスを作ったら一斉にボスに攻撃してほしい」

 

「よし分かった!俺らに任しとき!」

 

「すまないけど、あともう少しだけ粘ってくれ!」

 

優・樹・桜木チームに指示を出した後、細川君のもとへ向かう前にちょっと寄り道。

ボス部屋の端っこでうずくまっているプレイヤー達に声をかける。

 

「ほら、これ君たちのうちの誰かの武器でしょ、ルールに従って返すよ」

先ほどドロップしたファスト・ハンドアックスそしてさっき優達から受け取った猫からのドロップ武器を返した。

 

「まだ勝負は決まってない、立ち上がれる人は僕達に続いて!」

プレイヤーたちの士気が再び上がることを期待し、その言葉を残す。

 

そしてこのボス攻略の主役、細川君のもとへ向かう。

 

「細川君、急で悪いんだけど、君に協力してもらいたい。」

 

「ぼ、僕ですか?僕に出来るかな…」

 

「今この瞬間、君にしかできない。君だけがここにいるプレイヤーたちを救える。」

 

「自信はありません、でも、頼って貰えるを待ってました…」

 

「よし!」

 

僕と聡は細川君に作戦を伝える。

そしてそれとほとんど同時にボスが僕達に追いついた。

 

「僕と聡で出来る限りボスの攻撃を受ける。そのうちにお願い!」

 

ボスが僕に狙いを定め、大鎌を振り回す。

急なランダムな動きに対応できず、ファストソードを弾き飛ばされてしまった。

 

(やべっ!)

 

「玲!」

 

聡が僕のフォローに回ってくれる。

そしてその時、細川君が

 

「全員、僕のいう事を聞いて下さーーーい

 今すぐ、攻撃を中止してくださーーい!」

 

彼の精一杯の大声が、部屋に鳴り響く。

一瞬の静寂…

だが、どのモンスターも攻撃を止めない。

 

「嘘、何でだ!?」

聡が動揺している。

さらに悪いことに、先ほどのボスの攻撃はまだ続いており、その矛先は依然として僕達に向いていた。

 

「聡!ごめん5秒でいい、考えさせて!」

 

「わ、分かった」

僕の声で我に返った聡は、ボスの攻撃を相殺するためパワースラッシュを放つ。

 

(落ち着け、大丈夫、僕なら考え付くはずだ。)

(こんなピンチなんてことない…)

 

自分を鼓舞し心を落ち着かせて集中する。

 

(細川君=アリスこれは間違いない…)

(ということはあと一手何かが足りない、思い出せ…)

 

心の中で聡が読み上げてくれた法律を思い出す。

 

 

(誕生日になんでも通るのは…

 そしてそのために必要なものは…)

(待てよ……確か法律の中に、こんな一文があった。)

 

ー裁判において証人は二名以上必要とするー

 

(ここは罪人を裁く"法廷"……。)

(法廷で何かを証明するには……)

 

(――証人だ!)

 

(そうか、"証人"だ!このギミックには二人の証人が必要なんだ――)

 

「聡!こっち来て!」

 

細川君、僕、聡三人が揃った。

 

そして、全力で大声を上げる。

「聞け、この部屋にいる全モンスター、彼がこの世界のアリスだ!

 彼の誕生日は4月10日つまり今日、この事実を僕、一条 玲と佐々木 聡が証明する!」

 

部屋が静まり返り、プレイヤーはおろか、こころなしかモンスターまで僕の声に耳を傾けているように見えた。

 

「さあ細川君、君の精一杯の{わがまま}を言うんだ。」

 

僕の言葉に聡、続いて細川君が意味を理解する。

 

そして、

「この部屋にいる全モンスター、今すぐ攻撃を中止し、武装を解除しろ!

 僕のわがままを聞けぇぇぇぇぇぇ!」

 

一瞬の静寂その後、ボスを除く全モンスターがフリーズした。

 

(予想通り!!)

 

その瞬間を見極め全員に指示を出す。

「今、ボス以外のモンスターは二人の管理者の命令のうちどちらに従えばいいのか分からなくなり、オーバーフローを起こしてる!

戦える者は武器を取り、女王を倒せ!勝つぞ!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」」」」」」」」」」」

 

これ以上ない程の雄たけびが部屋を埋め尽くす。

プレイヤー達の雄たけびを聞き、女王も少したじろいだように見える。

 

女王が僕から目を話した一瞬、さきほど飛ばされたファストソードを拾い上げ、女王に突っ込む。

 

(スラッシュ)

 

僕に気が付いた女王が鎌を振り上げる前に一撃を喰らわす。

その一撃を皮切りに、部屋に残っているプレイヤーが女王に攻撃をし始めた。

 

「うぉりゃぁ!」

 

「まだまだいくで!!」

 

「さっきはよくもやってくれたな!!」

 

さっきまでの状況が嘘のように、女王のHPが瞬く間に減る。

戦況を見守りながら、ボスのHPのゲージを見ていると、ある特定の部分を攻撃した時だけゲージの減りが早いことに気が付く。

(これって、クリティカル(急所)が発生しているのか?)

 

女王の残りHPが10%を切った瞬間、女王が怒りの咆哮を上げた。

 

「アアアアアアアア!」

 

そして自分を守るように縦横無尽に大鎌を振り回し、プレイヤー達を近づかせない。

 

「な、なんだ急に」

 

「キレちまったかぁ?」

 

「落ち着くまでこのままさせとけばいいんじゃね?}

 

(どうやらそうもいかないようだ…)

 

今の状況はどうやら女王が回復を行うために行っている動作であり、

HPゲージが少しずつ回復していっている。

 

「優、樹、聡!!」

僕が3人に呼び掛ける。

 

「僕が大鎌をはじく、その隙に女王の首を取って!」

 

「「「了解!」」」

 

大鎌を振り回す女王に近づき、スキルの発動モーションに入る。

僕をターゲットにした女王が大鎌を振り回し僕に近づく。

 

(今!)

 

大鎌が僕の頭に突き刺さる瞬間、発動していたスキル「スラッシュ」で攻撃を相殺する。

そして武器の衝突音とともに、3人が女王の懐に入り、パワースラッシュ3連撃をお見舞いする。

その猛攻をうけ、女王のHPは残り4%。

 

(いける!)

 

ハートの女王の胸にターゲットを絞り、スキル「トレース・エッジ」発動。

一度目の攻撃で女王の胸を切る

 

「ウガアアアアアアア!」

 

女王が悲鳴を上げる。狙い通り、急所に当てられたようだ。

 

(トレース・エッジは相手の傷跡をなぞる技、そしてそれは一度目に当てた急所へのクリティカルを再現できるということ!!)

 

「これで終わりだあああ!」

 

二度目の軌跡をなぞり、斬撃を女王の胸に刻み込む。

 

そしてHPゲージが全て消え……

 

 

(切っていない……!?)

 

確かに、当てた。急所を再現できたはずなのに…

残り僅かに、女王のHPゲージが灯っている。

 

他の3人もスキルの再使用時間中で、動けない。

 

誰も、間に合わない…

大鎌が振り上げられる。

 

(終わった――)

 

覚悟した瞬間、女王の残りHPが、音もなく消え去った。

それと同時に女王は爆散、派手な音とともに光とともに風の中に消える…

 

一体、誰が…。

 

「危ないところだったわね。」

 

女性の声が聞こえる。

 

女王が爆散したエフェクトから現れたのは、長く美しい黒髪…

その人は、Ratを僕よりも早く倒し、トランプ騎士の大剣を受け流した少女だった。

 

僕は驚きで声を出せずにいる…

 

「私が間に入ってなかったら、カウンターを受けてゲームオーバーだったよ?何か私に言うことは?」

 

「あ、ありがとう」

 

「ありがとう?」

 

「ありがとう…ございます…」

 

「よろしい、最後のつめが甘かったとはいえ、

 ギミックの攻略、幹部モンスターの撃破、リーダーシップはお見事でした。

 今日のMVPはあなたに譲るわ!」

 

(この女ぁ…)

 

悔しいが、最後のつめの見極めが甘かったのは事実、何も言い返せない…

 

「私は九条 かぐや、あなたお名前は?」

 

「山田… マイケル…」

 

「嘘おっしゃい、あなたさっき一条 玲って名乗ってたじゃない。」

 

「……一条 玲……」

(わかっているうえでの質問、いやな女だ…)

 

「よろしい、また次のフロアで会いましょう。」

 

九条 かぐやはそう言い残し、踵を返して去っていった。

去っていく彼女の背中を見ながら、僕は心の中で盛大に悪態をつく。

とはいえ、視線の先ではボスの巨体が光の粒子となって崩壊を始めていた。

 

「……ま、いっか(鼻ほじ)」

 

僕は頭上に響き渡るクリアのファンファーレを聴いていた。

 

 

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