酒寄彩葉は音楽が好きだ。   作:冴月

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了解道中膝栗毛。


多分、超かぐや姫! 本編見てない方で二次創作に手出す方はいないと思いますが、一応ネタバレ注意です。


幕間:月見ヤチヨは羨ましい。

「全くもう。なーんでこうなっちゃうかなぁ……」

 

 そんな呟きが、空に霧散していく星の夜だった。

 

 

 

 

 仮想世界ツクヨミ。その中でも、一番高い天守閣。通称"ヤチヨ城"の最上階にて。一人の"月見ヤチヨ"が、他の月見ヤチヨ達(私達)4人に囲まれ、硬い木目の床に直接正座させられていた。

 

 130cmくらいの分身ヤチヨ3人が、正座をする同じくらいのヤチヨの左右後ろを囲っていて。普通の背丈である私が、正面から1人の分身ヤチヨと向き合っている。

 

 私は、心の底からなんでこんな事をしたのかと問い詰めるべく、犯人(彩葉と歌ったヤツ)に冷ややかな視線を送っている。

 まず私の口からとって出たのは、このヤチヨに対する妬みみたいな感情の塊だった。

 

「8000年、彩葉と歌ってないのに」

 

「うっ」

 

 このヤチヨ(犯人)は、他のヤチヨ達を差し置いて彩葉と歌っていた。あの頃(生まれてすぐ)のように彩葉の伴奏で、歌を歌っていた。正直羨ましい。

 グサリと、言葉のトゲが刺さったようだった。正座しているヤチヨは、余計気まずように目を逸らす。そんな様子を、他のヤチヨ(分身)達は不思議そうに見つめていた。

 

 

「8000年、彩葉と触れ合えてないのに」

 

「ううっ……」

 

 

 このヤチヨ(犯人)は、他のヤチヨ達を差し置いて彩葉とハイタッチしていた。ツクヨミとはいえ、 触覚が無いとはいえ。彩(・)葉(・)と(・)触(・)れ(・)合(・)っ(・)た(・)という事実が非常に問題である。ヤッチョも彩葉と触れ合いたい。

 自らの罪(彩葉と過度に接触罪)から目を逸らしきれなくなったヤチヨ(犯人)は、眉間に皺を寄せながらキュッと目を瞑った。他のヤチヨ(分身)たちは擁護をする気もないようで、暇そうに辺りをふよふよ漂い始めている。

 

 

「……8000年、彩葉と話してないのに」

 

「は、話はしたじゃん! まだ彩葉がこっちにくるまえに、ヤチヨ(本体)だって、チャットサービスでお悩み相談とかしてたじゃん!」

 

 こんにゃろ。せめてもの抵抗を試みる気か。

 目の前のヤチヨ(犯人)は、少し隙を見せたら、身を乗り出して食ってかかってきた。これ、同じ私(ヤチヨ)だよね? なんか体型に思考が引っ張られてない?

 

「それはテキスト型のコミュニケーションでしょ! 私が言ってるのは、対面でやる対話型とかノンバーバル(非言語型)でするコミュニケーションの話!」

 

 

 というか、チャットサービスで彩葉とチャットを交わした時は、コミュニケーションを取るどころの騒ぎではなかった。

 彩葉が産まれてから、意図的に触れ合わないよう(我慢できなくなるから)情報はシャットダウンしていた。音楽を一から作る(慣れないこと)をして歌を届けたり、経験してきた過去を総動員して演出を考えたり。ツクヨミの開発で、バグまみれの地獄盆踊りをしていてリソースを回せなかったというのもある。

 いつの日か、必ず会える日が来るのは分かっていたから、できたことではあっけどね。それが、一瞬の夢のような事だったとしても。

 

 

 

 ……まぁ、だから。彩葉から現状の悩み相談を受けた時はフリーズしてしまったものだ。既にサービスを開始していたいくつかのシステムとアプリが、固まって強制エラー落ちしてしまうくらいに。

 

 彩葉が倒れた時とか、彩葉と花火大会に行った時に、家庭の事情は垣間見えていた筈だった。酒寄家が変貌してしまう原因を突き止めて、予め対策を練るべきだった。

 京都にある酒寄家を監視して、現状維持に務めるべきだった。友達(CIAのあの人)に協力を要請して、現実とネット双方からの監視と保護を行うべきだった。たとえ、輪廻の輪を外れられないとしても。私の魂に、痛みが走ったとしても。

 

 そんな後悔を0.5秒程の思考スピードでもって収めつつ、彩葉とのチャット開始したのだ。到底気軽にお話できる訳でもないし、問題解決に向けての資料探しをもと光る竹全投入で行っていたのがその時だった。

 

 非常に自分勝手だが、『致命的なエラーが発見された為、緊急メンテナンスを行います』という表示を盾にして、稼働中のサービスを全て切断。余剰リソースを全て使って、彩葉から向けられた"相談事"への資料集めと対策、回答とその文章作成。彩葉が信じる母性感じる"月見ヤチヨ"として如何に振る舞うことが出来るかを、チャットサービスの短い応答時間でこなした。

 

 数秒という時間の中で、あーでもないこーでもないと思考を回す。こういう方がヤ(・)チ(・)ヨ(・)ら(・)し(・)い(・)、これは回答としてはいかなものか。機械的な回答になっていないかの校正などを済ませ、出力する作業。少しでも、その時の彩葉を救える言葉をかけることができるという、一つの作戦のようなものだった。

 

「あの時は彩葉が今以上に大変だったし。私もそれどころじゃなかったのは、あなた(ヤチヨ)も知ってるでしょ」

 

「それは……そうだけど……」

 

 

 余計気まずくなったようだった。

 ヤチヨ(犯人)のさっきの勢いはどこへやら。俯いて、あの時の事を思い出して、目を伏せている。

 

 私と私達(分身)たちの記憶とか、経験とかは共有だ。分身しても、分身から戻ってもそれは変わらず、52時間の活動限界……。記憶整理と充電作業、アップデートをする度に私達となっていく。

 だから、あのチャットを受けた時の私の後悔とか吐き出せない感情とか、彩葉へと想いとか。何かに駆られるように、しなければならない事をしたあの時が鮮明に思い出せる。

 しかも電子の身体なのだ。記憶はデータとして、ログとして保管してあるから、破損しない限りは明確にはっきりと再生できる。

 つい私も少しだけ思い出して(ログを再生)してしまって、ちょっとナーバスになる。この後、この子(彩葉と歌ったヤチヨ)との経験を共有できるとはいえ、それでプラマイゼロくらいの過酷さだったように記録していた。

 

 周りにいた3人のヤチヨ(分身)含めた、静寂が降りてくる。気まずさと、呆れと、羨望。負い目を感じることとか、色んな感情でぐちゃぐちゃになってしまった結果だった。

 

「……ヤチヨ。スリープまで後30分だ。その程度にしたらどうだ?」

 

 肩に乗る相棒、FUSHIが静寂を破ってくれた。

 スリープしたら、イヤでも現在の作業は中断してしまう。一旦キリのいい所まで仕上げていないと、再起動後に何が起きるかわかったもんじゃない。

 

「ありがと、FUSHI。……あなた達(分身ヤチヨ)もう良いから作業に戻って、キリいいとこで切り上げてきて」

 

 そう指示を出す。

 正座しているヤチヨ(犯人)以外は、各々「うけたまー」「おk」「りょ」などと了承の声を上げ、ふわふわと浮かびながら作業に戻っていった。

 ……ねぇ、やっぱり何かに性格とか言動が引っ張られてない? 分身って、同じデータの並列処理なんじゃないの?

 

 目の前には、未だ正座を続ける分身ヤチヨ(犯人)が居た。いたたまれないような、気まずそうな表情を継続して続けていた。

 

「あなたは……。もう作業にならないだろうから、設置した楽器の反響を見て、記録してきて。……時間ないから、もう歌ったりはしないよーに」

 

「は、はーい……」

 

 ヤチヨ(犯人)は、足が痺れたような仕草をしながら、ふらふらと飛び立っていった。おかしいな、足が痺れることなんて、ツクヨミではないはずなんだけどなー……。

 

 どうも、分身達は感情豊かというか、情緒が子供っぽいというか。思考と経験を分けて分身を生み出しているワケだけど、それが全く同じ行動に結びつくことがないというのは、私とFUSHIでもってしてもよく分からないことだった。

 

 FUSHIは、スリープモードに入る為の準備をしてくれている。定位置から降りて、仮装コンソールをカタカタといじりながら、バックアップの準備をしてくれていた。

 

 後、15分もしないうちに、スリープに入る。さっきの分身ヤチヨ(犯人)と同じように、どうにも作業をやる気がなくなった私は彼女(犯人)の置いてったログを確認した。

 

 無意識の内に書き起こしていただろうそのログは、大体彩葉のことばかり書いてあった。彩葉と話した時の感情とか、歌った時のこととか。彩葉と触れ合ったとか、ツクヨミアバターでピアノを弾いている、集中してる顔がかっこよかっただとか、そんなことばかり記録してあった。

 これ、ただのいろPへの推し活記録みたいになってるじゃん……。

 

 ちょっとだけ頭を悩ませながらログを読み進める。ログにはその時彩葉と交わした会話まで記録してあった。

 

 

『……大切なのは。やろうとする意志と、ひとつ踏み出そうとする勇気。それだけあればなんだってできちゃうって、ヤッチョは思うんだ』

 

 

「……大切なのは意志と勇気、か」

 

 ──1番踏み出せないのは、私なのにね。

 

 どの口が言えたことかと、私は思わず自虐してしまった。

 ウミウシの体だけの頃はどうにもできないことが多かった。か(・)ぐ(・)や(・)だ(・)っ(・)た(・)頃(・)は、兎に角触れ合った人々を愛してしまって。命を賭けて生きる人々を、愛おしいと思ってしまって。

 けど、手が伸ばせる範囲が短くて、少し先にいる愛してしまった人々に届かない事もあった。掴めるものはとても小さくて、行けるところはとても遠かった。

 

 私は、そんなに宇宙のチリみたいな。眇みたいな存在だと自覚してしまった。あの頃(かぐや)と違う、弱い自分である感覚。助けたいのに、助けられないか弱い自分。それを感じる度に心にできる罅と、そこから漏れる思い出をリフレインする度、私(月見ヤチヨ)を型作っていった。

 

 

 

 

 それなのに、肝心なところでは踏み出せずにいた。

 もっと色々できただろう。最初に会ったあの男の子も、歌人も、花売りの女の子も、花魁も、官僚も。

 そして、彩葉も。彼女が産まれてからもう少しそちらに目を向けていれば。彩葉を、愛した人を絶対に護るという確固たる勇気と意志があれば、何か変わったのかもしれない。

 私にもう少し踏み出す勇気があれば。もっと上手くやれていたら。自分の意志を強く持つことができたら。そんな後悔ばかりが募ってく。

 

 

 だから……。そんな言葉を吐けるヤチヨ(犯人)が羨ましい。私と同じはずなのに、私と違う存在が。

 

「……ヤチヨ、そろそろ」

 

 作業が完了したらしいFUSHIから声が掛かる。

 私はログを読む手を止め、記憶領域の奥の方へと保存し直した。。昔を思い出すかのように、私は黒いオーバーサイズのTシャツと、ピンクのショートパンツにアバターを変更した。髪も、和風ツインではなくて、解いたようにストレートに流してある。

 いつの日か、電子の海に身体を得た時に行うようになった、スリープ前ルーティンみたいなものだった。

 

──あーあ。せっかく彩葉と歌えたのに、なんだか憂鬱。

 

 月見ヤチヨの憂鬱ってかんじ。

 

 そんな呟きと共に、私は意識を深層へと落としていった。

 

 

 

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