きっかけのお話。描きたいワードあり過ぎて、ちと難産気味でした。
「…………へ?」
すっとぼけたような声を出してしまったが、そんな声も出るだろう。
芦花と真実から、まさかの動画投稿の誘い。なんで、どうしてという疑問しか浮いてこない私だった。
「いやいや、私なんか恐れ多いって。こういうのは、もっと上手な人がやるべきだし」
咄嗟に出たのは断る言葉。一歩踏み出せない心が表面上を覆っていて、自分の意思がない返しをしてしまう。
「えー、あんなに演奏上手いのに?」
真実からそんな声が出た。
それもそうだ。どんな影響があれど、自分から大勢の人前に出て演奏しておいて。ヤチヨと一緒に演奏しておいて、そんな台詞が出るとは思わなかっただろう。
私の心は、そんな自虐も含んでいたようだった。
縋り付くのをやめて、放置していウィンドウは、少しだけ離れていった。離れていって、私と芦花、真実のちょうど間くらいで止まった。
画面内では、変わらず私の演奏動画が流れていた。ヤチヨと一緒に、ヤチヨのカバー楽曲を演奏している動画。ヤチヨも笑顔で、私も笑顔で。爽快感ある顔をしていて、楽しそうで。最強に思えて、魅力的で、素敵だった。まるで、自分が自分じゃないようだった。
それでも。
──いや、でも。私にはそんな時間が……。それに、投稿なんてしなくても一人でだって充分……?
否定の言葉ばかり出てしまう。出てしまったけど、なんだか最後に違和感があった。
本当に、私は。音楽を一人で弾きたいのだろうか。
本当に、私は。あの四畳半のアパートで、1人っきりで奏でたいのだろうか。
私は、私は。……音楽を、そんな"一人きりの信仰"にしてしまっていいのだろうか。
私は、私のやりたい事がよく分からなくなってしまった。
音楽は好きだ。聞くのも好きだし、演奏するのも好きだ。けど、その先がわからなかった。音楽をした先にある何か。その曖昧な塊みたいなものが、分からなかった。
だから。だから、とりあえずただ弾いていた。離せなかったものを続けていたら、なにか見つかるのかと思ったから。分からないまま先に進んだ場所で、何かあるのかと思ったから。
音楽は
そんな音楽を、私はどうしたいんだろう。音楽をやって、なにをしたいんだろうか……。そんな心のほつれみたいなものが、表出してきたみたいだった。
何も言えない私を、私は何とか隠す。やらない理由を積み上げて言って、残った使命感みたいな、歪んだ承認欲求みたいなもので、"私"を固めていくようだった。
けど、塗り固まった私を砕いたのは二人の言葉だった。
動画を見て、優しく微笑む芦花の、何気ない呟きだった。
「彩葉の音楽、私はもっと聞きたいな」
──……ああ、そっか。
私、誰かに聞いて欲しかったんだ。
ドクン、と心臓が跳ねる。道端に転がってたきっかけを見つけたような。俯いて歩いていて、光る星を見つけたような。そんな感じだった。
真実とか、芦花とか親友へ。聞きたいって思ってくれている人へ、届けたい何かを届けたいのだと思った。
今はまだ知らない誰か。どこにいるか分からない誰か。過去かもしれないし、未来かもしれない誰かに。人かもしれないし、宇宙人かもしれないそんな誰かに。私は、何かを伝えたいんだと思った。
まだ、なにかは分からないけれど。
「ねー。こんなにも"楽しい"っていうのが、わかるのに」
鼻歌を歌う真実だった。動画と一緒に"Tell your World"をついに口ずさんで歌っている。ヤチヨと、真実と私の声が重なっていく。芦花も後から混ざって、一つの音になっていく。
私の心は、またドクンと跳ねた。
幼少の頃、発表会の時も。この前のBAMBOOcafeの時も。ついさっきの演奏会の時も。感情が出せたと思う時、いつも傍に音楽はあった。音楽があったから、感情表現ができた。感情を伝えられたから、銀賞だったし、二人は感動してくれたようだし、演奏会で拍手を沢山頂いた。
見えないけれど、近くにあった。青空だけど、確かにそこにある星空のようだった。
だから、私の音楽は感情表現の吐露だった。だからあんなにも入り込むし、悲しい時にキーボードを叩き弾く。誰かの音楽を聴くと、私も弾きたくなってしまうし、ピアノを見たら弾きたくなってしまう。
──そっか。私、音楽を聞いて欲しいんだ。
音楽を聞いてもらって、私の感情を表したかった。感情を表して、
そんなことを、芦花と真実の何気ない言葉から理解した。心のドアを、何気ない言葉がノックしたようだった。ありふれた言葉が、私の契機になったみたいだった。
「……芦花、真実」
自分が、音楽をやる理由。聞いて欲しい理由。ただ好きだからだけじゃない、本当の理由。
心の鍵のようなものを、開けてくれたのは、2人だった。
「私……。やってみたい」
「お?」
「彩葉?」
音楽を奏でて、皆に聞いてもらいたい。伝えたい何かを、伝えてみたい。私の想いとか、感情とか。言葉にしずらい曖昧としたものも、音楽でなら伝えられると思うから。
二人は動画から私へと目を向けた。
なにか期待するような、そんな目を私も見つめ返す。
「私、動画出してみたい。色んな人に、私の音楽を聞いてみて貰いたい」
──そしていつか。私の届けたい人に、届けたい何かを届けるんだ。
心の中で、そう付け加えた。まだぼんやりと、行く先が定まってない今は、まだこれで十分な気がした。
そんな私の心の内とは裏腹に、二人は驚いたように目を見開く。少し間を置いて、まじまじと私の顔を見る。そして二人で顔を見合わせて、また私を見たと思ったら、急に花が開いたように笑う。
「いいじゃんいいじゃん!」
「やろう彩葉! 私達が、色々教えたげるからさ!」
撮影はスマホでできるからいいでしょ? あとはマイクと、音質のいいヘッドホン。編集ソフトと……あ、演奏する動画なんだから、オーディオインターフェイスとかも必要? 後はあれと、これと、それと……。
二人から出るわ出るわアドバイスの数々。流石にいきなり数を並べられても、情報量に圧倒されてしまう。
「ちょ、ちょっと待って。1つずつ、順番に、ゆっくりお願い。多分教えて貰っても、いざ投稿するのは時間かかっちゃいそうだし」
そう言って、私はメモ帳代わりのテキストウィンドウを呼び出した。真実と芦花、二人の先輩から1つずつノウハウを教わっていく。
新しいことを教えて貰って、自分の中で慣らして放出していく。音楽を奏でる時みたいに、音をひとつずつ重ねていくように。私は、二人の話を聞き逃さないようにしていた。
・iroがグループチャットから退出しました。
「ねぇ真実! 彩葉が、自分からやりたいって言ってくれた!」
「言ってくれたねぇ。……いつも、自分から何かをやりたい、したいって言ってくれないのに」
「何をするにも遠慮しがちだったもんね、彩葉は」
「そうだねぇ。これを機に、もうちょい私達を振り回してくれても良いんだけど」
「そうだね。……まだまだ不安だなぁ」
・ROKA、まみまみがグループチャット退出しました。