酒寄彩葉は音楽が好きだ。   作:冴月

10 / 10
Do what you doって感じです。


⑨

 

 ヤチヨから歌う題目を聞いた私は、ちょっとだけ安心していた。

 だって、せっかくのヤチヨとの演奏なのに、

 

「その曲は練習してないから弾けません」

 

 だなんてかっこ悪すぎる。私もよく聞いている、ヤチヨがカバーしてる曲で本当によかった。

 

 

 私はちょっとだけ時間をもらって、スマコンを付けたまま目を開けた。

 暗くなった窓ガラスに、ゴールデンイエローの瞳が妖しく光る。まるで、地球の外から来た宇宙人のようになっている瞳を他所にして、私は気になるところをチェックしていく。

 

 現実(リアル)にあるキーボードを触れる。これから弾く曲と音があっているかを、入念に確信する。

 音量を確認して、音の種類を確認して。出まくっていた手汗を拭いて、冷や汗を拭って。つけてたタオル生地のヘアバンドを、もう1回つけ直した。

 最後にもう一回。音周りを確認してまた目を閉じる。

 

 

 

 再びツクヨミの、楽器広場に降り立った私は、楽器とツクヨミとの感覚を確認する。

 自分の感覚と、ツクヨミでの演奏の感覚に齟齬が無いか確認する。ネット速度のせいで遅延があったりしたら、致命的。音と音を合わせて音楽を作るのに、バラバラだったら一方通行の音になるからだ。

 

 慣らしに、十数秒程のジングルを適当に流す。思いつきで弾いてるからタイトルはない。けど、私の様子をしげしげと見るヤチヨは、何故か嬉しそうに。近くなのに遠くを見ているように、少しだけ微笑んでいる。

 

「よし、大丈夫。いけます」

 

 意を決して、私はヤチヨ伝える。ここまで来たら、もう流れに身を任せるだけ。やれる事を、やり切ろう。

 

「うんうん、良きかな良きかな♪ ……それでは、皆ー!」

 

 ──Let's go on a trip!(素敵な旅に誘っちゃうよ☆)

 

 それは、ヤチヨの定型句のようなものだった。

 遠い星の鼓動を聞くような。ずっと出逢いたかった夢に出会えるような。いつの日か、約束した場所に戻ってくるような。

 そんな世界へと誘ってくれるチケットのようなものだった。それさえあれば、何処にでも行けちゃうような、切符のようなものだった。

 

 そんな世界へと。ヤチヨは私達を導いていく。

 

 

 

 

 最初は私の伴奏から始まった。

 現実と連携しているキーボードで、最大限感情のうねりを出せるよに最高潮に集中していた。

 

 導入で、何個かのコードを繰り返す。ひとつ回る事に、また少し上のスタートラインから、音は始まっていく。

 音が装飾されていく。ひとつ、またひとつと重なっていき、また一つの音となる。

 

 そこに、ヤチヨの歌声が加わった。私の演奏とヤチヨの歌声が合わさり、混ざり合い、音楽となった。音楽はツクヨミの空に響いて、私達の間を通り抜けて、また私達へと帰ってきた。

 ヤチヨはとても楽しそうだった。楽しそうなヤチヨを見ていると、私も嬉しかった。普段きく音楽としてのヤチヨよりも、数段高いところにある気がした。

 

 

 そんなヤチヨの歌声は、とても透き通っていた。透き通っているけど、その意志までは透明じゃなかった。

 高めのトーンの中に、独特の掠れのようなものがあった。聞き取りずらさは全く無く、はっきりとした言葉がそこにはあった。

 それは、艶かしい程の光りだった。光は収縮して、拡散して、伝播して、儚く消失していった。消えてしまう前に、また光が灯っていった。夜を照らす月光のように、暖かな光だった。

 暖かな光は確かに、私達の心に響いていた。頭の先からつま先まで浸透していくようだった。

 

「……胸に秘めた言葉乗せ、空に解き放つの──!」

 

 

 解き放つのは、届けたい言葉。伝えたいこと。伝えたい音、届けたい歌。優しい愛に、夢に満ち溢れていたあの一瞬。無限に続くようで、刹那に終わる愛みたいなもの。

 

 ヤチヨは、一瞬を永遠にしてきたんだろうなと、私は思った。

 

 この歌声みたいに伝えたい事が沢山あって。夢や希望みたいなキラキラしたものが山ほどあって。人々が創る記憶とか、夢みたいなものが好きで。

 だから、この世界(ツクヨミ)作ったのかもしれない。そんな夢の欠片みたいなもので、記憶の欠片みたいなもので廻っていく世界(ツクヨミ)を作ったのかもしれない。何かを生み出したその一瞬を絶対にしていく、この奇跡に近い世界を。

 

 私はピアノを弾きながらも、見惚れていた。高らかに歌い上げる彼女を。ミクロをマクロにしていってしまうこの電子の歌姫を。

 独りよがりかもしれないけど、ヤチヨと繋がっている気がした。運命共同体……とまでは全然言えないけど。その先っぽくらいなら、今、この瞬間だけ繋がれた気がした。

 

「……君に伝えたいこと、君に届けたいことが」

 

 けど、それ以外のなにかがあるような気がした。

 隠された本音みたいな物が、隠れている気がした。

 

 幸せだけど悲しい。ヒリついているけど、ドキドキしている。覚悟しているけど、踏み出せてないような感じ。どうして、こんなことを感じるのかは、分からないけど。

 

「……君に(・)伝えたい言葉、君に(・)届けたい音が」

 

 ヤチヨが私を見る。目と目があっても、言葉が交わされないと、瞳の奥に秘める想いが何なのかは分からなかった。

 今の私には、その欠片も分からなかった。本当に伝えたい事なんて分からなかったし、今後解るかも知らなかった。

 

 だから。

 

「全て、繋げてく。……どこにだって!」

 

 だから、せめて。この一瞬、一秒を大切にしよう。

 流星が燃え尽きる一瞬のように。一番儚くて、一番輝いている、一番私達に近いこの一瞬を。奇跡に近い確率で繋がれたこの時を。今は、今を好きなだけ楽しもう。

 

 流れ落ちる流星に願いをかけるように。祈るような気持ちで、この歌姫と歌おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後のコーラスは、私も歌った。歌ったというか、自然と声が出たような感じだった。

 初めて歌うはずなのに、初めて合わせたはずなのに、不思議と違和感とかはなかった。調和の中に、溶け込んでいるような感覚だった。

 きっとヤチヨが、皆の事を想っているからだろうなと、私は自己完結していた。

 

 それにしても……。最高に楽しかった。たった数分の出来事だけど、あまりにも熱すぎて、あまりにも嬉しくて。驚きに溢れていて、パーティのようだった。

 この余韻は、しばらくの間……。いや、本当にしばらくの間、消えることは無いだろう。進級しても、大学生になっても。大人になっても、おばあちゃんになっても、この夢のような出来事を擦り続けるだろう。糧にできるだろう。"私はヤチヨと一緒に演奏したんだぞ"って、行動する力になるだろう。

 

 興奮で、息が上がっていた。熱を帯びるを冷ますように深呼吸を繰り返していた。

 対するヤチヨも、本当に楽しそうに見えた。歌うのが楽しくてたまらない……と言うよりも、こ(・)の(・)状(・)況(・)だ(・)か(・)ら(・)堪(・)ら(・)な(・)く(・)楽(・)し(・)い(・)というように見えた。

 

 なんだろう、まさか私とできたからじゃないだろうし……。

 

 

 まぁ、ミステリアスなのは今に始まったことじゃない。月見ヤチヨとは、いつも楽しそうにケラケラ笑うけど、ミステリアスな部分も併せ持つ電子の歌姫なのだ。

 

「……聞いてくれて、感謝、感激! 雨アラモード♪」

 

 擬音をつけるなら、"にぱー"という音が似合うだろう。ダブルピースで、エモショーナルな表情を観客たちに向けた。

 

 聴き入る、というのが正しい表現のようだった。声を荒らげず、立てず、静かにヤチヨの歌を聞いていた人々は、その言葉を起点に止まらない拍手が鳴り響いていた。

 

 そのうちに、「良かったぞー!」とか、「ありがとうー!」とか、楽しいヤジが飛んでくる。思わず私も飛ばしたくなるヤジを我慢して、私はファンサービスを続けるヤチヨに声をかける。

 

「ヤチヨ」

 

「ん? なんだいなんだい?」

 

 少し離れてファンサをしていたのに。いえーいとか言って、楽しそうに触れ合っていたのに。声をかけた途端、ずいと私に寄ってきてくれる。

 鳴り止まない拍手と声援の中、私はどうしても言いたいことを口に出した。

 

「あの、本当にありがとうございました! めちゃくちゃ楽しくて、いい思い出になりました!」

 

 1ファンとして、月見ヤチヨを推してる者として。最高のプレゼントをもらっていた。不思議に思う事もあったけど、心の底から楽しい出来事だった。だからこそ、全力で頭を下げた。

 ヤチヨは、少しだけ私の姿をまじまじと見た後。まるで、何かを抱きしめ、噛み締めるような笑顔で言った。

 

「ヤッチョこそ、とーっても楽しかったよ! 」

 

 零れ、漏れ出た言葉は、声援にかき消されて届くことは無かった。

 

 私とヤチヨはお互いに感謝を交換し合って、楽しい瞬間を共有出来た事を祝って。この音楽の締めとして、最後の最後にヤチヨとハイタッチをして。興奮と驚愕と、高揚感でどうにかなりそうになりながら、このミニ演奏会は終わった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

隠れ鬱な彩葉さん?(作者:レントン)(原作:超かぐや姫!)

本編後、隠していた色々が暴露されていく彩葉。その行く末は……?▼かぐいろ、ヤチいろです。他キャラも登場しますがメインは彩葉、かぐや、ヤチヨのお話。最初はややお茶らけ、徐々に暗くなっていきますので苦手な方はご注意を。▼pixivでも投稿していますので、よろしければお願いします。▼https://www.pixiv.net/novel/series/155155…


総合評価:557/評価:8.5/連載:16話/更新日時:2026年10月18日(日) 00:00 小説情報

酒寄彩葉に泣かされる優柔不断で悪いモブの話~逆行編~(作者:ゴリラ皇子)(原作:超かぐや姫!)

今は昔ー仮想空間『ツクヨミ』へ1人の電子生命体が流れ着きました▼その電子生命体はこことは違う世界で、この世界の物語をおとぎ話として楽しんでいた記憶を持っていました▼名前を『モブちゃん』と自称し始めたその者が、好奇心から幼い頃の酒寄彩葉と仲良くなってしまったことから始まる…笑ったり泣いたり爆発したりしながら、少しだけ幸せな未来を目指していくような▼そんな物語……


総合評価:677/評価:9/連載:11話/更新日時:2026年10月22日(木) 18:00 小説情報

余命数年の私の元に現れたかぐや姫(作者:グランドマスター・リア)(原作:超かぐや姫!)

中学二年の夏、余命四年と告げられた▼余命宣告を受けてから、変わりゆく周囲の環境や精神的な苦痛に耐えられず上京を決意▼そこに、とっても可愛いかぐや姫が現れる話▼+++▼ようするに本編の彩葉が『もしも余命数年だったら?』というコンセプトのIFです▼PIXIVの方でも掲載してます▼https://www.pixiv.net/novel/series/1597157…


総合評価:1654/評価:9.04/連載:29話/更新日時:2026年10月17日(土) 07:00 小説情報

最低ですね酒寄所長(作者:tanuki2747)(原作:超かぐや姫!)

※ こちらはPixivに投稿しているシリーズ(https://www.pixiv.net/novel/series/15572243)をハーメルンに移動させたものです、内容は完全に同一になります。▼ 2030年代後半、稀代の大天才酒寄彩葉は世間から期待と疑念を向けられつつも掲げたテーマ、「月見ヤチヨに五感の備わったアバターボディを与える」の達成に向けて邁進し…


総合評価:1550/評価:8.52/連載:21話/更新日時:2026年10月06日(火) 07:00 小説情報

通りすがりの美人に地図を貰った。(作者:通りすがりの匿名さん)(原作:超かぐや姫!)

謎の美人から地図を貰うところから始まる話。▼※某掲示板にて上げていたものを加筆修正したものになります。


総合評価:1093/評価:8.88/完結:5話/更新日時:2026年06月02日(火) 20:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>