隣に住む高嶺の花な同級生が気づいたら子持ちライバーになってた 作:Tmouris_
バイトが終わってくたくたになりながら家のアパートに向かう。
平日なのにまさか店があそこまで混み合うなんて思わなかった……今度バイト変えようかな。
そんなことを考えながら歩いていると、虹色の光が角の先から灯ってきた。
……こんな時間に一体どこの誰がどんな遊びをしてるんだと思いながら角を曲がると、同級生の酒寄彩葉さんが赤ん坊を抱き寄せて電柱に話しかけている最中だった。
「え……どういうこと?」
「あ、え!?月夜雄一くん!?なんでこんなときに!?」
酒寄さんは俺と同じアパートに住んでいて、偶然にも隣に住んでいた。
その関係で顔を合わせることはあったけど、酒寄さんは文武両道の才色兼備、ビジュアル抜群。
俺からしてみれば高嶺の花だ。話すことなんて全くなかった。
「いや、バイトが長引いちゃいまして……それより何してるんですか?」
やっぱり、優等生っていうのもストレスが溜まるのかな……
「いやね!?誘拐とかじゃないよ?なんか帰って来たらゲーミング電柱があって、その中から赤ちゃんが出てきて!」
……言ってることの意味が分からない。
多分、酒寄さんのことだから嘘とか冗談を言ってる訳じゃないんだろうけど、電柱が光って赤ちゃんが出てくるって……本当にありえるのか?
「と、とりあえずうち来て!ここにいたら変な目で見られちゃうから!」
俺は酒寄さんに手を引かれて、そのまま家の中に連れ込まれた。
勢いよく走って来て揺れたせいか、赤ん坊が泣き出してしまった。
「あーよしよし。どうしよどうしよ」
困惑する酒寄さんを見て、俺は新鮮さを覚える。
学校では常に優等生って感じで、しっかりものなイメージだったから。
「泣きやみませんね……」
こんな時、どうしてあげればいいのか……
「あ、そういえば親戚の赤ん坊の面倒見た時に子守唄とか歌ってやると泣き止んだりしましたよ」
「本当!?月夜雄一くん歌える?」
「いや……ちょっと、あと呼ぶ時フルネームじゃ長いんで月夜って呼んでください」
歌えないわけじゃないけど、酒寄さんの前で歌うのは恥ずかしすぎる。
その時、視界の端に月見ヤチヨのアクリルスタンドが目に入った。
「あ、ヤチヨ」
「それだよ!」
ヤチヨに反応して、酒寄さんはヤチヨの曲を子守唄のように歌った。
その声はとても優しくて、俺まで聞き入ってしまった。
何よりも、学校では見ることのない柔らかい表情の酒寄さんに魅入ってしまっていたのかもしれない。
「ヤチヨパワーすげぇ」
その歌を聞くと赤ん坊はあっという間に眠ってしまった。
酒寄さんは赤ん坊を一旦布団の上に横にすると、相当疲れたのか溶けるように項垂れた。
だけど、すぐに立ち上がると、ポケットからスマホを取り出す。
が、俺はその手を咄嗟に掴んでダイヤルキーを操作する酒寄さんを制止した。
「ちょっちょっと待って。一体全体どこに電話するつもり!?」
慌てていたせいで、さっきまで敬語で話していた俺の口調も崩れる。
「け、警察に電話しないと!」
「電話してどうするのさ!電柱から赤ん坊が出てきたって説明できる!?」
俺が思わず声を荒らげると、酒寄さんはスマホを持った手を下ろして「確かに」と口を開けて呆然としている。
俺たちが軽く言い争っていると、寝付いた赤ん坊がまたグズり始めそうになる。
「あーよしよし。大丈夫ですよ〜」
慌てて酒寄さんが赤ん坊を抱き寄せて宥める。
「まあ、せっかく隣の部屋なんだし何かあったら壁でも叩いてよ」
「何その原始的な方法」
そう言ってクスリと笑われてしまう。
その笑顔が普段見ることのない酒寄さんの新鮮な表情で俺は不意打ちにもドキッとしてしまう。
「と、とりあえず、ここまで来たら俺も付き合うから。なにかあったら連絡して」
スマホを取り出してメッセージのQRコードを酒寄さんに差し出す。
「あ、ありがとう」
酒寄さんはコードを読み取ると、どこかほっとしたように肩から力を抜いた。
「ごめん、私も疲れちゃった。お風呂とかも入らなきゃだから、今日は一旦ここで解散ということで」
大分落ち着いてきたのか、いつもどおりのキリッとした酒寄さんに戻っていた。
それでも、今までの近寄り難い空気はなくて、なんだか話しやすく感じた。
「……今更だし、気軽に話していいよ。俺もそうするから」
「分かった。とりあえず今日はありがとう。また明日」
俺も疲れた……部屋に戻ろう。
酒寄さんの部屋をあとにして、自分の部屋の玄関の扉を開ける。
「また、明日、か」
偶然部屋が隣になって最初は舞い上がってた。
めっちゃ可愛くて美人な子、しかも同じ高校の女子。
そう思って一年、なにも起きずにあっという間に高校二年生。
まさかこうやって関わることになるなんて……しかも、その原因が七色に輝くゲーミング電柱から出てきた赤ん坊だなんて。
明日は何が起こるか分からないし、それに備えてちゃちゃっと風呂に入って眠ろう。
エアコンの電源をつけて、俺はさっさと用事を済ませて布団に入る。
そうだ、眠る前にあいつにメッセージ送っておこう。
俺はスマホを開いて、yachi8000の連絡先を開く。
『やちさんって赤ん坊の面倒のみかたとか知ってる?』
メッセージを送ると、たまたま相手もスマホを見ていたのかすぐに既読の文字がつく。
『ggrks』
と一文が飛んできたあとに、すぐさまもう一度メッセージが来る。
『もしかして、月夜くんはもうパパさんになっちゃったのかにゃ〜?』
俺は煽りに耐えつつも、文章を打ち込む。
『仮にも8000歳って設定ならそのくらい知ってるでしょ』
『残念ながら、面倒は見られたことはあっても赤ん坊を産んだことはないのです〜およよ』
耐えろ……耐えろ俺。こいつは昔からこういうやつだったじゃないか。
『冗談はさておき、本当に困ってそうだから必要そうなものリストアップして送っておくね』
『ありがとう。まじで助かる』
『いえいえーそれでは〜』
俺はスマホを閉じて、枕元に置く。
やちと出会ったのは小学生の時。
当時ハマっていた二対二の対戦ゲームの2chの掲示板でレスバをしたのがきっかけだった。
ヤチヨのファンなのか憧れているのか、自称8000歳を名乗っていて、そのことをからかっていたら、ゲームの招待が送られてきて完膚なきまでにボコボコにされた。
実際の年齢のことを話そうとすると、あいつは意地でも8000歳っていう設定を守ろうとしてくるが、使ってくるミームとか古いし、多分俺よりは年上なんだと思う。
頑なにVCもしないから正直なところ性別も分からない。
それからは、負けたのが悔しくて何かとつっかかってはレスバして対戦でボコボコにされてを繰り返して、前までは一緒にパーティを組んで二対二のゲームが発売されては二人で大暴れしていたものだ。
だけど、ツクヨミがサービス開始してからはゲームを引退したのか、パッタリと一緒にゲームもしてくれなくなった。
そんなことを思い出しつつ、目を閉じようとすると、スマホの通知音が聞こえてきた。
画面を付けてみると、やちから赤ん坊に必要なものリストがもう届いていた。
「まじか……」
そこには大量の育児道具の名前が羅列されていて、ご丁寧に値段まで書いてくれていた。
俺はふじゅpayを開いて残高を確認する。
一応今月は余裕あるけど……一円万越えの出費は大きいな。
こんなボロアパートにいるくらいだから酒寄さんもそんなお金に余裕はないだろうし……
お互い赤ん坊の面倒なんてみたことないし、その辺も明日相談してみよう。
今度こそスマホの電源を切って俺は眠りについた。
第一話を読んでくれてありがとうございます。
不定期更新になるとは思いますが、もし良ければお付き合いください。
お気に入り登録、評価、感想はやる気に繋がるので気に入ったらポチってやってください。