無事にバイトが決まった。
バイト先は"BAMBOOcafe"。芦花と真実と3人で行って、私がピアノを弾いたカフェだ。
ちょうど面接の担当だった方が、ピアノを弾いた時に声をかけた店員さんで、
「あっ、あのピアノの上手な子!」
まず第一声が、そんな言葉だった。
ちょっとだけ動揺したものの、何とか冷静を装う。事前に準備した履歴書を確認されつつ、準備した受け答えも上々。面接もすんなりと通過して、晴れて"BAMBOOcafe"の店員となることができたのであった。
そんなバイトを始めてから、生活がめぐるましく変わった。
早朝5時。眠気眼を無理やり開けて昨晩の演習の復習と暗記系の勉強。2時間くらいしたら準備をして、登校。授業を受けて、芦花、真実と穏やかなひとときを過ごし、放課後になったら一旦帰宅かバイトへそのまま向かう。
BAMBOOcafeの営業時間は20時迄。もし、閉店作業迄のシフトなら、完全に終了するのは21時を余裕で超える。そうなると、家に帰るのは20時前後とかになる。
閉店迄のシフトの時も、途中迄のシフトの時も、
寝る迄の僅かばかりの時間と、バイト迄の少しの時間は仮想世界"ツクヨミ"で遊ぶ時間だ。真実、芦花がログインしている時はおしゃべりしたり、1人の時は
そんな生活のおかげか、一学期最初のテストは学年トップ。
こんなもので
そして、中間試験後の土日。少しだけ気を休めることのできる休日。バイトもなく、家事と日課の勉強も済ませてある。ヤチヨの配信もない為、私はツクヨミへとログインをしていた。
この仮想世界"ツクヨミ"における私のアバターは、着物とパーカー、チョーカーとベルトとブーツを組み合わせた青基調のストリート風だった。
大正ロマンのような格好と、狐モチーフの耳と尻尾がポイントで、当時よくかっこよく仕上げられたなって、今でも思う。
そんなアバターでやる事は、1VS1モードである"SETSUNA"。要はソロの対戦モードである。3人モードである"SENGOKU"は知らない人とマッチングする関係上、自分が戦況を引っ張っていって勝ち切るか、上手く協力が出来ずあんまりな結果になってしまうことが多い。
それに対して"SETSUNA"は、勝っても負けても自分の実力。しかも、ひと試合が短い。実力が出るが、けっこうラフに楽しめるモードだと、私は思っていた。
そんな"SETSUNA"のランクマッチモードを選んで、戦っていく。最初こそ順調に、連勝を重ねていたものの、最後の最後に、プロゲーマーと当たってしまった。
プロゲーマーこそ最上位帯にいると思われがちだが、以外と少し下に居ることも多い。プロゲーマー同士の練習試合、所謂スクリムを多く組んで居たりとか、遠征していたりとか。企業契約である為、アイドル見たくファンサービスをしていたりとか。そういった理由で時間が無く、普通のランクマが余りできなかったりして、実力よりも下に居ることがある。
そんな相手と、私は対戦することになる訳で……。
「うっ、くっ、うわぁっ!?」
私のメイン武器はモミジの種、プロペラのような形をしたブーメラン型の武器。クナイ、ワイヤー搭載、分離して双剣のように扱うこと出来る為、奇襲には持ってこいの武器だ。
だが相手はプロ。最初は奇襲でダメージを与えることができたが、その後は対応され続けていた。此方が攻撃を仕掛けられず、防戦一方になる。
相手の刀に対応がしやすい双剣形態で弾くように防いでいくものの、防ぐ隙間からじわじわと体力が削られていく。相手が10仕掛ける間に私は1しかダメージを与えられず、体力はあっという間に逆転してしまった。
というか、この対戦相手の人。この前の大会でお兄ちゃんといい勝負していた人のような───っ!
そんな思考を最後に、相手の人の刀が私に突き刺さった。体力が全損し、私から花びらが舞った。
ツクヨミでは、血の代わりに花弁が散る。視界一杯を覆う桜の花びらを見つめながら、私の連勝は終わった。
「……ふぅ」
張った緊張を解くように、深く息を吐いた。目を開けて、コントローラーから手を離し、一口だけコップに入れた水を飲む。熱が入り、少し火照った身体に染み渡っていくようだった。
「……まだ時間ある」
今日は、夜に芦花と真実がログインしてくる。おしゃべりするか、一緒にゲームするか。何をするか分からないけど、二人と一緒なら楽しい時間が過ごせるはずだ。
既に、対戦の熱冷めてしまっている。また"SETSUNA"をやる気分でも無かったので、私はそのまま、ツクヨミを散策することにした。
七色に光る夜景。幻想的な和の街並み。夜空を踊るように舞う華やかな海の生き物。常世の世界だが、優しい月の光が世界いっぱいに照らしてくれている。
───太陽が沈んで、夜がやってきます。
ログイン時に現れるヤチヨに手を振りながら、私は常世の世界へと足を踏み出す。