多分、超かぐや姫! 本編見てない方で二次創作に手出す方はいないと思いますが、一応ネタバレ注意です。
「全くもう。なーんでこうなっちゃうかなぁ……」
そんな呟きが、空に霧散していく星の夜だった。
仮想世界ツクヨミ。その中でも、一番高い天守閣。通称"ヤチヨ城"の最上階にて。一人の"月見ヤチヨ"が、他の
130cmくらいの分身ヤチヨ3人が、正座をする同じくらいのヤチヨの左右後ろを囲っていて。普通の背丈である私が、正面から1人の分身ヤチヨと向き合っている。
私は、心の底からなんでこんな事をしたのかと問い詰めるべく、
まず私の口からとって出たのは、このヤチヨに対する妬みみたいな感情の塊だった。
「8000年、彩葉と歌ってないのに」
「うっ」
この
グサリと、言葉のトゲが刺さったようだった。正座しているヤチヨは、余計気まずように目を逸らす。そんな様子を、他の
「8000年、彩葉と触れ合えてないのに」
「ううっ……」
この
「……8000年、彩葉と話してないのに」
「は、話はしたじゃん! まだ彩葉がこっちにくるまえに、
こんにゃろ。せめてもの抵抗を試みる気か。
目の前の
「それはテキスト型のコミュニケーションでしょ! 私が言ってるのは、対面でやる対話型とか
というか、チャットサービスで彩葉とチャットを交わした時は、コミュニケーションを取るどころの騒ぎではなかった。
彩葉が産まれてから、
いつの日か、必ず会える日が来るのは分かっていたから、できたことではあっけどね。それが、一瞬の夢のような事だったとしても。
……まぁ、だから。彩葉から現状の悩み相談を受けた時はフリーズしてしまったものだ。既にサービスを開始していたいくつかのシステムとアプリが、固まって強制エラー落ちしてしまうくらいに。
彩葉が倒れた時とか、彩葉と花火大会に行った時に、家庭の事情は垣間見えていた筈だった。酒寄家が変貌してしまう原因を突き止めて、予め対策を練るべきだった。
京都にある酒寄家を監視して、現状維持に務めるべきだった。
そんな後悔を0.5秒程の思考スピードでもって収めつつ、彩葉とのチャット開始したのだ。到底気軽にお話できる訳でもないし、問題解決に向けての資料探しをもと光る竹全投入で行っていたのがその時だった。
非常に自分勝手だが、『致命的なエラーが発見された為、緊急メンテナンスを行います』という表示を盾にして、稼働中のサービスを全て切断。余剰リソースを全て使って、彩葉から向けられた"相談事"への資料集めと対策、回答とその文章作成。彩葉が信じる母性感じる"月見ヤチヨ"として如何に振る舞うことが出来るかを、チャットサービスの短い応答時間でこなした。
数秒という時間の中で、あーでもないこーでもないと思考を回す。こういう方が
「あの時は彩葉が今以上に大変だったし。私もそれどころじゃなかったのは、
「それは……そうだけど……」
余計気まずくなったようだった。
私と
だから、あのチャットを受けた時の私の後悔とか吐き出せない感情とか、彩葉へと想いとか。何かに駆られるように、しなければならない事をしたあの時が鮮明に思い出せる。
しかも電子の身体なのだ。記憶はデータとして、ログとして保管してあるから、破損しない限りは明確にはっきりと再生できる。
つい私も少しだけ
周りにいた3人の
「……ヤチヨ。スリープまで後30分だ。その程度にしたらどうだ?」
肩に乗る相棒、FUSHIが静寂を破ってくれた。
スリープしたら、イヤでも現在の作業は中断してしまう。一旦キリのいい所まで仕上げていないと、再起動後に何が起きるかわかったもんじゃない。
「ありがと、FUSHI。……
そう指示を出す。
正座している
……ねぇ、やっぱり何かに性格とか言動が引っ張られてない? 分身って、同じデータの並列処理なんじゃないの?
目の前には、未だ正座を続ける
「あなたは……。もう作業にならないだろうから、設置した楽器の反響を見て、記録してきて。……時間ないから、もう歌ったりはしないよーに」
「は、はーい……」
どうも、分身達は感情豊かというか、情緒が子供っぽいというか。思考と経験を分けて分身を生み出しているワケだけど、それが全く同じ行動に結びつくことがないというのは、私とFUSHIでもってしてもよく分からないことだった。
FUSHIは、スリープモードに入る為の準備をしてくれている。定位置から降りて、仮装コンソールをカタカタといじりながら、バックアップの準備をしてくれていた。
後、15分もしないうちに、スリープに入る。さっきの
無意識の内に書き起こしていただろうそのログは、大体彩葉のことばかり書いてあった。彩葉と話した時の感情とか、歌った時のこととか。彩葉と触れ合ったとか、ツクヨミアバターでピアノを弾いている、集中してる顔がかっこよかっただとか、そんなことばかり記録してあった。
これ、ただのいろPへの推し活記録みたいになってるじゃん……。
ちょっとだけ頭を悩ませながらログを読み進める。ログにはその時彩葉と交わした会話まで記録してあった。
『……大切なのは。やろうとする意志と、ひとつ踏み出そうとする勇気。それだけあればなんだってできちゃうって、ヤッチョは思うんだ』
「……大切なのは意志と勇気、か」
──1番踏み出せないのは、私なのにね。
どの口が言えたことかと、私は思わず自虐してしまった。
ウミウシの体だけの頃はどうにもできないことが多かった。
けど、手が伸ばせる範囲が短くて、少し先にいる愛してしまった人々に届かない事もあった。掴めるものはとても小さくて、行けるところはとても遠かった。
私は、そんなに宇宙のチリみたいな。眇みたいな存在だと自覚してしまった。
それなのに、肝心なところでは踏み出せずにいた。
もっと色々できただろう。最初に会ったあの男の子も、歌人も、花売りの女の子も、花魁も、官僚も。
そして、彩葉も。彼女が産まれてからもう少しそちらに目を向けていれば。彩葉を、愛した人を絶対に護るという確固たる勇気と意志があれば、何か変わったのかもしれない。
私にもう少し踏み出す勇気があれば。もっと上手くやれていたら。自分の意志を強く持つことができたら。そんな後悔ばかりが募ってく。
だから……。そんな言葉を吐ける
「……ヤチヨ、そろそろ」
作業が完了したらしいFUSHIから声が掛かる。
私はログを読む手を止め、記憶領域の奥の方へと保存し直した。。昔を思い出すかのように、私は黒いオーバーサイズのTシャツと、ピンクのショートパンツにアバターを変更した。髪も、和風ツインではなくて、解いたようにストレートに流してある。
いつの日か、電子の海に身体を得た時に行うようになった、スリープ前ルーティンみたいなものだった。
──あーあ。せっかく彩葉と歌えたのに、なんだか憂鬱。
月見ヤチヨの憂鬱ってかんじ。
そんな呟きと共に、私は意識を深層へと落としていった。