隣に住む高嶺の花な同級生が気づいたら子持ちライバーになってた   作:Tmouris_

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第十話:海

突然だけど、俺は今海に来ている。

それも、彩葉さんに芦花さん、真実さん、ついでにかぐやの四人とだ。

同級生にでも見つかった日には、質問攻めにあって吊るしあげられてもおかしくないレベルのシチュエーションである。

 

「月夜くんも焼きそば食べる?」

 

「あ、いや。結構です」

 

真実さんに焼きそばを差し出されるが、こんな状況じゃ食べ物が喉を通る気もせず断る。

クラスの高嶺の花に囲まれて、一応見た目はいいかぐやもいて全員水着姿なんて眼福のはずなのに目に悪いし心臓にも悪い。

 

でも、彩葉さんの休日に合わせて遊びに来たせっかくの海だ。楽しみたいところではあるのだが、隣でかぐやがスマホを見ながらため息をつく。

 

ヤチヨカップの現在の順位は280位でファン数はおおよそ二十万人。

普通に考えれば大成功で大躍進中のライバーに含まれるんだけど……目指してるのが優勝だからなぁ。

 

「こないだの歌配信めっちゃよかったけど~」

 

「ね~かぐやちゃんゲームも歌も上手いよね」

 

真実さんと芦花さんの言う通り、かぐやの配信は十分に盛り上がっている。

歌も上手くて、ビジュアルも良くて、ゲームも上手くて、反応も面白い。

ライバーの才能の固まりみたいなやつだからな。

 

「天才っ歌姫ですから!」

 

二ヒッと笑うかぐやの頭を引っ叩いてやりたい気持ちをなんとか抑え込む。

こいつ、俺と彩葉さんがどれだけ苦労してると思ってんだ。

 

彩葉さんはかぐやと一緒に住んでるから、部屋を散らかされたり、配信音をずっと聞かされたり、勉強の休憩時間にライブに付き合わされたりと大変なのに。

 

かくいう俺も、かぐやがあれやろうこれやろうと言ったものに付き合ったり、片付けを手伝ったりと大変だ……最近は学校の成績が落ちそうで心配になる。

 

「オリジナル曲もよかったしさー」

 

「だって!よかったね!」

 

彩葉さんここまで、作曲してるのは自分だって明かしてこなかったのに、こいつはこういうことをあっさりと話すんだから。

 

「あれ作ったの彩葉なの?」

 

「彩葉可愛いうえに天才すぎ~」

 

「あ、あれは昔作ったやつだから。かぐや、余計なこと言わないで」

 

彩葉さんは照れてるけど、俺は彩葉さんの作曲した曲が好きだ。今の落ち着いた彩葉さんからは想像できないようなポップな感じの曲が多いけど、元気がもらえる。

 

まぁ、悔しいながらかぐやの歌詞と歌声あって余計ってのもあるけど。

 

「でも、まだ足りない。どうすればいいのだ……ぐぬぬ」

 

「コラボに配信に動画投稿と出来る限りのことは割とやってきたからなぁ」

 

これ以上にファン数を増やすとなると、新たな需要が欲しいところではあるんだけど……

そう思いながら、彩葉さんの方を見ると、首をかしげながら「なに?」って顔をされた。

 

「やはりここは、彩葉が着ぐるみを脱ぐことによって新たな需要をだね」

 

ナイス真実さん!言いたいことを全部言ってくれた。

謎の着ぐるみ彩Pの中身が美少女で、その上かぐやとのやり取りも面白いとなれば需要の幅はさらに広がる。

 

が、そう上手くいくものでもなく、彩葉さんは仕返しのように真実さんの焼きそばを全て食べ尽くしてしまう。

 

「やっぱ歌!オタクもみんな喜んでたし」

 

「「オタクいうな」」

 

そういう層が多いのは否定できないけど、せっかくのファンたちになんてこと言うんだ。

 

「彩葉〜新曲作ってよー。伴奏もして〜」

 

新曲か……たしかにあったらありがたい。ありがたいけど。

 

「これ以上勉強とバイトの時間は減らせません」

 

そうだよな。ただでさえ彩葉さんには無理させてるんだから、これ以上スケジュールいっぱいいっぱいにさせるなんて……俺には出来ない。俺には。

 

「でも海来てんじゃん!」

 

そりゃ、遊びとライバー活動はまた別な気がするけど。

 

「ふっ、マジなエリートは遊びも疎かにしないはず。睡眠時間削ってでも遊ぶ」

 

「それはそれでどうなんだ……」

 

倒錯してるなぁ……これが学費と生活費を稼ぎながら勉強もプロデューサーも万能にこなす優等生か。

アホの子にも見えてきた。

 

「このままじゃ、優勝できない……」

 

かぐやが弱音を吐くなんてめずらし――あ……

 

「かぐやのこと助けて?彩葉に演奏して欲しい」

 

彩葉さんに歩み寄りながら涙目でお願いするかぐや。

ただ、彩葉さんも負けじと「ぐぬぬ」と頭を悩ませたが……

 

「まぁ、時間が……空いてたら」

 

これにはかぐやもガッツポーズ。

彩葉さんは悔しそうに砂場に膝をついて、拳を地面に叩きつけている。

 

「なぜ断れない!なぜ!」

 

「ちょろ葉〜」

 

「ちょろ葉だね〜」

 

「ちょろ葉ですね〜」

 

俺も芦花さんと真実さんに便乗すると、ッキっと彩葉さんに睨みつけられた。

 

ヒューヒューと誤魔化すように口笛を吹きながら俺は他所を見る。

 

すると、彩葉さんの足元に大量の蟹が迫ってきて、海でバシャバシャと蟹に絡まれる彩葉さんという謎の図が出来上がった。

 

「こら、かぐや。彩葉さんにいじわるしないの」

 

「岩めくったら出てきたんだもん」

 

俺たちがそんなやり取りをしていると、芦花さんと真実さんが歩み寄ってきて、俺たちにとある質問をしてきた。

 

「かぐやちゃんって月夜くんと彩葉どっちが好きなの?」

 

「月夜くんは?」

 

コメントに困る質問を……でも、たしかに彩葉さんとかぐやって美少女としょっちゅうそばにいればそんな疑問も湧くか。

 

「彩葉!」

 

かぐやは迷うことも無く、手を挙げて宣言した。

 

「ちょっとは迷ってくれてもいいんですよ?かぐやさん?」

 

分かってても傷つくもんは傷がつく。

 

「えーでも、彩葉は顔いいし。月夜は……マブダチって感じ!」

 

こいつ、ここに埋めて帰ってやろうか。

 

「「ドンマイ月夜くん」」

 

芦花さんと真実さんに肩ポンをされて、抑えていた涙が流れそうになる。

 

「そんで、月夜くんはどうなの?」

 

「えっと、俺はですねぇ」

 

何とも言えない。そりゃ、かぐやとは一緒にいて気が楽だし、彩葉さんは魅力的だし。

でも……二人のことを考えてるとやちのことが脳裏にチラつく。

 

自称乙女。しかも8000歳。

どんなビジュアルでどんな声かも分からないのに……俺って馬鹿だな。

 

「かぐやはマブダチって感じだし、彩葉さんは高嶺の花すぎてイメージつかないかな〜」

 

「そっかーそうだよね。彩葉可愛くて天才だもんね」

 

「俺からすれば二人も似たようなもんなんですけど……」

 

勉強は出来るイメージはないけど、学生なのにインフルエンサーとして10万人以上のファンがいるなんて普通に上澄みだと思うんだ。

 

「でもさ、最近の彩葉明るくなったよね」

 

「前まではふっと消えていなくなりそうだったのに」

 

……友人の二人から見た彩葉さんってそんなイメージだったのか。

俺みたいな普通の同級生から見れば優等生の高嶺の花ってイメージしか前までなかったもんな。

 

「「どんな魔法、使ったの?」」

 

―――

 

『今日、美少女四人に囲まれて海に遊びに行って来たんだ』

 

『思春期男子の残念な妄想かにゃ?』

 

うん。やちなんかより彩葉さんとかの方が魅力的だ。昼間のはきっとなにかの気の迷いなんだろう。

 

『違うわい。未来の歌姫様はさぞ美少女なんだろうなって思っただけ』

 

『あはは〜痛いところをついてくるようになったね月夜』

 

こんだけ長い付き合いで、気になる異性……それはやちだった。

でも、こいつが本当に異性である保証すらないんだよな。いや、見た目とか性別で判断しているわけじゃないんだけど。

 

『っは。自分がちゃんと乙女であるって証明してみせるんだな』

 

そう言うと、すぐに既読がつく。

どうせいつもみたいに煽り返してくると思ったら、しばらく返信が返ってこない。

 

『冗談だよ。別にお前がどんなやつだっていい』ってうちかけたところで――

 

『……いいよ。ヤチヨカップの結果が出たらオフ会しよっか』

 




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