目を疑った。
それもそうだろう。たった1週間で、それも1本しか動画を上げていないにも関わらず、登録者が爆増していたからだ。
思わず芦花のスマホを奪い取って、画面を凝視してしまう奇行に走ってしまうくらいの出来事だった。
「い、彩葉。スマホ……」
「へ? あ、ごめん。ちょっと動揺しちゃって……」
芦花にスマホを返す。何かの間違いかと思って、自分のスマホで"TukuyomiTube"を開いてみるも、結果は変わらなかった。
動画ページを開いて、動画確認してみる。
「ね、ねぇ。二人が登録してくれた時って、こんなに再生されてた?」
動画タイトルの下。小さい文字で、高評価の件数と視聴回数が書いてある。数日前まで、高評価2件。視聴回数10回とかだったはずだけど……。
「私達見た時は、もう500回くらいいってたよ」
因みに、現在の再生回数は約5000回である。
……なんということだ。なんでか理由は分からないが、私は初めての"プチバズ"を経験してしまったらしかった。
「こ、こんなに急に増えるだなんて……」
「以外とそんなもんだよ~」
「見つかるところ見つかったら、パッと増えること多いからねぇ」
と、動画投稿の先輩達はなんて事ないように言うのだった。そりゃ、普段から動画沢山出してて。2万、3p万再生行くような人達からしたら、なんて事ないかもしれないけどさ。私からしたら、非日常すぎて驚き連続なのよ。
現実をあまり受け止めきれず、私はじわじわと増えていく再生回数をぼうっと見ていたが、ふとそのすぐ下にあるコメント欄が気になった。
コメント数は現在10件。まだ1回しか動画を出していないのに、コメントしてくれる人がいることに驚いている。
私は詳細を見るべく、タップしてコメント欄を大きくした。
コメントは、高評価ボタンが着いたものから人気順に並んでいた。1番上に表示されていたのは、コメントですらない、ただの記号の羅列だった。
Yachi8000: "♡♥♡♥♡♥♡♥"
という、ハートマークだけが書かれたコメントだった。何故か、コメント数に似合わず30件くらいの高評価が着いている。
というかこいつ……!
「こいつ! この前、私とヤチヨの演奏会勝手にあげたヤツ!」
思わず声を上げてしまう。
昼食時、普段の教室よりも騒がしいとはいえ、私は思った以上に声が出てしまった。苦笑いする芦花と真実。そして、何事かと私を注視するクラスメイト達。
その視線を一斉に浴びた私は、誤魔化すように咳払いして元に戻るよう促した。
「こいつか。こいつが勝手に私とヤチヨの演奏会を盗撮して……!」
「彩葉落ち着いて~」
「はい、深呼吸ー」
2人に促され、深呼吸をする。
ゆっくり息を吸って、酸素を行き渡らせて。ゆっくりまた吐いた。ちょっとだけ落ち着いて、私は改めてこのコメントを見つめる。
なんで見つかったのか、どうしてコメントが"♡♥"だけなのか。というか、
色々と言いたいことはある。あるけど、コメントで話をしたって逃げられるだけだろう。デフォルトの人型アイコンだし、変に絡んでも別アカウントで生きていけるだろうし。
開示請求でもすれば直接会って話すことはできるだろうけど、私にはそんなお金は無い。というか、できるかも怪しい。よって、私はこの
諦めて、次のコメントに目を移す。その次に目に入ったのは、ユーザー名"OtaWanWano"という名前の人。
OtaWanWano: "初めて聞いた時もそうでしたけど、やっぱり上手です! これからも応援してます!"
という、一見普通のコメントだった。
……けど、私が"iro"として演奏するのはこの動画が初めてだ。"初めて聞いた時も"って事は、既に聞いたことがあるってことで。
となると、一番大勢の人に日の目を浴びたヤチヨとのミニ演奏会に居た誰かってことになるけど……。
「……てかこれ、1番前で拍手してくれてた人じゃない?」
褐色ギャル風犬耳アバターの人。一番最初に拍手を浴びせてくれた人。その人は、よくよく調べたら私もよく知ってる人だった。
忠犬 オタ公さん。『NEWS TSUKUYOMI!!』というツクヨミ情報番組をやってるほぼツクヨミ公式ライバーみたいな人。アイコンの白い獣の耳が、まんまそれだった。正解は分からないし、本当に別アカウントかもしれないし。ただのファンの可能性もあるけどね。
けど、期待してくれるのは今までにない気分だった。心の内が、じんわりと温かくなってくるような。やる気が溢れてくるような、そんな感じがした。
だから私はもう少しだけ、下にスクロールした。
単純に演奏を褒めてくれる人。次の曲に期待してくれる人。オタ公さん(仮定)のように、ヤチヨミニ演奏会で演奏したか聞いてくる人。そんなコメントが数個続いた最後の最後。私は1つのアカウントに目が釘付けになった。
それか、一番の問題児だった。
私もよく知る人物。月見ヤチヨを知るきっかけになった人。キャラ付けが、私にとってあんまり得意じゃない人物。
幼少の頃、お母さんと私との緩衝材になってくれた人。
AKIRA: 元気にやってるようで良かった。ちょっと安心したわ。
───これ、